監視社会 その効用と不気味さ・危険性 隠さない中国の方が欧米より透明性があるぐらい・・・との指摘 | 碧空

監視社会 その効用と不気味さ・危険性 隠さない中国の方が欧米より透明性があるぐらい・・・との指摘

(ハイテク鳥型監視ドローン【6月26日 CNET News】)

【「ロボット鳥」や「ロボット蜂」が監視する社会】
ふた昔ぐらい前は、鳥のようにはばたいて空を飛ぶというのは“かなわぬ夢”でしたが、現代のテクノロジーはその夢をとっくに現実のものにしているようです。しかも、ただ飛ぶだけでなく・・・・

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中国、鳥型のハイテクドローンで国民を監視****
空を見上げると、1羽の可愛らしい鳥が優雅に飛んでいる。まさに美しい自然の鳥かと思うと、それはハイテクな監視ドローンかもしれない。

中国ではこの数年間に、少なくとも5つの省で、30を超える軍事機関や政府機関が鳥の形をしたドローンを使って市民を監視しているという。South China Morning Postが現地時間6月24日に報じた。

報道によると、このプログラムは「Dove」(ハト)というコード名で呼ばれ、西安市にある西北工業大学の教授、Song Bifeng氏の下で実施されているという。Song氏はかつて、中国の第5世代ステルス戦闘機「J-20」に関する上級科学者を務めていた人物だ。

この鳥のようなドローンは、電気モーターで動くクランク機構を2つ搭載し、本物の鳥の羽ばたきを模倣する。また、高解像度カメラ、GPSアンテナ、飛行制御システム、それに衛星通信が可能なデータリンクを搭載しているという。

「まだ規模は小さい」と、Song氏のチームで働くYang Wenqing氏は、South China Morning Postの取材に対して語っている。Yang氏によれば、研究者たちは「このテクノロジが将来大規模に利用できる可能性を秘めており、(中略)軍事部門や民間部門におけるドローンのニーズに対応できる、ほかにはない優位性を持っていると考えている」という。

ただし、中国にとって監視体制の強化が急務というわけでもないようだ。中国はすでに、顔認識機能、人工知能(AI)、スマートグラスなど、さまざまなテクノロジを駆使して約14億人の国民を監視しているとされ、いずれは国民一人ひとりを、その行動に基づいたスコアで評価することを目指しているという。【6月26日 CNET News】
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“重さは200グラム、翼のさしわたしは50センチメートル、最大飛行時速は40キロメートル、航続時間は30分。高性能カメラと震動の影響を抑制するソフトウェアが採用されており、高精度の映像を撮影することが可能。飛行経路などは衛星測位システムで制御する。”【6月27日 レコードチャイナ】ということで、軍事的に見た場合、レーダーでも肉眼でも本物の鳥との識別ができないというメリットがあるようです。

優雅にはばたくということにこだわらなければ、昆虫型ドローンはイスラエルやアメリカがすでに軍事的に使用している・・・といった話も数年前から聞きます。

「ロボット鳥」や「ロボット蜂」がそこらを飛び回り、常に、こっそりと、人々の行動を監視している・・・そんな映画・ドラマの世界が現実のものになってきています。


【中国監視社会の“三種の神器” 信用の可視化 「天網」 「金盾」】
上記記事最後にもあるように、この分野で最先端を行く(あるいは、そのことを隠そうとしない)のが中国で、超監視社会を構築しつつあることは、これまでも再三取り上げてきました。

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中国監視社会の“三種の神器” 個人の自由はもはやない****
中国の監視システムが、テクノロジーの発展によって大きく進歩していることは、近年、メディアでも報道されるようになった。中国の監視社会を支えるシステムについて、次の3つを取り上げたい。

まず一つ目のシステムは、「信用中国(クレジット・チャイナ)」だ。習近平政権が、百度(バイドゥ)の技術協力を得て、2015年に稼働を開始した。

同システムは、個人情報に基づき、利用者がどれほど「信用」できるかを数値化している。今月1日には、航空機や鉄道の利用を拒否された計169人のブラックリストを公開。一方で、信用が高ければ、中国当局から表彰される仕組みとなっている。

