イエメンで激化するフーシ派のミサイル攻撃 サウジは本当にパトリオットで防衛できているのか? | 碧空

イエメンで激化するフーシ派のミサイル攻撃 サウジは本当にパトリオットで防衛できているのか?

(PAC-3を警備する自衛隊員。REUTERS/Issei Kato【2017年12月6日 BUSINESS INSIDER】)

【“和平模索の動き”は進んでいるのか? サウジへのミサイル攻撃を強めるフーシ派】
中東最貧国イエメンの内戦が本格化してから3年以上が経過しています。
サウジアラビアとイランの代理戦争とも言われる内戦に加え、飢餓、コレラの惨禍も加わって、国連等からは人道上の危機が叫ばれてはいますが、犠牲者は増えるばかりです。

下記記事にあるように、一部では和平を模索する動きがあるとも報じられてはいますが・・・・どうでしょうか?

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<イエメン>内戦3年、惨禍続く 米で和平模索の動き****
サウジアラビア主導の連合軍による空爆開始でイエメン内戦が本格化してから26日で3年を迎える。

国連によると、この間に約6000人の市民が巻き添えで死亡し、国民全体の約8割の約2200万人が食料などの人道支援を必要とする。

対イランでサウジとの連携を強めるトランプ米政権だが、内戦が「今世紀最悪の惨禍」(国連)と言われる中、米議会にはサウジへの軍事協力停止を求める声があり、和平模索の動きも出ている。
 
「平和的解決に向けて緊急の努力が必要だ。この紛争を終わらせなければならない」。マティス米国防長官は22日、国防総省で会談したサウジのムハンマド皇太子兼国防相に語った。また、2月に国連事務総長の新たなイエメン担当特使が任命されたことを踏まえ、政治的解決を一気に図ろうと呼びかけた。
 
内戦は、イスラム教スンニ派のハディ暫定政権支援を名目にサウジがアラブ首長国連邦(UAE)などと連合軍を形成する一方、反政府派でイスラム教シーア派系の武装組織フーシをイランが支援する構図。

サウジとイランの「代理戦争」とも言われており、サウジはムハンマド氏の国防相就任直後の2015年3月26日、威信をかけて空爆を開始した。
 
サウジに対し、米国は精密誘導弾などの武器売却や偵察情報の提供で協力してきた。

だが内戦の泥沼化と民間人の被害拡大を受け、与党の共和党議員も加わる上院の超党派議員がサウジへの軍事協力を止める決議案を提出。ムハンマド氏の訪米に合わせた20日の採決では決議案見送りに賛成55票、反対44票という結果になったが、議会内で今後、内戦終結をサウジに求める声が高まる可能性がある。
 
和平実現に向けた交渉は水面下で始まっている。サウジ、イラン双方と良好な関係を築くオマーンが仲介し、中東メディアはサウジとフーシが直接協議していると伝える。

マティス氏も今月13日にオマーンを訪問してカブース国王と会談するなど、紛争解決に向けた努力を続ける。
 
トランプ大統領は20日のムハンマド氏との会談で、サウジが武器を中心に大量の米国製品を購入していることに触れ「4万人以上の雇用増を米国にもたらしている」と評価。

その一方、イエメン国民が人道危機にさらされていることもあり、ポンペオ中央情報局(CIA)長官によると、毎朝のブリーフィングでもイエメンの状況について詳しく質問するという。
 
イエメンでは気温の上がる春以後、コレラなど伝染病の拡大も懸念され、紛争解決が急務となっている。【3月24日 毎日】
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サウジアラビアに大量の武器を売り込み、基本的に中東に関心がないトランプ大統領が“毎朝のブリーフィングでもイエメンの状況について詳しく質問する”・・・・何を気にかけているのか、ぜひ知りたいところです。

上記は約1か月前の記事ですが、その後、オマーンを仲介とした和平の動きについては進展を聞きません。(水面下の話は知りようがありませんが・・・)

聞こえてくるのは、激しさを増す戦闘とイエメン国民の悲惨な状況に関するニュースばかりです。

“内戦下のイエメン、子ども50万人が通学断念 教育機会の欠如は200万人に”【3月27日 AFP】
“イエメン火災でWFP倉庫燃える、支援物資が焼失”【4月1日 AFP】

戦闘状況に関しては、反政府勢力フーシ派が、暫定政権を支援して空爆を主導しているサウジアラビア本国に対するミサイル攻撃を強めていることです。

“サウジへ再びミサイル、1人負傷=イエメンから発射”【3月31日 時事】
“サウジ軍、イエメン反政府組織フーシ派のミサイル迎撃に成功”【4月1日 AFP】
“イエメン武装組織、紅海で石油タンカー攻撃=サウジ敵視強める”【4月3日 時事】
“イエメン反政府組織、サウジにミサイル・無人機攻撃 軍が撃墜”【4月12日 AFP】


