インドネシア・アチェ州  急増するロヒンギャ難民船 同情的対応から一変して、高まる反難民感情 | 碧空

インドネシア・アチェ州  急増するロヒンギャ難民船 同情的対応から一変して、高まる反難民感情

(インドネシア西部アチェ州の州都バンダアチェで、ロヒンギャ難民が一時保護されている施設前に集まり抗議する学生たち(20231227日撮影)【1228日 AFP】)

 

(ロヒンギャ難民=20231227日、インドネシア(REUTERS)【1228日 The News Lens Japan】)

 

【「忘れてしまっていても、問題はなくならない」】

世界の目がコロナ、ウクライナ、そしてパレスチナに向く中で、ミャンマー国軍の民族浄化を目論む虐殺・暴力・放火・レイプ等によって西部ラカイン州を追われたイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる状況は改善していません。

 

70万人以上が隣国バングラデシュに避難したとされますが、それまでのロヒンギャ難民を合わせると100万人規模にもなるバングラデシュの難民キャンプの環境は劣悪です。しかし、国軍支配が続くラカイン州の状況は安全が保証されず、帰還も進みません。

 

****“世界最大の人道危機”ロヒンギャ難民問題 100万人生活の難民キャンプ、新たな問題に直面****

2023/04/08 18:57

世界最大の人道危機とされるロヒンギャ難民問題。100万人が生活するロヒンギャの難民キャンプでは、避難が長引く中、新たな問題に直面しています。

 

スマホを売り買い、教育や収入を手にする機会も

南アジア・バングラデシュ。ミャンマーとの国境近くに広がるのは「ロヒンギャ」と呼ばれる人々が暮らす難民キャンプです。

 

女性「ミャンマーでは、私たちには人間としての権利がありませんでした」

彼らは、ミャンマーの少数派イスラム教徒・ロヒンギャ。2017年、ミャンマー軍などによる武力弾圧が行われ、これまでに、およそ100万人がバングラデシュに逃れてきました。

 

大規模な難民キャンプの誕生から6年。私たちが目撃したのは

店員「1日に34個売れます」 キャンプ内でスマートフォンが売り買いされている光景でした。

さらに

 

青年「このイヤホンは、お兄さんが僕のために買ってきてくれたんです。ここでは学校に通えるし、スポーツをすることもできます」 ミャンマーでは得ることのできなかった教育や収入を手にする機会が得られ、笑顔を見せる人々もいます。

 

自由を求め脱出する人が急増、暴力を受けて脱出した子どもも

しかし、いまある問題が浮上。

 

記者「難民キャンプから車で1時間ほどの漁港です。キャンプを出た女性たちも働いています」

ここ数年、身体的・金銭的な自由を求めて、キャンプを脱出する人が急増しているのです。

 

ある女性は、1か月半前にキャンプを脱出。娘の結婚資金を得るため仕事を求めて脱出を決断したといいます。

女性「キャンプの中には娘も親戚もいます。でも、お金を稼がなければいけないので、ここに来ました」

 

水産物を加工する作業で得られるのは、月におよそ25000円。難民キャンプでの生活と比べれば破格の待遇といえます。

 

女性「難民キャンプは、たくさんの人が閉じ込められている牢屋(ろうや)みたいです。ここは自由で良い場所です」

 

さらに、やむをえない事情でキャンプから逃れてきた子どもも。

男の子「キャンプには戻りたくない。あそこは好きじゃないです。お兄さんから暴力を受けていたので、ここに逃げてきました」

 

7人兄弟から暴力を受けていたと打ち明けた男の子。4か月前、難民キャンプから、ひとりで脱出し、ストリートチルドレンの集団に合流したといいます。ゴミ山で一日中、プラスチックを集めても、1日に300円ほどにしかなりません。

 

「忘れてしまっていても、問題はなくならない」

現地で支援を続ける日本人職員は。

UNHCRコックスバザール事務所・赤阪陽子所長「新しいエマージェンシー(緊急事態)、ウクライナやアフガニスタンなどに、ドナー(支援者)の関心がいってしまう。忘れてしまっていても、彼らが直面している問題はなくならない」

 

難民キャンプでは近年、治安の悪化も問題に。ふるさとに戻るメドが立たず、長引く避難生活が難民の心に影を落としています。

 

