インド  総選挙に向けて優位な情勢の与党 しかし、少数派に対する深刻な人権侵害の懸念も | 碧空

インド  総選挙に向けて優位な情勢の与党 しかし、少数派に対する深刻な人権侵害の懸念も

(インド・ムンバイで、2002年にグジャラート州の暴動で集団レイプ事件を起こしたヒンズー教徒11人が釈放されたことに抗議するデモの参加者(2022823日撮影、資料写真)。【18 AFP】)事)

 

【45月 総選挙 経済好調・モディ首相人気で与党「インド人民党」有利の情勢

今年は今週末の台湾総統選挙、3月ロシア大統領選挙、4月韓国総選挙、6EU「ヨーロッパ議会」選挙、そして真打、11月のアメリカ大統領選挙など重要な選挙が多く「選挙イヤー」とも言われていますが、4月から5月にかけてインドの総選挙も行われます。

 

そのインドでは経済は好調のようです。

 

****インド実質GDP7.3%増の予想 主要国で最高水準再選目指すモディ首相に追い風か****

経済成長が続くインドの実質GDP=国内総生産について、インド統計局は主要国で最も高い7.3%の成長率になるとの初期予測を発表しました。

インド統計局が5日に発表した初期予測によりますと、2023年度の実質GDPは前の年度より7.3%増える見込みです。経済成長率は主要国の中で最も高い水準となる予想で、今年5月までに行われる総選挙で3期目を目指すモディ首相にとって追い風となりそうです。

世界的な景気の低迷が長引くなか、インドは公共投資の増加による内需の拡大や観光業の回復などが、成長をけん引しているとみられます。

また、モディ政権はこれまで弱いと指摘されてきた製造業の強化を掲げており、経済の失速が進む中国への依存を回避しようと、日本やアメリカなど各国の企業がインドへの投資を拡大しています。

一方、インドメディアは雇用を生み出しているのは、ITや金融サービスといった分野に限定されていて、貧困層の多い農村部での雇用機会の改善などが課題だと分析しています。【18日 TBS NEWS DIG

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こうした経済状況やモディ首相人気もあって、モディ首相率いる与党「インド人民党(BJP)」は選挙戦に向けて優位に立っているようです。

 

****インド与党、州議選で勝利 総選挙の前哨戦 モディ政権3期目に弾み*****

来春(2024年)の総選挙の「前哨戦」と位置付けられるインド4州の議会選挙が(12月)3日開票された。地元メディアによると、モディ首相の与党・インド人民党(BJP)が、3州で野党・国民会議派などを破って単独過半数を獲得する見通しとなった。総選挙で3期目を目指すモディ政権にとって大きな弾みとなった。

 

4州の選挙は11月7〜30日に投票された。BJPは、中部マディヤプラデシュ西部ラジャスタン中部チャッティスガル――の3州で勝利を宣言した。一方、野党・国民会議派は南部テランガナ州で地域政党を抑えて勝利したものの、2州で政権を失い、総選挙に向けて態勢の立て直しを迫られる形になった。

 

BJP勝利の背景には、7割超の支持率を誇るモディ氏の人気があるとみられる。モディ氏は3日、X(ツイッター)に3州の勝利について「BJPの良い統治と発展を国民が支持していることを示している」と投稿して自信を見せた。

 

国民会議派はインドの身分制度「カースト」ごとの人口調査の実施を公約に掲げてきた。下位カーストの人口を把握し、就労や教育で優遇措置を受けられる人を増やす狙いがある。ヒンズー至上主義団体を支持母体とし、カーストを超えたヒンズー教徒の結束を重視するBJPとの差別化を図る戦略だが、支持は広がらなかった。

 

国民会議派を中心とする野党は「インド全国開発包括連合(略称・INDIA)」として総選挙でBJPに対抗する構えだが、ニューデリーのシンクタンク「政策研究センター」フェローのラフル・ベルマ氏は「現時点ではBJPが最多議席を維持するのは間違いないだろう」と予測した。【124日 毎日

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モディ首相人気は、同氏の進めるヒンズー至上主義や、国際政治でのインドの影響力増大が、国民多数派であるヒンズー教徒の民族主義的感情をくすぐることにあるのでしょう。