【フーシ派の対決色を強めさせる出来事も】
ここにきて、フーシ派の攻撃をさらに激化させそうなサウジアラビア等のふたつの攻撃がありました。

ひとつは“誤爆”が疑われる空爆による民間人犠牲。

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結婚式場に空爆、少なくとも20人死亡 イエメン****
内戦が続く中東イエメンの北西部で22日、結婚式の会場が空爆され、ロイター通信によると、出席者ら少なくとも20人が死亡し、数十人が負傷した。

同通信などは、イエメンに軍事介入しているサウジアラビア主導の有志連合軍による攻撃だと報じている。
 
同通信は、地元の病院関係者の話として、けが人には子ども30人が含まれていると伝えた。有志連合軍の報道官は「報道を重く受け止め、十分な調査がなされる」と語った。(後略)【4月23日 朝日】
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被害者数については“少なくとも33人が死亡、41人が負傷した。死者には女性と子どもが少なくとも17人含まれていたとされる”【4月24日 CNN】とも。

サウジアラビア等有志連合の空爆による民間人犠牲者の多さは、以前から指摘されているところです。
“国連の報告によると、内戦でこれまでに死亡した民間人のうち、有志連合の空爆による死者は61%を占めている。”【4月24日 CNN】

トランプ大統領は、アメリカがシリアから撤退した際の穴埋めにサウジアラビア等のアラブ連合軍を配置することを考えているようですが、民間人犠牲を減らせない、あるいは、減らす気があまりない国をこれ以上シリアに呼び込むことは、新たな火種をつくることにもなりかねない気もします。すでにアサド政権側は民間人犠牲をかまうことのない攻撃を行っています。

サウジアラビア等によるもう一つの攻撃は、フーシ派政治指導者の殺害です。

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イエメンのフーシ派、空爆で政治指導者死亡 サウジ連合軍を非難****
イエメンのイスラム教シーア派反政府武装勢力「フーシ派」は23日、サウジアラビア主導の連合軍が行った先週の空爆でフーシ派の政治部門指導者サレハ・サマド氏が死亡したと発表し、連合軍を非難した。
 
フーシ派はサバ通信を通じ声明を発表。フーシ派最高政治評議会議長であるサマド氏が19日、イエメン西部ホデイダ県で「殉教」したと発表した。
 
2015年3月以来、イエメン政権軍と内戦状態にあるフーシ派にとってサマド氏の死亡は大きな打撃となる。フーシ派はイランと同盟関係にある一方、イエメン政権はサウジアラビア主導の連合軍の支援を受けている。
 
フーシ派全体の指導者であるアブドゥルマリク・フーシ氏は、「この犯罪が報復されずにいることは決してない」と警告した。(後略)【4月24日 AFP】
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政治部門指導者殺害はサウジアラビアにとって“大きな成果”かもしれませんが、フーシ派の報復攻撃を招くことも確かです。

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対サウジ、ミサイル発射激化=幹部殺害で報復も―イエメン武装組織****
イエメン内戦に軍事介入しているサウジアラビアに対し、イエメンのイスラム教シーア派系武装組織フーシ派が弾道ミサイル攻撃を強めている。

22日はサウジ南部ナジュラン、23日も南西部ジザンを狙って連日発射し、いずれもサウジ軍が迎撃した。

フーシ派掃討を名目としたサウジの介入から3年が過ぎても内戦終息の兆しはなく、対立は激化の一途。サウジは防空態勢強化を余儀なくされている。
 
フーシ派支配下のイエメン北西部では22日、結婚式会場が空爆に遭い、現地当局によれば約30人が死亡した。20日には民間車両が爆撃され乗客ら20人が死亡。いずれもサウジ主導の連合軍の攻撃とみられ、フーシ派が報復としてミサイル発射を繰り返している可能性が高い。
 
フーシ派は23日、系列メディアを通じ、西部ホデイダで19日に行われた空爆で政治部門トップのサレハ・サマド氏が死亡したと明らかにした。サマド氏には、連合軍が拘束につながる情報提供に2000万ドル(約22億円)の報奨金を用意していた。
 
ただ、サマド氏は内戦終結に向けた交渉に前向きとも伝えられていた。フーシ派指導者アブドルマリク・フーシ氏は「この犯罪に必ず報復する」と宣言しており、フーシ派は一段と対決色を強めそうだ。【4月24日 時事】 
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【サウジの迎撃への疑問 「PAC2」なのか「PAC3」なのか?】
サウジアラビアが迎撃に使用しているのはパトリオット。日本も対北朝鮮ミサイルのために配備しています。
サウジアラビアがパトリオットで有効に迎撃できているなら、日本も・・・という話にもなります。

フーシ派が強める(イラン製とされる)ミサイルによるサウジアラビア攻撃、サウジラビアによるミサイル迎撃については、疑問点がふたつあります。

ひとつは、サウジラビアが使用しているパトリオットのタイプ。報道やネット情報など、“PAC2”とするものと、日本が配備している“PAC3”とするもの・・・が混在しています。

サウジアラビアが両方アメリカから購入しているのは間違いありませんが、実際に使っているのはどっちなのか?

