ハンガリー  スウェーデンのNATO加盟、EUのウクライナ支援で抵抗 欧米のウクライナ支援停滞 | 碧空

ハンガリー  スウェーデンのNATO加盟、EUのウクライナ支援で抵抗 欧米のウクライナ支援停滞

(1日、ブリュッセルで、欧州連合(EU)臨時首脳会議に先立ち握手するドイツのショルツ首相(左から2番目)とハンガリーのオルバン首相(右)【21日 時事】 どんなときでも笑顔を絶やさないのが外交

です)

 

【スウェーデンのNATO加盟問題 「最後の承認国」となったハンガリー EU凍結した補助金の支給再開を取引材料に】

ハンガリー・オルバン首相がEU指導部の西欧的・リベラルな民主主義価値観に反発し、独自の“非自由民主主義”掲げてロシア・中国的な強権政治を目指し、EU内部での対立を生んでいること、また、NATO加盟国ながら、ロシア・プーチン大統領と緊密な関係にあって、ロシアのウクライナ侵攻後もロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対していること・・・・などは、これまでも折に触れ取り上げてきました。

(20231124日ブログ“スウェーデンNATO加盟で続くハンガリー・トルコの抵抗 加盟したフィンランドへは露が難民送り付け”など)

 

その一方で、ハンガリーはEUからの補助金の受益者でもありますが、国内の人権問題などから凍結もされており、ウクライナ支援やスウェーデンのNATO加盟批准はそこらをめぐる駆け引きの材料にもなっているようです。

 

スウェーデンのNATO加盟については、スウェーデン国内の反トルコ政府クルド人の扱いをめぐって最大の障害となっていたトルコが議会承認したことで、残るハンガリーの動向が注目されています。

 

****スウェーデンのNATO加盟、残るハンガリーも曲折必至****

トルコ国会が北欧スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を承認する法案を23日に可決したことで、今後はNATO加盟31カ国のうち唯一加盟を承認していないハンガリーの動向が注視される。

 

ハンガリーのオルバン政権は、スウェーデンが同政権の強権体質を批判したことに不満を示しており、承認までには曲折が予想される。

 

NATOのストルテンベルグ事務総長は23日、トルコ国会での法案可決を歓迎し、ハンガリーにも「可能な限り早期の加盟承認」を求めた上で「スウェーデンの加盟はNATOを強化し、私たちを安全にする」と強調した。

 

オルバン氏は23日、交流サイトX(旧ツイッター)への投稿で、スウェーデンの加盟問題に関し話し合うため同国のクリステション首相をハンガリーに招待したことを明らかにした。

 

オルバン氏はまた、クリステション氏に送った書簡で「集中した対話を通じて両国間の信頼を固め、政治や安全保障の取り決めが強化できる」と強調。スウェーデンのビルストロム外相は「書簡の意図を考察する必要がある」として、首相が訪問に応じるかどうかは明らかにしなかった。

 

スウェーデンは2022年5月、フィンランドと一緒にNATOへの加盟を申請し、フィンランドが昨年4月に加盟を果たした。

 

トルコのエルドアン大統領が昨年10月にトルコの加盟を認める議定書に署名し国会に送付したのを受け、ハンガリーもこれに追随するとみられていた。

 

だが、オルバン氏率いる与党フィデスは同月、議会での採決を拒否。ハンガリー政府は「最後の承認国とはならない」と称しながら、その後も採決を延期し続けてきた。

 

トルコはスウェーデンに対し、加盟承認の条件として少数民族クルド人の非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)をテロ組織と認め、同国内にいるPKKの構成員を引き渡すことを了承させた。

 

外交専門家によると、ハンガリーもトルコの交渉戦術にならい、欧州連合(EU)がハンガリーの強権政治を問題視して凍結した補助金の支給再開を加盟承認の取引材料にしてきた。EUは昨年12月に支給を部分再開したが、ハンガリーは全面再開を求めて水面下で交渉を進めるとみられる。【124日 産経

