カンボジア  中国の支援のもとで独裁に突き進むフン・セン首相 野党も解党 | 碧空

カンボジア  中国の支援のもとで独裁に突き進むフン・セン首相 野党も解党

(プノンペンの(解党を命じられた野党)救国党本部は17日、シャッターが閉められ静まりかえっていた【11月19日 朝日】)

【中国の後ろ盾で独裁へ突き進むフン・セン首相】
今、中国・広州の空港で乗継便を待っています。これからカンボジアへ向かいます。
今回旅行は、アンコールワットで有名なシェムリアップでのんびりと・・・・という予定です。

シェムリアップ・アンコールワットは15年前に一度。その後、10年前に首都プノンペンを観光していますので、カンボジアは3回目です。

これまで長期政権を維持してきたフン・セン首相は、これまでも強権的との批判はありましたが、野党の支持が高まるなかで、いよいよその強権的手法を露骨にし、独裁に近づくような状況にあります。

そのフン・セン政権の後ろ盾になっているのが、またしても“大国”を目指す中国・・・・

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中国の庇護の下、独裁制に転落するカンボジア****
最近カンボジアのフン・セン首相が野党やメディアの弾圧に乗り出していることについて、英フィナンシャル・タイムズ紙が、中国の庇護の下に権威主義的な専横が進む状況に憂慮を表明する社説を9月8日付けで掲載しています。要旨は次の通りです。
 
カンボジアの新聞「Cambodia Daily」の最後の紙面(9月4日)の見出しは「露骨な独裁制への転落」というものであった。そこには3日の夜中に逮捕されることとなる最大野党の党首の写真があった。
 
「Cambodia Daily」は1993年に創刊された独立系の英字紙であるが、政権による自由の抑圧を報道したがためにフン・セン首相によって廃刊に追い込まれた。
 
最大野党救国党の党首ケム・ソカの逮捕は抑圧を強化するもので、フン・センは明年7月の選挙を前にして、彼の不安感を露わにすることとなった。

彼は「カラー革命」が起こる心配を口にし、野党の地滑り的勝利が30年の政権掌握に終わりを告げることを怖れている。

彼はあと少なくとも10年は政権にとどまると言い、全ての段階の選挙に与党人民党が勝つのでなければ、国は内戦に逆戻りすると脅かしているが、クメール・ルージュの司令官だった経歴を考えるとあながちこけおどしとはいい切れまい。
 
過去何十年もの間、フン・センの権威主義的な傾向はガバナンスと民主主義の紐が付いた西側諸国の援助によって抑制されて来た。しかし、近年、中国の国策としての多額の投資によって彼の本当の政治的傾向の赴くままに行動することが可能となった。(中略)
 
西側諸国、特に米国にはカンボジアにおける民主主義と人権の後退に責任がある。これは民主主義的な国造りの失敗例である。

カンボジアは忘れられた。壊れた国の民主主義的制度造りは善意ではあるがリソースに乏しいNGO任せとされて来た。米国は中東に気を取られ、アジアにおける利益を屡々無視した。

その結果、カンボジアは聖人ぶった西側を離れて中国に擦り寄った東南アジアの国の最も衝撃的な例となった。他の例としては、フィリピン、マレーシア、タイがあるが、いずれの国も中国の意を迎えることに精を出し、米国を公に拒絶することが必要と考えている。
 
フン・セン政権のような腐敗した芳しくない政権を支持することに凝り固まった中国のやり方は短期的には有効かも知れない。

しかし、いずれ裏目に出よう。アジアで最も長く政権にあるフン・センといえども何時までも支配出来るわけではない。長くその地位にとどまる程、彼と彼の中国のパトロンに対する怒りは大きくなる。

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(論評)
(中略)カンボジアでは議会選挙が来年7月に予定されていますが(現在、議席123のうち、人民党68、救国党55)、救国党のケム・ソカはフン・センの唯一の対抗馬と見られています。

6月の地方選挙では、人民党が1646のコミューンのうち7割を支配する結果でしたが、救国党も健闘し、支配するコミューンの数を10倍以上に伸ばしました。得票率では人民党の51%に対し46%を獲得した模様です。

