台湾総統選挙  野党候補一本化を目論む中国の介入か 総統選挙と議会選挙の“ねじれ”予測も | 碧空

台湾総統選挙  野党候補一本化を目論む中国の介入か 総統選挙と議会選挙の“ねじれ”予測も

【中国 台湾総統選挙で野党候補一本化を促す介入か】

こういう言い方は不謹慎かもしれませんが、日本の選挙でどの政党が政権についても、日本の外交政策なり、国際情勢における日本の立ち位置はそう大きくは変わりません。それよりは、アメリカの大統領選挙の行方の方が、日本の外交により大きな変化をもたらす可能性があります。

 

更に言えば、日本の外交政策のポイントは端的に言えば日米関係と日中関係ですが、その日中関係に大きく影響するのが台湾がどのような対中国政策をとるのか・・・ということでしょう。

 

****台湾で政権交代の可能性。対中包囲目指す日米の戦略が一夜にして瓦解する****

台湾の現副総統で与党・民主進歩党(民進党)の次期総統候補、頼清徳主席。20241月の総統選挙までは残り3カ月ほどだ。

 

「総統選挙で野党候補の一本化が実現すれば、47%が支持し、与党・民主進歩党(民進党)候補との差は15%に」

 

20241月予定の台湾総統選で、野党第一党の国民党と第三勢力の民衆党の選挙協力が実現すれば、政権交代に現実味が出るとの世論調査結果を、台湾有力紙の聯合報(927日付)が発表した。

 

民進党政権が退場して連立政権が誕生すると両岸関係が改善し、東アジアの緊張が緩和する可能性は高まり、バイデン政権が構築を進めてきた「日米台同盟」にとって危機的状況になる。(後略)【1010日 岡田充氏 (ジャーナリスト) BUSINESS INSIDER】

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やや話が先走りましたが、話をスタート地点に戻すと、台湾では来年1月13日投開票で総統選が行われます。

現在、4人の候補が出馬を表明し、事実上の選挙戦を繰り広げています。

 

与党、民主進歩党の頼清徳氏(らい・せいとく)(64)(現在の副総統で、民主進歩党主席)は各種世論調査でリードを保ち、最大野党、中国国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)新北市長(66)、第三勢力・台湾民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)前台北市長(64)、無所属の実業家、郭台銘氏(73)が追う展開となっています。

 

台湾メディア、美麗島電子報が27日に発表した世論調査では、頼氏の支持率は33・0%、侯氏は20・8%、柯氏は20・2%、郭氏は6・3%となっています。【1030日 産経より

 

こうした台湾総統選挙に中国が介入を行っているとの見方があります。

 

無所属の実業家、郭台銘氏は鴻海科技・鴻海精密工業の創業者で、山西省をルーツに持つ外省人二世です。また、2018年の世界長者番付では総資産額で台湾一であった資産家でもあります。

 

郭台銘氏は国民党候補者を目指しましたが実現せず、無所属で立候補しています。同氏は鴻海のビジネスを通じて中国とのつながりが深く、有力候補4人の中で最も親中色が強く、国民党候補の侯氏が確保を見込んだ国民党の親中支持層を切り崩していますが、世論全体の郭氏の支持率は最下位に沈んでいます。

 

そうした親中派でもある郭台銘氏の事業の中国拠点に対して、中国当局が税務などの調査を行ったことが明らかになりました。

 

****中国 ホンハイ精密工業に税務調査 台湾総統選へ政治的背景か****

中国当局は台湾のホンハイ精密工業の中国にある拠点に対して税務などの調査を行ったことを認め、20241月の台湾の総統選挙を巡って政治的な背景がある可能性を示唆しました。

 

中国メディアの「環球時報」によりますと、台湾のホンハイ精密工業の子会社の中国各地にある複数の拠点が最近、中国当局によって、税務や土地の使用状況に関する調査を受けたということです。

 

これについて、中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の朱鳳蓮 報道官は25日の記者会見で「大陸の関係部門が法律や規則に基づいて調査を行うことは正常な法執行だ」と述べ、中国当局による調査を認めました。

そのうえで「台湾企業が大陸で相応の社会的責任を引き受け、台湾海峡両岸の平和的発展のために前向きな役割を果たすべきだ」と強調しました。

また、朱報道官は20241月の台湾の総統選挙に与党・民進党から立候補する予定の頼清徳 副総統について、「平和の旗印のもと『台湾独立』という悪事を行っている。『台湾独立』は戦争を意味し、平和はありえない」と強く非難しました。【1025日 NHK

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中国からすると、中国と距離を置く与党・民進党候補に勝利することが第一で、そのためには野党候補一本化が必要で、たとえ親中派であっても勝ち目のない郭台銘氏に選挙戦からの撤退を促す意味合いがあると理解されています。

 

****台湾・総統選、野党系一本化へ中国介入か****

(中略)