 

【モディ首相・人民党のヒンズー至上主義や権威主義的傾向への懸念】

しかしながら、(私を含めて)国際的には同氏のヒンズー至上主義や権威主義的傾向を懸念する向きもあります。

 

****インド経済の飛躍はモディ首相への評価にかかっているアメリカも注視する「極めて危うい構図」とは****

(中略)

国際的にも注目されているモディ氏

インド経済の好調には同国に対する国際的な好感度の上昇が関係している。この状況に最も寄与しているのが、首相のナレンドラ・モディ氏であることは言うまでもない。

 

モディ氏は昨年、主要20ヵ国・地域首脳会議(G20サミット)の議長として大きな存在感を示した。グローバルサウス(新興・途上国の総称)の盟主を自認するモディ氏は、G20サミットの場でグローバルサウスの利益を代弁する役割を積極的に果たしてきた。

 

さらにモディ氏は、米国との良好な関係を維持しながら、ロシアとのパイプも維持している。「今は戦争の時ではない」と呼びかけるモディ氏は、ロシアを訪問し、西側諸国を敵視するプーチン大統領と会談する意向を見せている。

 

このように、動向が国際的に注目されるようになったモディ氏だが、今年は試練の年でもある。総選挙(下院選)が今年4月から5月にかけて実施されるからだ。

 

3選目を目指すモディ氏は、昨年末から総選挙に向けた活動を本格化させている。足元の世論調査では、モディ氏が率いるインド人民党(BJP)が、前回(2019年)と同様、単独で過半数の議席を占めると言われている。

 

モディ氏の地盤は固いようだが、気になるのは権威主義的な傾向だ。

 

少数派に対する深刻な人権侵害

BJPから選出されたインド議会の両院議長は1219日、警備態勢の検証を求めた100人超の野党議員に対し、「秩序を乱した」との理由で登院停止を命じた。下院の議場に2人組の男が乱入した事案から起こった検証要求だったこともあり、野党は「民主主義への攻撃」として反発。米人権団体も強く非難する事態となっている(20231220日付CNN.co.jp)。

 

モディ政権下では、イスラム教徒などの少数派に対する深刻な人権侵害が起きており、米印関係を揺るがしかねない問題も持ち上がっている。

 

米検察当局は20231129日、米国内でインド系米国人のシーク教徒活動家を暗殺しようとしたとして、インド国籍の男を起訴した。米国政府は「この問題を深刻に受け止めている」との認識を示したが、インドとの戦略的パートナーシップを強化する方針を今のところ変更していない。

 

米国のインドへの接近は「ライバルである中国を牽制するカードとして利用する」というご都合主義の色彩が強い。一方、モディ氏率いるBJPはネオファシズム的な側面があるとの指摘がある(1221日付ニューズウイーク日本版)。

 

自国の主権を侵害する事案が続けば、米国を始め西側諸国はインドとの良好な関係をご破算にするのではないかと筆者は考えている。

 

西側諸国から見たインドのイメージが悪化すれば、同国の経済に対する認識もがらりと変わる。インド経済が飛躍を遂げるかどうかはモディ氏の評価にかかっていると言っても過言ではない。だが、この構図は極めて危ういのではないだろうか。【18日 藤和彦 デイリー新潮

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【グジャラート州首相時代の対イスラム教徒暴動で起きた集団レイプ事件をめぐる動きに透ける少数派権利擁護への消極姿勢】

“モディ政権下では、イスラム教徒などの少数派に対する深刻な人権侵害が起きており・・・・”

過去のブログで何度も取り上げたように、そもそもモディ首相はグジャラート州首相時代の2002年に起きた宗教暴動で、ヒンズー教徒によるイスラム教徒虐殺を黙認した強い疑惑があります。(司法的には、責任なしとされていますが)

 

この暴動ではイスラム教徒を中心に1000人以上が殺害されたとされています。その過程では、イスラム教徒の女性に対する集団レイプもありました。

 

