米国務長官訪中で「正しい道筋にある」 しかし、中国に厳しい米世論・議会 「独裁者」発言の影響も | 碧空

米国務長官訪中で「正しい道筋にある」 しかし、中国に厳しい米世論・議会 「独裁者」発言の影響も

(【620日 東京】 物議を醸した習近平(中央)・ブリンケン(左)会談の席配置 「格下扱い」と言われてもいますが、実際「格下」です。ただ、これまでは“横に並べた椅子に一対一で座る形”だったとか)

 

【米国長官の訪中 米中双方の思惑もあって、とりあえずは「正しい道筋にある」との評価】

アメリカ国務長官としては約5年ぶりに訪中したブリンケン米国務長官は18日に中国の秦剛外相と、19日には中国外交トップの王毅・共産党政治局員と会談、そして19日には行われるかどうか注目されていた習近平国家主席との会談も行われました。

 

特に具体的成果があったという訳でもありませんが、米中双方とも今回訪中を一応前向きに評価しています。

 

****米中関係は「正しい道筋にある」 バイデン大統領、長官訪問を評価****

バイデン米大統領は19日、ブリンケン国務長官の中国訪問に対する評価を問われ、米中関係は「正しい道筋にある」と述べた。訪問先の西部カリフォルニア州で記者団の質問に答えた。長官訪中によって一定の関係改善が図られたとの認識を示した。

 

米側は、中国側との対話継続を通じ衝突のリスク軽減を図りたい考えだが、緊張が高まる台湾情勢など偶発的な軍事衝突の回避に向けた軍同士のハイレベル対話再開につながるかどうかは見通せない。

 

バイデン氏は国務長官として約5年ぶりとなったブリンケン氏の訪中を「大きな仕事をした」とねぎらった。ブリンケン氏は習近平国家主席らと会談した。【620日 共同

****************

 

****米中会談 習主席が訪中を評価 ブリンケン国務長官は関係改善に期待も「道険しい」****

バイデン政権の閣僚として、初めて中国を訪れていたアメリカのブリンケン国務長官。注目されていた習近平国家主席との会談が19日午後、実現しました。

習主席:「双方はいくつかの具体的な問題において、進展を得て共通認識を達成した。これは、とても良いことだ」

中国メディアによりますと、習主席はブリンケン国務長官の訪問を評価し、「中国はアメリカの利益を尊重し、挑戦したり取って代わったりしようとしない」と強調しました。

習主席:「国務長官の今回の訪中が、中米関係の安定に積極的な役割を果たすよう願っている」

ブリンケン国務長官は、会談後の会見で、米中関係の改善に期待を寄せる一方
ブリンケン国務長官:「道は険しい。1回の訪問や対話で、できることではない。しかし、双方が必要と考えることを実行することは重要だ」【620日 テレ朝news

********************

 

米中対立が進むなかで、“中国側との対話継続を通じ衝突のリスク軽減を図りたい”アメリカ、コロナ禍からの経済回復がイマイチの状況で、本音として今後の経済状況の足かせとなるアメリカとの経済的関係悪化は避けたい中国、双方の“これ以上の関係悪化は望まない”思惑が合致してのブリンケン米国務長官訪中でしたが、大きなトラブルもなく終わって、上記のような“まずまずの結果”という評価にもなっています。

 

当然ながら、ブリンケン国務長官の「道は険しい。1回の訪問や対話で、できることではない」という発言が実際のところですが、この秋の習近平国家主席の訪米、バイデン大統領との首脳会談も行われることになって、「正しい道筋にある」(バイデン大統領)ということにも。

 

****習主席×ブリンケン長官 米外交トップの「面会希望」は渡りに船?……習主席のホンネとは 米側はギリギリで一歩進展****

(中略)

有働由美子キャスター

「中国・北京で19日午後、習近平国家主席が顔を微妙に緩め、アメリカの外交トップのブリンケン国務長官と握手をしました。今、米中関係が緊張している中で約35分間面会が行われました」(中略)

 

「ブリンケン長官に習主席が会うのか会わないのか注目されていましたが、結果面会しました。これは進展したと見てよいのでしょうか?」

 

小野高弘・日本テレビ解説委員

「はい。ブリンケン長官は、北京を発つ前ギリギリで習主席に会えました。『会えたのは大きい、よかった』というところでしょう。アメリカはなぜ今、習主席に会いたかったのか。習主席はなぜ会うと決めたのか。日本はどう見ているのか。3つのテーマで考えます」

