コンゴ  20日の大統領選挙、トラブル多発で延長 ルワンダが支援と言われるM23をめぐる動き | 碧空

コンゴ  20日の大統領選挙、トラブル多発で延長 ルワンダが支援と言われるM23をめぐる動き

(2日、コンゴ民主共和国の首都キンシャサで大統領選への出馬を表明したデニス・ムクウェゲ氏=ロイター【103日 読売】)

 

【国内の戦闘がおさまらない資源大国コンゴ 20日の大統領選挙は多くのトラブルがあって延長】

日本では(おそらく、世界の多くの国でも)ほとんど報じられることもありませんが、1220日にアフリカ中部のコンゴ民主共和国で大統領選挙が行われました。

 

パレスチナ・ガザでも、ウクライナでも激しい戦闘が続いていますが、国内に多くの武装勢力が割拠し、恒常的に政府軍と武装勢力の間、あるいは武装勢力同士の衝突、それに伴う地域住民への暴力(性暴力を含む)が継続し、多くの国民がその犠牲になり、大量の避難民を生んでいる・・・そんなコンゴの状態は座視すべきものではなく、今後の状況が大統領選挙で改善に向かうのであれば、世界全体にとってもその意義は小さくありません。

 

“国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2020年末時点でのコンゴ難民の数は合計約84万人です。難民の数を出身国別に比較すると、コンゴ民主共和国は、シリア、ベネズエラ、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマーに次いで、世界で6番目に多くの難民を生み出しています。”【World Vision】

 

****コンゴ民主共和国 大統領選挙 治安回復や経済立て直しが争点に****

アフリカ中部のコンゴ民主共和国で大統領選挙の投票が行われました。選挙には現職の大統領のほか、紛争下での性暴力の被害者の治療に当たり、ノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師らが立候補していて、治安の回復や経済の立て直しが争点となっています。

 

コンゴ民主共和国では20日、大統領選挙の投票が始まり、現地からの映像では早朝から多くの人が投票所に列をつくって票を投じていました。

今回の大統領選挙には、2期目を目指す現職のチセケディ大統領や、野党の有力者のほか、東部の紛争地域で長年、性暴力の被害者の治療に当たり、2018年にノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師なども立候補しています。

コンゴ民主共和国は、電気自動車のバッテリーに使われるコバルトの世界最大の産出国として注目されていて、日本政府も資源外交の重点国として関係強化に力を入れています。

一方で、国内の経済は低迷し、国民の60%以上が貧困にあえいでいるとされています。

また、東部では武装勢力による襲撃や政府軍との衝突が続き治安の悪化も深刻で、選挙戦では治安の回復や経済の立て直しが最大の争点となっています。

選挙結果は年内にも発表される見通しですが、選挙に関わる暴力や不正を指摘する声も上がっていて、投票や開票作業が順調に進むのか懸念されています。【1220日 NHK

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“国内の経済は低迷し、国民の60%以上が貧困にあえいでいる”・・・一方で、コンゴには金や銅、スズ、ダイヤモンド、コバルト、ウラン(ウラニウム)、コルタンなど世界有数の豊富な地下資源があって、マクロ経済的には成長しています。

 

その地下資源が生む富が多くの国民にいきわたらず、支配階層の腐敗を生み、多くの武装勢力の資金源となって紛争を慢性化させ、その富を狙った周辺国・関係国の介入を招きやすい・・・という“資源の呪い”に翻弄されている国がコンゴです。

 

投票は予想されたように多くのトラブルに見舞われ、21日も延長して行われました。

多くのトラブルはあるものの、2期目を目指す現職のチセケディ大統領が優勢と見られています

 

****コンゴの大統領選挙****

1220日、コンゴ民主共和国で大統領選挙を含む総選挙が実施された。日本の6倍以上の巨大な国で、有権者数は4400万人、投票所は75000ヵ所を数える。

 

20日の選挙では、予想どおり、相当の混乱が生じた。投票用機材搬入の遅れから投票開始時刻が大幅にずれ込んだり、停電等のトラブルのために投票用機器が動かなかったり、多くのトラブルが報告されている(21日付ルモンド)。投票は、21日も継続して行われた。

 

今回の選挙では、現職のチセケディが再選を果たすかが最大の注目点である。選挙が1回しか行われず(決選投票がない)、野党候補が統一されていない状況では、チセケディの優勢は動かない。

