イスラエル  ヨルダン川西岸の一部併合を宣言? 注目される首相の判断 イスラエル側の言い分 | 碧空

イスラエル  ヨルダン川西岸の一部併合を宣言? 注目される首相の判断 イスラエル側の言い分

(【6月22日 東京】)

 

【7月1日にヨルダン川西岸の一部併合を宣言?注目されるネタニヤフ首相の判断】

イスラエル・ネタニヤフ首相はヨルダン川西岸地区について、トランプ米大統領が1月に発表したヨルダン川西岸のユダヤ人入植地でのイスラエルの主権を認める中東和平案が事実上の併合に根拠を与えているとして、7月1日にも一部併合を明らかにするのではないか・・・とも予測されています。

 

ヨルダン川西岸の一部併合はネタニヤフ首相の選挙公約でもあり、また、5月に発足したガンツ氏との連立政権の最優先課題の1つだとの見方を示していました。

 

ネタニヤフ首相はヨルダン川西岸の30%に相当するユダヤ人入植地とヨルダン渓谷を主権下に置く方針とされています。

 

パレスチナ自治政府は占領地の違法な併合だとして反発しており、抗議の意を示すため、イスラエルとアメリカとの安全保障協力の停止を宣言しています。

 

ただ、こうしたネタニヤフ首相の考えには国際社会からの反発だけでなく、国内右派からの批判もあるようで、状況は不透明です。

 

****ヨルダン川西岸併合、ネタニヤフ首相の判断は 7月1日の宣言に注目 ****

イスラエルのネタニヤフ首相が選挙公約に掲げたパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の一部併合方針を巡り、七月一日から併合に向けた法制化の手続きが可能になる。

 

ただ、アラブ諸国や国際社会の反発が強まる上、連立政権内や国内右派の一部も懸念を示す。「一日に一部併合を宣言するのでは」との声もあり、ネタニヤフ氏の判断に注目が集まる。

 

米政権が一月に公表した中東和平案に基づき、西岸地区30%に相当するユダヤ人入植地とヨルダン渓谷をイスラエル領に併合する内容。米国との合同委員会で境界の画定作業を進める。

 

イスラエルは、一九六七年の第三次中東戦争で支配下に置いた東エルサレム、八一年にシリア領だったゴラン高原を併合。いずれも占領地を自国領とする国際法違反とされ、ヨルダン川西岸の一部併合を宣言すれば三十九年ぶりとなる。

 

ただ、懸念の声も強い。アラブ首長国連邦(UAE)のオタイバ駐米大使は十二日のイスラエル紙に寄稿し、一方的な併合を強行すれば、アラブ諸国との関係正常化は不可能と警告。

 

国連が任命する人権問題専門家約五十人も十六日、共同声明で「パレスチナがイスラエルに完全に囲まれ分断された土地になる。二十一世紀のアパルトヘイト(人種隔離)だ」と批判した。

 

こうした反応を受け、連立政権を組む中道政党「青と白」を率いるガンツ国防相が態度を硬化。国際社会や周辺国が併合を支持するか、少なくとも黙認姿勢を示すことが必要との立場とされる。大手紙ハーレツは「併合のチャンスは消えつつある」と評した。

 

一方、ネタニヤフ氏が支持基盤とする右派勢力からも逆風が吹く。米政権の和平案に沿えば、残る70%の西岸地区にパレスチナ国家樹立を認めざるを得ず、右派には受け入れられない。

 

ネタニヤフ氏のジレンマを意識し、パレスチナ自治政府のシュタイエ首相は九日、併合に踏み切った場合に「独立国家を宣言し、国際社会に承認を求める」とけん制した。

 

政治評論家ハビブ・ゴール氏は「選挙公約を果たす実績と国内外の圧力などの損得を見極め、七月一日に何らかの宣言は行うだろう」と指摘する。【6月22日 東京】

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【併合に反対するアメリカ以外の国際世論】

上記の“ラブ首長国連邦(UAE)のオタイバ駐米大使は十二日のイスラエル紙に寄稿”については、イスラエルと国交のないアラブ諸国の高官が、イスラエルのメディアに寄稿するのは異例のこととか。