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オルバン首相は124日、X(旧ツイッター)で「スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を支持している」との立場をNATOのストルテンベルグ事務総長に電話で伝えたと明らかにしていますが、首相はハンガリー議会がいつ批准するか、具体的な時期は示していません。

 

****ハンガリー議長 スウェーデンのNATO加盟承認を「急がない」****

ハンガリーからの報道によると、同国のクベール議長は25日、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟に関し、ハンガリー議会が承認を急がない考えを明らかにした。(中略)

 

クベール氏は、オルバン氏が率いる与党、フィデスに所属しており、与党として引き続きNATOを翻弄しようとしている可能性がある。

 

クベール氏は加盟承認に関し「急ぐ必要はないと考える。実際、(早急に承認する)特別な事情があると思えない」と述べた。

 

NATO加盟31カ国のうち、スウェーデンの加盟を承認していないのはハンガリーだけとなっている。

スウェーデンのビルストロム外相は25日、ハンガリーに対し「最後の承認国にならないとした約束を忘れないでほしい」と訴えた。また、スウェーデンのクリステション首相はオルバン氏に書簡を送り、来週にベルギーのブリュッセルで会談し、加盟問題に関し話し合うことを提案した。【126日 産経

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EUのウクライナ支援でもハンガリーが障害に EU内ではハンガリーに対するEU予算支出の長期停止やハンガリーの投票権停止などの報復措置検討も 結局、オルバン首相も同意】

スウェーデンやNATO加盟国のハンガリーに対する“苛立ち”は容易に想像できます。

EUのウクライナ支援に関してもハンガリーが障害となっており、苛立つEU側からはハンガリーに対する強硬な対応を求める声も出ています。

 

オルバン首相としても、そこらを見据えながら、どこまで利益を引き出せるか・・・という駆け引きのようです。

 

なお、オルバン首相のウクライナへの反感の背景には、単にEU内部での価値観・人権・移民問題をめぐる対立、ロシアとの緊密な関係、エネルギー政策での国益第一主義だけでなく、(表向きの議論ではあまり言及はされませんが)ハンガリーの歴史的事情、ウクライナに暮らすハンガリー系住民の存在もあることは、2023430日ブログハンガリー・オルバン首相 ロシア制裁・ウクライナ武器供与に反対する独自路線”でも取り上げました。

 

****ハンガリー、承認に向け譲歩か EUのウクライナ支援****

ハンガリーは(1月)29日、これまで拒んできた欧州連合(EU)のウクライナに対する500億ユーロ(約8兆円)の支援案の承認に前向きな姿勢を示した。EUは2月1日の緊急首脳会議でこの支援案の合意を目指しており、ほかの加盟国からの圧力が高まるなか、ハンガリーが譲歩に転じた可能性がある。

 

一方、ハンガリーのシーヤールトー外相は29日、ウクライナ西部ウジホロドを訪れ、同国のクレバ外相と会談した。両国は関係改善に向け首脳会談の開催を目指す方針で一致した。

 

ハンガリーのオルバン政権はロシアのプーチン政権と近いとされる。ロシアによるウクライナ侵攻後、ウクライナを支援するEUの足並みを乱してきた。昨年12月のEU首脳会議では500億ユーロ(4年間)のウクライナ支援を含む予算見直しに反対。議決には全会一致が必要なため棚上げになった。

 

支援案は2月1日のEU首脳会議で再び協議されるが、オルバン首相の側近は29日、X(ツイッター)で、EUに対し27日に妥協案を提案したことを明かした。そのうえでハンガリーは「ウクライナのためにEU予算を使うことに前向き」だと表明した。

 

英紙フィナンシャル・タイムズは28日、ハンガリーが首脳会議で承認を拒んだ場合の報復措置について記されたEUの内部文書について報じた。

 

文書には、ハンガリーに対するEU予算支出を長期的に停止する方針を公表することなどで市場の動揺や通貨の下落を誘い、同国経済に打撃を与える案がまとめられていた。EU高官は「報じられた文書は加盟国間の実際の議論や計画を反映したものではない」としているが、EU内ではロシア寄りの姿勢を崩さないハンガリーへの強硬姿勢を求める声が強まっているとみられる。