それでも懸命に生きる人々の姿も。

女性「ここに来て、もう怖くなくなりました。これまで知らなかったことが分かるようになりました。いまは私ひとりで、どこにでも行けます」

 

100万人のロヒンギャ難民をどう救うか。国際社会には息の長い支援が求められています。【48日 日テレNEWS

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【インドネシア・アチェ州 急増するロヒンギャ難民船】

過酷な現状、希望のない明日・・・難民キャンを脱出して粗末なボートで海外に逃れようとする難民も増加します。

また、ミャンマー国軍の弾圧が続くラカイン州からも、状況が悪化しているバングラデシュではなく、海上へ出る人々も。

 

しかし、周辺国にとってロヒンギャ難民は“厄介者” 従来から漂着した周辺国ではろくに水も食糧も与えず難民船を海に押し返す・・・といった対応が横行していましたが、特に新型コロナが拡大した期間は、更に受入れが厳しくなりました。

 

****ロヒンギャ難民船がインドネシアに相次ぎ漂着 ミャンマー脱出後各地で苦難続く****

(中略)

今回アチェに漂着した難民は「マレーシアを目指していた」と証言したように多くのロヒンギャ族難民はイスラム教国であるマレーシアで新生活を始めることを希望している。

 

しかしマレーシア政府はコロナ感染防止やロヒンギャ難民の中にARSAなどの武装組織メンバーが混入している可能性があることなどから多くの難民船を食料や飲料水を与えたうえで国際海域に追い返していた。2020年には22隻の難民船を追い返したといわれている。

 

こうしたことからインドネシアの中でも唯一イスラム法適用が許され、厳しいイスラム教の戒律が順守されているアチェ州を目指す難民船も増えているという。

 

海流の影響とこうした理由が重なってアチェへのロヒンギャ族難民は増加しており、アチェ州では収容所を設置して飲料水や食料、医療品を支援して保護に努めている。

 

国際機関などはロヒンギャ族難民の受け入れを国際社会に求めているが、マレーシアのようにコロナ感染防止対策や過激派組織の上陸回避のため、積極的な受け入れが実現していない実情がある。(後略)【20221227 大塚智彦 Newsweek】

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上記のような事情(イスラム教徒が大半を占めるインドネシアはロヒンギャに同情的で、特にイスラムが重視される北部アチェ州ではその傾向が強い)もあって、インドネシア・アチェ州へのロヒンギャ難民船漂着が急増しています。

 

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告によれは、11月中旬からの約1カ月間で1543人のロヒンギャ難民がアチェ州に漂着したとのことです。今年のアチェ州へのロヒンギャ密航1700人余りの大半がこの1カ月間に集中していることになります。なお、難民の約8割が女性や子どもだとのこと。

(この時期に集中しているのは、海流の影響もあるのかも。そのあたりはよく知りません)

 

****ロヒンギャ約400人、インドネシア漂着 大統領は人身売買に言及****

インドネシアのアチェ州に10日、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ400人余りが新たにボートで漂着した。地元の漁業関係者が確認した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は先に、インドネシアに漂着したロヒンギャが11月以降、1200人に達したと発表した。

漁業関係者によると、10日午前にアチェ州の2地区にボートが各1隻漂着し、いずれも約200人が乗っていたという。

ジョコ大統領は8日声明を発表し、最近のボート漂着急増の背景に人身売買が存在する疑いがあるとの見方を示し、国際機関と協力して対応に当たると述べた。

インドネシアは国連難民条約に署名していないが、沿岸に漂着した難民を受け入れてきた歴史がある。【1211日 ロイター

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イスラム重視のアチェ州では、かつては当局がコロナを理由に難民受入れを拒否しても、地元住民が反発して難民を上陸させるといったこともありました。

 

****ロヒンギャ難民81人、マレーシアに上陸拒否され113日漂流 インドネシアで救出へ****

<コロナ禍やクーデターなどで世界の関心は減ったが、難民たちは今日も生き延びようとしている>

(中略)

 

アチェ州はロヒンギャ族難民拒否せず

バングラデシュのロヒンギャ族難民キャンプはほぼ飽和状態で政府による人道支援はあるものの、食料は慢性的に不足。医療事情が悪くコロナ感染防止が不十分であること、さらに居住区では顔役による暴力や物品の奪取などがあるとされ、必ずしも平穏なキャンプ生活が維持できないのが実状といわれている。