“西岸併合ならアラブ和平なし=UAE駐米大使が寄稿―イスラエル”【6月12日 時事】

 

欧州、特にドイツは懸念を明らかにしており、ドイツのハイコ・マース外相は6月10日にエルサレムを訪問し、ヨルダン川西岸の一部併合によって生じ得る結果について「率直かつ深刻な懸念」を表明しています。

“イスラエルによる併合計画に「深刻な懸念」、独外相”【6月11日 AFP】

 

グテレス国連事務総長も。

 

****西岸併合計画の放棄要求=イスラエルに国連総長****

グテレス国連事務総長は24日、中東情勢をめぐる国連安保理のテレビ会合で、イスラエルに対し、占領下に置いているヨルダン川西岸の一部を併合する計画を放棄するよう求めた。

 

グテレス氏は「実施されれば併合は最も深刻な国際法違反に当たり、(イスラエルとパレスチナの)2国家共存の見通しを著しく害し、(和平)交渉再開の可能性を損なう」と警告した。【6月25日 時事】 

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こうした批判がある一方で、アメリカはイスラエルを支持しています。

 

****西岸併合計画でイスラエルに警告、米は支持 安保理会合****

イスラエルがパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の一部の併合を計画していることについて、国連安全保障理事会は24日、オンラインで会合を開いた。

 

国連と欧州およびアラブ各国は計画を実施すれば中東和平が大打撃を受けると警告した一方、米国はイスラエルの計画への支持を表明した。

 

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が進める併合計画の開始が1週間後に迫る中で開かれた今回の会合は、

 

国連のアントニオ・グテレス事務総長は「イスラエル政府に対し、併合計画の放棄を求める」と呼び掛けた。

 

ベルギー、英国、エストニア、フランス、ドイツ、アイルランド、そしてノルウェーの欧州7か国は、併合は中東和平協議再開の可能性を大きく損なうとする共同声明を発表。「国際法の下、併合は、われわれのイスラエルとの親密な関係に影響を及ぼすことになる。また併合をわれわれが承認することはない」と警告した。

 

アラブ連盟のアハメド・アブルゲイト事務局長は併合について、「将来のいかなる和平の見通しをも破壊」し、同地域の安定を脅かすことになると警告した。

 

一方、ネタニヤフ首相と密接な関係にある米国のドナルド・トランプ政権は併合について批判せず、マイク・ポンペオ国務長官は米首都ワシントンで記者団に対し、「イスラエル人がこれらの地域に主権を拡大するという決断は、イスラエル人がなすべき決断だ」と述べた。 【6月25日 AFP】AFPBB News

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【具体的協議に入ったトランプ政権】

こうした状況で、アメリカ・トランプ政権は具体的対応について協議を開始しています。

 

****米大統領側近、イスラエルの入植地併合計画巡る協議開始=関係筋****

トランプ米大統領の側近らは23日、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地を併合するというイスラエルのネタニヤフ首相の計画を承認するかどうかを巡る協議を開始した。米政府当局者と協議に詳しい関係筋が明らかにした。

ネタニヤフ首相は7月1日の併合を目指しており、トランプ大統領から承認を得たい意向だ。

米当局者によると、23日の協議には、トランプ大統領の娘婿であるクシュナー大統領上級顧問、オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)、バーコウィッツ中東担当特使、フリードマン駐イスラエル大使が参加した。トランプ大統領は参加しなかったが、週内に行われる今後の協議に加わる可能性があるという。

トランプ大統領が1月に発表した中東和平案は、一定の条件付きでパレスチナに独立国家の建設を認めたものの、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地でのイスラエルの主権を認める内容となった。

ほとんどの国はイスラエルの入植活動を違法と見なしており、パレスチナ指導部は併合計画に強い反発の声を上げている。

関係筋によると、米国が検討している主な選択肢には、ネタニヤフ氏の当初案で想定されているヨルダン川西岸の30%ではなく、エルサレムに近い複数の入植地について、イスラエルが初めに主権を宣言するという段階的なプロセスが含まれている。

