インド「構造的水不足」、アメリカ「巨大帯水層発見」、ペルー「アムナス」 水資源への対応 | 碧空

インド「構造的水不足」、アメリカ「巨大帯水層発見」、ペルー「アムナス」 水資源への対応


(【ウィキペディア】インドは昔から水をいかに利用するかが大きな問題でした。画像は巨大な階段井戸のひとつ。「井戸」という言葉が不適当なほど巨大で壮麗な建築物です。)

【インドでは、高度または極度の「水ストレス」に6億人が直面している】
インドでは先月まで深刻な熱波・水不足が報じられていましたが、最近の状況はどうなっているのでしょうか?

インドでは一番大きな降水量をもたらす南西モンスーン(6月初めごろに南部から雨季が始まり、7月初めごろに国全体が雨季に入る)の季節に入っていますので、水不足も解消しているのでしょうか?

ただ、今年の水不足が一時的に解消したとしても、インドも水不足は降水量の長期的減少、人口増にともなう水需要の増大、非効率的水利用といった構造的要因によるものですから、今後も、より深刻な形で繰り返されることが懸念されます。

****200人以上死亡の熱波につづき、インドの水不足が深刻****
<5月末から記録的な熱波が続くインドで、今度は水不足が深刻な問題となっている......>

昨年の南アフリカにつづき、今年はインドで深刻な水不足に

2018年1月、南アフリカ共和国のケープタウンでは、記録的な干ばつに伴って水不足となったことから、3ヶ月後の4月12日を「デイ・ゼロ」と称し、その日以降、水道水の供給を停止し、市民には給水所を通じて生活用水を提供すると発表した。

その後、市民による節水活動などが奏功し、「デイ・ゼロ」は免れたが、世界的に都市居住者が増加するなか、都市部での水不足について警鐘を鳴らす事象としても注目された。

2019年6月現在、インドも同様の危機的状況に陥っている。慢性的な干ばつに加え、2019年5月末から続く記録的な熱波が続いている。6月18日にも、ニューデリーで6月では過去最高の48度を記録し、これまでに200人が死亡している。

インド南東部チェンナイでは、4カ所の貯水池すべてがほぼ干上がっている

こうした影響で人口約465万人を擁するインド南東部の都市チェンナイでは、4カ所の貯水池すべてがほぼ干上がり、チェンナイ都市圏上下水道公社(CMWSSB)が水供給量を約40%削減する措置を講じた。

公営水道を利用する60万5千世帯では世帯あたり1日120リットルが供給されてきたが、この措置により水供給量が1日70リットルにまで減らされている。

このような深刻な水不足は、市民の日常生活や経済活動に大きな影響を及ぼしている。ロイターの報道によると、私設の給水ポンプには生活用水を求める市民が長時間にわたって列をなし、多くのホテルや飲食店が臨時休業しているほか、企業のオフィスでも食堂やトイレでの水の使用が制限されているという。

インド国内の21都市で地下水が枯渇し、1億人以上に影響が出る
水不足は、チェンナイにとどまらず、インド全土で懸念されている。インドでは、集水システムが十分に整備されておらず、地下水に依存している地域が多い。長年、地下水源を得るために地面を掘削し続けてきた結果、地下水の枯渇も深刻だ。

インドで水不足の解消に取り組む非営利団体「FORCE」の代表ジョティ・シャーマ氏は、米テレビ局CNNの取材に対して「インド政府は、国民が水を確保できるよう懸命に取り組んでいるが、地下水源が枯渇するスピードは年々速くなっている」と述べている。

インドの行政委員会(NITI Aayog)が2018年6月に水資源省らと共同で策定した報告書によると、インドでは、高度または極度の「水ストレス」に6億人が直面している。

この報告書では「2020年までに、デリーやバンガロールを含むインド国内の21都市で地下水が枯渇し、1億人以上に影響が出る」とし、「2030年までに水の需要量は供給量の2倍となる。多くの国民にとって水不足はさらに深刻となり、インドの国内総生産(GDP)の6%程度のマイナス影響が見込まれる」との予測を示している。

シャーマ氏は「降雨量の変化に適応した貯水をしなければ、都市であれ、村落であれ、インド全土で水不足がより深刻になるだろう」と警告している。【6月24日 Newsweek】
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****インド全土の4割以上が干ばつ状態に****
(中略)インドでは年間降水量の75%以上が6~9月の4カ月間にもたらされる。他方、それらの時期を除けば降水量が少なく、多くの地域で雨の降らない日が続く。