 

前回の選挙では、前大統領カビラに近い人物で占められた選挙管理委員会が投票を操作し、チセケディを勝利させたというのが定説だが、今回はそうしたどんでん返しは考えにくい。多少のトラブルはあっても、チセケディの再選が発表される可能性が高い。

 

選挙戦の中で、チセケディはナショナリスティックな論理を多用した。有力な野党候補のカトゥンビについて、「外国から送り込まれた候補者であり、ルワンダとつながっている」と主張した(17日付ルモンド)。

 

また、選挙戦の締めくくりにキンシャサで行われた集会では、「ルワンダが無責任な態度を続けるなら、戦争も辞さない」と発言した(19日付ARIB)。実際、コンゴは中国から攻撃・偵察用戦闘機を購入し、ルワンダ国境に近い南キヴ州に配備している(20日付ルモンド)。

 

チセケディ政権の下で、コンゴのマクロ経済は成長を続けている。コンゴ産鉱物資源への高い需要を考えれば、経済成長はこれからも継続するだろう。これは政権にとっての追い風だが、経済の成長はルワンダとの緊張をいっそう強める可能性がある。その意味で、不安定性や脆弱性を抱え込んだ成長である。【1223日 武内進一氏 現代アフリカ地域研究センター

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コンゴの選挙があまり報じられていないのは、パレスチナやウクライナと違って地政学的な重要性がない(もっと有体に言えば、何百、何千人が犠牲になろうが誰もアフリカ奥地のことなど関心を持っていない)ことに加え、現職大統領が再選され、状況はこれまでとほとんど変わらないだろうと思われていることもあるのかも。

 

【ノーベル平和賞受賞者ムクウェゲ医師も立候補 ルワンダによって分断の脅威にさらされていると主張】

冒頭NHK記事にもあるように、2018年にノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師も立候補しています。

 

****性暴力に立ち向かうノーベル平和賞受賞医師 アフリカの資源大国の大統領選に挑戦****

世界有数の資源大国であるアフリカのコンゴ民主共和国で20日、大統領選挙が行われます。選挙にはノーベル平和賞を受賞した医師が挑んでいます。何を訴えているのでしょうか。

 

Q.大統領選挙に立候補したノーベル賞受賞者とはどんな人物ですか?

紛争地域で性暴力の被害を受けた女性たちを支援し、5年前ノーベル平和賞を受賞した婦人科医のデニ・ムクウェゲ氏です。コンゴ民主共和国はかつてザイールと呼ばれ、1994年に自衛隊がルワンダ難民の救援活動を行いました。

 

その東部では100以上の武装勢力が跋扈し、紛争下で数十万人とも言われる女性が戦闘員や兵士から性暴力を受け、「女性にとって世界で最悪の場所」と呼ばれてきました。

 

ムクウェゲ氏は20年以上にわたって被害者の治療と精神的なケアを続けるとともに、国際社会にこの地域で生産されるレアメタルを購入しないよう訴えてきました。

 

Q.資源を買わないようにとはどういうことですか?

武装勢力の資金源となっているからです。スマートホンやパソコンのバッテリー、電気自動車の電池などに使われるコバルトは世界の生産量の半分以上を占めます。電子機器のコンデンサーや半導体などに使われるタンタルも世界1です。

 

アフリカで2番目に大きいこの国では他にもダイヤモンドやプラチナ、金、石油などを抱える資源大国ですが、武装勢力が利権争いを続け子どもたちに過酷な労働を強いてきました。

 

ムクウェゲ氏は何度も命を狙われながら政治の腐敗と搾取、人権侵害から人々を守るために戦い、選挙では「国家機能と治安の回復」を訴えました。

 

Q.その思いは通じるのでしょうか?