台湾では、(ホンハイ精密工業への)調査は中国による総統選への露骨な介入だと指摘する声がある。台湾紙記者によると、中国当局は以前から票の分散を避けるために野党系3候補を一本化させる動きを見せている。今回の調査は、郭氏に「出馬断念を促す警告」との見方があるという。

 

無所属での出馬を目指す郭氏は現在、立候補に必要な署名を集めている最中だ。中国での税務調査について、郭氏は30日までにコメントしていない。

 

一方、頼氏は22日、南部、高雄市で講演した際に「選挙前に税務調査のような手段で台湾の企業家に圧力をかけるやり方は、本当によくない」と中国を批判した。

 

中国はこれまで台湾での選挙の際、一部の親中派候補に水面下で資金を支援したり偽情報で攪乱(かくらん)を行ったりするなどしてきた。台湾の立法院(国会に相当)は2019年末、中国による選挙干渉を防止するため「反浸透法」を成立させるなど対策を講じてきた。(中略)

 

このままでは(民進党)頼氏に勝てないと考えた国民、民衆両党は連携が必要だと認識し、今月から候補者を一本化するための協議を継続的に行っている。

 

だが、候補者の決定方法について、国民党は組織票が影響し同党に有利な「有権者による投票」、民衆党は候補者の人気が結果を左右する「電話世論調査」を主張して難航。30日には党首同士が直接会談したが、結論は出なかった。

 

近年の景気低迷で与党、民進党の支持率は決して高くない。昨年11月の統一地方選挙では惨敗したばかりだ。野党候補の一本化が実現すれば政権交代の可能性が高まるため、台湾メディアは協議の行方に注目している。【1030日 産経

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現在のところ、郭台銘氏は選挙戦を続けています。

 

****フォックスコン創業者、台湾総統選への意欲変わらず-中国で苦境でも****

来年1月投票の台湾総統選挙に立候補しているフォックスコン・テクノロジー・グループ創業者の郭台銘(テリー・ゴウ)氏は、同社に対する中国当局の調査が公表されてから初の選挙遊説で、同調査についてコメントを控えた。

 

数日間、公の場から姿を消していた郭氏が再び登場したことは、フォックスコンの税務を監査し、中国での土地利用を調査している中国当局からの圧力に同氏が屈していないことを示しているようだ。(後略)【1030 Bloomberg】

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ただ、“そもそも郭氏の出馬理由については様々な憶測が飛び交っています。中には、民進党を当選させたい意向を固めたアメリカから「選挙を撹乱させよ」という密命を受けて立候補したなどという説もあります。

 

郭氏の目はアメリカではなく、むしろ中国に向いていると思います。現在の選挙活動は、中国側に対して自分の影響力を見せるいいパフォーマンスになります。

 

彼にとって当選するかどうかは二の次で、中国寄りの政策を並べて、ある程度の支持層を得られた、ということを中国側に見せつければ成功です。そうすることで、中国国内にある自身の巨大な企業資産を守り抜く。そこへ全神経を傾けていると見るべきです。”【1026日 台北の私立大学・中国文化大学政治学科の鄭子真教授 新潮社Foresight】との指摘もある郭台銘氏にとって、出馬が裏目に出た感も。

 

【現状維持を求め、イデオロギー対立が崩れつつある世論の受け皿となっている第三勢力・台湾民衆党の柯文哲氏】

世論調査でトップを走り続ける与党・民進党の頼清徳氏は、以前は急進派としての動きが目立っていましたが、野党陣営が不祥事などで評判を落とす中、元々あった激しさは影をひそめて、安全運転で着実に地固めをしているように見えます。

 

“今年8月の訪米の際、独立を匂わせるような過激な主張を唱えないようにと、アメリカから釘を刺されたからではないでしょうか。”【同上】との指摘も。

 

一方、第三勢力・台湾民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)前台北市長は最大野党・国民党との選挙協力について、「国民党は大政党として、小規模な民衆党に『結婚』を強制している。」と批判的対応を示しています。

 

柯文哲氏は外国メディアとの記者会見で、現政権のもとで中国との対話がないことを批判し、「台湾の民主的で自由な政治体制と生活を守った上で、文化や経済面から中国との交流を再開していく必要がある」「台湾にとって現時点では中国との統一も独立も不可能だ。イデオロギー論争で多くの問題は解決できない」と語っています。

 

ただ、具体策については明示していません。

 

台湾世論の多くは中国との「統一」でも「独立」でもなく、「現状維持」を望んでおり、中国との交流も望んでいます。

 

第三勢力の柯文哲氏が最大野党・国民党候補に伍する支持を得ているのは、こうした世論の受け皿になっていることからと思われます。

 

****中国との関係「現状維持」が過去最高、「独立」は35ポイント減台湾世論調査****

台湾の経済誌「遠見」と「遠見民意研究調査」が行った世論調査で、中国との関係について「現状維持」を望む人の割合が過去最高になった。台湾メディアの聯合報などが12日付で伝えた。

 

