インド 人間とゾウの遭遇が引き起こす悲劇 密漁問題 もっとも厄介な「牛」の問題
(タールを使用した火の球を群衆から投げつけられたアジアゾウの親子。インドの西ベンガル州で。【11月14日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)
【人間とゾウの生活領域が接近することで起こるトラブル・悲劇】
日本ではゾウは動物園でしか見ることがありませんが、タイやカンボジアなどでは、お絵描きなどの芸を見せてくれるゾウがいたり、観光客がゾウに乗って散策できるようなエレファントキャンプがあったり、ちょっとした観光スポットで客寄せ的にゾウがいたりと、かなり身近な存在になります。
しかし、野生のゾウとなると、人間との共存に関していろいろと難しい問題もでてきます。
最近、インドでのゾウの話をいくつか見かけましたので、そのあたりの話です。
****インドで列車にはねられゾウ2頭死ぬ****
インド北東部アッサム州で19日、グワハティ郊外の鉄道駅近くでゾウの群れが線路を横断しているときに2頭が列車にはねられて死ぬ事故があった。
インドでは、生息地での食料不足や森林地帯への人間の不法侵入などによって、野生のゾウが食料を求めて人口密集地域にまで移動せざるを得なくなっているという。【11月19日 AFP】
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痛ましい事故ではありますが、なぜゾウが人口密集地域に出てくるのかという問題はさておき、一応“不運な事故”として対処することもできます。
しかし、ゾウが人口密集地に出てきて人間の生活領域に出没するようになると、“不運な事故”ではすまない事態も。
****群衆に火をつけられ、逃げるゾウの親子*****
火をつけられて逃げまどうアジアゾウの親子。このショッキングな写真(冒頭)が、野生動物の写真コンテストで受賞し、インドで繰り広げられるゾウと人間との対立に、世界の注目が集まっている。
写真のタイトルは「地獄がここに」。胸がつぶれる光景だ。
インドの西ベンガル州で、ゾウの親子が群衆に追われ、タールを使った火の球を投げつけられたために、子ゾウの体に火がついてしまった。(中略)
高まる人間とゾウの緊張状態
写真はほんの数時間で世界中に広まり、インドで暮らす人間とゾウとの緊張状態を浮き彫りにした。
インドに生息するアジアゾウの個体数は2万7000頭以上で、全個体数の半数を超える。アジアゾウは、国際自然保護連合(IUCN)によって「絶滅危惧種」に指定されているが、その主な原因は、人間がゾウの生息域を破壊、分断していることだ。
インドの野生動物保護団体「Wildlife Trust of India」が2017年8月に実施した調査によると、ゾウがインド国内を移動する際に使用する「回廊」は少なくとも101あるが、そのうち、人間の居住地を通らないものはわずか5分の1。3分の2は州道もしくは国道を通り、森林内だけの移動ですむ道は、13%にも満たない。
今回の写真が撮影された西ベンガル州は、インドの中でも、特に頻繁に人間とゾウが衝突する場所だ。同州北部に点在する森林には約488頭のゾウが生息しているが、そこは、人間の住居と茶畑が集中している場所でもある。
居住地がこれほど接近している場合、双方が遭遇すれば深刻な事態を引き起こす。ゾウが農場に入り込み、作物を荒らし、家を破壊すれば軋轢が生じる。
インドの日刊紙「the Times of India」の報道によると、西ベンガル州では、2015年1月から9月の間にゾウが原因で死亡した人は18人に上るという。
2016年3月には、2人の命を奪った「迷子」のゾウが当局の命令により射殺された。一方、同州では、電線に接触して感電死するゾウが後を絶たない。
「人々の理解が欠かせない」
ハズラ氏が「the New Indian Express」紙に語ったところでは、今回、子ゾウは故意に火をつけられたのではないかもしれないが、それでもこの地域の農民は、ゾウを追い払うために、しばしばタールを燃やしたり、花火を使用したりしているらしい。想定外の事態に発展する恐れがある手段だ。
「人間と野生動物との対立を処理する上でまず最も大切なのは、群集を統制することです」とインドの自然保護団体「the Nature Conservation Foundation」の科学博士M・アナンダ・クマール氏は、2016年の英国雑誌「Geographical」の取材にこのように語っている。