しかし、一昨年8月には、集団レイプで終身刑の判決を受けていた11について、BJPが与党となっているグジャラート州政府は減刑・早期釈放しました。釈放された犯人らは“英雄的”な歓迎を受けています。

 

****集団レイプで終身刑の11人を早期釈放 被害者「あぜん」 インド****

インドで今週、独立後最悪の宗教暴動でイスラム教徒の女性を集団レイプし、終身刑を科されたヒンズー教徒11人が早期釈放されたことを受け、被害者のビルキス・バノさんは「あぜんとしている」と心境を明らかにした。

 

西部グジャラート州で2002年、ヒンズー教徒の暴徒にイスラム教徒17人が襲われ、14人が死亡する事件があり、世界的な非難を浴びた。生き残ったのは妊娠中だったバノさんとその子ども2人のみ。バノさんは3歳の娘を含む親族7人を亡くした。

 

その後、ヒンズー教徒の男11人が終身刑を言い渡されたが、グジャラート州政府は15日、インド独立75周年の式典に合わせて釈放すると発表した。(中略)

 

事件当時、ヒンズー至上主義を掲げるナレンドラ・モディ首相がグジャラート州首相を務めていた。宗教暴動を見て見ぬふりをしたと非難されたが、2012年に非はなかったとされた。

 

しかし今回の一件を受け、イスラム教徒の有力議員アサドゥディン・オワイシ氏はモディ氏率いる与党インド人民党(BJP)に言及し、「BJPの宗教に対する偏向は、残忍なレイプや憎悪犯罪さえも容認するほどだ」と非難した。

 

BJPが与党となっているグジャラート州政府は、11人の釈放を擁護。主要紙ヒンドゥスタン・タイムズによると、高官のラジ・クマール氏は「11人の減刑は、インドで通常14年以上とされる終身刑の刑期、年齢、素行など、さまざまな要因を考慮したものだ」と説明した。

 

2002年の宗教暴動は、ヒンズー教の巡礼者59人が死亡した列車火災をきっかけに発生。公式発表によると、イスラム教徒を中心に約1000人が殺害された。

 

列車火災をめぐってはイスラム教徒が原因とされ、後に30人以上が有罪判決を受けたが、今も原因をめぐる論争が続いている。【2022820 AFP】

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このグジャラート州政府の措置に対し、インド最高裁は8日「再収監すべき」との判決を下しています。

 

****インド最高裁、集団レイプ事件11人の釈放無効に****

インド西部グジャラート州で2002年に起きた宗教暴動でイスラム教徒の女性たちが集団レイプされ、14人が死亡した事件で、同国最高裁は8日、終身刑を科されながらおととし釈放されていたヒンズー教徒11人を再収監すべきとの判決を下した。

 

20228月、同州政府委員会の勧告を受けて釈放されていた11人について、最高裁は2週間以内の再収監を命じた。

 

11人は釈放された際、親族や支援者らから英雄的な歓迎を受ける様子が動画で公開された。またその釈放は、ナレンドラ・モディ首相が演説で女性の安全について語ったインド独立記念日の祝賀とも重なり、全土で怒りを巻き起こした。

 

事件はヒンズー至上主義を掲げるモディ首相が、グジャラート州首相を務めているときに起きた。モディ氏は宗教暴動を見て見ぬふりをしたと非難されたが、2012年に非はなかったとされた。

 

野党・国民会議派は最高裁の判決を歓迎。与党・インド人民党の「女性に対する冷淡な軽視」が暴露されたと批判した。

 

同党広報担当のパワン・ケーラ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「犯罪者の違法な釈放を進めた者たち、受刑者を花輪や菓子で歓迎した者たちに平手打ちが食らわせられた」と述べ、「インドは犯罪の被害者および加害者の宗教やカーストによって、司法運営が左右されることを許さない」と強調した。 【18日 AFP

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一連の動きはモディ首相率いるインド人民党(BJP)のイスラム教徒や女性といった少数派の権利擁護に関する消極姿勢を示してもいます。

 

【女性のバス運賃は無料・・・背景には女性差別によるバス代負担も難しい女性の低賃金】

インド国内の女性に関しては、デリーなどインド各地で女性のバス乗車が無料になるという措置が行われているようです。

 