このシステムは、監視というネガティブな側面よりも、中国政府にとって望ましい人民をつくり出す方向に主眼を置いているのが特徴的だ。

中国では、そうした信用力で人々をコントロールする考え方が広まっている。

その象徴が、アリババの関連会社である「芝麻信用」。同社がつくる信用度の指標と他社のサービスを連結することで、例えば、信用度が高ければ、優先的に予約できたり、金額の面で優遇されたりするサービスが始まっている。

大衆監視の「天網」
二つ目は、「天網(スカイネット)」。

これは、2012年に北京市から本格導入されたシステムであり、AIの監視カメラと犯罪者のデータをリンクさせ、「大衆監視」を効率的にしたものだ。13億人の中から1人を特定するのに、約3秒しかかからないという。

中国の都市部には、2000万台を超える監視カメラが設置されているとされ、2020年までに、そのカバーエリアが全土に拡大されるとしている。

さらに香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、このシステムが、マレーシアの警察に提供されたと報じられており、監視網は、中国だけでなく、世界にまで広がりつつあるという。

ネット監視の「金盾
三つ目は、インターネットを監視する「金盾(いわゆるグレートファイアウォール)」。

中国は1993年に、情報化・電子政府化を目指す戦略を策定し、その中に「公安の情報化」を盛り込んだ。このシステム開発には、多くの多国籍企業が協力。検索ワードやメールの送受信、人権活動、反政府活動などを「検閲」し、ネットのアクセスの自由を厳しく制限している。(中略)

中国は、こうした“三種の神器”とも言える監視システムを駆使して、人民をコントロールしている。興味深いのは、一部のシステムは、海外に輸出されたり、多国籍企業が協力したりしていることだ。

つまり、監視システムは国境を越え、世界に影響を与えており、日本としても対岸の火事ではないと言える。

日本は、「個人情報保護の後進国」であるが、プライバシー権の確立など、自由を守るための対策を急ぐべきである。
【6月17日 The Liberty Web】
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【監視技術の効用と不気味さ・息苦しさ その先には大きな危険性も】
“監視”技術は、大きな効果を発揮するのも事実です。
中国では、さまざまな技術を駆使した対応で、悪評高い交通マナーも急速に変わりつつあるとか。

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監視社会の利点と怖さ ****
この春に上海に赴任となったが、街を訪れたのは半年ぶりだった。中国の都市の変化の早さは実感していたつもりだったが、半年前と様変わりした光景に改めて驚いた。
 
以前の上海では必要がなくても歩行者にクラクションを鳴らす運転手が多かった。さらに「歩行者優先」ではなく「車優先」と言わんばかりに走る道路では、油断して歩いていると命の危険を感じた。ただこうした光景は最近はみられなくなった。
 
理由は当局の取り締まりの強化だ。顔認証技術と音を拾うこともできる街中の監視カメラを使い、歩行者優先を守らない車や、無駄にクラクションを鳴らす運転手を特定して摘発した。

機械による取り締まりの効果は一目瞭然で運転手のマナーは向上。街中が安全になるのはよいことだが、中国の監視カメラの技術力を改めて実感すると同時に、監視社会の怖さも感じてしまった。【6月27日 日経】
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当然ながら、常に監視されている不気味さ・息苦しさも。

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中国監視社会の実態、自由闊達な深センの「裏の顔****
香港特別行政区の北側に隣接する深セン市は、「中国のシリコンバレー」として、昨今世界中から熱い視線を集める新興都市だ。だが、自由闊達なイノベーションの一大拠点という輝かしい一面の裏には、治安維強化の厳しい現実があった。

深センの出入境ゲートで指紋と手の甲をスキャン
・・・・(香港の北端・東鉄線終点の羅湖駅で)車両から吐き出された乗客のほぼ全員が、越境ゲートを目指して歩く。(中略)境界となる細い川を渡るとそこは中国本土、空気はガラリと変わり「厳しい管理下」に置かれたことを察知する。

天井にぶら下がるのは無数の監視カメラだ。いまどき日本でも監視カメラは珍しくないが、これほどの数となるといい気分はしない。
 
出入境ゲート(形態は空港のイミグレーションとほぼ同様)では、パスポートの提示だけでは済まされなかった。親指を除く四本の指の指紋に加えて、左右の手の甲のスキャンを要求された。

指紋による認証は、2017年から深センのイミグレーションや越境ゲートで始まって全国で導入され、上海の空港でも、この4月から10本の指の指紋が取られるようになったばかりだ。
 