 

アメリカが「今が大事」と考える理由

小野委員 

「まずアメリカは『今が大事』と考えていました。中国の偵察気球をアメリカが撃ち落としたり、台湾問題で緊張が高まったりしています。アメリカ軍と中国軍との間で意思疎通もできていないため、予期せぬ衝突が起きかねません」 「だから今こそ、アメリカはコミュニケーションを求めています」

 

「そして大事なのは習主席との首脳会談です。今年秋にG20などの国際会議があります。その場で首脳同士は否が応でも顔を合わせます。そこで首脳会談ができないということになると、緊張感が増してしまいます。秋に向けて準備を始めるなら、今がギリギリです」

 

中国総局の記者に聞く 習氏のホンネ

(中略)

小野委員

「習主席はすましているようですが、中国総局の富田記者の見方では『コロナ後の経済回復が進まず、アメリカなどから投資を呼び込みたい』『アメリカと関係改善をすれば、仲間の日本、ヨーロッパ、韓国も中国に理解を示すのでは』といった本音があります」

 

「一方で『国内向けにはアメリカにすり寄っている姿は見せられない』『ブリンケン長官が来て面会を希望し、首脳会談を提案してくれるのは渡りに船』とも考えていると、富田記者は見ています」(後略)

619日『news zero』より)【620日 日テレNEWS

********************

 

面子を重視する中国側としては、秋の米中首脳会談を実現するためにも、先ずアメリカ側から国務長官が訪中して要請があったので・・・という形をとりたいのでしょう。

 

ただ、台湾問題などでの不測の事態を避けるためにもアメリカは軍同士の対話の再開を望んでいますが、再開は実現していません。「道は険しい」というところでしょうか。

 

****米中 軍同士の対話再開実現せず 習主席との会談で進展の一方で****

中国の習近平国家主席は、アメリカのブリンケン国務長官と会談し、いくつかの進展は見られたものの、軍同士の対話の再開は実現せず、課題も残した。(中略)

 

中国は、アメリカ側が関係改善に向けて歩み寄ってきた構図を演出しながら、安定を図りたいのが本音だが、すべて順風満帆とはいかないもよう。

 

ブリンケン長官と王毅、秦剛両氏らとの話し合いは10時間を超え、そのあと、習主席との会談が実現した。

外交当局者の2人が、台湾問題などで厳しい立場をアメリカに伝える一方、習主席は「健全で安定した中米関係を望んでいる」と述べて、冷え込んだ両国の関係を改善する用意があることを強調した。

 

高官レベルの交流など、進展が見られた一方で、軍同士の対話の再開では合意できず、ある外交筋は「安全保障上の信頼はできていない」と、関係がいまだ不安定であることを示唆した。

 

アメリカとの融和を望みつつ、対外的には強気の姿勢を崩せないのが中国の現状で、今回は、互いが歩み寄りの1歩を踏み出したが、不安や不信は残されたままだといえる。【620日 FNNプライムオンライン

*********************

 

【アメリカ国内 世論・議会は対中国で厳しい姿勢 容易ではない今後の関係改善】

中国側の強気の姿勢を垣間見せたのが習近平国家主席との会談での席の配置。 “まるで皇帝にひれ伏す外国使節”(近藤大介氏)【622日 JBpress】といった批判も。

 

****米長官の会談、習氏の講話聞くような異例配置****

中国の習近平国家主席が19日、北京の人民大会堂でブリンケン米国務長官と会談した際の席の配置が「異例」だと注目されている。

 

習氏はコの字形に並べられた机の議長席のような位置に1人で着席。ブリンケン氏ら米国側と、王毅(おう・き)共産党政治局員ら中国側がそれぞれ向かい合って習氏の講話を聞くような形だった。

 

習氏は、過去に米国務長官と会談した際には横に並べた椅子に一対一で座る形をとっていた。米政府系のラジオ自由アジア(RFA)は今回の配置について、中国では「部下が上司に報告する場面」に相当すると伝えた。【620日 産経

****************

 

“対外的には強気の姿勢を崩せないのが中国の現状”・・・・アメリカ側も国内的に「弱腰」ととられるような譲歩はできないという点では同じです。

 

アメリカ国内世論の中国に対する視線は厳しさを増しています。

 