フン・センは、この地方選挙の結果を見て来年の選挙の帰趨に不安を募らせているようです。このことが、最近になって彼が野党、メディア、シビル・ソサエティの抑圧を強めている背景だということで大方の見方は一致しています。ケム・ソカが有罪となったことで、救国党が解党に追い込まれる危険があるようです。
 
(中略)この社説は、フン・センが米国はじめ西側諸国に気兼ねすることなく、権威主義的性向の赴くままに振舞うことが可能なのは、中国をその後ろ盾に得ているからだと言います。カンボジアは中国の属国と化しているとまで言っています。それが実態だと思われます。

フン・センは中国を「最も信頼する友」と呼んだことがあります。ここ3代の中国国家主席は、全員カンボジアを訪問しています。中国の影響力の源泉はカネにあります。中国の直接投資は他国の直接投資の総額を凌駕していると見られます。そうであれば、遺憾ながら、カンボジアの現状に我々として打てる手は基本的にありません。
 
カンボジアは既に失われました。その責任は西側諸国にもあると上記社説は言いますが、カネという実弾がなければ、勝負になりません。

日本はかつて長年にわたりカンボジア和平に多大の協力を成し、カネはもとより、汗をかき血まで流したのであり、大きな影響力を有していたはずですが、昨今の状況は、はっきりしません。
 
上記社説は、「腐敗した芳しくない政権を支持する中国のやり方は長続きはせず、いずれ裏目に出る」といいますが、それがどこまで確信を持っていえることなのか疑問です。

それよりも、第二、第三のカンボジアを作らないようにすべきでしょう。フィリピン、マレーシア、タイに言及がありますが、ラオスは既にカンボジアに似た状況ではないかと危惧されます。当面、ミャンマーを上手に扱い、ロヒンギャ問題のために中国の懐に追い遣ることのないようにすることが重要と思われます。【10月16日 WEDGE】
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“第二、第三のカンボジアを作らないように・・・・・” 現実には、11月29日ブログ“存在感を増す中国外交 南シナ海、ミャンマー、ネパール、そしてジンバブエ”でも取り上げたように、ミャンマーは中国に頼りはじめており、“第二、第三のカンボジア”の懸念が強まっています。

その意味では、中国外交が成果を上げているということになりますが、独裁・人権無視の国家を集めてどこへ行こうとするのか。

やがては、そういう国家群は瓦解を余儀なくされると信じたいところです。

フン・セン首相は、南シナ海問題でも、中国の意を受けて“活躍”していますが、そのあたりが中国に大いに評価されているようです。

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中国版ノーベル平和賞”今年はフン・セン氏に 南シナ海裁定を批判「偉大な範例****
ノーベル平和賞に対抗して中国で創設された「孔子平和賞」の今年の受賞者に、南シナ海問題で中国の主張を支持する姿勢を打ち出したカンボジアのフン・セン首相(66)が選ばれたことが1日わかった。中国の国益への“貢献度”が同賞選考の基準になっていることが改めて鮮明となった。
 
授賞理由について主催団体は、南シナ海問題をめぐる仲裁裁定が出される直前の昨年6月、フン・セン氏が裁定を支持しない立場を示し2国間交渉による解決を呼びかけたと説明。「南シナ海の平和に貢献し、現代の人類平和史における偉大な範例となった」と持ち上げた。

国連海洋法条約に基づく仲裁裁定は、南シナ海の大半に主権が及ぶとする中国の主張を退けた。
 
孔子平和賞はノーベル平和賞に対抗するため2010年末に中国の大学教授らが創設した。ロシアのプーチン大統領やキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長らが受賞し、鳩山由紀夫、村山富市両元首相らも授賞候補になったことがある。【11月2日 産経】
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フン・セン首相はアメリカの批判に「これまでの米政権は、民主主義と人権の名の下に他国の内政に干渉してきた。私たちは被害者だ」と強く反発していますが、トランプ大統領は気にいっているようです。

“クメール語で演説したフン・セン氏は、冒頭で「あなたは偉大な人だ」とトランプ氏をたたえ、トランプ氏の選挙戦勝利を予想していた数少ない一人だったと明かした。「他国の独立と自治を尊重する方針を貫けば、米国はもっと尊敬され愛されるようになる」との助言で締めくくった。”【11月14日 朝日】

