カンボジア  静かに終わったフン・セン独裁・世襲を正当化するための「総選挙」 後退する民主主義 | 碧空

カンボジア  静かに終わったフン・セン独裁・世襲を正当化するための「総選挙」 後退する民主主義

(投票したことを示す黒いインク(現地の提供者撮影)【725日 デイリー新潮】) 政権の圧力のもとで思いどおりの投票行動ができなかった有権者は「この指を切り落としたくなる」とも。)

 

【独裁・世襲正当化のための選挙 与党圧勝、投票率84%のからくり】

23日に行われたカンボジアの総選挙は、予想されていたようにフン・セン首相率いる与党が圧勝しました。

これによって、首相の長男フン・マネット陸軍司令官への世襲が進むことになりそうです。

 

もっとも、支持を一定に集めそうな有力野党キャンドルライト党を事前に排除して行う選挙ですから、結果は「予想」するまでもないことですし、そもそも「選挙」の名に値するものかどうかも疑わしい、フン・セン独裁・世襲化を正当化するためのパフォーマンスみたいなものです。

 

****進む強権化、政権「世襲」へ カンボジア総選挙で与党大勝****

カンボジア選挙管理委員会は23日夜、同日投開票の下院(定数125)総選挙の暫定結果を発表し、親中派フン・セン首相(70)率いる与党カンボジア人民党が120議席を獲得したと明らかにした。

 

国政選挙で有力野党を排除した上での大勝は2回連続。欧米は民主主義の形骸化を憂慮するが、強権姿勢を一段と鮮明にした人民党政権は親中路線を維持しそうだ。

 

選管によると、投票率は84%で、正式結果は8月上旬に公表される見通し。人民党報道官は23日、ロイター通信に「われわれは大勝した」と宣言した。

 

フン・セン氏は総選挙での人民党大勝を目指し、有力野党キャンドルライト党の政党登録を「書類の不備」を理由に認めないなど締め付けを強めた。2018年の前回総選挙でも当時の最大野党を解党に追い込み、人民党が全議席を独占している。

 

継続する野党弾圧を受け、米国務省のミラー報道官は23日、カンボジアでの選挙は「自由でも公正でもなかった」と批判。カンボジアへの援助プログラムの一部を一時停止し、「民主主義を弱体化させた人物」への査証(ビザ)発給を制限すると発表した。フランスも選挙前にカンボジアでの民主主義の後退に苦言を呈している。

 

欧米の反発をよそに選挙大勝で権力基盤を盤石なものとしたフン・セン氏は今後、政権「世襲」に向けた動きを進めそうだ。投票から1カ月前後で長男のフン・マネット陸軍司令官(45)に首相職を譲る可能性を示している。

 

フン・マネット氏は米陸軍士官学校を卒業した経歴があり、〝知米派〟と目されている。ただ、近年のカンボジアの中国接近は顕著で、22年には中国の支援で国内初の高速道路が開通し、南部のリアム海軍基地では中国による拡張工事が進んでいる。

 

カンボジアは経済面でも中国への依存が強まっており、地元政策研究機関は、フン・マネット氏が首相を継承したとしても、「西側への接近は限定的なものになる」と分析している。【724日 産経

********************

 

有力野党キャンドルライト党を排除するだけでなく、「棄権」という形でフン・セン体制への批判票がでないように有権者への圧力もかけられました。

 

****投票の棄権呼び掛け、罰金へ カンボジア下院選、法改正****

カンボジアのフン・セン政権は23日の下院選を前に、投票の棄権を呼びかけた人物に罰金を科すなど締め付けを強める法改正を断行した。上下両院を6月下旬に通過、今週にも発効の見通しだ。主要野党キャンドルライト党の排除後、下院選棄権の動きが拡大したのに対抗、スピード成立させた。

 

フン・セン首相(70)は長男フン・マネット氏(45)への首相世襲を目指し、野党弾圧を強化。低投票率では欧米から選挙の正当性が疑問視されかねず、批判をかわすために法改正に踏み切った形だ。

 

罰金は3千万リエル(約100万円)から500万リエル。投票権を行使しない人は次回選挙で被選挙権を失う。【72日 共同

*********************

 

更に選挙前に与党スタッフが各家庭を戸別訪問し、投票に必要な身分証の期限切れがないかをチェックして回るという形で「棄権は許さない」という雰囲気を醸成。

 

また、「棄権」だけでなく「白票」なども許さないと、投票用紙に記入する際に監視員が“記載台をのぞく”といった行為もあったようです。

 