現職の大統領などと比べ政治的な基盤や資金力もないため厳しい戦いのようです。治安が悪く選挙が無事行われるかが最初の関門ですが、この国の行方は資源の安定供給にも影響するだけに日本にとっても他人事ではありません。

 

中国に対抗して日本政府は「資源外交の重点国」と位置づけ、資源探査などの協力関係の強化をはかっています。もちろん資源の確保も大事ですが、ムクウェゲ氏がめざす「正義と平和」の実現のためにも治安の回復と民主化を後押しすることも重要ではないかと思います。【1220日 NHK

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性暴力にはさまざまな形態がありますが、木の枝、棒、びん、銃身、バナナや熱い石炭などが性器に挿入されたり、時には集団レイプの後、膣が撃たれたりすることもあります。

 

紛争下の性暴力は性欲と関係なく、命を産みだし育てる存在としての女性とその性器を破壊する意図を持って行われるもので、ムクウェゲ医師は性暴力ではなく、「性的テロリズム」と呼んでいます。

 

紛争下の性暴力は、住民に屈辱を与え、支配し、恐怖を植え付け、(特定の)民族グループを強制的に移住させ、土地や資源を奪取する目的で行われます。 そのため大量の難民・避難民を生みます。

 

ムクウェゲ氏はこうした性暴力の蔓延を糾弾しているだけでなく、コンゴが腐敗した支配階級の手中にあり、分断の脅威にさらされていると主張しています。

 

“分断の脅威”・・・現職チセケディ大統領がナショナリスティックな論理で隣国ルワンダを敵視しているのと同様に、ムクウェゲ氏もコンゴ東部がルワンダに侵略・乗っ取られようとしていると、ルワンダを糾弾しています。

 

1次コンゴ戦争(19961997年)、第2次コンゴ戦争(19982003年)を通じて、ルワンダはコンゴ東部に軍を侵攻させ、都市を支配し、政治・軍事当局を親ルワンダ系に置き換え、政治的実権を掌握しているとも言われています。

 

こうしたルワンダの侵略によってコンゴが消滅することへの危機感が、ムクウェゲ氏を大統領選挙に駆り立てている大きな理由です。

 

【ルワンダが支援しているとも言われるM23に対し、コンゴ政府側は民兵組織を糾合

ルワンダが支援しているとされるのが、ルワンダ・カガメ大統領と同じツチ系のM23という武装勢力です。

ルワンダでは1994年、政権を握っていた多数派フツ住民による少数派ツチ住民へのジェノサイドが起こり(730万人の人口のうち、1174000人が約100日間のジェノサイドで殺害された)、ツチ反政府勢力を率いるカガメ氏がこの混乱を収めて権力を掌握していますが、コンゴに展開するフツ系武装勢力を一掃するためコンゴ領内でツチ系武装勢力M23を支援していると言われています。カガメ大統領はM23との関係を否定しています。

 

****コンゴ東部でM23をめぐる紛争続く****

126日、M23は北キヴ州マシシ県のキチャンガ(Kitchanga)を制圧した。昨年10月末に本格的な攻撃を再開したM23は、ウガンダ国境の街ルチュルからゴマに向けて南下し、コンゴ軍との間で戦闘が続いてきた。

 

12月初めの虐殺事件を契機に、M23、そしてルワンダへの圧力が高まり、M23は占領地からの撤退を表明したのだが、それ以降ゴマ西方のマシシ方面での軍事的プレゼンスを強めている。コンゴ軍の攻撃に反撃する形で、キチャンガを制圧したと報じられている(3日付ルモンド)。

 

M23をめぐる紛争については、アンゴラのロウレンソ大統領がアフリカ連合(AU)および南部アフリカ開発共同体(SADC)から委任を受けて仲介役を務めており、同時にケニヤッタ元ケニア大統領が東アフリカ共同体(EAC)のファシリテーターとして調停にあたっている。

 

昨年7月、(アンゴラ大統領)ロウレンソが(コンゴ大統領)チセケディと(ルワンダ大統領)カガメを首都ルアンダに招き、和平に向けた合意を得たが、停戦は続かなかった。9月以降、ケニアのイニシャティブでコンゴ東部にEAC(東アフリカ共同体)軍が展開されたが、抑止力としては機能していない。

 

この間、コンゴとルワンダの関係は悪化を続けている。M23の攻勢はルワンダの支援によるものだというコンゴ側の主張と、コンゴの国内問題だというルワンダ側の主張が平行線をたどっており、チセケディとカガメは相互に非難を繰り返すだけで、直接対話もできなくなっている。

 

国際社会のスタンスは、ルワンダにM23への支援を止めるよう求めるものだ。それに対してカガメ大統領は、M23はコンゴ国内の問題であり、問題はコンゴのガバナンスだと繰り返し、国際社会へのいらだちを隠していない。

