トルコ・エルドアン大統領  「グローバル・パワー」目指す積極外交 国内強権支配で欧米と新たな火種 | 碧空

トルコ・エルドアン大統領  「グローバル・パワー」目指す積極外交 国内強権支配で欧米と新たな火種

(【318日 TRT】テロとの戦いに言及し「セルジューク時代もオスマン時代も、外からの攻撃よりも内部の分裂により崩壊した。まだ100年にも満たない我が国が同じ結末に陥るのは認めない」と語るエルドアン大統領 クルド系政党解党を念頭に置いた発言でしょう。)

 

【イスラム世界と非西欧世界を代表する「グローバル・パワー」としての認知を求める】

20201213日ブログ“トルコ 「新オスマン主義」の成果と負担 コロナ感染「世界第3位」 ワクチン早期接種に躍起”でも取り上げたように、トルコ・エルドアン大統領は「新オスマン主義」と警戒されるような積極的な外交・軍事戦略を展開しています。

 

そうした積極外交の一面でもあり、あまり知られていないのがアフリカにおけるトルコの存在感の拡大です。

 

****働き手も留学生もアフリカから積極受け入れ トルコの狙いはどこにある****

東地中海情勢やシリア難民を巡り、欧米との関係が話題になりがちなトルコだが、近年、アフリカでその影響力を強めていることはあまり知られていない。

 

今やアフリカ42か国に大使館を置き、50を超える地域に直行便を飛ばす。アフリカからトルコへの留学生や出稼ぎ労働者も増えている。なぜトルコはアフリカに着目したのか、なぜトルコが受け入れられるのか。あまり知られていないトルコの姿に迫った。

 

■首都のソマリア人コミュニティ

この1年ほど、近所のスーパーや路上で、アフリカ系の人々を目にする機会が増えた。首都アンカラの、歴史的に大使館の多い地域だが、近年はアフリカの大使館が急速に増えている。(中略)

 

アフリカ諸国との関係を深めてきたトルコのエルドアン政権は、アフリカ各国と二国間の商業協定も数多く締結している。それにより労働者の行き来も容易になっているという。(中略)

 

■深化するトルコ・アフリカ関係

トルコは1923年の建国以来、西欧化を掲げ、ヨーロッパに追いつくことを目標にしてきた。だが、エルドアン現政権は2002年に発足して以降、トルコがそれまであまり目を向けてこなかったアフリカに注目。エルドアン首相(当時)による2005年の「アフリカ年」の宣言を皮切りに、アフリカ支援に積極的に乗り出した。

 

今や、アフリカにおけるトルコ大使館の数は2002年の12か国から42か国に拡大。在トルコのアフリカ大使館も、10から36に増えた。二国間の経済協力団体数は50に迫る。さらに、トルコの航空最大手ターキッシュエアラインズは30か国、50以上の拠点に直行便を飛ばすなど存在感を増している。

 

2008年にはイスタンブールで「トルコ・アフリカ協力サミット」が開催され、16年からはトルコとアフリカ諸国との投資とビジネス拡大を目指す会合を定期開催するなど、トルコの積極的なイニシアチブが目立つ。

 

アフリカとの貿易額も年々拡大している。大統領府によると、2020年には、政権就任時と比べ4倍近い260億ドルに達した。エルドアン氏は、「近い将来、500億ドルを目指す」と意気込む。

 

■世界最大のソマリア支援国

(中略)トルコが最も注力しているのは、ソマリアだ。政府と反政府組織との間での対立が続くソマリアでは、テロも少なくない。

 

トルコと同じくスンニ派が多数を占めるソマリアを、エルドアン氏が初めて訪れたのは、東アフリカで深刻な干ばつが発生した2011年。ソマリアへの世界の関心が薄かった当時、アフリカ以外の首脳としては約20年ぶりの訪問を実現し歓迎を受けた。

 

トルコの支援は、当初の人道支援からやがて教育、医療、インフラ分野にも拡大。学校や病院が開設され、新たな道路が整備されるなど、支援額はこの10年間で10億ドルを超える。昨年11月には、ソマリアが国際通貨基金(IMF)に負っていた負債の一部、240万ドルをトルコが肩代わりした。

 

他国のソマリアへの支援は、治安上の理由で隣国から遠隔で行ったり、警備の厳しい首都モガディシオの国際空港内に設置した大使館を通して行われたりするケースが多い中、トルコは2016年にモガディシオ中心部に大規模な大使館を構えた。

 