トランプ氏はより大規模な併合への道を閉ざしてはいないが、イスラエルの急激な動きを容認すれば、自身の計画を巡る交渉にパレスチナ側を参加させることができなくなるとの懸念があるという。

23日の協議は「非公式な内部協議」で、決定事項はなかった。【6月24日 ロイター】

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米議会の動向は“この問題は米国の議員を二分している。民主党の下院議員185人はイスラエルによる併合計画に反対する書簡に署名した。一方で共和党の上院議員7人は「併合」という言葉は使わずに理解を示した。”【6月25日 WSJ】とのこと。

 

【イスラエル側の言い分「パレスチナこそ平和共存を拒否している」】

下記は、あまり目にする機会のない、イスラエル側の言い分です。

 

*****イスラエル「西岸併合」は当然の権利か暴挙か****

対論 トランプが発表した新中東和平案を受けてイスラエル新政権はヨルダン川西岸の一部併合に乗り出すが・・・・賛成・反対の両論者が説くそれぞれの正統性

 

パレスチナこそ平和共存の拒絶者だ

キャロライン・グリツク(イスラエルハヨム紙コラムニスト)

 

イスラエルは今後数力月以内に、ジュデア・サマリア(ヨルダン川西岸地区)の30%に自国の民法と行政権を適用するとみられている。

 

ドナルド・トランプ米大統領が発表した中東和平案では、この地域はパレスチナとの中東和平交渉の最終合意後もイスラエルに残るとされている。

 

しかし、いわゆる「専門家」の多くは事実を歪曲し、イスラエルを非難している。彼らが懸念しているのは、「イスラエルによる併合」だ。

 

実際には、イスラエルはジュデア・サマリアのいかなる部分も「併合」することはできない。併合とは、国家が他国の領土に主権を押し付ける行為だ。イスラエルは1948年5月14日の独立宣言により、既にジュデア・サマリアの主権を有している。

 

この宣言とイギリスの委任統治終了により、イスラエルは国際連盟が定めた委任統治下の全領土の主権を持つ唯一無二の国家となった。

 

この地域にイスラエルの法律を適用しようとする計画をめぐる言説の第2の問題は、それがイスラエルにとって重要な理由と、トランプがイスラエルの主権を和平案に盛り込んだ理由を無視していることだ。

 

イスラエルの視点から見れば、この計画は法の支配と地域住民の市民権を大幅に向上させるものだ。

 

イスラエルは94年(パレスチナ自治開始)以来、「ヨルダン川西岸」の統治をパレスチナ自治政府と分け合い、一部を軍政下に置いてきた。

 

イスラエル国防軍(IDF)が統治するジュデア・サマリアの市町村には、50万人近くのイスラエル人と10万人以上のパレスチナ人が暮らしている。

 

イスラエルの民法は、現在この地域に適用されている軍法よりもはるかに自由だ。これによりIDFは交通規制や建築許可などの問題に責任を負わずに済むようになる。

 

トランプと前任者の違い

トランプの中東和平案については、何十年も失敗続きの和平プロセスの根底にあった思い違いの存在を指摘したい。

 

イスラエルはパレスチナ側が仕掛けた戦争の責任を負っており、和平のためにはパレスチナ側に土地を譲渡する必要があるというものだ。

 

真実は逆だ。イスラエルは1937年(イギリス調査団によるパレスチナ分割提案)以来、一貫してパレスチナ人と土地を共有することに同意してきたが、パレスチナ側は拒否し続けた。2000年以降も、ジュデア・サマリアのほぼ全域の譲渡と聖地エルサレムの再分割を含む3度の和平提案を行ったが、パレスチナ側は全て拒否した。

 

パレスチナ側は00年、和平提案への応答としてテロ戦争を開始し、2000大のイスラエル大を殺害した。08年の和平提案に対しては、政治的戦争をエスカレートさせた。

 