こうして政権批判が封じ込まれたなかで“達成”された、投票率84%、125議席中120議席獲得でした。

政権に批判的な有権者からすれば、投票を奪われた選挙でした。

 

****「指先の黒インク」が無言の圧力になるカンボジア選挙事情 投票率84%”5つのカラクリ****

723日、カンボジアの下院(定数125)の総選挙が行われた。その日の夕方、与党・人民党を率いるフン・セン首相(70)は、早々と勝利宣言。「投票率は前回の83%を上まわる84%」と胸を張った。

 

しかしフン・セン氏(70)は、この84%の投票率を得るために、国民に5つの投票圧力をかけていた。

 

ひとつ目は5月、最大野党のキャンドルライト党の選挙参加資格をはく奪した。理由は書類の不備だった。

フン・セン氏に批判的な人々は投票先を失うことになる。そこで野党側は投票の棄権を呼びかけはじめる。

 

これに対してふたつ目の圧力をかける。投票の棄権を扇動した人に対する罰金制度をスピード成立させた。罰金は500万リエルから3,000万リエル(約17万円から約102万円)。同時に投票を棄権した人は、次回の選挙で立候補できない法案も可決した。

 

有権者への個別訪問

3つ目は選挙日程。投票は住民票を置いている土地に限られる。プノンペンや工業団地で働く若者の多くは田舎に住民票がある。投票日の前後を休日にした。

 

4つ目は投票に誘導する空気づくりだった。投票権の確認を名目に個別訪問をはじめる。コンポンチュナン州で農業を営むKさん(58)はこういう。

「人民党の人が3人でやってきて、説明を受けました。選挙に行かないと罰金だっていわれました」

罰金は投票の棄権を呼びかけた人たちが対象だったが、Kさんは投票に行かないと罰金と理解していた。

 

“指先”が無言の圧力に

この空気は、指に塗るインクにまで波及する。カンボジアでは二重投票を防ぐために、投票した人は人差し指に黒いインクを塗る。これはいくら洗っても10日間ぐらいは消えない特殊なもの。村のなかでは、投票後、指のインクのチェックがあるという噂が流れたという。これまでの選挙でも、この指に残るインクは無言の圧力になったという。

 

プノンペンで働く30歳代のFさんはこういう。

「選挙が終わって会社に行く。人差し指の先が黒くないと周りからなにかいわれそうな雰囲気がありました。打ち合わせのときは、無理と人差し指を見せる人もいる。ファイスブックに顔の前に指を差しだす写真をアップする人も多い」

 

白紙投票を警戒

そして5つ目は投票所。投票した人によると、選挙を管理するスタッフがそれとなく記入しているところに視線を向けることが多かったという。これまでの選挙ではあまり気にならなかったが、今回は……

 

フン・セン氏を批判する勢力は、白紙投票を呼びかけてもいた。名乗りをあげている政党はフン・セン氏率いる人民党以外もあるが、選挙の態をなすための立候補の色合いも強いという。前回も全議席を人民党が独占していた。

 

強い圧力のなかで投票所に向かっても投票する先がない。白紙投票はそのなかでの抗議の意志でもあったが、フン・セン氏はそれさえ警戒していたようにもとれる。こうして獲得した84%という投票率だった。

 

「ポル・ポトを知っている身としたら」の声

国際社会のフン・セン氏への批判は多い。40年近く実権を握り、強引に一党独裁をつづけるからだ。しかしカンボジアの人々に訊くと、フン・セン氏への批判はあまり聞こえてこない。とくに高齢者はフン・セン氏を評価する人も少なくない。

 

「ポル・ポト時代を知っている身としたら、あの時代からいまのカンボジアに導いたフン・セン氏の功績は大きい。中国との関係などいろいろ問題はあるけどね」と、シェムリアップに住むTさん(78)は語る。

 

反発は若い世代から起きてきてはいるが、前出のFさんはこういう。

「若い世代は本来の選挙を知らないんです。私だって。なにしろフン・セン氏は40年も首相の座にいるんですから」

 

選挙は波風ひとつたたずに静かに終わった。前回以上にシステム化され、有権者確認や開票もスムーズだったという。歓声は人民党関係者から響くだけだ。

 

フン・セン氏が今回の選挙にここまでこだわったのは、長男のフン・マネット氏(45)が出馬しているからだともいわれる。息子への花道選挙ということだろうか。34週間後にはフン・マネット氏が首相に就任する噂も流れている。【725日 下川裕治氏 デイリー新潮】

*******************

 