一見、女性優遇の施策のようにも見えますが、その背景にあるのは、女性の賃金が差別的に低く、バス乗車運賃を無料にしないと仕事にも出られず生活できないという劣悪な労働環境にある女性の実態があるとのことです。

 

****インドで女性のバス乗車が無料に。背景にある、深刻なジェンダー格差****

運賃が高すぎて仕事に行けない、給料のほとんどを通勤に使ってしまう──日本でそんな経験をすることは少ないかもしれない。しかし、こうした課題に日々直面してきた人たちがいる。インドの女性たちだ。

2022年時点でのインドの労働参加率は、男性が73.6%であるのに対し女性は24%にとどまり、中東諸国に次いでジェンダーギャップが最も大きい国のひとつとなっている。

 

さらに、女性が仕事を得たとしてもその所得は非常に少ない。インド全体における女性の平均月給は、正規雇用で12,667.5インドルピー(約22,800円)、非正規雇用では5,156.5インドルピー(約9,280円)であり、どちらも男性より低額であることが指摘されている。

こうしたインドにおけるジェンダー格差を是正する希望となっているのが、女性客のバス料金無料化の動きだ。このプログラムは「Shakti(ヒンディー語で強さの意)」と呼ばれ、これまで国内各地で実施されてきた。

 

2019年のデリーにおける導入を皮切りに複数の州で実施され、インド南西部のカルナータカ州も20236月から女性客のバス料金を無料化した。インドでは女性の約52%が毎日バスを利用し、約29%が週に数回利用することから、多くの女性がプログラムの対象となることが分かる。

カルナータカ州でShaktiが導入されて約4ヶ月が経ち、とある女性は「毎日120インドルピー(約217円)のバス運賃支払っていたが、今はその支出を抑えることができる」と、The Hinduの取材 に答えている。

毎日217円のバス代。たったそれだけかと思うかもしれないが、彼女たちの給料を踏まえると高額だ。日本における正規・非正規雇用を合わせた女性の平均年間給与は314万円であるため、単純計算で女性の平均月給はおよそ26万円。つまり日本での給与に換算すると、カルナータカ州では1日のバス代は少なくとも2,600円ほどに値しうる額であり、日常生活でかなり負担となっていることがうかがえる。

家計の大きな負担となっていた交通費が無料になることは、彼女たちの生活にとって大きな意味を持つはずだ。現在働いている女性たちが給与を食費や教育費により多く回すことができ、今は働くことが叶っていない女性たちにとっては働き始める後押しにもなるだろう。

 

これは女性の視点に立ったまちづくりを試みるフェミニスト・シティの動きとも捉えることができ、インドにおけるShaktiの事例はアジアのなかで一歩進んだ取り組みとも捉えられる。

一方で、女性客のバス料金無料化に対して反発の声もあがっている。私営のバスやタクシーが加盟するカルナータカ州民間交通協会連合は、Shaktiの影響により給与が下がったとしてShaktiに反対するストライキを実施した。どのようにして地域に支持され継続できるプログラムへと改善されるかが今後の課題となるだろう。

もうひとつの課題として、そもそも女性が安心して利用できる環境が整えられていないことがあげられる。インドではバスを利用したことがある女性のうち、約54%は運転手や男性客から運賃が無料であることを揶揄され車内で差別的な発言を受けたことがあり、約80%は運転手がバス停で待つ女性客を無視したことで乗車できなかった経験があるという。プログラムの形態だけでなく人々の捉え方にもアプローチする必要があるようだ。

そもそも、インドにおいて女性の給料が少ない主な要因は差別であると指摘されている。男性が優位とされ女性の行動を制限する風潮が根強いと言われるインドだが、ジェンダー平等が求められる社会の潮流にどう対応していけるだろうか。

 

バス料金の無料化だけで終わらず、継続して女性そして市民全体の声に耳を傾けながら、慣習的な考え方にも変化を起こそうとする姿勢が求められている。【20231129日 仲原菜月氏 IDEAS FOR GOOD

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インドにおける女性差別の問題をとりあげると話がまた長くなりますので、別機会に。