インド外交  中国の海洋進出を牽制 中東・イスラエルへの関与も深める | 碧空

インド外交  中国の海洋進出を牽制 中東・イスラエルへの関与も深める

(中国の海洋調査船「フォンズオンホン3号」【122日 VIETNAM.VN】)

 

【インドと距離を置き、中国に接近するモルディブ】

モディ首相によるインド外交については、昨年の議長国を務めたG20を契機に、その積極展開・存在感の高まりが注目されました。

23916日ブログ“インド G20合意成立で国際社会に存在感アピール 「バーラト」国名問題に透けるヒンドゥー至上主義”)

 

いわゆるグローバルサウスのリーダーを目指すモディ首相ですが、ただ、パキスタン・中国との国境での紛争に加え、従来インド圏とされてきた周辺国(ネパール、モルディブ、スリランカ、ブータン)での中国の影響力増大に直面もしています。

(23114日ブログ“インド グローバルサウスのリーダーを目指すも、インド周辺国では中国主導の動き

 

23114日ブログでも取り上げたインド洋の島国モルディブでは、インドと距離を置く親中国路線のムイズ大統領のもとで、中国との関係強化が進んでいます。

 

****モルディブと中国、首脳会談で両国関係格上げに合意****

モルディブのムイズ大統領は10日、中国の北京で習近平国家主席を会談し、両国の関係を「包括的戦略協力パートナーシップ」に格上げすることで合意した。

昨年11月に就任したムイズ氏は、大統領選の時点から反インドを掲げ、中国に接近する姿勢を打ち出していた。同氏によると、インドはモルディブの主権に重大な脅威を与える存在だという。

中国の国営メディアの報道では、習氏はムイズ氏に対して「中国とモルディブの関係は過去から未来へと時間を進める歴史的な機会に直面している」と伝えた。今回の関係強化を通じて中国はモルディブへの投資を拡大し、インド洋においての影響力を強める構えだ。

一方、モルディブ大統領府は会談後の声明で「ムイズ氏はモルディブ経済の成功とインフラ整備において中国が重要な役割を果たすことへの感謝を表明した」と述べ、両国間では20項目の重要な合意が締結されたと付け加えた。

世界銀行のデータに基づくと、モルディブは中国から13億7000万ドルを借り入れている。これは同国の公的債務の約20%を占め、借り入れ規模はサウジアラビアからの1億2400万ドルやインドの1億2300万ドルを大幅に上回って、二国間として最も大きい。【111日 ロイター

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インドは、モルディブに提供した軍事機器関連と人道支援のためとして同国に80人余りの部隊を駐留させていましたが、ムイズ大統領はこのインド軍の315日までの撤退を求め、インド側も止む無くこれに合意しています。

 

****モルディブに駐留のインド軍、5月までに撤退 インドへの依存低減へ****

インド洋の島国モルディブの外務省は2日、同国に駐留するインド軍の撤退を3月10日に開始し、5月10日までに完了させることでインド側と合意したと発表した。昨年11月に就任した親中国のムイズ大統領は、インドへの依存の低減を掲げている。

 

インドはモルディブの海洋地域を巡回するための航空機1機とヘリコプター2機を提供し、軍関係者を駐留させてきた。医療体制が脆弱なモルディブでは、インド機が救急対応にも用いられている。一方のインド側は2日、機体の活用を続けると発表し、撤退期限には言及しなかった。

 

ムイズ氏は1月に中国を訪問して習近平国家主席と会談し、両国関係を格上げすることで一致。伝統的に親インドだった外交政策を転換した。【23日 産経
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2月初旬には中国の海洋調査船がモルディブの首都マレの港に寄港するとの情報があり、インド側は懸念を示していました。

 

インドメディアは中国の調査船「フォンズオンホン3号」を「中国のスパイ船」と記し、「船の活動は、インド洋地域における将来の軍事作戦のためだと疑われている」と報じていました。この海洋調査船がその後どうなったのかは、メディア報道がなく知りません。(下記【毎日】記事の書き方を見ると、まだ寄港していないのか・・・)

 

【インド海軍 アラビア海やアデン湾、東シナ海で中国けん制の活動】

一方、中国の海洋進出を牽制したいインドにとって好機ともなっているのがイエメン・フーシ派の紅海での商船攻撃。

 

