イラン  核合意再建協議は膠着状態、決裂の可能性も 国内では食料品補助金廃止で抗議行動が拡大 | 碧空

イラン  核合意再建協議は膠着状態、決裂の可能性も 国内では食料品補助金廃止で抗議行動が拡大

(購入した焼きたてのパンを腕に抱え、工房から出てくるサウアズ・ヘイリさん=2022510日、テヘラン、飯島健太撮影【511日 朝日】 補助金廃止により一部のパンやパスタは急騰し、一気に3倍となった商品もあるとのこと  イラン各地で抗議デモも起きています。)

 

【イラン核合意再建協議 イラン革命防衛隊テロ組織指定解除の扱いで膠着状態】

イラン核合意再建協議は、3月段階でほぼ話がまとまり、最後はアメリカによるイラン革命防衛隊テロ組織指定解除の扱いが残されるだけ・・・という段階に達しましたが、その後の進展がありません。

 

****イラン核合意再建、革命防衛隊のテロ組織指定解除が最後の障害に****

イラン核合意の再建について、複数の外交関係者は、イラン革命防衛隊(IRGC)のテロ組織指定を米政府が解除するかが、交渉の行方を左右するとの見方を示した。

 

米政府内ではこの問題を受けて核合意再建に反対する声が上がっているほか、IRGCのテロ組織指定解除を公に批判していたイスラエルなどの中東同盟国も反発している。

 

1年近くにわたる交渉ではほぼすべての意見の対立が解消されてきたが、政府高官らは、この問題でイランとの妥協点を見いだせなければ話し合いが破綻する可能性もあると述べている。

 

米政府はIRGCが数百人の米国人を殺害したと指摘しているほか、エリート部隊のゴドス軍は中東地域の代理組織やシリアで戦った親イラン勢力向けに兵器などを提供している。IRGCは弾道ミサイル関連のプログラムや、人権侵害疑惑を理由に、長年にわたって米政府から制裁を受けていて、2017年には対テロ制裁リストに加えられた。

 

米政府高官らによれば、ジョー・バイデン大統領や側近の多くは判断を先延ばしにするのではなく、イランと合意を結んでその後に改善に努めていくことの方がいい選択だと考えている。

 

ホワイトハウスはまた、イランの核開発プログラムを制限する合意が、中東地域に安定をもたらすカギとなり、これによって政府も中国やロシアに専念することが可能になるとみている。【322日 WSJ

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イランが求めているイラン革命防衛隊のテロ組織指定に関する協議の難しさもさることながら、その後に発生したロシアのウクライナ侵攻によってアメリカも欧州もイランどころではなくなり、核合意再建に向けた労力・時間をさけないというのが実態ではないでしょうか。

 

イランはこの間も核開発に向けた動きを進めており、残された時間は“数週間”とも。

 

****イラン、数週間で核製造も 米長官、合意再建訴え****

ブリンケン米国務長官は26日、上院外交委員会の公聴会で証言し、イランが核兵器1個を製造するのに必要な高濃縮ウランを獲得するまでの期間「ブレークアウト・タイム」が、1年以上から数週間に縮まったとの見方を示し、懸念を表明した。イラン核合意の立て直しが核問題を解決する「最善の方法」だと改めて訴えた。(後略)【427日 共同

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こうした状況でアメリカ側には“交渉決裂”を視野に入れた発言も。どこまでが本音で、どこからが“牽制”かはわかりませんが。

 

****米、イラン核合意決裂も視野 「修復、非常に不確か」****

米国務省のプライス報道官は4日の記者会見で、イラン核合意の修復に向けた間接協議に関して「修復できるかどうか非常に不確かになっているので、どちらのシナリオにも等しく備えている」と述べ、決裂もあり得るとの見方を示した。

 

米政権は核合意の再建が核開発を防ぐ「最善の手段」との立場を維持しているが、イランは指導部の親衛隊的な性格を持つ軍事部門、革命防衛隊のテロ組織指定解除を要求し、米国と折り合いが付かず膠着状態が続いている。

 

