中国  宗教へ規制・統制を強化 バチカンの中国との国交樹立という危うい選択 | 碧空

中国  宗教へ規制・統制を強化 バチカンの中国との国交樹立という危うい選択

(カトリック教会の門で、未成年者の立ち入りを見張る信者ボランティア(左)【8月28日 毎日】)

【共産党統治の安定のために信仰への規制・統制を強化】
昨日のカトリック教会の話題に続いて、今日も宗教関連の話題。と言っても、宗教というより、信仰の自由に対する国家の制約について。

中国社会にあっては、基本的に権利に関してもろもろの制約があること、信仰の自由も国家統制下にあることは今更の話で、新疆におけるイスラム教、チベットにおけるチベット仏教は厳しい制約下にあります。

そうしたなかで、先月末から宗教、特に厳しく管理しているキリスト教に対する統制に関する話題が目につきます。

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少林寺が国旗を初掲揚=宗教の「中国化」強まる****
禅の発祥地とされ中国武術の拠点としても有名な河南省鄭州市の嵩山少林寺で27日、中国国旗の掲揚式が行われた。創建から1500年を超える少林寺に国旗が掲揚されるのは初めて。

共産党による指導や社会主義制度への支持を宗教界にも求める「宗教の中国化」政策の一環とみられる。
 
寺のホームページによると、掲揚式は午前7時から釈永信住職や地元の党幹部らが出席して実施。寺は「宗教界の国家意識を高めるのに役立ち、社会主義の核心的価値観を実践するものだ」と強調した。
 
仏教やキリスト教など政府公認の宗教団体は先月末開いた会議で、「宗教の活動拠点に国旗を掲揚する」提案を採択。これを受け、釈住職は「少林寺は率先して行動する」と表明していた。
 
しかし、由緒ある寺の露骨な党への擦り寄りに、インターネット上では「茶番だ」「次は党支部でも作るのか」など批判的な書き込みが相次いだ。

これに対し、党機関紙・人民日報系の環球時報(電子版)は「米国の多くの教会にも国旗は掲揚されている。君たちは井の中のカワズだ」と反論した。【8月28日 時事】
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<中国>未成年者の宗教活動を禁止 十字架の撤去も****
中国で未成年者に宗教活動を禁じる措置が広がっている。
河南省のキリスト教カトリックの教会関係者が今年に入って当局の指示があったと証言した。仏教が盛んなチベット自治区などでも同様の指示が出た。

河南省では今月から教会にある十字架を撤去させる動きも活発化している。習近平指導部には、共産党統治の安定のために信仰の拡大を抑える狙いがあるとみられる。
 
中国では今年2月、改正宗教事務条例が施行され、宗教団体による教育への関与が厳しく制限された。未成年者への措置はこの条例を受けたものとみられる。
 
関係者によると、当局の指示後、河南省の教会では「未成年者立ち入り禁止」との看板が掲げられ、自治組織の関係者らがミサ開催日に未成年者の出入りを監視するようになった。
 
7月24日付中国紙「環球時報」(英語版)によると、仏教が盛んなチベット自治区の教育当局も、未成年者が夏休み中、宗教活動に参加しないよう通知を出した。同紙は「中国の教育法では宗教と教育の分離が定められている」と説明し、合法的措置と強調した。
 
イスラム教を信仰するウイグル族が多い新疆ウイグル自治区に限っては、自治区幹部が2016年6月、未成年者の宗教活動への参加を禁じていると公表したことがある。独立運動を抱える自治区独自の厳しい措置だったが、今回はこれが各地に広げられた形だ。【8月28日 毎日】
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中国当局、同国最大規模のキリスト教「地下教会」を閉鎖****
中国当局は、同国最大規模のプロテスタントの「地下教会」が認可なしで活動していたとして、この教会の閉鎖に踏み切った。