トランプ以前の仲介者たちは、パレスチナにイスラエルとの平和共存を受け入れさせようとしなかった。代わりに国際社会の非難や支持撤回を心配せずに、イスラエルへの攻撃を継続・強化できると思い込ませた。

 

パレスチナ側はユダヤ人国家との平和共存に合意する前提として、全ユダヤ人のジュデア・サマリアと東エルサレムからの追放を要求した。

 

オバマ前米政権を含む欧米諸国の政府がそれを支持したことが、和平の実現を不可能にしてきたのだ。

 

トランプの和平案は、成功の可能性がある初のアメリカによる提案だ。それ以前の案の中核にあった病的な(そして反ユダヤ主義的な)思い違いを拒否しているからだ。

 

トランプ案は、民族の故郷におけるユダヤ人の自決と独立の権利をパレスチナ人が拒否し続けてきたのはイスラエルのせいだという考えを否定している。

 

そしてイスラエルにはジュデア・サマリアを含む全ての民族の故郷において主権を持つ法的・民族的権利があるという事実を受け入れている。

 

イスラエルの法律をジュデア・サマリアに適用すれば、急拡大しているスンニ派アラブ諸国との関係に支障が出ると、自称専門家は主張する。

 

だが心配は要らない。パレスチナの指導者は連日、アラブ諸国の指導者にトランプ案への支持と良好な対イスラエル関係への興味を捨てさせることができないと嘆いている。

 

サウジアラビアのジャーナリスト、アブドゥル・ハミド・アル・ガビンはBBCにこう語った。「わが国の世論はイスラエルとの関係正常化を支持しているだけでなく、その多くがパレスチナに背を向けた」(後略)【6月30日号 Newsweek日本語版】

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独立宣言ですでに西岸地区の主権を有しているから「併合」ではない、あるいは、イスラエル軍による軍法が適用されている現在より、併合後のイスラエル民法が適用される状況の方が「自由」になる・・・といった論旨は、やや詭弁のように思えます。

 

これまでの3度の和平提案をパレスチナ側は全て拒否したというのは、その案の中にパレスチナ側が絶対に承認できないものが含まれていたからでしょう。

 

そのことをもって、和平を拒否しているのはパレスチナ側だというのは・・・パレスチナ側からすれば、イスラエルは自分に都合のいい「和平」を押し付けようとしているという話でしょう。

 

【イスラエル国内の併合反対の現実論】

なお、上記記事の後半は、マイケル・J・コプロウ氏(イスラエル政策フォーラム政策担当責任者)による、イスラエル国内のネタニヤフ案への反対論です。

 

長くなるので、要点だけ整理すると

 

リスク対効果でみる併合の危険な結末

・併合は国際世論を敵にまわし、イスラエルの外交的安定を損なう

・パレスチナとの最終的な解決を遠ざける

・イスラエルと自治政府支配地域の境界線が飛躍的に増加し、多大なイスラエル軍兵士をそこに投入する必要が生じる

・一部併合で自治政府が崩壊するか、過去のイスラエルとの合意を全面破棄する可能性も。そうなるとイスラエル軍は西岸全域において治安維持にあたらなければならず、イスラエルはそこにすむパレスチナ人の市民生活に対する責任が生じる

・イスラエルはすでにヨルダン渓谷を掌握しており、西岸一帯にユダヤ人コミュニティーが成立している。つまり、併合で得られるとされる利益の多くをすでに手中にしており、併合はこうした現実を危険にさらすことになる

・併合してもアメリカ以外からは認められず、主権と独立を求めるパレスチナ人の要求が消えてなくなることはない(ユダヤ人が数千年にわたって国家建設の夢をあきらめなかったように)

 

要約すれば、すでに多くの利益は手にしているのだから、それを危険にさらしたり、敢えて厄介ごとを背負いこむような愚を犯すことはない・・・といった現実論です。

 

連立相手のガンツ氏が難色をしめしているという状況で、ネタニヤフ首相がどのような判断をするのか注目されます。