パレスチナ  中国の和平仲介 しかし、悪化する「暴力の応酬」 イスラエルは入植地拡大政策を止めず | 碧空

パレスチナ  中国の和平仲介 しかし、悪化する「暴力の応酬」 イスラエルは入植地拡大政策を止めず

(中国・北京で、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長(左)と握手する習近平国家主席(2023614日撮影)【615日 AFP

アッバス議長も老けた・・・・バイデン大統領(80歳)の高齢が懸念されていますが、アッバス議長は87歳。 彼に代わって自治政府を担い、更にはハマスとの統合を進めていく後継リーダーがいないことが、パレスチナ問題が混迷する一因でもあります)

 

【仲介の実効性はともかく、その影響力を誇示したい中国 資金援助拡充が狙いのパレスチナ】

イランとサウジアラビアの関係正常化を仲介した中国・習近平政権は、その国際的影響力を世界に示すことにこのところ力を注いでいるようです。

 

実効性は疑問視されるもののウクライナ和平に関する提案も行っていますが、これもまた実効性にはかなり疑問はあるものの、パレスチナ和平に関する仲介の姿勢も見せています。

 

「大国」中国が国際和平仲介の姿勢を見せること自体は悪いことではないでしょう。実効性が今はなくとも、今後問題を取り巻く状況が変化したとき、何らかの糸口になる可能性もありますので。

 

****習近平氏、パレスチナ議長と会談 イスラエルとの仲裁に向け3提案****

中国の習近平国家主席は14日、パレスチナ自治政府のアッバス議長と北京で会談した。両氏は戦略的パートナーシップ関係の構築を宣言。習氏は「和平交渉の推進のため積極的な役割を果たしたい」と述べて、対立が続くイスラエルとパレスチナの仲裁に前向きな姿勢を示し、国際平和会議の開催の推進など3項目を提案した。

 

中国は、米国が中東での影響力を低下させるのに対し、サウジアラビアとイランの国交正常化を仲介して世界を驚かせるなど、存在感を急速に高めている。パレスチナ問題の解決に向けて主導的な役割を果たす姿勢を示すことで、中東を含む国際社会での影響力を高めたい思惑があるとみられる。

 

国営中央テレビによると、習氏は会談で「パレスチナの人々が民族の合法的権利を回復するのを断固支持する」と強調。「パレスチナ問題の全面的で公正かつ永続的な早期解決を推進したい」とも述べ、パレスチナ側と協力を強化する意向を示した。アッバス氏も「パレスチナは中国が正義のために立ち続けてくれることを確信している」と応えた。

 

パレスチナ問題について習氏は、「過激で挑発的な言動は控えて、パレスチナとイスラエルの平和共存のための実務的な努力を行うべきだ」と主張。

 

1967年の境界に沿った東エルサレムを首都とするパレスチナ独立国家の建設国際社会によるパレスチナへの支援の拡充平和共存を支援するための権威ある国際平和会議の開催の推進――の3項目を提案した。

 

一方で共同声明には「各国の国情に合った発展と政治体制の自主的選択を尊重する」「人権問題などを口実に他国の内政に干渉することに断固反対する」などと盛り込み、民主主義や人権を重視するバイデン米政権を強くけん制した。

 

中国は今年3月、断交状態にあったサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介した。また、4月中旬には秦剛国務委員兼外相がイスラエル、パレスチナ双方の外相とそれぞれ個別に電話協議し、和平協議の再開を呼びかけるなど積極的な外交を展開している。

 

ただ、中国が中東諸国への関与を強めることで、中東地域全体のパワーバランスが崩れる可能性もあり、中国としても難しいかじ取りが続きそうだ。【615日 毎日

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なお、習近平国家主席は上記のように14日にアッバス議長と会談していますが、16日はビル・ゲイツ氏と、そして19日には周知のように“謁見する皇帝様と、かしずく外国使節の構図”(近藤大介氏 622日 JBpress)とも揶揄されるブリンケン米国務長官との会談・・・と、多忙です。 このあたりにも中国の国際的存在感の一端が垣間見えます。

 