近年、中国政府は二重国籍者への取り締まりを強化していることから、生体識別を役立てるつもりなのかもしれない。

とはいえ、吸い取った後の膨大な個人データは「どんな形で二次利用されるのだろうか」と不安になる。中国IT企業の成長は著しいが、その技術がこうした監視体制の強化に使われていることは間違いない。
 
手続きが終わり、深センでの第一歩を踏み出す。自由と法治の都市である香港から来た乗客らを待ち受けていたのは、全面真っ赤な共産党スローガンだった。習近平国家主席による新時代の「特色ある社会主義思想」の徹底を強調したものだ。

黒い制服組の公安が地下鉄内を巡回
・・・・(地下鉄乗車前の)セキュリティチェック体制は、まるで飛行機に搭乗するかのように厳重だ。

(中略)やっとの思いで地下鉄に乗ると、今度は “黒い制服組”が乗客と一緒に列車に乗り込んできた。背中には「列車安全員」とあり、扉が閉まるや、早速車内の巡回を始めた。

全身黒づくめの制服なので、妙な威圧感がある。彼らはいわゆる「公安」で、2017年8月から深センで全面的に始まった治安維持のために巡回しているというのだ。
 
駅構内には、2人の公安に挟まれ尋問されている女性がいた。どうしたのかと見ていると、公安の1人が自分のスマートフォンを取り出し、動揺する女性に向けてシャッターを切った。

身なりもごく一般的で、会社勤めとおぼしき普通の女性だが、彼女が何をしたというのだろう。深センではこんなことが公然を行われているのかと戦慄を覚えた。
 
中国では2015年に国家安全法が成立し、その後、毎年4月15日を「国家安全教育日」として、全国で教育強化を実施するようになった(今年から香港でもその導入が始まった)。こ

れほどの警戒を高めるのは“治安維持月間”に重なったためなのかもしれないが、翻せば想像以上に治安が悪いのかもしれない。(後略)【6月15日 姫田小夏氏 DIAMOND online】
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“不気味さ・息苦しさ”で済んでいる間はいいですが、監視情報をもとに、実際にある日突然自分の身に当局の手が伸びてくると・・・・。

きちんと社会ルールを守る“まっとうな市民”は何も心配する必要はない・・・というのは監視する側の考えでしょうが、何が“まっとう”かどうかを決定するのは権力・当局の側です。


【情報収集は欧米も同じ 「中国政府は情報を集めていることを隠さない。中国のほうが透明性があるくらいだ」】
中国はこうした監視体制で最先端を行くだけでなく、そのことをあまり隠そうともしませんので、中国社会の特徴としてよく取り上げられますが、基本的には「スノーデン事件」に見られるように、欧米社会でも同様でしょう。

また、最近の「フェイスブックの情報流出」に見られるように、意識しない間に集められた情報がどのように使用されているのか・・・という問題に直面しています。

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 <スノーデン事件> 英紙ガーディアンが2013年6月、「米国家安全保障局(NSA)が米電話会社の通話記録を毎日数百万件収集」と報道。米中央情報局(CIA)元職員、エドワード・スノーデン氏が「情報源」として名乗り出た。その暴露文書からは、大手IT企業が個人情報収集に協力していたことも判明。日本を含む世界38の大使館や代表部、メルケル独首相、欧州連合や国連本部が盗聴・監視対象だった疑惑も浮上した。

 <フェイスブックの情報流出> 米交流サイト最大手、フェイスブック(FB)の最大8700万人分の個人情報が、選挙コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ(CA)」に流出。CAから費用提供を受けたロシア系米国人教授が独自のFBアプリを開発し、学術目的名目でこれらの情報を入手。2016年の米大統領選に影響を与えたと指摘される。【6月20日 朝日】
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ロンドンが世界有数の監視カメラ都市であることは有名ですし、先日のアメリカ・メリーランド州の州都アナポリスで発生した銃撃事件でも容疑者の特定に顔認認証システムが役立ったようですが、そのことへの疑念・批判の声もあります。

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顔認証技術でメリーランド州銃撃容疑者特定 個人情報めぐり批判の声も****
近年、人権団体から批判を受けていた顔認証システムが28日に米メリーランド州の州都アナポリスで発生した銃撃事件の容疑者の特定に役立っていたことが明らかになった。
 