 

こうした状況から逃れるために多くのロヒンギャ族難民が新たな生活拠点を求めて、イスラム教徒が多いマレーシアやインドネシア、地理的に近いタイなどを目指して船で脱出を図るケースが絶えない。

 

当初はロヒンギャ族の難民船を受け入れていたマレーシアやタイは自国のコロナ感染拡大もあり、海上で発見した場合、最近は食料や水を与えて受け入れ上陸を拒否するケースが増えているという。

 

これに対し、ロヒンギャ族難民が漂着することが多いインドネシアのアチェ州は住民の多数が厳格なイスラム教徒で唯一イスラム法(シャーリア)に基づく統治が認められていることもあり、同じイスラム教徒であるロヒンギャ族難民を原則として受け入れてきた。

 

20206月にはコロナ感染を懸念するあまり、ロヒンギャ族の漂着を拒否したアチェ州当局の判断に地元アチェ人漁民が反発して、独自に難民を上陸させる事態も起きている。

 

アチェ州にはロヒンギャ族を収容する施設もあり、多数が収容されているものの、なぜか最終的にはマレーシアを目指すロヒンギャ族難民が多く、知らない間にマラッカ海峡を横断してマレーシアに密航するケースも増えているという。インドネシア人の密航請負人が船を用立ててこうした密航を支援しているとされている。(後略)【202167日 大塚智彦氏 Newsweek

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【かつての同情的対応から一変、高まる反難民感情】

しかし欧州のシリア難民でもそうでしたが、当初は受入れに同情的でも、急増して受け入れ側の負担が大きくなると事情が変わります。インドネシアにあっても特にイスラム重視のアチェ州でも、そのあたりは同様のようです。

 

****学生デモ隊、ロヒンギャ難民を強制排除 インドネシア****

インドネシア最西端アチェ州の州都バンダアチェで27日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ難民100人以上が収容されている一時保護施設に大学生数百人が押しかけ、ロヒンギャを強制的に立ち退かせた。

 

アチェ州沿岸には11月中旬以降、1500人以上のロヒンギャがボートで漂着しており、国連は過去8年間で最多の流入だと指摘している。地元住民に拒絶されたり、海に押し戻されたりしたケースもあるという。

 

さまざまな大学の校章が付いたジャケットを着た学生たちは、ロヒンギャ137人が収容されていた公営ホールに突入した。

 

AFPが確認した映像によると、学生たちは地元の入国管理局に対し、ロヒンギャを退去させミャンマーに強制送還するよう要求。「追い出せ」「アチェはロヒンギャを受け入れるな」とシュプレヒコールを上げた。中には難民の持ち物を蹴る学生もいた。

 

涙を流すロヒンギャの女性や子どもや、顔を伏せ祈る男性の姿も映っていた。

 

現場にいたAFPの記者によると、デモ隊と、おびえるロヒンギャを警護していた警官隊とのもみ合いになったが、警官隊は最終的にデモ隊によるロヒンギャの排除を許可した。

 

デモ隊はタイヤを燃やし、ロヒンギャを移動させるためのトラックを用意したという。AFP記者によると、警察はロヒンギャをトラックに乗せるのを手伝った。ロヒンギャは近くにある別の政府施設へ移送された。

 

AFPはバンダアチェ警察にコメントを求めたが、回答は得られていない。

 

国連難民高等弁務官事務所は、この出来事は難民に衝撃とトラウマを残したと批判した。

インドネシアは国連の難民条約に未加盟で、ミャンマーからの難民を受け入れる義務はないと主張。近隣諸国に対し、受け入れの負担を分かち合い、沿岸に到着したロヒンギャを再定住させるよう求めている。 【1228日 AFP

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当局の受け入れ拒否に反発して、独自に難民を上陸させた日から3年半ほど。

アチェの社会で一体何が変わったのか・・・。

「追い出せ」「アチェはロヒンギャを受け入れるな」と叫ぶ学生たちを突き動かすものが何なのか?