プライス氏は合意を再建する用意があるとしながらも「合意がないシナリオについても同盟国や友好国と準備している」と話した。【55日 共同

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****イラン指導部は核合意復活急がず、原油高で経済にゆとり=関係筋****

イラン指導部はロシアによるウクライナ侵攻以来の原油高で強気となっており、2015年核合意の復活を急いでいない──。当局者3人がこうしたイラン側の姿勢を明らかにした。

米国との間接協議が3月から中断する中、イラン当局者は、最終的な目標は依然として合意の復活と米国による制裁の解除だが、原油高がイランの収入増の機会となっており、経済に数カ月の余裕をもたらしていると述べた。

高官は匿名を条件に、「核プログラムは計画通りに進んでおり、時間がわれわれの味方になっている」と指摘。現在のイラン経済は合意復活にそれほど依存しておらず、協議が再開された場合でもその事実は交渉担当者にとって強みになるとした。イラン外務省と米国務省からはコメントを得られなかった。【56日 ロイター

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まあ、こちらも本音か“牽制”かはよくわかりません。

 

もし、交渉が決裂し、イランが“数週間”で核兵器製造に至る・・・という話になれば、イランの核保有に強く反対するイスラエルが何らかのアクションを起こすことが予想されます。

 

以前行ったようなサイバーテロなのか、核施設への直接的な空爆なのかはわかりませんが。

いずれにしても、世界は新たな厄介ごとを抱えることにもなります。

 

【決して“余裕”はないイラン財政事情 食料品補助金廃止で国内混乱】

上記記事で“原油高がイランの収入増の機会となっており、経済に数カ月の余裕をもたらしている”との発言が報じられていますが、イランの内情はそんなに余裕はないでしょう。

 

イランが長年の制裁で経済的に疲弊していることはこれまでも取り上げてきましたが、ここにきてウクライナ情勢も反映した世界的な食料品価格上昇の影響をイランも強く受けており、国内情勢は不穏な空気にもなっています。

 

****制裁下イラン、補助金廃止で小麦高騰 強まる不満「節約でどうにか」****

米国による制裁に苦しむイランで、小麦価格の高騰が市民生活に重くのしかかっている。ロシアのウクライナ侵攻に加え、イラン政府が補助金を廃止したためだ。パンやパスタの価格が一挙に膨れ上がり、国民の不満が急激に高まっている。

 

510日正午、テヘラン南部にある小さなパン工房では、香ばしい匂いが漂う中を買い物客が出入りしていた。

近くの主婦サウアズ・ヘイリさん(28)が長男(8)と長女(5)を連れ、2日分のパンを腕に抱えていた。

 

ただ、その表情は厳しい。「節約してどうにかやりくりしています。状況がこれ以上悪くなれば生活は行き詰まります。子どもの将来が心配です」。家族旅行や外食、友人との会食を控え、食費を確保しているという。

 

ヘイリさんの懸念は現実味を帯びる。426日、イラン政府が小麦を扱う業者に対する補助金を廃止した。その直後から店頭に並ぶ一部のパンやパスタは急騰し、一気に3倍となった商品もある。

 

ライシ大統領は9日、地元メディアで「補助金は無駄に使われ、国民は汚職の横行を目撃している」と説明した。

 

イランは小麦などの輸入量の3割をロシアとウクライナに頼る。ただウクライナ侵攻に伴い小麦価格が世界的に高騰したのとは裏腹に、イランでは補助金の効果で割安だった。

 

ライシ政権は、その差額に目をつけた悪質な業者が、国内で安く仕入れた小麦を他国に密輸していると非難する。

また、ライシ師は財政難を念頭に「経済改革を実行する必要がある」とも述べ、補助金の廃止に理解を求めた。政府は、貧困世帯を中心に現金給付やクーポン券の配布を検討している。

 

経済再建の道は険しい。米国のトランプ前政権が2018年に核合意から離脱し、経済制裁を再開。そのあおりで、年率4割もの物価の上昇が続く。過去3年で23倍になった商品も珍しくなく、肉や魚、卵の買い控えは常態化した。

 

今回の補助金廃止を受け、一部の地域では政府への抗議活動が起きている。

 