また、降水量は地域によって大きく異なり、例年、南部のケララ州などのある西ガーツ地域、北東部のヒマラヤ近郊地域やメガラヤ丘陵地域は年間2,500mm以上の降雨があるが、インド最北端のカシミールや西部ラジャスタンの年間降水量は400mmに満たない。

インドでは、農業セクターが水消費量の約8割を占めるとされるが、灌漑インフラが十分に整備されていない地域も多く、降水量の多寡はダムや河川などを介しての水の供給に大きな影響を与える。

しかし、このようにインドにとって重要な降水量が、近年では減少傾向にある。1951~2000年における降水量の記録から算出される標準降水量と、2000~2017年の降水量を比較すると、2000年以降の18年間の年間降水量は平均1,108.7mmしかなく、これは標準降水量の93%に過ぎない。

その間、2001年には10億2,874万人(国勢調査)だった人口は、2011年に12億1,019万人(国勢調査)となり、2019年時点では13億5,177万人(IMF)に上ると推計されている。

これは2000年以降の18年間で、降水量がそれ以前より平均7%少ない状態が続く一方で、人口が約30%増加したことを示している。

地下水の水位が減少、深い井戸も多く存在
インドでは、地下水も重要な水資源の1つとなっており、水供給の40%を占めるとされる。ところが、近年、この地下水の水位が大きく減少している。

政府諮問機関のインド行政委員会(NITI Aayog)は、2018年6月に発表した「複合的な水管理指標(CWMI)」に関するレポートの中で、世界銀行など外部機関のレポートを引用し、「過剰取水により全国で54%の井戸の地下水位が低下、2020年にインドの主要21都市で地下水が枯渇し、1億人に影響が出ると予想される」とした。

実際に、井戸の地下水位がすでに深くなっている地域も多い。中央地下水委員会の「地下水年鑑2017年度(14.2MB) 」によると、2018年1月時点で調査された井戸のうち、地下水位が20mより深い井戸が、北西部のラジャスタン州では37%、同パンジャブ州では28%となっている。

降水量の減少や人口増加、地下水位の低下など水が不足する中で、今後、インド政府としてどのような対策をとるのかが問われるだろう。 【7月10日 JETRO】
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“2000年以降の18年間で、降水量がそれ以前より平均7%少ない状態が続く一方で、人口が約30%増加”ということであれば、水不足が深刻化するのも当然の結果でもあります。

そういう状況であれば、少なくとも水資源利用を工夫する必要がありますが、インドの場合、少ない水資源を無駄にしている面が多々あります。

モディ政権も、こうした状況を座視している訳でもありませんが、どこまで対応できるのか・・・・。

****第2期モディ政権、水専門の省庁を設立(インド****
深刻化するインドの水不足とモディ政権の取り組み

(中略)
深刻化する水不足、農業セクターでの非効率的な水利用が課題
インドにおける水不足は、近年の降水量の減少、急激な都市化と人口増加に伴う水使用量の増加、地下水の過剰採取による地下水位の低下、水関連インフラの未整備など複数の要因が重なることで、深刻化していると考えられる。

これらの中には抜本的な対策が困難なものも含まれるが、取り組みによって各地で発生する水不足を軽減・改善しうるものもある。

まず、水消費量の約8割を占めるとされる農業セクターにおける水の使用を効率化することが求められる。インドの耕作地に対する灌漑普及率は34.5%にとどまっており、農家の多くが地下水を使用しているが、耕作量の増加に伴って水の使用量が増え、地下水の過剰採取につながっているとされる。加えて、農作物に対する水の利用効率が悪いことが、農家の過度な水利用の原因となっているとの指摘もある。

供給面では、水道インフラの更新と整備が求められる。インドでは、敷設された配水管の老朽化による破損などで、給水源から各家庭や工場などユーザーに届くまでの漏水率が約40%に上るとも言われる。

また、水道普及率が高くなく、農村部での普及率は18%にとどまるため、水道のない家庭の多くが井戸水を利用している。都市部でも水道インフラや水の供給が十分でないところなどでは井戸水が利用されているほか、水が不足する際には水道当局や民間企業が郊外の水源などから水をくみ上げ、タンクローリーで運搬して各ユーザーに届けるなど、非効率な供給が行われている。