 

EUの欧州議会は18日、昨年12月の首脳会議でウクライナへの支援案を拒んだハンガリーに対し「EUの戦略的利益を侵害する」などと批判する決議を採択。加盟国で構成する欧州理事会に対し、EU条約第7条に定められた加盟国の投票権停止の適用について判断するよう求めている。【130日 毎日

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ハンガリーに対するEU予算支出を長期的に停止する報復措置については、“複数のEU外交官は「多くの加盟国が(報復措置を)支持している」と指摘した。”【131日 産経】とも。

 

投票権停止の適用については、ハンガリーが全会一致を盾に拒否権を行使していることへの対応です。

 

たった今流れた報道では、結局オルバン首相も同意したようです。

 

****EU、ウクライナ追加支援合意=4年間で8兆円、ハンガリーも支持臨時首脳会議****

欧州連合(EU)は1日、ブリュッセルで臨時首脳会議を開き、ウクライナに対する4年間で500億ユーロ(約8兆円)の追加支援に全会一致で合意した。EUのミシェル大統領がX(旧ツイッター)で明らかにした。ロシアに融和的で追加支援に難色を示していたハンガリーも賛成に回った。

 

ミシェル氏は今回の合意を通じて「EUはウクライナ支援でリーダーシップを発揮し、責任を負っている」と強調した。ウクライナのゼレンスキー大統領はXで、EUの支援継続で「ウクライナの経済と財政がより安定する」と歓迎した。

 

首脳会議に先立ち、ミシェル氏とハンガリーのオルバン首相、独仏伊首脳らが協議した。公表された採択文書には今回の支援に関し、毎年討議を行うことや、「必要であれば2年後に見直す」方針も明記された。ハンガリーは1年ごとに判断する「妥協案」をEU側に示しており、これが落としどころになったもようだ。【21日 時事

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【ハンガリーだけではないウクライナ支援停滞 欧米で膨らむ問題】

もっとも、仮にハンガリーの譲歩でEUのウクライナ支援500億ユーロ(約8兆円 4年間)が承認されたとしても、ウクライナへの欧米支援が非常に厳しい状況にあるのは変わりません。

 

トランプ前大統領がもし復活したらという「もしトラ」が盛んに語れていますが、「もしトラ」のひとつがウクライナ支援停止、ロシア・プーチン大統領の勝利(あくまでも戦術的勝利で、長期的・総合的に見て、今回の侵攻がどんな結果になってもロシアの被った国内経済・国際関係における痛手は致命的なものがありますが)です。

 

「もしトラ」を待たなくても、すでにその影響が出ています。

 

****トランプ氏、移民対策法案「不要だ」…ウクライナ支援と一体で成立に暗雲****

米共和党のトランプ前大統領は29日、自身のSNSで、米上院の民主、共和両党間で協議が進められている国境管理強化を巡る立法措置を「不要だ」と批判し、阻止する考えを示した。法案はウクライナ関連予算とパッケージで扱われており、米国のウクライナ支援に影響を与える可能性がある。

 

法案は、ウクライナ支援を継続させたい与党・民主党が、メキシコ国境から記録的な数の不法移民が流入している事態を受け国境警備の強化を訴える野党・共和党の主張を取り込み、一体的に協議されている。

 

法案は政府の判断で難民審査を厳格化できることなどを規定する方向で、上院の両党間で合意が間近だと報じられていた。バイデン大統領は26日の声明で早期可決を促していた。

 

これに対し、トランプ氏は29日、「バイデンは上院法案を、(不法移民の)惨事を共和党の責任にするため利用している。民主党が国境を壊したのだから、彼らが解決すべきだ。立法は必要ない」と書き込んだ。

 

トランプ氏は、11月の大統領選に向けた目玉政策として、不法移民対策強化のための「国境封鎖」を訴えており、攻撃材料の温存を図りたいとの思惑ものぞく。

 

法案の成立には上下両院の可決が必要だ。マイク・ジョンソン下院議長(共和党)も、現状の内容に否定的な考えを示している。下院共和党にはトランプ氏支持の議員が多く、トランプ氏の介入で成立に暗雲が漂っている。【131日 読売