フン・セン首相に褒めたたえられる人物が世界で最も影響力を持つ政治家になっているというのは、カンボジア情勢以上に憂慮すべき問題です。


【ライバル野党も解党】
フン・セン政権は、野党指導者の国外追放・逮捕拘束に飽き足らず、(形式的には司法命令の形はとりつつも)ついに野党を解党させるところまでに至っています。

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最大野党を解党=最高裁が命令―カンボジア*****
カンボジア最高裁は16日、最大野党・救国党が政権転覆を図ったとして、解党を命じる判決を下した。また、サム・レンシー前党首やケム・ソカ党首を含む党幹部118人に対し、5年間の政治活動禁止を言い渡した。
 
カンボジアでは来年7月に下院選が行われる。2013年の前回選挙で議席を獲得したのはフン・セン首相の人民党と救国党だけで、救国党の解党により人民党の圧勝は確実な情勢だが、選挙の正当性に疑問符が付くのは必至だ。
 
判決について、救国党報道官は「カンボジアの民主主義の終わり。われわれは何も過ちは犯していない」と反発。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチも「下院選での勝利を確実にするための策略」と批判する声明を出した。
 
フン・セン政権は選挙を控え、野党への締め付けを強化。今回の裁判も内務省が提訴した。
 
救国党は今年2月、海外で事実上の亡命生活を送るサム・レンシー氏が党首辞任に追い込まれた。9月にはケム・ソカ党首が国家反逆罪で起訴され、ムー・ソクフア副党首も10月、政府の圧力を受けて国外に脱出した。【10月16日 時事】 
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最大野党幹部、国外へ次々 カンボジア政府が締め付け****
最高裁判所が最大野党・救国党の解党を命じたカンボジアで、同党幹部の国外脱出が相次いでいる。与党人民党を率いるフン・セン首相による締め付け策が効いている形で、来年7月の総選挙で政権交代の期待もかかっていた野党勢力は一気に切り崩されている。
 
首都プノンペンの救国党本部は17日、「民主主義と自由で公正な選挙を我々に」と書かれた横断幕が掲げられていたが、入り口の門が半分閉まり、静まり返っていた。18日には本部の看板が外された。
 
救国党は2013年の前回総選挙で過半数に迫る勢いを見せた。1985年から権力の座にあるフン・セン氏の長期政権に不満を持つ若者らの支持を集めたとされる。政権側は締め付けを強めたが、今年6月に全国であった地方選でも4割超の得票率で躍進した。
 
だが、警察が9月にケム・ソカ党首を国家反逆容疑で逮捕。これを受けて、逮捕を恐れたム・ソクア副党首ら少なくとも11人の党幹部が米国や欧州などに相次ぎ脱出した。
 
国内では警察や軍による監視の目もあり、16日の最高裁の解党命令に反対するデモなどは起きていない。それでも救国党支持者の落胆は大きい。
 
プノンペンで果物を売る男性(35)は、「大好きな党がなくなって本当に悲しい。政権幹部は、私のような普通の人間の権利を尊重していないのだと思う。来年の総選挙は投票には行かない」と話した。【11月19日 朝日】*****************


中国を後ろ盾に独裁に走るフン・セン首相に対し、日本側は“懸念”を表明するのが精一杯といったところです。
中国だけでなく、トランプ大統領とも気脈を通じているという話になれば、日本政府として敢えてこうした流れに掉さす考えもないのかも。

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野党解党は「適切」=カンボジア外相―中根外務副大臣は懸念伝える****
カンボジアのプラク・ソコン外相は20日、アジア欧州会議(ASEM)外相会合が開かれているミャンマーのネピドーで中根一幸外務副大臣と会談し、最大野党・救国党が解党を命じられたことについて、「国内法の適切な執行だ」と説明した。
 
カンボジア最高裁は16日、救国党が政権転覆を図ったとして解党を命じる判決を下した。中根副大臣は解党に懸念を示し、来年の下院選では国民の意思が適切に反映されるようカンボジア側に求めた。【11月21日 時事】
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政治的には上記のような情勢にありますが、観光には全く関係ありません。
シェムリアップには今夜到着の予定ですが、飛行機が遅れているようです。まあ、急ぐ旅でもありませんから・・・・

遺跡観光など中心にまったりとすごす予定です。帰国は12日の予定です。