さらに、多くの地域で年間を通じて雨が降る時期が限られているため、雨季の間に貴重な雨水を無駄なく貯留することや、汚水を処理して再利用することが重要になる。

インドでは雨水の利用率が低い上に、汚水の約7割が未処理とされるため、雨水貯留設備や排水処理施設などのインフラを整備することにより、供給可能な水の量を増やす余地がある。

水不足軽減・解消に向けた2期目のモディ政権の取り組み
深刻化する水不足を解消していくためには、中央・州政府が協力し、包括的な対策を行うことが不可欠であり、2期目を迎えたナレンドラ・モディ政権もその重要性を認識している。

モディ政権は5月31日、従来の水資源・河川開発・ガンジス川再生省と飲料水・公衆衛生省を統合し、選挙マニフェストに掲げていたジャル・シャクティ(Jal Shakti)省を新設した。ジャル・シャクティとは、ヒンディー語で「水の力」を意味し、同省は水資源の開発や規制に向けた政策やプログラムの策定などを所管する。

(中略)インド憲法では水に関する立法権は州政府の所管事項とされているが、モディ政権は州政府と協力し、水不足解消に向けて取り組む姿勢を全面に出している。

加えて、同会合(6月15日、NITI Aayogの第5回会合)の冒頭では、モディ首相が「中央政府の水に関する諸問題に対する統合的アプローチの主な目的の1つは、2024年までに全農村へ水道を普及させることだ」と述べたという(タイムズ・オブ・インディア紙、6月16日)。

1期目のモディ政権は、38%しか普及していなかったトイレ施設を99%(Swachh Bharat Mission公表値)まで普及させた。

現在、水道普及率が20%以下にとどまる農村に水道を普及させつつ、喫緊の課題である水不足解消に向けた取り組みをどのように推進していくか、2期目のモディ政権の政策が注目される。 【7月10日 JETRO】
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“38%しか普及していなかったトイレ施設を99%まで普及させた”・・・・どこから出てきた数字でしょうか?
統計数字の細工は、問題の解決を遅らせるだけで困りますが・・・・。

より長期的な話をすれば、インドを含む南アジアおよび東南アジアの水源となっている巨大河川が、温暖化の影響によるヒマラヤ氷河の急速な縮小によって枯渇していくという大問題もあることは、かねて指摘しているところです。

【アメリカ 巨大な帯水層の発見】
水資源の不足・枯渇はインドに限らず、世界的にみられる現象ですが、アメリカでは巨大な帯水層が海底下にみつかったという“朗報”も。

****水不足に希望!? 巨大な帯水層がアメリカ北東岸沖の海の下で見つかる****
<アメリカ大西洋岸で350キロメートル以上にわたって、巨大な帯水層(地下水を含んでいる地層)があるらしいことがわかった......>

アメリカ北東岸沖の海底下で巨大な帯水層(地下水を含んでいる地層)が見つかった。この帯水層の長さはマサチューセッツ州からニュージャージー州にわたる50マイル(約80.5キロメートル)以上にわたり、これまでに見つかった帯水層の中で最大級のものだ。(中略)

この測定データを分析したところ、帯水層はアメリカ大西洋岸で350キロメートル以上に伸び、2800立方キロメートルの低塩分地下水を擁しているとみられる。氷河期に大量の水が地下の地層に蓄えられたと考えられている。(中略)

水不足地域で、貴重な水資源となる......
2018年に南アフリカ共和国のケープタウンで深刻な水不足となり、2019年6月以降、インド南東部のチェンナイでも水不足が続いている。

今回アメリカ北東岸沖で見つかった海底下の帯水層から取水する場合、ほとんどの用途で淡水化する必要はあるものの、キー准教授は「淡水化に要する費用は、海水の淡水化に比べてずっと少ない」と指摘。

「カリフォルニア州南部やオーストラリア、中東など、水不足の課題を抱える他の国や地域で大きな帯水層が発見できれば、貴重な水資源となるだろう」と期待感を示している。【7月3日 Newsweek】
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【南米ペルーの「アムナス」 先住民の知恵を取り戻して再評価し、現代科学で補って、今ある課題に解決策を与える】
新たな水資源開発だけでなく、水利用の効率化を図っていく必要があるのは、インドの事例でも指摘されているところです。