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「もしトラ」が実現すれば、盟友オルバン首相の立場は大きく改善し、逆にEUは(日本も同じですが)トランプ対策で苦慮することになります。

 

EUの武器支援も目標と現実に大きなズレがあります。

 

****EUのウクライナ向け砲弾供給、約束の半分に=EU外相****

欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は31日、3月までにウクライナに100万発の砲弾を供給するという自主目標は達成できず、期限までに届けられるのはそのうち半分強にとどまると明らかにした。
ブリュッセルで開催されたEU国防相会議の後に行った講演で述べた。

ボレル氏によると、当初の目標達成は年末となり、3月までに供給できるのは約束の約52%だという。

ただ、欧州における砲弾の生産能力はロシアのウクライナ侵攻開始以来40%増加し、2024年末までに年産140万発に達する見通し。ボレル氏は、「当初は思い通りに行かなくても、いったん物事が動き始めると加速する可能性がある」とし、加盟国に対し発注を加速するよう要請したと述べた。【21日 ロイター

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ただ、繰り返すように「もしトラ」の可能性が高まっている現状では、各国もこの先のことを考ているでしょうから、“いったん物事が動き始めると加速する”のかどうか・・・

 

武器支援だけでなく、経済面でもウクライナ支援は問題化しています。

昨日ブログでも取り上げたようにフランスなど欧州各国ではウクライナ支援の主旨からの安価なウクライナ農産物の流入で、国内農家などの反発が強まっており、EUとしても対応を迫られています。

 

****欧州委、ウクライナ産農産物の輸入制限提案 EUの農家保護で*****

欧州連合(EU)の欧州委員会は1月31日、EUの農業政策に対する各国農家の抗議活動の高まりを受け、ウクライナ産農産物の輸入が一定程度以上に増えた場合、EUの農家を保護するため輸入制限措置を導入する案を加盟国に提案したと発表した。

 

EUはロシアの侵攻を受けるウクライナを支援するため、2022年以降、同国産穀物などの関税を免除している。だが安価なウクライナ産の輸入拡大で打撃を受けたとして、東欧を中心にEU域内の農家が各地で抗議活動を展開。ウクライナ支援への結束の乱れを生んでいる。

 

欧州委の提案では、関税の免除を25年6月まで延長する一方、鶏肉、卵、砂糖については輸入量が22、23両年の平均を上回った場合に関税をかける緊急輸入制限を発動する。また、穀物など他の産品についてウクライナからの輸入量が急増し、加盟国の農業が打撃を受けた場合、欧州委が対抗策を講じることを認める。

 

EUによると、ウクライナからの砂糖の輸入量は23年に10倍に増加。卵、鶏肉もそれぞれ2倍、1・5倍に増えた。

 

ウクライナ産農産物を巡っては、欧州委は23年5月、ハンガリー、ブルガリア、ポーランド、ルーマニア、スロバキアの東欧5カ国の要望を受け、一時輸入規制を認めたが、同9月に撤廃した。その後もポーランド、ハンガリー、スロバキアの3カ国は自国内でウクライナ産穀物の販売を禁止する独自の規制を導入している。

 

ウクライナとポーランドの国境などでは、農家やトラック運転手が道路を封鎖するなどの抗議活動を続けており、東欧5カ国は1月15日、EUとして関税を導入するよう求める書簡を欧州委に提出していた。

 

EUの農業政策を巡る不満は欧州全域で拡大している。フランスではウクライナなどからの安価な食料輸入の増加や生産コストの上昇、環境規制などについて農家が抗議活動を続けており、マクロン大統領は1月末、ウクライナ産農産物の輸入についてEUに対応策を求める考えを示した。

 

今月1日にEU首脳会議が開かれるブリュッセルでは、同日早朝から農家がトラクターで隊列を組み、クラクションを鳴らしながら、抗議活動を展開した。【21日 毎日

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戦争が長期化するなか、ウクライナ・ゼレンスキー大統領を取り巻く状況は厳しさを増しています。