ライシ政権は対応に神経質にならざるを得ない。1911月、ロハニ前政権がガソリン価格の値上げに踏み切ると、大規模な抗議活動が国内全域に広がった。一部が暴徒化し、治安部隊が出動。国際人権団体によると死者は304人にのぼり、国内外から批判の声にさらされた。

 

経済不況の元凶とされる米国による制裁の緩和には、核合意の復活が欠かせない。ただ、米国との間で昨年4月に始まった間接協議は今年3月から停滞している。

 

イランは、革命防衛隊に対する米国による「外国テロ組織」指定の解除を要求。協議を仲介する欧州連合EU)の高官が今週、テヘランを訪れ、打開策を探る。【511日 朝日

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(どこの国でもそうでしょうが)イラン政権指導者にとって(保守・穏健に関係なく)補助金廃止は“鬼門”です。

上記記事にあるように2019年の穏健派ロウハニ政権時にも暴動が起きましたし、保守強硬派アフマデネジャド政権時にガソリン補助金削減が大騒動になりました。

 

ライシ大統領が言うように、補助金は非効率・不正の温床になりますが、国民をなだめるためにいったん導入すると財政難を招くものの、その廃止は非常に困難です。

 

それでも補助金廃止をせざるを得ないというのは、決して“原油高がイランの収入増の機会となっており、経済に数カ月の余裕をもたらしている”といった状況にはないことを示すものでしょう。

 

食料品値上げに対する抗議行動の混乱は続いているようです。

 

****イラン各地でデモ、死者も 食料品値上げ、20人超を拘束****

米国の制裁に苦しむイランで政府が食料品の一部を値上げし、市民が強く反発している。デモが各地で発生し、参加者20人超が当局に拘束された。イラン労働通信は14日、南西部フゼスタン州で1人が死亡したと報道。

 

最高指導者ハメネイ師やライシ大統領への非難も起こり、指導部はイスラム革命体制を揺るがす事態にならないよう警戒する。

 

政府は12日、卵や鶏肉、食用油を大幅に値上げした。市民の間ではインフレが加速するとの不安が広がっている。

デモはフゼスタン州や北部ギラン州、テヘラン州などで確認され、徐々に広がりを見せている。【515日 共同

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【対外問題では、レバノンの総選挙におけるヒズボラの勝敗が注目】

対外問題の方では、レバノンの総選挙結果が注目されます。

レバノンではイランの支援を受けるヒズボラ(イスラム武装勢力であると同時に、国政を左右する“政党”でもあります)を中心とする勢力が過半数を維持できるか・・・今日16日に投票が行われました。

 

****レバノンで国会議員選挙、ヒズボラ勢力の過半数維持が焦点****

中東のレバノンで15日、国会議員選挙(128議席)の投票が行われた。2019年末から深刻な経済危機が続く中で迎える初の選挙だった。投票率(暫定値)は41%(前回4968%)と低くとどまり、国民の政治不信の深さが浮き彫りになった。

 

開票作業が遅れ、大勢判明は17日(現地時間)にずれ込むとの情報もある。

 

近隣国のイランから支援を受けるイスラム教シーア派組織ヒズボラを中心とする勢力が前回の71議席に引き続き、過半数を維持するかが焦点の一つだ。

 

地元メディアによると、複数の選挙区でヒズボラと連携してきた現職候補が、イランの影響力の拡大を嫌うサウジアラビアが支援する候補に破れる見通しだといい、波乱が起きているという。

 

レバノンでは、国会の議席数はイスラム教とキリスト教64議席ずつを分け合う。さらに宗派ごとの議席数も定められている。宗教・宗派を公平に扱う「宗派制度」に基づくが、各宗派に既得権益が生じて腐敗の温床になってきた。【516日 朝日

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レバノンでヒズボラが後退すれば、後ろ盾イランのライシ政権にとっても大きな失点となります。

 

その選挙結果については、結果が判明した時点でまた別機会に。

なにせ、レバノンの選挙制度は非常に奇妙で理解しがたく、その説明だけで大きなスペースが必要になりますので。