中国がパレスチナ和平仲介に意欲を見せるのは、単に中国の存在感が増しているだけでなく、中東情勢に関して常に指摘されるように、アメリカのこの地域における存在感が薄れていることもあります。

 

中国はパレスチナ自治政府とは政治的にも、経済的にも一定の関係がありますが、アメリカ民主党政権とは反りが合わないとは言え、アメリカを後ろ盾とするイスラエルの方は現段階では中国仲介には無反応です。

 

****習近平氏がアッバス議長と会談、中東で米けん制の狙いイスラエルは黙殺****

(中略)3月にサウジアラビアとイランの外交正常化を仲介した習政権は、パレスチナ和平にも積極的に関与する姿勢を示す。中東への影響力を拡大させ、対立する米国をけん制する狙いがある。(中略)

 

米国を最大の後ろ盾とするイスラエルと対立するパレスチナに対し、中国は長年、経済支援を中心に関係を築いてきたが、パレスチナの和平交渉は静観してきた。しかし、習政権はサウジ・イラン間の仲介で中東外交に自信を深め、政治的な関与を前面に打ち出すようになった。

 

習氏は昨年12月、サウジアラビアで行われたアラブ約30か国・機関との首脳会議に初めて出席した。内政不干渉を盛り込んだ宣言を打ち出し、中東諸国との関係強化をうたった。イスラエルに対しても近年、インフラ投資を進めてきた。背景には、中東に対する米国の関与低下がある。

 

パレスチナの和平交渉は主に米国が仲介してきたが、トランプ政権が2020年、エルサレムを「首都」とする和平案を発表し、パレスチナ側は猛反発した。アッバス氏は「米国はもはや公正な仲介者ではない」と不信感をあらわにした。

 

ただ、中国が複雑なパレスチナ問題にどこまで本腰を入れるかは不透明だ。消息筋は「硬直した課題をあたかも中国が動かそうとしていると見せることを重視している。和平交渉の真の仲介者にはなり得ないのではないか」とみる。

 

和平交渉の相手となるイスラエルは、中国の仲介に乗るつもりはない。米国が中国と覇権を争う中で、関わるメリットはないからだ。イスラエル政府はアッバス氏の訪中を黙殺している。【614日 読売

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中国のパレスチナへの長年の経済支援・・・・今回のアッバス議長訪問で、自治区内で中国語教育を始めることで合意したとか。

 

パレスチナ側はともかく、イスラエルが中国仲介に乗ってこないことはアッバス議長も承知するところですが、今後の中国からの経済支援を更に強化してもらうところに狙いがあるとも指摘されています。

 

****パレスチナにも中国マネー、学校の看板に漢字で「中国援助」…付近には「中国道路」****

パレスチナで中国が存在感を高めている。パレスチナ自治政府のマハムード・アッバス議長は15日まで中国を訪問し、協力関係の強化で一致した。自治政府の腐敗を問題視する欧米からの支援が停滞する中、中国の積極的な資金援助が目立っている。(パレスチナ自治区ラマッラ 福島利之)

 

中国語授業

自治区ヨルダン川西岸の拠点都市ラマッラ北東のアイン・メシュバフ地区に2021年5月、最新のコンピューターや太陽光発電施設を備えた3階建ての公立小学校校舎が完成した。

 

中国の資金で建てられたもので、校舎正面には「マドラサ・シーニー」(中国の学校)とアラビア語で大きく書かれている。その脇には、「中国援助」と漢字で書かれた看板が掲げられている。

 

カリキュラムは、他の学校と同じで、近所のパレスチナ人の小学生の男児約650人が通う。今回のアッバス議長の訪中で自治政府と中国は14日、自治区内で中国語を教えることで合意した。この学校でも、中国語の授業が始まることになりそうだ。

 

付近には、「中国道路」と呼ばれる中央分離帯に樹木が植えられた近代的な道路やロータリーが21年に完成した。地元記者は「この地区は自治区で最も整備された一角の一つとなった」と指摘する。

 

政治的役割

中国は、1950年代からゲリラ闘争を支援するなどパレスチナと良好な関係を保ち、パレスチナ解放機構(PLO)が88年に「国家独立」を宣言すると、5日後に承認した。最近は中東での米国の影響力低下に伴い、パレスチナ和平案を示すなどの政治的役割も前面に打ち出している。