インドは陸軍国のイメージで、海軍のイメージはあまりありませんが、中国の海洋進出に対抗して229月には国産空母を就役させるなど海軍力も強化しています。

 

****インド海軍、戦艦派遣しフーシ派対策に注力 中国けん制の狙いも****

インドがアラビア海やアデン湾に海軍の戦艦10隻以上を展開し、イエメンの親イラン武装組織フーシ派の攻撃を受けた商船の救援活動に力を入れている。自国の経済活動に欠かせない海上交通路(シーレーン)を守るだけでなく、インド周辺でも海洋進出を強める中国をけん制する狙いがある。

 

フーシ派は反イスラエルを掲げて商船への攻撃を続け、過去3カ月間で既に40隻超が標的になっている。

 

インド海軍は1月26日夜、アデン湾でフーシ派の対艦ミサイルに攻撃されて炎上したマーシャル諸島船籍の石油輸送船から救援要請を受けた。インド海軍報道官のX(ツイッター)によると、戦艦の海兵らが炎上した船の乗組員とともに6時間にわたって消火作業に従事。22人のインド人と1人のバングラデシュ人の乗組員が乗船しており、船長が「素晴らしい仕事をしてくれた」とたたえる動画も公開された。

 

インド海軍は、米国が主導する商船護衛の多国籍部隊には加わっていない。それでも現地にミサイル駆逐艦などを派遣し、1月には米企業所有の商船を救助したほか、ソマリア沖で海賊に乗っ取られた貨物船や漁船3隻も助けた。インド海軍は2008年からソマリア沖の海賊対策目的でアデン湾に戦艦を派遣してきたが、今回は過去最大規模の展開とみられている。

 

インドが海上での活動に注力する背景にあるのが中国の存在だ。中国は南アジア諸国の沿岸部で港湾の開発などを通じて影響力を強めている。

 

スリランカは南部ハンバントタ港の整備のために中国から借りた多額の融資が返済できなくなり、港の運営権を99年間にわたり中国主導の合弁企業に渡した。こういった進出には「債務のわな」との批判も出ている。

 

22年8月には、人工衛星や大陸間弾道ミサイルの追跡が可能ともされる中国の調査船がハンバントタに入港した。さらにモルディブでは昨年11月に親中派の大統領が就任し、中国の調査船の寄港を認める方針を示している。インド政府は調査船の活動が自国の安全保障を脅かしかねないと警戒しており、インドメディアも「スパイ船」と呼んで批判している。

 

歴史的にインドは近隣と国境紛争を抱えていることもあり、安全保障では陸の防衛を重視してきた。ただ近年は海軍力を強化しており、インド海軍は22年9月に初めての国産空母「ビクラント」を就役させた。

 

今年2月にはインド洋の偵察や情報収集のために国産の中高度長時間耐久型無人機(UAV)を導入している。さらに日米豪印の海上共同訓練「マラバール」など、対中国を念頭に置いた連携も強化している。

 

元インド海軍中将のシェーカル・シナ氏は「水路の安全はエネルギー安全保障と直結する重要な問題だ」とアラビア海などでの活動の意義を強調する。さらに「かつてはインドと中国の関係は良好だったが、現在はより敵対的になっている。インドの政策決定者も、海軍により充実した装備が必要だとの認識を強めていくのでないか」と述べ、海軍力強化の方針は今後も続くとみている。【226日 毎日

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インドは南シナ海でも、東南アジア諸国との合同演習に初めて軍艦を派遣するなど関与を強めています。

 

****インドが南シナ海への関与拡大 “中国への対抗”で周辺国と利害一致 アメリカによる働きかけも****

南シナ海の領有権をめぐる中国と周辺国の対立が深まるなか、インド政府がフィリピン沿岸警備隊にヘリコプター7機を供与する方向で協議していることが明らかになりました。

 

フィリピン政府はインド政府から海上警備用のヘリコプター7機の供与を提案され、両政府間で協議が進んでいると発表しました。これはフィリピンが南シナ海で領有権を争う中国をにらんだ支援とみられ、現地メディアによると、マルコス大統領は「沿岸警備隊の海洋活動に大きく貢献するだろう」との期待感を示したということです。

 

インドは近年、中国と対立するフィリピンやベトナムとの間で防衛協力を進めているほか、今年は東南アジア諸国との合同演習に初めて軍艦を派遣するなど、南シナ海への関与を強めています。