 

****インドネシア、ロヒンギャ難民が急増 国際社会に責任を共有するよう呼びかけ****

バングラデシュやミャンマーから逃れ、インドネシア・アチェ州に漂着するイスラム教徒の少数派、ロヒンギャの人たちが急増し、地域社会の資源不足を招くとして地元では反ロヒンギャ感情が高まっている。そのため、インドネシア政府は難民条約加盟国および国際社会に対し、難民問題の解決に向け、より多くの責任を果たすよう求めている。

 

AP通信やインドネシアのオンラインニュースメディアTempo.co、中東の衛星テレビ局アルジャジーラの報道では、インドネシア当局は1212日、11月以降イスラム系少数民族であるロヒンギャ難民1500人がボートでインドネシアのアチェ沿岸に到着したと発表し、国際社会に支援を求めているという。

 

インドネシアやタイ、マレーシアなどの東南アジア諸国は、1951年の難民条約に署名しておらず、難民を受け入れる義務はないが、タイやマレーシアに比べれば、インドネシアはバングラデシュやミャンマーからロヒンギャを受け入れており、一時避難所として難民キャンプを設置している。

 

しかし、難民の増加によってインドネシア国内の反ロヒンギャ感情が高まっており、政府は対策を取るよう迫られている。

 

インドネシア外務省のムハンマド・イクバル報道官は1212日、ジャカルタで記者会見を行い、難民問題への対応、特に再定住が非常に遅れていると述べ、「それゆえ我々は、難民条約の加盟国や国際社会に対し、ロヒンギャ難民問題の解決にいっそうの責任を果たすよう求めている」と強調した。

 

イクバル報道官はまた、インドネシア政府は難民問題を解決するために国際機関、特に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国際移住機関(IOM)と協力し続けると述べ、UNHCRは施設の提供及び難民の再定住への解決策を検討することを約束したと付け加えた。

 

UNHCRは現在、難民がアチェに到着した後に発生する犯罪行為、すなわち人身売買や密輸を防止し、根絶することに重点を置いていると強調した。

 

**バングラデシュとミャンマーからのロヒンギャ難民 

2017年、ミャンマー軍による弾圧から逃れるため、74万人のロヒンギャの人々が続々と隣国バングラデシュに流出した。 

 

しかし、近年、バングラデシュでは難民キャンプにおいてギャングが増え、犯罪率が上昇するなど環境が悪化し、ロヒンギャがバングラデシュに逃れるのは困難になりつつある。また、ミャンマーのクーデター後も軍事政権によるロヒンギャへの弾圧が続いており、その結果、インドネシアのアチェ州に多数のロヒンギャの人たちが上陸している。

 

外務省のイクバル報道官は「インドネシアは難民条約には加盟していないが、国際組織犯罪防止条約には加盟しており、ロヒンギャ難民を受け入れる義務はないが、人身売買と密輸の防止と撲滅に参加する義務がある」と述べ、問題の根源はミャンマーで続く紛争であり、それを解決しなければならないと強調した。

 

反ロヒンギャ感情が高まる地域社会

1210日には、アチェ州サバン島の難民一時避難所に100人以上の抗議デモ参加者が集まり、ロヒンギャ難民の再定住(つまり、インドネシアから第三国への出国)を訴えたという。

 

「我々はみんな貧しいのに、政府はなぜ我々を助けるためにお金をくれないのか?なぜ彼ら(ロヒンギャ)に食料を配らなければならないのか」とデモ参加者の1人はアルジャジーラに訴えた。

 

更にもう1人も「私たちはロヒンギャを拒否します。一刻も早く別の場所に移してほしい。彼らが運んでくる病気に感染したくない」と語った。

 

UNHCRのファイサル・ラフマーン准難民保護官は「我々は、地域住民が安心するよう懸命に取り組んでいる」と述べた。一方、ラフマーン氏は増え続ける難民に対し、指定シェルターの収容能力がもはや対応できなくなっていることを認めた上で、「到着する難民の数が非常に多いため、政府はシェルター提供のため懸命に努力しているところだ」と述べた。【1228日 The News Lens Japan】

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「我々はみんな貧しいのに、政府はなぜ我々を助けるためにお金をくれないのか?なぜ彼ら(ロヒンギャ)に食料を配らなければならないのか」・・・・昨日ブログ最後にも書いたように、自分たちの生活が苦しいと、他者への寛容さも失われるのが現実です。