 

欧米諸国は、自治政府の腐敗や人権問題を取り上げて支援を停止することが多い。自治政府の財政は困窮しており、条件を付けない中国からの支援が拡大している。

 

パレスチナの政治アナリスト、ムハンマド・ダラーハメ氏は、中国の影響力について「米国の保護下にあるイスラエルが中国を仲介役として容認しないことは自治政府も分かっている」と述べた。その上で、「自治政府が中国に最も期待するのは資金提供だ」と指摘した。【617日 読売

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国際的影響力を誇示したい中国、資金援助拡充してもらいたいパレスチナ自治政府・・・そうした思惑があてのこんかい和平仲介のようです。

 

【絵に描いたような「暴力の応酬」が続くパレスチナ情勢】

足元のパレスチナ情勢は・・・と言えば、和平どころではなく、第2次インティファーダ(反イスラエル闘争)以来とも言われるような悪い状態です。いつも言われるように「暴力・報復の応酬」が続いています。

 

****軍事衝突でパレスチナ人3人死亡 ヨルダン川西岸、イスラエル急襲****

イスラエル軍が占領するヨルダン川西岸で19日、軍が北部ジェニンの武装パレスチナ人を急襲、大規模な衝突が発生し、パレスチナ自治政府保健省によるとパレスチナ人3人が死亡した。

 

軍は西岸では異例となる戦闘ヘリコプターも使用。軍と武装パレスチナ人との対立が激化する中、大規模な衝突が情勢をさらに悪化させる可能性がある。

 

パレスチナ通信は負傷者が31人に上ると報道。地元紙ハーレツによると、西岸での空からの攻撃は2000年代初頭の第2次インティファーダ(反イスラエル闘争)以来。イスラエル側も兵士ら7人が負傷した。【619日 共同

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上記19日のイスラエルによる攻撃の犠牲者は続報では“パレスチナ人6人が死亡、90人以上が負傷し、イスラエル側でも7人が負傷”【621日 ロイター】とのこと。

 

20日には、今度はパレスチナ人がイスラエル人4日を殺害。

 

****イスラエル人4人死亡=パレスチナ人が銃撃****

イスラエルの占領地ヨルダン川西岸北部のユダヤ人入植地近くで20日、パレスチナ人の男2人が銃を発砲し、イスラエル人4人が死亡した。イスラエルのメディアが報じた。西岸では19日にイスラエル治安部隊の急襲作戦でパレスチナ人6人が死亡したばかりで、双方の衝突激化が懸念される。

 

報道によると、男2人は入植地付近に車で乗り付け、レストランで銃を乱射して3人を殺害。隣接するガソリンスタンドでも1人を殺した。

 

現場近くにいたイスラエル人がパレスチナ人の男1人を射殺。もう1人は車で逃走したが、イスラエルの治安部隊に殺害された。【621日 時事】 

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ガザ地区を実効支配するハマスによると、銃撃したのは同グループの武装組織メンバー2人。 パレスチナ自治区ジェニンでイスラエル軍が実施した急襲作戦への対応だと主張しています。

 

更に21日、今度はイスラエル軍がドローン攻撃。

 

****ヨルダン川西岸で暴力拡大、イスラエル無人機が武装組織の3人殺害****

ヨルダン川西岸地区のジェニン近郊で21日、イスラエルの無人機(ドローン)が武装したパレスチナ人3人を殺害した。占領下の同地区ではこのところ暴力が拡大している。

イスラエル軍(IDF)報道官は、ジャラマ付近で銃撃攻撃を行った武装勢力の一団が車内にいることを確認したとして、「これは脅威を取り除くためのものだ」とツイートした。

武装組織「イスラム聖戦」の声明によると、2人は同組織の戦闘員で、3人目はファタハ系武装組織「アルアクサ殉教者旅団」に属していた。

この数時間前、入植地エリ近郊の道路沿いのレストランでハマスの武装集団の発砲によりイスラエル人4人が殺害されたことへの報復として、イスラエル人の集団がヨルダン川西岸にあるパレスチナ人の町で暴徒化。パレスチナ保健当局によると、パレスチナ人1人が銃撃で死亡し、少なくとも1人が重傷を負った。