イスタンブールからの直行便ももつ。17年には、インド洋に面するモガディシオ南部に、400ヘクタールに及ぶ軍事基地を建設。主にソマリア軍への軍事訓練を目的としており、基地内には3つの軍学校も備える。計1万人の兵士養成を目指しており、訓練にはトルコ産の武器が用いられている。

 

人道支援が発端だが、トルコは当初からその戦略的重要性にも目を向けていた。アフリカ屈指の約3,000㎞の海岸線を持ち、紅海とインド洋をつなぐ。さらに、スエズ運河を経由して、アジアとヨーロッパを結ぶ重要な海上輸送の玄関口となっている。

 

また、ソマリア沖はマグロをはじめとした豊富な漁場としても知られ、両国で漁業協定も締結している。こうした両国の結びつきの強さから、今年発表が予定されているソマリア沖海底油田・ガスの初めての採掘権は、トルコが獲得する可能性が高いと噂されている。(中略)

 

■なぜトルコが受け入れられるのか

トルコのアフリカ外交は、エルドアン氏自らがけん引する。訪問時には主要閣僚を携え、数百人規模のビジネス団を引き連れることも珍しくない。

 

首脳会談後の会見でエルドアン氏は、両国間の貿易額の目標数値を大々的に発表し、数々の二国間協定に署名する。

 

さらにヨーロッパの国々を意識し、トルコが植民地支配に加担していなかった歴史を強調。西欧が展開してきた「上から目線」の支援ではなく、また、中国による「中国のため」の天然資源開発目的の支援とも一線を画し、「Win-Winの関係づくりを目指す」と訴え、いわば「第三の選択肢」を提示している。

 

政府機関や企業、民間NGOなど官民が協力しながら人道支援からインフラ整備を手がける。病院や学校など、日常生活に直結する施設が、目に見えてわかりやすい形で作られるため、人々の目にトルコの成果がはっきり映りやすい。

 

さらに、テロなど不測の事態が起きても企業の撤退や投資の中止に至らないことが、「信頼できるパートナー」という印象を強める。

 

一方で、こうしたトルコ独自のやり方に、援助関係者からは懸念の声も上がっている。援助機関や他の支援国との間で、支援の重複を避け、優先順位や役割分担などを話し合う協調がなされないまま、トルコが独自のやり方で突き進んでいる、という指摘だ。

 

また、「受益国のニーズに応じて、長期的計画に基づく支援が大切だが、トルコの支援はトルコにとってやりやすい、場当たり的なものが多い」と指摘する人もいる。さらに、支援の透明性への疑問や、政権側に寄り過ぎているとの声もある。

 

■「グローバル・パワー」になりたい

今年1月には、アフリカ大陸自由貿易圏が始動した。アフリカの54ヵ国が署名し、5年以内に9割の関税を撤廃し、単一市場創設を目指す。将来的には域内移動の自由と域内統一通貨の実現も視野に入れており、世界最大規模の自由貿易協定となる。こうした中、アフリカの未来への各国の関心が高まっている。

 

かねてからエルドアン氏は「世界は5か国よりも大きい」と公言し、常任理事国が拒否権をもつ国連安全保障理事会の改革の必要性を訴えてきた。そこには、トルコが「ミドル・パワー」から脱却し、「グローバル・パワー」として、イスラム世界と非西欧世界を代表する国として認知されることへの期待がある。アフリカにおける影響力の拡大も、それを実現する布石の一つと言えるだろう。

 

一方で、トルコのアフリカでの動きが、同じイスラム世界からの警戒を呼んでいるのも事実だ。スーダンの例にみられるように、軍事クーデターで形勢が一気に逆転する場合もある。「親トルコ」を増やすとともに「反トルコ」をいかに減らしていくか、「グローバル・パワー」を目指すトルコの知恵が問われる。【217日 GLOBE+】

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【欧米との軋轢 国内クルド系政党解党といいう強権手法で新たな火種】

こうした積極外交は欧米との軋轢を生むことにもなっており、これまでも取り上げたように、東地中海の資源開発をめぐってキプロス・ギリシャ、そしてEUと制裁を伴う厳しい対立関係にありました。

 

ただ、そちらは緊張緩和に向かっているようです。

 

****EU、トルコ国営石油への制裁強化を停止 融和ムード浮上****

EU(欧州連合)が、トルコ国営石油会社(TPAO)幹部に対する制裁計画を凍結させたことが分かった。

 

EUは昨年末、東地中海の紛争海域でトルコが天然ガスを無許可で採掘しているとして、資産凍結や渡航禁止を示唆していた。これに対するトルコ側の外交攻勢が実を結んだ形となった。4人のEU外交官が明らかにした。

