米・印首脳会談  中国への対抗を背景に深化する米印関係 | 碧空

米・印首脳会談  中国への対抗を背景に深化する米印関係

622日 NHK】 621「国際ヨガの日」、ニューヨークの国連本部の広場で行われたヨガのイベントに参加するインド・モディ首相。

 

****国連でヨガ、参加国籍最多 135カ国、ギネス認定****

国連が定めた「国際ヨガの日」の21日、ニューヨークの国連本部でヨガのイベントが開かれた。計135カ国の外交官ら数百人が庭園に集まり、国際ヨガの日を提案したインドのモディ首相も参加した。このイベントは「最も多くの国籍の参加者によるヨガレッスン」としてギネス世界記録に認定された。

 

訪米中のモディ氏は「ヨガの力で平和な世界と友好のための橋を架けよう」とあいさつした。国連総会のコロシ議長らと共に、芝生に敷いた黄色のヨガマットの上で、インストラクターの指示に従ってさまざまなポーズを取った。【622日 共同

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【中国に対する警戒感で思惑が一致する米印】

モディ首相、もちろんこのイベントのためにNYを訪問した訳でなく、バイデン米大統領との会談という重要目的のためです。

 

モディ首相、バイデン大統領、ともに中国を念頭にかなり気合の入った会談になったようです。

 

****米・印首脳会談で異例の演出 “台頭”中国をけん制****
アメリカのバイデン大統領は22日、国賓で訪米中のインドのモディ首相と会談しました。両首脳は異例の演出で台頭する中国をけん制しました。

 

モディ首相は、インドの首相としては14年ぶりに国賓として訪問し、ホワイトハウスでは、インド系アメリカ人などおよそ7000人が出席する歓迎式典が行われました。

 

両首脳は、「力による現状変更や一方的な行動に強く反対する」などとする共同声明を発表し、中国の影響力に対抗する姿勢を強調しました。

 

モディ首相はアメリカ議会での演説で「アメリカは最重要パートナーだ」と述べ、議場からたびたび「モディ」コールが起きました。【623日 FNNプライムオンライン】

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アメリカ・中国派は安全保障や経済、技術などの各分野で対立・競争が激化していますが、アメリカは海洋進出を強める中国に対抗するために、日米豪印の協力枠組みである「クアッド」などを通じ、インドとの協力を重視しています。

 

経済面でが中国と強いつながりがあるインド(中国はアメリカに次ぐ2番目の貿易相手国)にとっても、国境を巡って長く対立が続く中国は最大の脅威です。、2020年にも両軍兵士が衝突して双方に死傷者が出ましたが、その後も衝突・小競り合いが絶えません。

 

今年に入ってからは、それぞれ相手国の記者に対する滞在ビザが更新されないという緊張感が高まる事態にもなっています。

 

ウクライナ問題・ロシア制裁に関するインドの独自の立場、あるいはヒンズー至上主義を進めるモディ首相のもとでのインド国内の人権問題への懸念・・・といった問題もありますが、インド・アメリカ双方、中国に対する警戒感で思惑が一致しているとことが、今回会談の背景にあります。

 

会談の成果としては、主にテクノロジーと防衛の協力が報じられています。

 

****米印が首脳会談、テクノロジーと防衛の協力で合意 中国の影響力念頭****

米国のバイデン大統領は22日、国賓として訪米中のインドのモディ首相とホワイトハウスで会談した。会談ではテクノロジーと防衛での協力で合意。両国関係の強化を通じ、地域で脅威を増す中国に対抗するというバイデン氏の意向が浮き彫りになった。

 

モディ氏をホワイトハウスに迎えるに当たり、バイデン氏は米印両国が同じ民主主義国家として価値観を共有しているとの認識を表明。

 

法の下の平等や表現の自由、宗教的多元主義、国民の多様性に言及し、「こうした核心的な原則は、両国が歴史を通じて困難に直面する中でも持ちこたえ、進化してきた。それが我々を強く、深い存在とし、未来に向けた力ともなってきた」と述べた。

 

米国は、インドとの国防貿易を過去15年間で大幅に拡大してきた。米当局者らはインドが兵器の調達先を多様化していると指摘。ロシアなど1国への依存から脱却しようとしているとの見方を示す。

 

22日の発表の中で、インドはドローン(無人機)「MQ9Bシー・ガーデイアン」の購入を約束した。これは中国が軍事的脅威を増す中、米印両国の国防関係が深まることを意味する。