****米最新世論調査、「中国に好感」わずか14%に―台湾メディア****

2023620日、台湾メディアNewtalk新聞は、米シンクタンクが同国内で実施した世論調査で、中国に好感を持っている人の割合がわずか14%にとどまったことが分かったと報じた。

 

記事は、米シンクタンク、ピュー・リサーチ・センターのアメリカン・トレンド・パネル(ATP)による最新の世論調査で、中国を肯定的に捉えている米国人の割合が14%に低下し、過去最低となったと伝えた。

 

そして、中国を嫌う理由について、「ロシアとのパートナーシップ」が90%と最も高くなり、以下「台湾海峡を緊迫化させている」(84%)、「中国の軍事力」(84%)、「中国の人権政策」(83%)、「中国の技術力」(83%)、「中国経済との競争」(81%)、「世界の平和と安定を損なうから」(80%)、「他者の利益を無視するから」(77%)、「他国の問題に干渉するから」(77%)などが続いたとしている。

 

また、大部分の米国人は中国とアメリカが協力して国際紛争や気候変動、感染症のまん延を解決することは不可能と考えているものの、貿易や学生交流では協力できると認識しているとも伝えた。(後略)【624日 レコードチャイナ

********************

 

こうした世論もあって、現実的対応を探るホワイトハウスに対し、アメリカ議会は中国に対し強硬な姿勢をとっています。

 

****弱腰過ぎたブリンケン訪中、米下院外交委が国務長官召喚へ****

バイデンの対中政策が俎上に

バイデン政権は、アントニー・ブリンケン国務長官の訪中で米中閣僚の相互往来を含む高官対話を再開する方向に舵を切った。

 

その延長線上には習近平国家主席の11月訪米がある。「世界のステーツマン」であることを誇示したい習近平氏にとっても渡りに船だろう。習近平氏は、11月にサンフランシスコで開かれるアジア太平洋経済協力首脳会議(APEC)に出席、その際にジョー・バイデン氏との首脳会談を持ちたいとの意向のようだ。

 

一方、ジョー・バイデン大統領も米国内で米中首脳会談を実現し、再選に弾みをつける戦略を秘かに目論んでいるという。

 

現実的な外交では、中国とロシアの二正面展開を避けたい米国、政治的、軍事的、経済的封じ込めを打開して経済回復を急ぎたい中国――。

 

バイデン氏と習近平氏の虚々実々の思惑が交錯する中で、露払い役のブリンケン氏訪中の役割は、米メディアの報道による限り一応成功したかに見える。 もっとも、当初からブレークスルーは期待されていなかった。期待度が低いだけ、失点も目立たなかった。

 

バイデン政権としてはこの後、ジャネット・イエレン財務長官、ジーナ・レモンド商務長官、ジョン・ケリー気候問題特使を北京に送る一方、秦剛外相をワシントンに招いて米中首脳会談の道筋を作る算段だ。

 

だからと言って、米大統領選を来年に控えた米国でバイデン氏の描く対中政策が筋書通りに行く保証はどこにもない。 米国民から見ると、ブリンケン訪中はそれほどの関心事ではない。

 

米国民の中国嫌いは異常だ。米国民の50%が「中国は最大の敵」と答えている。10人中8人が「中国が嫌いだ」と答えている。 党派別に見ると、「中国が好きだ」と答えたのは民主党支持者では18%、共和党では6%、無党派層では17%となっている。

 

その中国とコミュニケーションの場を作り、双方の相違をお互いに分かり合おうという「東部エリート的、上から目線」の説得は今の米国の一般国民には通用しない。

 

米一般国民は戸惑うだけだ。元々、一般国民は外交などには関心がない。だが選挙ともなれば、大統領以下、上下両院議員を決めるのは彼らなのだ。

 

スパイ気球の決着はついていない

(中略)

 

中国共産党にやりたい放題させている!