古代より人類の歴史は、水利用の歴史でもありました。
中国・黄河の治水、エジプトのナイル川洪水の利用、アンコールワットに見られる大規模な治水・灌漑システム等々。

インドにも、世界遺産にもなっている「階段井戸」と呼ばれる壮麗な巨大井戸が存在します。

そうした過去の人類の叡智を現代でも活用できる事例もあるようです。
昔からある水利用システムと言うと、中央アジアから西アジアにかけての水利システム「カレーズ」(カナート)が思い浮かびますが、下記記事は南米ペルーの「アムナス」に関するものです。

****1400年前の古代水路が現代の水不足を救う、研究****
南米ペルー沿岸部の砂漠には、長い乾期がある。そしてこの地域で古代に栄えてきた文明、インカやナスカ、チャビン、ワリなどは、いずれも雨期の降水を最大限に活用する方法を知っていた。
 
首都リマから車で2時間のところにあるアンデスの山村、ウアマンタンガでは、住民たちが今も1400年前の技術を利用している。古代水路「アムナス」だ。
 
アムナスは石造りの浅い水路で、雨期に降った雨水はここを通って砂と岩の多い場所まで流れていき、地中にしみ込む。水は地表より地下の方がゆっくりと流れるため、地下に入った雨水は、しばらく経った後で地中から泉となって湧き出る。つまり、雨期の水が乾期に使えるようになっているのだ。
 
このほど、この古代水路アムナスの機能が初めて調査された。アムナスはアンデス高地の各地にあり、放棄されたものも多い。だが、修復して活用することで、世界第2位の砂漠都市であるリマをどれだけ支えられるか、研究者たちが試算した。

人口1000万に届こうとしているリマではダムや貯水池を設けているものの、それでも不十分で、平均的な乾期には4300万立方メートルの水が不足する。リマの水の総需要は、年間8億4800万立方メートルだ。
 
雨期にリマク川流域を流れる水の34.7%をアムナスに移すことで、9900万立方メートルの水を乾期に備えて貯めることができ、これは必要量の2倍以上になると、研究者たちは報告している。この研究結果は、学術誌「Nature Sustainability」6月号に掲載された。
 
研究チームは、染料を使った追跡調査と、流路に沿った水量の計測から、古くからの水路によって水が実際に地下に移動し、山を下り、最終的に泉から出てくることを示した。そのタイムラグの長さが、大きな発見の1つだった。水は2週間から8カ月後に再び地表に現れ、地下を流れる平均期間は45日だった。
 
アムナスの利用を増やせば、乾期初めのリマク川の流量を33%増やすことができ、水の管理者が貯水池に頼るタイミングを遅らせることができそうだという。

古代水路アムナスの驚くべき正確さ
研究者たちは、地元の人々の助けを得て、どの水路がどの泉につながっているのかという位置を把握した。それが「とても正確」だと染料テストで証明され「驚かされました」と、論文の筆頭著者、ボリス・オチョア=トカチ氏は話す。

英インペリアル・カレッジ・ロンドンの土木技師である同氏は「先住民の知恵を取り戻して再評価し、現代科学で補って、今ある課題に解決策を与える」ことに大きな潜在力があるのを示した、と語っている。
 
気候変動の影響で、氷河や雪塊といった自然の貯水機能が失われつつあることを考えると、アムナスの復旧はとても有効ではないかと、米カリフォルニア大学デービス校の水文地質学者、グレアム・フォッグ氏は話す。(中略)

大型ダムは水不足の解決策にはならない
(中略)「アムナスは人が作ったものですが、水は土壌の中に蓄えられるので、自然に根差したシステムだと考えられます」と、オチョア=トカチ氏は話す。(中略)

アムナスのような解決策は、(大型のコンクリートダムのような)灰色のインフラの約10分の1の費用で済むとオチョア=トカチ氏は話す。

しかも、気候変動でペルーの降水パターンは変化しており、雨期はより雨が多く、乾期はますます雨が少なくなる傾向にある。この新たな現実に水の管理者が適応しようとしている今、費用がかさむ大型ダムを建設することは解決にならない、と研究チームは示唆している。
 
むしろ、広い範囲でアムナスを修復する方が安価であり、必要に応じて修復する数を増やすこともできるので、より柔軟なアプローチになる。

リマの水の未来を守るには、自然だけでなく古代と現代の技術を用いたハイブリッドの手法をとることが必要だと、論文は結論付けている。【7月12日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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「先住民の知恵を取り戻して再評価し、現代科学で補って、今ある課題に解決策を与える」・・・・ロマンのある話ですね。