公式には無神論の立場を取る共産党政権が宗教への締め付けを強化していることを、改めて浮き彫りにしたと言える。
 
閉鎖されたのは、首都北京北部の目立たないオフィスビルの3階にあるシオン教会。牧師の話によると、9日午後の礼拝後、当局者約70人が教会に踏み込んだという。
 
朝陽区の民事局は、「捜査の結果、北京シオン教会は未登録で、社会組織の名目で不認可のまま活動を行っていた(ことが判明した)」と発表した。
 
中国政府は、統制下にはない組織的な運動について、宗教活動も含め警戒している。識者らは、習近平国家主席の下でそうした組織に対する監視が強化されていると指摘している。
 
中国のキリスト教徒は、「家庭教会」や「地下教会」と呼ばれる非公認の教会に通う信者と、政府公認の礼拝所を訪れる信者とに分かれている。(中略)
 
政府公認の中国基督教協会は、当局の監督を受けている教会に通う人の数が、カトリック教徒を除き約2000万人と推定している。しかし実際の信者数は、少なくとも4000万〜6000万人に達するとする見方もある。【9月10日 AFP】
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宗教をとおして、政府・共産党へ批判につながりかねないこと、あるいは共産党の権威とは別物への服従を人々が示すことを警戒してのことでしょうが、習近平政権による“共産党統治の安定のために信仰の拡大を抑える”動きが加速しているようです。

当局の規制強化に対して、100人以上の牧師が連名で政府を批判する異例の動きも。

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中国 宗教介入強める政府に100人以上の牧師が批判声明****
中国政府が、信者が急増するキリスト教や仏教などの宗教を統制下に置こうと宗教施設に国旗の掲揚を求めるなど干渉を強めているのに対し、中国の100人以上の牧師が連名で政府を批判する異例の声明を発表しました。

声明は、キリスト教の中でも中国政府の公認を受けていない、いわゆる「地下教会」の牧師ら116人が今月1日付けでネット上に連名で掲載しました。

それによりますと「中国当局はことし2月以降、教会の十字架を撤去したり、国旗の掲揚を強制したりするなど、その粗暴なやり方は文化大革命以来なかったものだ」などと強く批判しています。

また「聖書の教えに背かないかぎり政府を敬うが、政府の統制下に入ることは絶対になく、信仰の取締りも受け入れない。自由と命の犠牲を払う準備もできている」などと宣言しています。

中国政府は「信仰の自由はある」という建前ですが、最近急増するキリスト教徒や仏教徒など、宗教を信じる人々が共産党の権威を受け入れないことを警戒し、宗教施設に対する監視の強化や国旗を掲揚させるなどして統制を強めています。

国旗掲揚をめぐっては、中国を代表する武術の発祥地として知られる少林寺が先週、僧侶が国旗を掲揚する写真を発表するなど、中国政府の宗教への干渉は仏教やイスラム教など宗教全体に広がっています。【9月3日 NHK】
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ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)のウイグル族弾圧への批判に対する中国政府の見解は、「中国政府は法に依拠して国民の信仰の自由を保護している」といった木で鼻をくくるようなものです。

中国憲法では「中華人民共和国公民(国民)は、宗教信仰の自由を有する」と信仰の自由が明記されていますが、一方で「何人も、宗教を利用して、社会秩序を破壊し、公民の身体・健康を損ない、又は国家の教育制度を妨害する活動を行ってはならない」などと、宗教活動に伴う禁止事項を定めています。

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「中国政府は信仰の自由を保護している」―中国報道官****
中国政府外交部(中国外務省)の耿爽報道官は10日の定例記者会見で、米国に拠点を置く人権NGOのヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)が同日、中国政府がウイグル族の人々を弾圧していると非難したことに反発して、HRWは中国に対する偏見に満ちた組織などと厳しく非難。「中国政府は法に依拠して国民の信仰の自由を保護している」などと主張した。(中略)

さらに「新疆の問題については、ここで指摘したいことがある。新疆の大局は安定しており、経済発展の勢いは良好だ。各民族はそれぞれ調和している。新疆の社会の安定と長期にわたる平安は、各民族の人々の共通の願いであり、各民族人民の根本的利益に合致する」と、新疆ウイグル自治区が安定していることを強調。