 

バイデン、モディ両氏は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)とインド国有のヒンドゥスタン・エアロノーティクスが、インドでのジェットエンジンの共同製造で合意したことにも言及した。

 

この他、米国が主導する宇宙探査の国際協力合意「アルテミス合意」にインドが参加するとも発表。また米半導体大手マイクロン・テクノロジーが27億5000万ドル(約3900億円)を投じて半導体の組み立て工場と試験施設をインドに新設するとの約束も明らかにされた。

 

両氏は9月にインドで開催予定の主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の議題についても話し合った。【623日 CNN

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“アメリカとしてはインドの首相を迎え、インドとの関係強化を見せつけることで、中国やロシアを牽制することができる。その見返りに、インド側は手堅く技術や資金を得るという関係”・・・ということで、双方にメリットが大きかったようです。

 

****アメリカとインドの首脳会談 それぞれの「思惑」*****

近畿大学教授で元NHKニューデリー支局長の広瀬公巳氏が623日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ホワイトハウスで行われたアメリカとインドの首脳会談について解説した。

 

アメリカとインドの首脳会談における両国の狙い

アメリカのバイデン大統領は622日、ホワイトハウスでインドのモディ首相と会談を行った。会談後、インドのモディ首相は両国が「未来に向けた強力な協力関係を築いている」と述べた。

アメリカは中露を牽制することができ、インドはロシアから滞り始めている武器をアメリカから調達できる

 

飯田)アメリカとインドの首脳会談ですが、どうご覧になりますか?

広瀬)アメリカとしてはインドの首相を迎え、インドとの関係強化を見せつけることで、中国やロシアを牽制することができます。その見返りに、インド側は手堅く技術や資金を得るという関係だと思います。(中略)

 

例えば今回、焦点になっている防衛協力では、インドはご存知のように国連のロシア非難決議に加わりませんでしたが、これはインドの武器の調達元が主にロシアであることが大きな理由だったわけです。(中略)

 

アメリカから防衛協力を得られるのであれば、ロシアから滞り始めている武器の調達を補うことができるのです。

 

クリーンエネルギーの分野でもアメリカの協力で中国に追いつくことができるインド 〜テスラの投資で「メイク・イン・インディア」も3つ達成できる

広瀬)クリーンエネルギーの分野でも、インドとアメリカは途上国と先進国という形で対立することがありました。同じ途上国として、インドと中国が共同戦線を張ることさえあった。(中略)

 

クリーンエネルギーの分野では、インドは中国に水を開けられていますけれど、脱炭素化に向けてアメリカの協力が得られれば、中国に追いついていくことができます。(中略)

 

今回、モディ首相はテスラのイーロン・マスクさんとも会談しました。テスラは電気自動車など、インドでの事業を拡大する方針ですが、インドにとっては大型の投資を受け入れ、クリーンエネルギーも推進できる。しかも国内の製造業の力を上げる、いわゆる「メイク・イン・インディア」も3つ一気に達成できるので、インド側としては願ったりかなったりという話です。

 

ディール外交によって武器やエネルギーなど、欲しいものを着実に手に入れるインド

飯田)インドの非同盟外交も変わりつつあると指摘されていますが、広瀬さんはどうご覧になりますか?

 

広瀬)インドは中国との間に国境紛争を抱えていますので、アメリカとの関係は重要になります。もう少し深く見ると、インドは外交とビジネスをミックスさせる、いわゆるディール外交によって、武器やエネルギーなど欲しいものを着実に、強(したた)かに手に入れています。(中略)

 

2020年にトランプ大統領がインドを訪問した際、アメリカはインド海軍に潜水艦をレーダー探知する哨戒ヘリを提供しています。これはインド洋で活動を活発化させる中国に対し、睨みを利かせることにもなりますので、強かな外交をしている感じがありますね。(後略)【625日 ニッポン放送NEWS ONLINE

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【深化する米印の協力関係】

アメリカは、2007年のジョージ・W・ブッシュ大統領、インドのシン首相の時代から、核拡散防止条約(NPT)枠外の核保有国インドにアメリカ製核燃料の再処理を認めることで、日本とEUにしか与えていない厚遇をインドに示すなど、インドの重要性を意識し、インド取り込みに務めてきた流れがあります。

 