“2018年初頭時点でサウジアラビアが保有しているパトリオットは、PAC2およびPAC3であるが、後者は実戦配備に至っていないとの観測があり、多くはPAC2にて対応したものと考えられている。”【ウィキペディア】

軍事方面の知識がないのでよくわかりませんが、話は単純ではないようにも。

Nose Nobuyuki 氏は“サウジアラビア軍はパトリオットPAC-3システムによって迎撃、空中で撃破”としたうえで、“PAC-3システムは様々なバリエーションがあり、そのまま自衛隊による弾道ミサイル迎撃と比較することはできない”とも。

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そのまま自衛隊による弾道ミサイル迎撃と比較することはできない*****
ところで、発射された弾道ミサイルに対応してPAC-3システムの迎撃ミサイルが空中での撃破に成功…という流れは自衛隊の弾道ミサイル防衛と重なって見えるが、その点については不明だ。

というのはPAC-3システムには様々なバリエーションがあり、システム構築の仕方によって迎撃ミサイルの種類や通信系統等も変わって来るからだ。

迎撃ミサイルそのものがPAC-2GEM-Tなのか、PAC-3ミサイルなのか、それともPAC-3MSEなのかが判然としていない。(ミサイル自体の名称にPAC-3があるのでPAC-3システムと混同しないように気を付けたい)

日本のPAC-3システムの場合、PAC-3コンフィギュレーション3という段階にあり、対航空機用PAC2-GEMミサイルを搭載、さらに弾道ミサイル対処能力のあるPAC2-GM-Tに限りなく近い改修を施している。さらにPAC-3MSEというPAC-3ミサイルの射程延長型の導入も予算化されているという状況だ。

サウジアラビアがどんなシステムを構築して、どんな迎撃ミサイルをどのように発射したかが注目点となる。ブルカンH2弾道ミサイルは先月もリヤドのキング・ハーリド国際空港近くまで飛来、迎撃されている。【2017年12月 「ホウドウキョク」】
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一方、サウジアラビアの迎撃の成果を分析しているジェフリー・ルイス氏(ミドルベリー国際大学院東アジア不拡散プログラム・ディレクター)は、サウジアラビアが使用しているのは「PAC2」としています。

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公正を期すために付け加えるなら、サウジアラビアに配備されているパトリオットの改良型「PAC2」は、ホーシー派がリヤドに向けて発射している「ブルカン2H」の迎撃に向いていない。ブルカン2Hの飛行距離は約1000jで、弾頭が胴体部分から分離するタイプのようなのだ。【4月10日号 Newsweek日本語版】
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Nose Nobuyuki 氏が指摘するようなシステム名とミサイル名の問題もあって、素人にはよくわかりません。
この問題にこだわったのは、二番目の疑問点、「本当にサウジアラビアは迎撃に成功しているのか?」ということに関係してくるからです。


【本当に迎撃に成功しているのか?】
迎撃に成功しているなら、「PAC2」でも「PAC3」でもどちらでもかまわないのですが、実際は失敗している・・・という話で、かつ、それが日本が配備している「PAC3」だということになると、「じゃ、日本のパトリオットは役に立つのか?」ということにもなります。

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フーシ派のミサイルを撃ち落とせなかったPAC3は頼りになるのか****
<イエメンからサウジアラビアに発射されたミサイルは、アメリカ製ミサイル防衛を突破して着弾していた。これで対北防衛は大丈夫か>

北朝鮮が予想を上回るスピードでミサイルの射程と威力を増大させているというのに、アメリカが誇るミサイル防衛システムの性能に疑問が生じている。最新の報告書は、アメリカの同盟諸国にとってさえ信頼に値しないレベルかもしれないと示唆している。(中略)

(11月のミサイル攻撃に関し)サウジアラビアは、フーシ派のミサイルはアメリカ製の地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」(PAC3)よって撃ち落とされた、と発表した。アメリカが世界各地に配備しているミサイル防衛システムだ。