 

ルワンダが何らかの形でM23への支援を行っていることは、国連専門家委員会が認めるところである。一方、コンゴ側のガバナンスに深刻な問題があること、そして紛争の中で民兵組織を利用してきたこともまた事実である。

 

ルワンダを締め上げれば問題が解決するわけではない。こうした状況下、戦闘の意思と能力を持つM23に引きずられる形で、紛争が拡大している。【24日 武内進一氏 現代アフリカ地域研究センター

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コンゴ政府も民兵組織を糾合してM23に対抗しています。

 

****コンゴ東部紛争の民兵組織****

(12月)13日付ルモンド紙は、コンゴ東部紛争の民兵組織ワザレンド(wazalendo)に関する記事を掲載した。ワザレンドはスワヒリ語で「愛国者」を意味する。ルワンダから支援を受けているといわれるM23への対抗勢力として、注目を浴びるようになった。

 

ワザレンドがメディアに登場したのは、ここ二ヶ月程度のことに過ぎない。M23との戦闘を主導する勢力として報じられるようになった。

 

この背景には、昨年9月に展開を開始した東アフリカ共同体地域軍(EACRF)の撤退に伴う情勢変化がある。EACRFM23が制圧していた地点を引き継いで平和維持に当たっていたが、M23が活動を停止せず、地域住民やコンゴ政府側からの不満が高まっていた。

 

結局チセケディ政権は、EACRFが成果を上げていないとして10月にその任期を更新しない決定をし、12月には部隊の撤収が始まった。撤収後の主導権をめぐってM23と政府側との衝突が激化するなかで、ワザレンドは政府軍と協働してM23と戦っている。

 

記事によれば、ワザレンドとは、従来マイマイなどの名称で呼ばれていた多数の武装勢力を糾合したもののようだ。ただし、そうした武装勢力の糾合は、政府が働きかけたものである。

 

202211月、チセケディは国営テレビで演説し、M23に対抗して自警団グループを立ち上げるよう国民に呼びかけた(2022114日付ルモンド)。

 

また、コンゴ軍と民兵組織の協働も、202393日の政令で、国軍内に民兵の存在を制度化することによって、公式化された。ワザレンドは、来週に予定されている大統領選挙でチセケディに投票するよう呼びかけているという。

 

コンゴ軍は20年前の東部戦争の際にも、ルワンダのフトゥ人を中心とする武装勢力(FDLR)と協働するなど、従来から民兵組織との関係が取り沙汰されてきた。チセケディ政権はその公式化に動いたのである。

 

国連平和維持活動を担うMONUSCOも撤退へと動くなか、チセケディ政権の論理としては、ルワンダが支援する勢力に自前で対抗する、ということになる。ルワンダを敵として愛国心を煽り、民兵を動員する手法は、相当に危うい。【1215日 武内進一氏 現代アフリカ地域研究センター

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上記のようなコンゴ東部でのコンゴ政府軍・民兵組織vs.M23・ルワンダの戦闘が今回大統領選挙で改善するか・・・と言えば、ほとんど期待できません。

 

【野党は選挙の「やり直し」を要求】

トラブルが多発した大統領選挙に関しては、野党側は「やり直し」を求めています。

 

****コンゴ大統領選の投票延長=野党はやり直し要求****

アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)で20日に行われた大統領選など一連の選挙の投票は、手続きを巡る混乱のため延長され、21日も続けられることになった。АFP通信によると、選挙委員会が20日夜、国営テレビを通じ発表した。

 

コンゴは国土が広大だがインフラが不備で、20日は必要な機材が届かず投票開始が遅れたり、投票所が閉鎖されたままだったりするケースが続出。こうした事態を受けて選挙委は、影響が出た投票所で21日も投票を行うと表明した。

 

一方、ロイター通信によると、ノーベル平和賞受賞者の医師デニ・ムクウェゲ氏を含む野党候補5人は20日、連名で声明を出し、選挙委に投票延長を決定する法的権限はないと主張。「失敗選挙」を組織し直し、全関係者が同意した日程で改めて実施するよう要求した。【1221日 時事】 

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よほどのことがない限り、政権側が「やり直し」要求に応じることはないでしょう。

選挙結果を受けて再選されたとする政権側に対し、これを不当とする野党側の抵抗・混乱も懸念されます。