耿報道官は続けて「新疆で実施した一連の政策措置は、安定を促し、発展を促し、団結を促し、民生の向上を促すことを旨としており、同時に、法に依拠して民族分裂とテロ犯罪活動に打撃を与え、国家の安全と人民大衆の声明と財産を保護するものだ」と論じた。

耿報道官は最後に「中国政府は法に依拠して国民の宗教信仰の自由を保護し、中国の各民族は法に依拠して宗教信仰の自由を十分に享受している」と付け加えた。(後略)【9月11日 レコードチャイナ】
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【中国・バチカンの国交樹立に向けた交渉が近く妥結・・・との報道も 危うい選択との懸念も】
中国におけるキリスト教に関しては、上記のような政府未公認の「地下教会」への圧力が強まっていますが、そうした動きとのように関係しているかはわかりませんが、長年の懸案事項であった中国とバチカンの間の国交樹立が進展するとの見方があるようです。

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バチカンが年内にも台湾と断交か、中国と月末までに交渉妥結も****
台湾メディアの中字電子報は14日、バチカンが2018年末に中華民国(台湾)と国交を絶し、中華人民共和国(中国)と国交を樹立するとの見方を示す記事を発表した。

香港カトリック教区の週報である「公教報」が、中国とバチカンの交渉が10月1日の国慶節前に妥結する見込みがあると論じたことを受けた。

バチカンは規模が極めて小さい国でありながら、カトリックの「総本山」であるために、世界全体に対する影響力は極めて大きい。中国とバチカンが外交関係を持てなかった最大の理由は、ローマ法王(教皇)による司教の任命権という、双方にとって「大原則」にかかわる問題があったからだ。

ローマ教会は歴史上、世俗権力との激烈な争いを繰り返して司教の任命権などを確立した。司教とはローマ教会が布教や信者の管理などのために設けた「教区」の責任者だ。司教の任命は教皇の専権事項だ。

一方の中国は、宗教の信仰の自由を保証すると同時に、事実上は宗教活動を国家の統制下に置いている。また、憲法には「宗教団体及び宗教事務(宗教実務)は、外国勢力の支配を受けない」(第36条)と明記しており、「外国勢力」であるローマ教皇による中国国内のカトリックの教区の司教の任命を認めることは、国家統治の大原則に反することになる。

中国が宗教関連で「外国勢力の支配」を忌避するのは、19世紀から中華人民共和国の成立まで、キリスト教組織が欧米列強による中国侵略の手引きをしたという「歴史のトラウマ」にも関係している。

香港カトリック教区の「公教報」が論じた中国とバチカン側の交渉とは、中国国内の司教任命問題を巡るものと考えてよい。これまでのところ、中国側が示した「候補者」の中からバチカン側が選び、任命するなどの方式になるなどの見方が出ている。

バチカンは欧州で唯一、台湾との国交を維持する国だ。中国はこれまで、自国と外交関係を樹立するにあたり、相手側が台湾と断交することを大原則としてきた。バチカンに対しても同じ方式を求めることはまず間違いない。

(中略)世界における影響力が大きいバチカンが台湾と断交して中国と国交を樹立すれば、台湾および蔡英文政権にとって衝撃は極めて大きい。

中国はこれまで、国内に中国天主教愛国会という団体を設立させてカトリック信者の統括をしてきた。つまり、中国のカトリック信者は「カトリック信者でありながらローマ教皇とはつながりがない」という、信仰の上で極めて異常な状態に置かれていた。

中国国内のキリスト教徒は6000万人で、当局が認めない「地下教会」に所属している信者は4000万人程度との見方がある。

一方、公認の中国天主教愛国会の信者数は約500万人だ。2013年に就任したフランシスコ教皇は、中国と公式な関係を築いた方が、中国国内のカトリック教徒およびその他のキリスト教徒の信仰の自由を保護しやすいと考えているとされる。