台湾の22市県で今年9月下旬に行われた調査の結果が同日発表された。それによると、「とりあえず現状維持」(319%)と「永遠に現状維持」(276%)を合わせた「現状維持」を望む人の割合が595%となり、2008年の調査開始以来最高となった。

 

「独立」を支持する人は22年の287%から252%と35ポイント減少し、「統一」を支持する人は22年の61%から85%に増加した。

 

支持政党別では、「独立支持」の割合は民進党支持者で463%、民衆党支持者で214%、国民党支持者で75%。「統一支持」の割合は国民党支持者で152%、民衆党支持者で106%、民進党支持者で38%となった。

 

戦争については、646%が「5年以内に開戦することはない」とし、「5年以内に開戦する」(235%)を大きく上回った。また、541%が「自分や家族を戦場に行かせたくない」とし、376%が「行きたい(行かせたい)」と回答した。2029歳では「行きたくない(行かせたくない)」が69%に上った。

 

一方、744%が「両岸(中台)は相互交流を増やすべき」と回答し、462%が「対話を保つべき」と回答。このほか、498%が「戦争への準備はできていない」と回答した。【1012日 レコードチャイナ

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“今までの総統選は、中国との友好か、台湾の主権独立かで真っ二つに分かれていました。しかし近年では、そういったイデオロギー対立の構図が崩れ始めており、柯候補は双方のイデオロギーの崩れた部分の受け皿になっている観があります。”【1026日 台北の私立大学・中国文化大学政治学科の鄭子真教授 新潮社Foresight】

 

こうした選挙情勢を踏まえ、もし野党候補の一本化が実現すれば・・・ということで、冒頭の【BUSINESS INSIDER】記事の話になります。

 

【総統選挙は与党・民進党、議会選挙は与党過半数割れ・・・“ねじれ”の予測も】

選挙戦の方は今後まだ変化する余地がありますが、現時点では、(野党候補一本化が困難という状況で)総統選挙は与党・民進党の頼清徳氏の勝利するものの、同日に行われる立法委員(国会議員に相当)選は与党が過半数割れする可能性が高いと予測されています。

 

****台湾、総統は与党、議会は野党の可能性高まる 小笠原欣幸・東京外国語大名誉教授****

台湾の選挙もいよいよ大詰めの時期に入る。現時点では、総統選は与党、民主進歩党の頼清徳氏が勝つ公算が大きい一方、同日に行われる立法委員(国会議員に相当)選は与党が過半数割れする可能性が高い。

 

この1カ月、野党陣営が候補一本化交渉によって世論の注目を集める戦術をとり政権交代の議論を高めることに成功、頼氏のアピールは見えにくくなった。さらに現職立法委員の女性スキャンダルも飛び出し与党は受け身に回っている。

 

中台関係は大きな争点にはなっていない。野党2候補も訪米し米台関係の重要性を強調したので対米政策も争点でなくなった。与党の得意分野が目立たなくなっている。

 

とはいえ、頼氏の支持率は2位に一定の差をつけてリードを保ち、野党候補の一本化も困難で、総統選挙は頼氏が有利な状況にある。

 

野党両党は巧みなダメージコントロールを行い、総統候補の一本化ができなかった場合でも「決裂」とせず、野党協力を立法委員選に拡大し、選挙後の野党連合構想を打ち出して、野党支持者の期待を維持しつづけられるよう工夫している。このため、民進党と中国国民党が競っている選挙区では、国民党に有利な展開が見られる。

 

11月に入れば3党の比例区名簿、副総統候補が発表され、正式の立候補登録となる。そこから投票まではあっという間だ。このままいけば、民進党政権が継続するものの立法院(国会)では過半数割れとなり、選挙後は野党が政局を左右する可能性が高い。

 

ただし、行政と立法の「ねじれ」が望ましいのかどうかの議論が始まるのはこれからで、投票行動を変える有権者が出てくる可能性もある。中国の出方も不明だし、中東の戦禍が拡大すれば思わぬ形で台湾の選挙に影響を及ぼす可能性もある。まだまだ目が離せない。【1030日 産経

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“人々は効果的な経済刺激政策による、豊かで安心できる政治を望んでいます。民進党の基本的な政策スタンスは、中国の軍事的な圧力に対する防衛体制を強める一方、経済については現状維持志向です。

 

この8年間、与党が推進する政策で経済が目に見えてよくなった実感はありません。新型コロナウイルスの流行を初期段階で抑えた功績が、もはや何のプラス要因にもなっていないということは、前衛生福利部長の陳時中氏(実直なコロナ対策で一躍名を馳せた)が台北市長選で敗北したことでも明らかです。

 

蔡政権の8年に不満を持つ有権者は、期待も込めて、新進の民衆党にチャンスを与えようとする。国民党も2022年の地方選挙に勝利した余勢で得票数を伸ばす。結果、立法院の野党候補者の当選者数が増え、民進党にお灸をすえるわけです。”【1026日 台北の私立大学・中国文化大学政治学科の鄭子真教授 新潮社Foresight】