ところが、アナリストのジェフリー・ルイス率いるミドルベリー国際大学院モントレー校の調査チームは、最新のレポートのなかで、それとは異なる「発見」を明らかにした。サウジアラビア当局やドナルド・トランプ大統領の言葉に疑問を投げかけるものだ。

ルイスはニューヨーク・タイムズ紙に対し、「各国政府はPAC3の性能についてとかく嘘をつく。あるいは誤った情報を伝えられている」と語る。「だとすれば、大いに憂慮すべきことだ」

ブルカンH-2は防衛網を突破した
ルイスの調査チームは、ソーシャルメディアで入手した写真や動画を分析した結果、サウジアラビアのPAC3から発射された5発の迎撃ミサイルは、飛んできたミサイルに当たらなかったと結論づけた。フーシ派が発射した短距離弾道ミサイル「ブルカンH-2」は、ミサイル防衛網を突破して着弾したという。

フーシ派が発射したミサイルは目標とみられる国際空港から約0.5マイル(800メートル)逸れて着弾したが、「スカッドの場合、このぐらい逸れることはよくある」とルイスは言う。フーシ派のブルカンH-2は、旧ソ連のスカットミサイルをベースにしたものだ。

「あと一歩で空港は壊滅するところだった」と、ルイスはニューヨーク・タイムズに語っている。

イエメン周辺でフーシ派と戦うサウジアラビア連合の広報担当者は、11月4日の攻撃の直後にBBCニュースで、ミサイルは「迎撃した」と語った。

(中略)イランを敵視するトランプも、ここぞとばかりにアメリカの軍事技術の有意性を強調した。

CNNによれば、11月5日に大統領専用機エアフォースワンで会見したトランプは、「われわれは世界最高の兵器を有している」と言った。「......ミサイルが消えるのを見ただろう? アメリカの防衛システムが空中で撃ち落としたのだ。それほどアメリカは優れている。どの国もアメリカの真似はできない。アメリカはいま、それを世界中に売っているのだ」

しかしルイスの調査チームは、もしサウジアラビアの迎撃ミサイルが当たっていたとしても、フーシ派が発射したミサイルの後方部分に当たっただけで、それは弾頭から切り離された不要な部分だったと推定している。弾頭は、ほぼ間違いなく地面に着弾したという。

フーシ派は、米軍にとって大きな脅威ではないかもしれない。だが、ミサイル攻撃を阻止できなかったとされるPAC3は、それよりはるかに怖い敵、すなわち北朝鮮に対する防衛の主力として位置づけられている。【2017年12月6日 Newsweek】
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【全てのミサイルをたたき壊す魔法の杖はない】
ジェフリー・ルイス氏は、昨年11月、12月、そして今年3月25日のミサイル攻撃について、【4月10日号 Newsweek日本語版】で「揺らぐパトリオット神話」と、改めて“迎撃失敗”を主張しています。

自国民や関係国を安心させるため、あるいは国際的に威信をまもるための“大本営発表”は、ありがちな話でもあります。秘密主義で閉鎖的なサウジアラビアのことはよくわかりません。

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安全と信じることが危険****
危険なのは、サウジアラビアとアメリカの指導者らが、自分たちのばかげた主張を信じるようになることだ。
 
その兆候は既にある。複数の米当局者が、17年11月に迎撃成功の例はなかったと確認したにもかかわらず、ドナルド・トランプ米大統領は全く異なる考え方を示した。
 
「わが国のシステムが、空中からミサイルを排除した」と、トランプは問題の攻撃があった翌日に記者団に語った。「これはわが国がいかに優れているかを示している」
 
トランプは同様の発言を繰り返している。北朝鮮の核ミサイルの脅威について問われたときも「わが国には、97%の確率でミサイルをたたき壊せるミサイルがある。それを2発、発射すれば撃墜は可能だ」と主張。ミサイル防衛があればアメリカは安全だと確信しているようだ。
 
あまりに危険な「安全神話」だ。特に今、トランプ政権はイランとの核合意を破棄する構えに見える。

これによってイランが北朝鮮と同じように、周辺地域にあるアメリカの友好国を、そして最終的にはアメリカ自体を攻撃できる核の能力を開発する道をたどる可能性がある。

だからこそ私たちは、真実を見据えなくてはならない。ミサイル防衛システムは、ますます高性能になるミサイルがもたらす難題の解決策にはならない。核兵器の攻撃の対象となることから逃れる手段を提供するものでもない。
 
アメリカとその同盟国を狙う全てのミサイルをたたき壊す魔法の杖はない。それらの兵器を造らないよラ各国を説得することが唯一の解決策だ。それに失敗すれば、防衛システムが私たちを助けてくれることはないのだから。【4月10日号 Newsweek日本語版 ジェフリー・ルイス氏「揺らぐパトリオット神話」】
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