中字電子報の記事は、中国人民大学国際関係学部教授で、中国政府の政策立案・提言組織である国務院参事院のメンバーでもある時殷弘が「バチカンが台湾と断交するのは時間の問題」と述べたと紹介。

ただし時氏は、米国が最近になり蔡英文政権が発足した以降に台湾と断交した中南米のドミニカ、エルサルバドル、パナマの3カ国の自国大使を召還したことを指摘し、米国の動きがバチカンの決定に影響する可能性もあると指摘した。

中国にとってバチカンとの正式な関係を樹立できれば、「自らの正当性」を国際的に強くアピールする材料になり、台湾内で蔡英文政権に対する不安や不信を高める効果も大いに期待できる。

ただし、中国とバチカンの国交が樹立されれば、ローマ教皇が中国の諸政策を批判した場合、さらに大きく注目されることになる。

中国がバチカンの容認できない政策を断行した場合、国交再断絶とまではいかなくとも、「大使の一時引き揚げ」など、バチカン側が講じることのできる選択肢はより増える。

その場合、世界における中国に対する「違和感」はさらに大きくなり、中国当局は国内外に向けた説明に苦労すると予想される。【9月14日 レコードチャイナ】
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中国とバチカンの交渉は、これまでも幾度か「近々・・・」と言われつつも、そのたびに破綻してきた経緯がありますので、今回の指摘が実際の動きにつながるのかは不透明です。(現時点で、この件に関する他の報道を目にしませんので、「どうだろうか?」という感がありますが)

“10月1日の国慶節前”ではないにしても、バチカン・中国双方が国交樹立を望んでいるのは事実ですから、“そのうち”に実現する可能性は十二分にあります。

“中国と公式な関係を築いた方が、中国国内のカトリック教徒およびその他のキリスト教徒の信仰の自由を保護しやすい”・・・・・非常に微妙なところです。

確かにそうした面はありますが、一方で、中国当局の宗教規制をバチカンとして容認することにもなり、今後の規制強化にもつながる危険性もあります。

当然に、中国の信仰の自由侵害を認めることへの批判もあります。

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「中国の教会を自殺に追いやる行為だ」元香港司教の陳枢機卿、“バチカン・中国和解”を改めて批判****
バチカンと中国政府の司教任命に関する合意が目前に迫ったといわれているが、米国のカトリック・テレビ放送EWTNがこのほど放送したところによると、前香港司教の ヨゼフ陳枢機卿が同放送のニュースショーThe World Overのインタビューに答え、「Better no deal than a bad deal(悪い合意はしない方がいい)」とこれを改めて批判した。

枢機卿はさらに、近年のバチカンの対中国政策は「中国におけるカトリック教会を一段と弱体化させている」とし、「そのような弱い立場から、協議によって得るものは何もない」と断言した。

また、現在の状況について、バチカンは中国政府公認の愛国天主協会と不当に叙階された司教たちの姿勢に悩まされ、「彼らの傲慢で偽りの態度の前に沈黙している」が、”地下教会”と”愛国協会”のいずれに対しても、中国政府の方針に屈するように促している。このような行為は、われわれ中国の教会を弱める。一種の自殺に追い込む行為だ」と強く非難した。(中略)
 
「中国政府は地下教会を抹殺しようとしているのです」「多くの善意の司教たちが虐待を受けながら戦っています。ですが、合意ができれば、彼らは未来への希望を失ってしまう」と訴えた。
 
枢機卿が信徒たちを殉教に追いやろうとしている、との声があることについては、「私はそのようなことを祈ったこともありません。でも、神が私たちに信仰の証しをお求めになるのでしたら、それはありがたいことあり、お力をくださるでしょう」と語った。【3月12日 「カトリック・あい」】
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政治的な問題に関しては、並みの国家などは足元にも及ばない“海千山千”のバチカンのことですから、中国政府との“駆け引き”だか“取引”だかを進めていくのでしょうが、やはり中国政府による規制の実態を追認し、お墨付きを与えてしまうような感があり、不安です。