【無効票44万票 有権者のせめてもの意思表示】

与党・人民党以外では、王党派・フンシンペック党が5議席程度を獲得しました。

 

****王党派、議席獲得の公算=前回はゼロカンボジア総選挙****

23日に投開票が行われたカンボジアの総選挙(下院定数125)で、王室関係者が党首の王党派・フンシンペック党が5議席程度を獲得する見通しとなった。複数の地元メディアが24日報じた。2018年の前回総選挙では、同党の議席はゼロで、フン・セン首相率いる与党・カンボジア人民党が全議席を獲得していた。

 

フンシンペック党は、シハヌーク元国王の孫が党首を務める。1993年の第1回総選挙では第1党となるなど歴史は古いが、近年は内部分裂もあり弱体化が指摘されていた。

 

今回の選挙では、有力野党・キャンドルライト党が排除されており、政権批判の受け皿となった可能性がある。【724日 時事】 

*******************

 

政権批判の受け皿となった・・・とのことですが、フンシンペック党はシアヌーク国王の第二王子ラナリット全盛の頃は、フン・セン氏の人民党と政権を争った政党ですが、今では凋落し、“連続して議席をすべて独占することは欧米からの批判を招くとの判断から、人民党がフンシンペックが議席を獲得することを容認したとされる。”【ウィキペディア】との“裏事情”もあるようです。フンシンペック党は、現在は人民党の「衛星政党」で、そのコントロール下にあるとも言われています。

 

ということで、実質的に野党勢力がなく、フン・セン氏及び人民党の「独裁体制」が今後も続くことになります。

 

政権に批判的な有権者にとって、(監視員の目を気にしながらも)かろうじて意思表示が許される方法が無効票を投じることでした。

 

****無効票は44万票=反政権「受け皿」カンボジア総選挙****

23日投開票のカンボジアの総選挙(下院定数125)で、「×」などが書かれた無効票が約44万票に上ることが25日、分かった。複数の地元メディアが国家選挙委員会幹部の話として報じた。

 

無効票は、有力野党キャンドルライト党(CP)が選挙から排除される中、独裁的なフン・セン政権に対する批判の「受け皿」として注目されていた。

 

選挙委によると、有権者は約971万人で、投票者は約821万人、投票率は約84%だった。

無効票は全体の約5%となる。

 

今回と同様に、有力野党の救国党が解党処分で参加しなかった2018年選挙の約8%より低下しており、政権側が無効票を促すことに対する罰則を強化するなど対策を強めたことが影響したもようだ。

 

ただ、CPが参加した22年の地方選挙の約2%よりは上昇した。カンボジア政治の専門家は「無効票が批判の受け皿となることが改めて示された」と指摘した。【725日 時事

*******************

 

アメリカ国務省のマシュー・ミラー報道官は23日、「選挙は自由でも公正でもなかったと憂慮している」とする声明を発表し、「民主主義を弱体化させた人物」にビザ制限を課し、一部の対外援助を一時停止する措置をとったと明らかにしています。

 

中国との関係を強めるフン・セン首相にとっては痛くも痒くもない措置でしょう。

 

【すでに世襲政権の名簿も】

フン・セン首相の頭にあるのは長男への権力世襲のこと。後継首相候補の長男フン・マネット氏(45)を中心にした次世代閣僚名簿をすでに作成しているとも報じられています。

 

****カンボジア、世襲政権の名簿作成 長男ら10人超、私物化に批判****

カンボジアのフン・セン首相(70)が、後継首相候補の長男フン・マネット氏(45)を中心にした次世代閣僚名簿を作成していることが24日、分かった。共同通信が与党関係者から名簿を入手した。

 

40人の閣僚のうち10人超が与党幹部や現政権の閣僚の子どもで、一部閣僚も記載されている。政権の私物化との批判は必至だ。

 

与党カンボジア人民党は23日の下院選で圧勝し、125議席のうち120議席前後を獲得する見通し。40年近く首相の座を維持してきたフン・セン氏は首相職世襲へ環境を整えたが、交代時期は未定のまま。同氏は首相退任後も人民党党首を続けるとされ、人事権を握る狙いだ。【724日 共同

***************

 

10人超が与党幹部や現政権の閣僚の子ども・・・・首相だけでなく、支配体制をそっくり世襲していこうということでしょうか。

 

政権の私物化との批判は必至・・・・誰が批判するのか? 議会には野党勢力は実質的になく、社会全体にフン・セン首相の強権支配が及んでいます。 国内では批判が表面化しないところが一番の問題です。