警察によると、逮捕歴のあるジャロッド・ラモス容疑者は、日刊紙キャピタル・ガゼットの編集室を銃撃し5人を殺害した後、身柄を拘束されたが、捜査への協力を拒み、指紋からもすぐには身元を割り出せなかった。
 
同州アナランデル郡の警察本部長ティモシー・アルトメア氏は、顔認証システムがなければ容疑者の特定にもっと時間がかかり、捜査を先に進めることもできなかっただろうと述べ、「われわれにとっても、アナランデル郡の住民にとっても大きな成果だった」と主張している。
 
顔認証は警察や国境警備隊などの法執行機関、商業目的でも利用されているが、人権活動家らは、データベースの管理が不十分であるため、個人情報が流出する危険があると警鐘を鳴らしている。
 
米ジョージタウン大学プライバシー&テクノロジーセンターが発表した2016年の報告書によれば、メリーランド州公安局の顔認証データベースは2011年以降、一度も監査を受けたことがない。
 
同報告書によれば、このデータベースには約700万人分の運転免許証用の顔写真と、「犯罪者」として特定されている300万人の顔写真が保管されており、さらに連邦捜査局が管理する2490万人分の犯罪容疑者の顔写真も検索可能となっている。
 
顔認証はスマートフォン「iPhone X(アイフォーン・テン)」のロック解除機能や、「スマイル・トゥ・ペイ」などの決済技術にも組み込まれている。

■有色人種や女性の顔認証ではエラーが発生しやすい
個人情報保護活動家らによれば、顔認証は令状なしの捜査に使用される可能性がある上、有色人種や女性の顔を認証する際にエラーが発生しやすいという不完全な面がある。

中国では反体制派や交通規則を無視して道路を横断した人の特定にまで顔認証が利用され、違反者の顔写真が電光掲示板にさらされることもあると指摘する活動家らもいる。
 
米インターネット通販大手アマゾン・ドットコムが法執行機関と協力して顔認証技術「レコグニション」を開発していたことが明らかになり、これを中止させるための抗議活動と署名運動が起きた。
 
しかしマイクロソフトやフェイスブックなど多くの大手IT企業は、データベースの画像とサービス利用者の顔を一致させるアルゴリズムに頼る顔認証技術を利用している。例えばグーグルの画像ライブラリーにある家族や友人を見つける機能にも、この技術が使われている。
 
ジョージタウン大学の報告書によると、メリーランド州のシステムには日本のNECとドイツのコグニテック社が開発したアルゴリズムが採用されている。
 
同報告書は、米国では成人の半数近くが顔認証ベータベースに登録されている一方で、技術の不正利用を防止するための重要な対策を行っている機関はほとんどないと指摘している。【6月30日 AFP】
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「米政府が大量の通信記録を集めていたことが暴露されたスノーデン事件後、批判を受けて『米国自由法』が制定され、政府によるネットの監視活動はある程度制限された。
逆に英国では、秘密裏にIT企業に広範な協力を求めるようになった。他国でも、政府がIT企業を通じて行う情報収集を合法化する動きが出ている」

「ネット管理は、技術的な問題よりもプライバシーに対する各国の考え方や文化が反映される。
多くの中国人はプライバシーを政府に渡すことに嫌悪感を抱かない。また、自国のデータは自国で管理する『データ主権』の考えがある。
米国では、インターネットは自由な言論空間であるべきだと考え、政府の干渉を嫌ってきた歴史がある。
一方、欧州連合(EU)は企業が個人情報をどれだけ持っているかを気にする。我々のルールに従わなければ域内で商売させない、という姿勢でもある」(電子フロンティア財団国際部長ダニー・オブライエン氏)【6月20日 朝日】

“GDPR(企業や団体が欧州域外に個人情報を持ち出すことは原則として禁止しるデータ保護規則)を推進するフランス大統領のマクロンは、人権を守るべき米政府が企業に寄り過ぎ規制が甘いと批判。中国も「過度に中央集権的で、我々とは価値観が異なる」と語り、両者のいずれとも違う「欧州モデル」を模索する。”【6月4日 朝日】

監視社会の在り方について、中国、アメリカ、欧州では考え方の違いもありますが、「欧米でも市民の知らないところで政府が個人情報を集めてきた。中国政府は情報を集めていることを隠さない。中国のほうが透明性があるくらいだ」(中国進出を狙う米企業のコンサルタントなどを手がけるベイ・マクローラン氏)【6月4日 朝日】という指摘もあります。