強硬姿勢を見せていたトルコのエルドアン大統領は今年に入り、発言が穏健なトーンとなり、ドイツのメルケル首相も融和的なアプローチを支持する立場となった。トルコが長年対立するギリシャと直接会談したことも、ムード一変に寄与した。

米バイデン政権も、北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、EU加盟を望むトルコが歩み寄りに前向きな姿勢を見せる時に、制裁は回避すべきだとの立場を表明していた。

あるEU外交官は「トルコ人を個人としてブラックリストに入れる作業は止めた。経済制裁はすでに話題となっていない」と話した。 EUは昨年2月、TPAOに対して副社長を含む2人の幹部を制裁対象にした。別のEU外交官によれば、EU首脳による同年12月の会談後、会長などさらに多くの取締役会のメンバーが制裁対象入りすることになっていたという。【319日 ロイター

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しかし、エルドアン大統領の積極外交と並ぶ、もうひとつの側面である反エルドアン勢力への国内強硬策が新たな国際緊張を生んでいます。

 

****トルコ最高検、クルド系政党の解党申し立て 米は批判****

トルコ最高検察庁は17日、少数民族クルド人系野党、国民民主主義党(HDP)の解党を憲法裁判所に申し立てた。国家の結束を崩す狙いで非合法武装組織のクルド労働者党(PKK)の傘下組織として活動していると主張した。

トルコでは政府が脅威と見なす政党を解散させることがこれまでにもあり、過去に解散を命じられたクルド系政党はいくつもある。

エルドアン大統領が率いる公正発展党(AKP)と協力関係にある政党はPKKとのつながりを理由にHDPの解党を呼び掛けてきた。エルドアン政権は新型コロナウイルス禍の景気落ち込みへの対応に苦戦しており、支持率は低下している。

HDPは、検察は政府の命令で行動していると批判し、解党の申し立ては「民主主義と法への大きな打撃」だと強調した。

通貨リラはHDP解党申し立ての政治的影響への懸念が重しとなり、下落した。

定数600の議会で55議席を有するHDPはPKKとのつながりを否定している。

PKKはトルコだけでなく米国と欧州連合(EU)がテロ組織に指定している。

米国務省は声明で、HDP解党を決定すれば「トルコの有権者の意思を不当に覆し、民主主義を一段と阻害し、何百万人もの市民が選出した代議士を排除することになる」と非難した。(後略)【318日 ロイター

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上記のアメリカだけでなく、EUも。

“欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)も18日、「有権者数百万人の権利の侵害になる」と表明。25、26の両日に予定されるEU首脳会議でトルコへの批判が高まる可能性がある。”【319日 時事】

 

ただ、欧米のこうした反発はエルドアン大統領にとっては想定内であり、その動きを止めることにはならないようです。新型コロナウイルス禍の景気落ち込みへの国民不満をなんとか“そらしたい”思惑でしょう。

 

****トルコ警察、クルド系政党の幹部と人権団体トップを拘束****

トルコの警察は、少数民族クルド人系野党、国民民主主義党(HDP)の地区幹部3人を拘束した。国営メディアが19日報じた。

クルド系武装組織に対する捜査の一環で、計10人が拘束されたという。

これとは別に、トルコの人権協会(IHD)は、警察が19日午前にIHD会長の自宅を強制捜査し、会長を逮捕したことを明らかにした。現在、弁護士が情報を収集しているという。

トルコ最高検察庁は17日、HDPの解党を憲法裁判所に申し立てていた。HDPは「政治的なクーデター」と批判している。HDPは議会で第3位の政党。

国営アナドル通信によると、逮捕されたのはHDPのイスタンブールのキャーウトハーネ地区の代表とベシクタシュ地区の代表など。警察が4地区で同時に強制捜査を行った。15人に逮捕状が出ているという。

欧米は、最高検察庁の申し立てについて、民主主義を損なうものだと批判しているが、トルコのエルドアン大統領の報道官は、HDPが非合法武装組織のクルド労働者党(PKK)と関係があると主張している。【319日 ロイター

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【利益優先のポピュリズム 中国のウイグル族弾圧批判も一転】

「中国の夢」のトルコ版とも言うべき「新オスマン主義」を推し進め、国内的にはイスラム主義を強化し、反エルドアン勢力を強権的に抑え込む・・・というコワモテのエルドアン大統領ですが、トルコ・イスラムの理念にこだわらず“長い物には巻かれる”現実主義の一面も。

 