 

背景にはインドが、国境地域の領有権をめぐって対立する中国をけん制するとともに、インド洋につながる海上交通路の戦略的利益を確保する狙いがあるとみられます。

 

また、アメリカメディアは対中包囲網を強化したいアメリカが、日米豪印の4か国の枠組み=「クアッド」を通じてインド側に関与を働きかけているとの見方を伝えています。【231111日 TBS NEWS DIG)】

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【中東、イスラエルと接近する中東外交も】

モディ首相はインド周辺における中国牽制にとどまらず、中東のカタールやイスラエルとの関係も強化して、インド外交の幅を広げつつあります。

 

****「インド製ドローン」がラファを急襲!?イスラエルに急接近するモディ中東外交****

<ハマス最後の拠点「ラファ」への攻撃に、イスラエル軍がインド製のドローンを投入か。インド政府はイスラエルとの連帯を表明しつつ、パレスチナ国家の建設を支持する>

 

2月上旬、イスラエル軍がガザ地区南部の都市ラファへの攻撃を開始しようとしていた頃、インドのメディアであるニュースが報じられた。 イスラエル軍がインド製のドローン(無人機)を監視と空爆のため投入するとのことだった。

 

近年、インドのモディ首相はイスラエルへの接近を強めてきた。

昨年107日にパレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃した直後には、米政府などに先立って、世界の指導者の中でいち早く、「イスラエルとの連帯」を表明している。

 

しかしその一方で、インド政府は、イスラエルのパレスチナに対する軍事行動に関しては中立の立場を貫いていて、パレスチナ国家の建設を支持する姿勢を変えていない。 12月には、ガザでの即時停戦を求める国連総会決議にも賛成票を投じている。

 

インド政府がこのような姿勢を取る主たる理由は、ペルシャ湾岸諸国との関係にある。湾岸産油国はインドの原油輸入のかなりの割合を占めていて、これらの国々で働くインド人も多いのだ。

 

実際、2月半ばに、モディはアラブ首長国連邦(UAE)とカタールを訪問している。

 

ドローンをめぐる報道が事実だとすれば、インド政府はイスラエルとの関係強化に関して、より大きなリスクを伴う行動に乗り出そうと決めたと見なせる。

 

もしかすると、インド政府は最近のいくつかの出来事をきっかけに、自国の経済的な影響力への自信を深めているのかもしれない。

 

20228月に8人の元インド海軍の軍人がカタールで逮捕されて、その後死刑を言い渡された。しかし、インド政府がここ数カ月、圧力をかけて交渉を重ねた結果、この2月に入って8人は解放された。

 

両国政府は逮捕と釈放の理由を明らかにしていないが、報道によると、8人は秘密文書をイスラエル側に提供した容疑をかけられていたという。

 

注目すべきなのは、元軍人たちが解放される直前に、インドとカタールがエネルギー関連の大規模な合意を結んだことだ。

 

向こう20年間にわたり、インドが毎年750万トンの液化天然ガス(LNG)をカタールから購入するという内容だ。

そしてその後ほどなく、モディがカタールを訪ねて「2国間の協力関係をさらに拡大・深化させる」ことを約束したのである。

 

インド政府はこの一件や同様の出来事を通じて、イスラエルへの接近に関してこれまで以上に思い切った行動を取っても問題ないと考えるようになったのかもしれない。

 

インドが湾岸諸国に対して強気になれる大きな理由は、自国の莫大な人口とエネルギー需要だ。欧米諸国は、脱炭素への動きとアメリカのシェール革命により、湾岸諸国の石油への依存を弱めつつある。

 

一方、中国も経済的苦境に陥っていて、痛みを伴う立て直しの過程にある。

 

湾岸諸国にとって、石油の輸出先として長い目で見て最も当てにできるのはインドと言えそうだ。

 

しかし、インドにとってリスクが全くないわけではない。

もし、インドがガザにおけるイスラエルの残虐行為に手を貸しているというイメージが強まれば、アラブ世界で生活し、仕事をしている膨大な数のインド人の安全が危うくなりかねない。

 

この点を考えると、少なくとも外交上のレトリックの面では、インド政府がパレスチナ問題に関する立場を変えることはないだろう。【226日 Newsweek

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