今年に入り、民間人を含む174人のパレスチナ人がイスラエル軍に殺害された。一方、ヨルダン川西岸、エルサレム周辺、イスラエルのいくつかの都市では、パレスチナ人による攻撃でイスラエル人24人と外国人1人が死亡している。【622日 ロイター

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絵に描いたような「暴力の応酬」です。

 

【アメリカの憂慮・批判にも聞く耳を持たないイスラエルの入植地拡大政策】

懸念されるのは、こうした直接の衝突だけでなく、極右政党との連立政権であるイスラエル・ネタニヤフ政権のユダヤ人入植地拡大政策に歯止めがかからないことです。アメリカ・バイデン政権も憂慮を表明していますが、聞く耳を持たないようです。

 

****イスラエル入植地拡大で自制促す 米、2国家共存へ「障害」と訴え****

ブリンケン米国務長官は5日、有力なユダヤ系団体「米イスラエル広報委員会」(AIPAC)がワシントンで開いた会合で演説し、イスラエルによるユダヤ人入植地拡大やパレスチナ人住宅の破壊に反対すると強調した。イスラエル、パレスチナの2国家共存へ「障害となることは明らかだ」と訴え、自制を促した。

 

昨年12月に発足したイスラエルのネタニヤフ政権は対パレスチナ強硬路線を貫き、入植地拡大の方針を掲げる。ブリンケン氏は、パレスチナとの和平が遠ざかっていると不快感を示した。

 

米国やイスラエルを敵視するイランについて「核兵器保有を阻止するため、あらゆる選択肢を検討する」とした。【68日 共同】

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****イスラエル、ヨルダン川西岸で数千戸の住宅建築承認へ 米が反発****

イスラエル政府は18日、占領下のヨルダン川西岸地区で数千戸の住宅建設を承認する方針を明らかにした。米国はユダヤ人入植地の拡大がパレスチナとの和平交渉の障害になるとして反対している。

来週開かれるイスラエル高等計画委員会の議題に4560戸の住宅建設を承認する計画が盛り込まれた。

西岸地区で指導的役割を果たす国防省高官職を兼任するスモトリッチ財務相は「われわれれは入植地の開発を続け、同地区の支配力を強化する」と表明した。

諸外国の大半はユダヤ人入植地を違法と見なしている。

米国務省のマシュー・ミラー報道官はイスラエルの動きを深く憂慮していると表明し、緊張緩和の対話に復帰するよう呼びかけた。

「(イスラエルと将来のパレスチナ国家が共存する)2国家解決の実現をより困難にし、和平の障害となるこのような一方的な行為に米国は反対する」と述べた。【619日 ロイター

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2国家共存へ「障害となることは明らかだ」・・・・イスラエル保守強硬派・極右勢力は、そもそも2国家共存など考えていないということでしょう。

 

エルサレム旧市街ではパレスチナ人強制立ち退きも。

 

****強制立ち退き反対デモ エルサレムでパレスチナ人****

エルサレムで16日、イスラエル当局や入植団体が進めるパレスチナ人の強制立ち退きに反対するデモがあり、多数のパレスチナ人や左派系ユダヤ人が参加した。エルサレムでは、パレスチナ人を自宅から立ち退かせ、ユダヤ人を住まわせる動きが相次いでおり、国連も「人権侵害だ」と懸念を表明している。

 

当局が立ち退きを命じているのは、イスラエル占領下、エルサレム旧市街に暮らすノラ・スブラバンさん(68)一家。デモでは、参加者がスブラバンさん宅前に集まり「強制移動は戦争犯罪だ」「占領を終わらせろ」と声を上げた。【617日 共同

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こうしたイスラエル側の行動を正当化するのに、この地は旧約聖書で「(ユダヤ人に)神が与えた約束の地」と書かれていると言われても・・・・。(もちろん理屈としては他にもいろいろあるのでしょうが、心情としては・・・そういうことなのでしょう)