ここにきて、中国の脅威という共通認識のもとで、両国の協力体制は一段と深化したように見えます。

 

****インド・アメリカ急接近 歴史的転換の首脳会談****

62225日までインドのモディ首相が訪米し、米国のバイデン大統領との間でさまざまなことに合意した。特に注目されるのは安全保障面だ。今回の合意には、米印関係が次の段階に入ったことを示す、多くの合意が含まれている。大きく3つに分けて解説したい。

 

なぜエンジンの共同生産が重要なのか

まず、注目されるのは、米国製の戦闘機用のエンジンの技術をインドに提供して、米印共同で生産することにしたことだ。これは、インドとロシアだけでなく、グローバルサウスにおける印中の競争に影響を与える可能性がある。

 

インドが保有する武器の約半分はロシア製だ。特に、ロシア製は、戦闘機や戦車といった戦闘の正面に立つ武器(正面装備とよばれる)に多い。

 

武器は高度で精密な機械なのに、乱暴な使われ方をする。だからすぐ壊れる(中略)そのため、修理部品が必要になる。正面装備は弾薬も必要だ。

 

だから、インドが保有する武器の中でロシア製が多いということは、インドがロシアからの修理部品や弾薬の補給に依存していることを示している。

 

しかもインドの場合、戦闘機や戦車の約半分が修理中である。もし、インドが今すぐに中国やパキスタンと大規模な戦争になるなら、急ぎ、ロシアから修理部品と弾薬を送ってもらわないと戦えない。その点で、インドの安全保障をロシアは握っているのである。

 

しかし、インドは、そのようなロシア依存の弊害を感じてきた。2度の事件があったからだ。

1回目は、ソ連が崩壊した時。インドは修理部品と弾薬の供給を断たれてしまい、旧ソ連の軍需工場跡地に軍人たちを派遣して、探し回らせる羽目になった。そして、2回目は、ロシアがウクライナに侵攻を開始した時である。つまり今だ。

 

ロシアは、自ら多くの武器・弾薬を消費してしまった。中国から武器製造の部品を輸入したり、北朝鮮やイランにまで弾薬の供給を依頼している。インドに輸出した分も、払い戻させているようだ。だから、ロシアからインドへ輸出する分はない。このままでは、インドが保有するロシア製の武器は、いずれ動かなくなってしまうのである。

 

そこで、インドは他国に依存せず、武器を国産化することにした。ロシア製の武器の部品の中で、どうしても必要な部品を100以上特定し、自ら製造する取り組みを進めている。

 

だが、それだけでは不足だ。国産の戦闘機や戦車をもっと採用することにした。 ところが、国産といっても、実際には、すべての部品を国産化できているわけではなく、むしろ多くの重要な部品を輸入して合体させる必要がある。

 

その例が、国産戦闘機テジャズのエンジンである。 今回、米国が合意したのは、このテジャズのエンジンに関する技術を、米国がインドに提供し、共同生産するというものだ。

 

国産技術を高めたいインドと、インドに対するロシアの影響力を削ぎたい米国の利害が、一致したのである。  

 

ところが、このエンジンの共同生産の影響は、それだけではない。実は、インドの武器生産技術は徐々に高まっており、輸出につながっているのだ。  

 

例えば、先ほどの国産戦闘機テジャズは、スリランカやマレーシアなどが採用を検討している。軽戦闘機であるから、飛行場などの設備があまり豪華でなくても運用できる。値段は安いのである。  

 

そうすると、このテジャズが輸出される先は、比較的お金のない国々である。豪華な米国製の武器を買う国々ではなく、もっと安い武器を探している国だ。それは、主に、中国製の武器を購入している国々である。

 

つまり、インドと中国の競争になる。  インドが勝てば、中国が武器を通じて示してきた影響力を削ぐことになるのだ。だから、重要なのである。

 

米海軍艦艇をインドの港で修理

さらに今回の米印の合意には興味深い記述がある。それは、米海軍艦艇および航空機を、インドの港で整備・修理できるようにするというものだ。

 

整備・修理の拠点を持つということは、米海軍がより容易にインド洋に展開することを意味する。  

 

インドは、米ソ冷戦時代、米海軍に対して警戒感を隠さなかった。(中略)そして、2000年代後半からは、中国海軍のインド洋進出が活発になり、状況は大きく変わった。

 