となれば、国務長官が5年ぶりに訪中し、習近平氏はじめカウンターパート(2人いる)の秦剛外相、王毅国務委員(外交担当)と会った際には、台湾問題では米国側の基本的姿勢を堂々と言うべきだった。

 

(ブリンケン氏は習近平氏との会談後、数十分にわたった記者会見で十二分に米国の立ち場を説明したと強調したが、共和党反中派の面々は全く納得していない)

 

(中略)こうした一連の動きの中でマコール氏(下院外交委員長(共和、テキサス州選出))は、616日、ブリンケン氏に対し召喚状を送付し、下院外交委員会でバイデン政権の対中政策の全容について説明するよう求めた。

 

同氏は、召喚状を出すに当たってこう指摘している。

「バイデン政権は中国共産党の国際舞台での振る舞いを勇気づけている。バイデン政権は、中国共産党が米国の主権を脅かす行動を合法化させる以外の何物でもない」

 

「バイデン政権は中国がスパイ気球を飛ばしてわが国の領空を侵犯するという挑発行為にただ手をこまぬいて無能な対応をしている」「バイデン政権は台湾との軍事的連帯を誇示するのをためらいがちだ」

 

下院に新設された米中戦略的競争特別委員会のマイク・ギャラガー氏(ウィスコンシン州選出)は、「バイデン政権は中国に対する軍事的抑止力を弱体化させて、一体何をしようというのか」と、国防費歳出をめぐる議会審議で徹底的に追及するとしている。

 

ブリンケン訪中に一定の評価を与えている国際世論や外交専門家の見解とは裏腹に、ロンドン経由でワシントンに戻るブリンケン氏を迎えるワシントンの空気は冷ややかだ。【621日 高濱 賛氏 JBpress】

********************

 

【「独裁者」発言 米中関係の緊張緩和に水を差すことにも】

バイデン大統領の「独裁者」発言が飛び出したのも、こうした強硬な世論・議会が念頭にあって、中国への厳しい姿勢をみせる必要がある・・・という思いがあってのことでしょうか。あるいは、単に高齢で外交的配慮を忘れたか。

 

****バイデン米大統領、中国の習近平国家主席を「独裁者」と表現****

バイデン米大統領は20日、米カリフォルニア州での資金調達イベントで中国の習近平国家主席を独裁者と表現した。

 

前日には、ブリンケン米国務長官と習主席が両国間の緊張緩和に向け北京で会談を行っていた。

 

バイデン氏は中国の偵察気球が2月に米本土上空に飛来したことについて「貨車2台分のスパイ機器を載せた気球を私が撃ち落とした際、習近平氏がひどく気分を害したのは、彼が気球の位置を把握していなかったからだ」と発言。

 

その上で「これは独裁者にとって非常にきまりが悪い。何が起きたか知らなかったのだから。(気球は)あの場所を飛行しているはずではなかった。コースを外れたのだ」と述べた。

 

米中間ではこの問題や米国と台湾の当局者往来などを背景に緊張が高まった。

 

バイデン氏はまた、習氏が日米豪印4カ国による安全保障の枠組み「クアッド」に懸念を抱いていたとし、クアッドで中国を包囲する意図はないと同氏に伝えたことを明かした。【621日 ロイター

*********************

 

「独裁者」云々はアドリブだったようです。

当然に中国側は「強烈な不満」を表明して反発していますが、自身の高齢が問題視されていること、世論・議会が中国に厳しいことなどを考えると、大統領として発言撤回もできません。

 

“米中関係に「影響はない」と述べ、発言を撤回しなかった。習氏との会談が近く実現すると「期待している」と話した。”【623日 共同】とのことですが、「正しい道筋にある」米中関係の緊張緩和に水を差すことにもなっています。

 

前述した軍同士の対話再開の障害となっている制裁措置解除に向けた話も出ていましたが、議会の動向、「独裁者」発言の影響を考えると、しばらくは難しいかも。

 

****アメリカ、中国国防相への制裁解除を示唆 軍同士の対話再開へ協議****

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は20日の記者会見で、中国政府が要求している李尚福(り・しょうふく)国務委員兼国防相に対する制裁の解除について、両国間で協議していることを示唆した。中国側は、制裁を理由に米政府が呼びかけた6月上旬の米中国防相会談の実施を拒否している。(後略)【621日 毎日

*******************

 

“バイデン大統領は16日、コネティカット州で開催された銃規制法案をめぐる会合で演説し、スピーチ原稿にはない「女王陛下万歳!」という米大統領としては極めて異例な表現で締めくくり、波紋を呼んでいる。”【620日 時事

 

エリザベス女王はすでに亡くなっていますし、どうして米大統領が・・・不用意な発言、問題発言は誰しもあるところですが、バイデン大統領の場合、どうしても「高齢」と結び付けられて「大丈夫?」という話にもなりがちです。

 

大統領選挙に向けて、他に有力な候補者がいないところが民主党の悩みの種です。