****亡命ウイグル族に迫る中国強制送還の脅威 「第2の祖国」トルコ、対中関係を重視****

そろしい」。トルコで暮らす亡命ウイグル族が、中国に強制送還される懸念を深めている。

 

近年トルコは対中関係を重視。中国政府の情報に基づく警察のテロ捜査が増加していると指摘され、国会では中国との犯罪人引渡条約の批准手続きも進んでいる。

 

トルコ系イスラム教徒の少数民族にとって「第2の祖国」と呼ばれるほど安全な避難先だったはずのトルコに、中国の影響力が拡大している。

 

 テロ捜査

今年1月、最大都市イスタンブールでウイグル族の住民少なくとも10人がテロ組織に関与した疑いで拘束された。支援団体「国際難民の権利協会」のイブラヒム・エルギン弁護士によると、警察に情報提供していたのは中国政府だった。

 

捜査記録を確認したところ、中国がウイグル独立派「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」のメンバーだとして送還を求めていたという。

 

ETIMは中国だけでなく、国連もテロ組織に認定しているが、エルギン弁護士は「確かな証拠は見つかっていない。中国はウイグル族の送還を求めるために中傷作戦を進めている」と指摘する。

 

今回の10人の一部は既に釈放され、2月半ばの時点で実際に送還された住民はいない。ただここ数カ月で同様の拘束が増えているという。

 

トルコは民族的にも宗教的にも近いウイグル族を擁護し、中国政府の弾圧を批判してきた。2009年の中国新疆ウイグル自治区で起きたウルムチ暴動の際にはエルドアン大統領(当時は首相)が中国の対応を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と非難し、19年にはトルコ外務省がウイグル族収容所の閉鎖を求める声明を発表した。

 

トルコのウイグル族受け入れは世界最多の約5万人に上ると指摘されている。トルコから自治区に戻ったり、残してきたりした家族と連絡が取れなくなるウイグル族の人々が相次ぎ、首都アンカラの中国大使館や、最大都市イスタンブールの中国総領事館前では抗議デモが繰り返されている。

 

 経済連携を重視

近年トルコは経済連携を重視し、中国に対する批判は限定的になっている。中国はトルコの主要輸入相手国となり、トルコは中国の掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」を支援する。

 

エルドアン大統領は中国の習近平国家主席と首脳会談を繰り返し、19年に北京を訪問した際には「(ウイグル族は)中国の発展繁栄の中で幸福な生活を送っている」と中国のウイグル政策を評価したほどだった。

 

新型コロナウイルスのワクチンを巡っては、中国の製薬大手、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が開発したワクチンに依存している。

 

連携は司法分野にも広がっている。両国は2017年5月に犯罪人引渡条約に署名し、昨年12月26日、中国が全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会で批准した。トルコ国会では批准手続きが棚上げされていたが、夏まで続く現在の国会会期中に審議される見通しだ。

 

エルドアン政権はウイグル族の権利を守ると強調するが、懸念は広がっている。中国からの新型コロナのワクチン供給が一時遅れたことがあり、野党議員の中には、ワクチン供給はトルコの条約批准の見返りではないか、と政権を追及する声も出ている。

 

 「追い返されるのか」

条約批准に向け、エルドアン政権はジレンマにも直面している。現在、与党の公正発展党(AKP)は国会で単独過半数に届いていない。極右のトルコ民族主義政党と与党連合を組み、過半数を確保しているため、政権運営は民族主義に傾斜してきた。民族主義支持者は亡命ウイグル族に対する同胞意識が強く、支援する立場の人々が多い。

 

対中関係を重視してきたエルドアン政権だが、条約批准は国内支持層の反発をまねく可能性をはらんでいる。

 

2月上旬、トルコ首都アンカラの中国大使館前で、連絡が取れない家族の写真を掲げるウイグル族の人々十数人が抗議デモを行っていた。

 

妹の写真を持っていた女性のメディネ・ナジムさん(37)は「ウイグル族としてこの条約は私の名誉を傷つけるものだ。とても悲しく、おそろしい。国会で批准されないように望んでいる。私たちの安全と生活は条約に脅かされるだろう。中国の圧政を逃れてきたのに、追い返されるのだろうか。批准されれば、全てのウイグル族が悲しむことになるだろう」と訴えた。【31日 47リポーターズ

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中国に対するジェノサイド批判が一転、「(ウイグル族は)中国の発展繁栄の中で幸福な生活を送っている」

ワクチン欲しさとや経済関係重視とは言え、こうした「手のひら返し」は、理念軽視のポピュリズム政治家の特徴です。