中国は、インドの周辺国に武器を輸出し、その訓練などを名目にインストラクターを派遣するなどして、存在感を示し始めた。  そして、港湾施設などインフラ建設を通じて、インドの周辺国で影響力を拡大した。さらに、ソマリア海賊対処に参加するようになると、海賊対処を名目に潜水艦まで派遣するようになった。今では常時68隻程度の中国艦艇がインド洋に展開している状態になっている。  

 

こうして、インドの米海軍に対する警戒感はなくなり、米印両国は、中国に対抗するために連携するようになっていったのである。今回の合意で、インドの港で整備・修理する米海軍艦艇・航空機は増えていくだろう。  

 

修理・整備ができれば、より多くの艦艇・航空機がインド洋に配備されるはずである。米海軍はインド洋や東南アジアを担当する第1艦隊創設を検討しているから、その基盤になっていくことが予想されるのである。

 

印中国境にも米国の関与

それだけではないのである。実は今回の米印合意には、印中国境における軍事協力について交渉を開始することも、書かれているのである。

 

これは、安全保障補給協定(Security of Supply arrangement)と、国防調達円滑化協定(Reciprocal Defense Procurement agreement)と呼ばれるもので、要するに、戦争などの緊急事態において、米国の武器をインドに提供するための協定である。  

 

これが印中国境を念頭に置いた協定といえるのは、先例があるからである。印中国境では、2020年に印中両軍が衝突して、インド側だけで死者20人、負傷者76人、合計96人もの死傷者がでて以来、中国軍がハイテク兵器を次々配備して、緊張状態が続いている。  

 

中国は、極超音速ミサイル、ステルス戦闘機、最新型の地対空ミサイル(S-400)、巡航ミサイル搭載爆撃機などを、他の地域から印中国境に再配置している。(中略)  

 

この時、インドは緊急予算を承認し、各国から必要な装備品を買いそろえたのである。そして、それに応じたのが米国だった。  

 

米国は、この地域が冬場マイナス30度になるため、極寒用の戦闘服などを何万着もインドに供給した。またインドが購入契約していた装備品、ウクライナに供与されたことでも知られるM777超軽量砲と、命中率の高い誘導砲弾、高高度でも飛べる戦闘ヘリコプターや輸送ヘリコプターなどを、急ぎ納入したのである。  

 

今回、米印間が協議している協定は、こういった事態において、米国がインドに対して、武器の提供をし易くする協定だ。  

 

2020年から緊張状態が続く中、昨年夏、米印は印中国境から200キロメートルのところで、昨年冬には100キロメートルのところで、共同演習を実施した。

 

今年4月には、第二次世界大戦のとき、中国全土を爆撃する拠点になった軍基地に、米軍のB-1爆撃機を派遣し、米印共同演習を実施した(その演習には日本もオブザーバーを派遣し、日米印共同演習となった)。  

 

米国は、印中国境における関与を強めている。これは、これまでにない、動きなのである。  

 

印中国境におけるインド軍の防衛力が向上すれば、中国は、他の地域から、部隊や武器を、印中国境に移動させるかもしれない。台湾や日本に対して使われるはずだった武器が、印中国境に移動していくことになる。  

 

だから、印中国境の情勢は、東シナ海の情勢、日本の安全保障とつながる部分でもある。そういった動きが、米印間で起きている以上、それは、日本にとっても注目の情勢といえよう。【627日 WEDGE

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ただ、印中国境の問題はかなり厄介です。

中国はアメリカとの世界的競争に関心を移し、その結果大規模核軍拡に踏み切った。インドに対し通常戦力で大幅に劣るパキスタンは、中国の支援を得て、最小限抑止から全段階的抑止に舵を切ろうとしている。

 

インドは、中国とパキスタンの双方の核威嚇に対抗するために一定の核軍拡が必要となる。

しかし、そうなると当然パキスタンも核軍拡に走るので、中国の核軍拡が3カ国全てに核軍拡のスパイラルを起こす・・・というシナリオが想像されます。(「中国核軍拡で危惧される中印パ3国の核軍拡スパイラル」【628日 WEDGE

 

懸念されているインド国内の人権問題については、モディ首相は会見で記者から「インド政府が宗教少数派を差別しているとの報告がある」と指摘されると、「インドは民主主義(の国)だ」と語気を強め、差別などを否定するといった一幕も。インド国内で差別はないと言えるか・・・という話になると、長くなるのでまた別機会に。