「これらの大型動物が広い空間を必要していることを、人々に理解してもらう必要があります。暴力に訴えても、悲劇につながるだけだ、と認識してもらわなければなりません」
今回の場合は、最悪の事態に至らずに済んだ。ハズラ氏の話によると、群衆に襲われた子ゾウは、難を逃れたという。【11月14日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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野生ゾウの保護、その生活環境の維持は大切なことですが、作物を荒らされたり、寝ているときに踏みつぶされたりする住民の生活も守る必要がありますので、なかなか実際の対応は難しい問題でもあります。
ゾウに限らず、多くの動物と人間の共存に共通する問題です。
所詮、人間は他の生き物を食べて生きている存在であり、そういうなかで“上から目線”の野生動物保護を言い立てるのは、恵まれた生活が保障された人々の“身勝手”にすぎない・・・という感もあります。
迫害を逃れてミャンマーから逃げてきたロヒンギャ難民が急増して、難民キャンプが拡大するバングラデシュでも、ゾウの生活エリアに入り込んだことによる悲劇も起きています。
****ゾウに襲われロヒンギャ難民4人死亡、バングラデシュ*****
バングラデシュ南部コックスバザールで14日、難民キャンプ内の森林で小屋を建てていたイスラム系少数民族ロヒンギャの難民が野生のゾウに襲われ、子どもを含む4人が死亡した。警察が明らかにした。
現場はミャンマーでの迫害を逃れて隣国バングラデシュに渡って来たロヒンギャ数十万人が間に合わせの掘っ立て小屋で暮らしているコックスバザールのバルカリ難民キャンプ。
コックスバザール警察幹部がAFPに語ったところによると、野生のゾウ7~8頭がロヒンギャ難民を襲い、ゾウに踏みつけられた女性1人と子ども3人が死亡、2人が負傷した。
襲われたロヒンギャの人たちが小屋を建てていた場所は、森林内でも食べ物や休息地を求めるゾウが頻繁に出没する地域だったという。
同じ地域では先月にも、2人のロヒンギャ難民──老人と子ども──が手作りの小屋で寝ていたところをゾウに襲われて死亡している。(後略)【10月15日 AFP】
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【「密猟グループによる犯罪が次第に組織的に、手際よくなっている」】
インドはゾウ以外にも、トラ、ヒョウ、サイなど「野生の王国」でもありますが、そこでは密漁・違法取引という問題も起きています。
****野生動物が消える野生王国インド****
動植物の豊かな多様性で知られるインドで密猟と違法取引が急増している 早急に手を打たないと生態系が破壊される恐れが
インドは野生の王国だ。毎年10月には「野生生物週間」という催しがあり、この広大な亜大陸の自然の豊かさをアピールしてもいる。
ところが今年は一連の行事が終わった途端に、自然保護に逆行する不可解な判決が出て世間を驚かせた。
裁かれたのは、貴重なトラ125頭、ヒョウー200頭を許可なく殺し、毛皮などを売りさばいていた悪質な密猟グループ。だが彼らに対する判決は、わずか4年の懲役刑だった。
これには自然保護の活動家たちが激怒。インドの森に暮らす鳥や動物の乱獲と違法取引の蔓延に関する議論に再び火が付いた。
状況は深刻だ。この4月には密輸を取り締まるインド歳入情報局が北部ウッタルプラデシュ州にある退役軍人とその息子の家に踏み込み、大量の動物の毛皮や肉を押収した。ヒョウの毛皮や象牙、角が付いたシカの頭蓋骨、枝角が付いたレイヨウの頭部、そしてウシ科のニルガイの肉100ご超などだ。
8月にも、今度は北東部アッサム州で大量の密猟品が押収された。枝角が付いたシカの頭部43、頭が付いたウンピョウの毛皮2枚にクマの毛皮、800グラムの骨、サイチョウのくちばし、角付きの野生ヤギの頭部、カワウソの毛皮4枚などだ。
インドでは野生の鳥だけでも200種以上が何らかの形で取引されている。ペット用、食用、薬の原料用、動物園で展示するためなど、目的はさまざま。
その角が珍重されるサイは、今や絶滅危惧種だ。
「インド国内では、サイの角1本が約4600ドル。ヤミ市場なら少なくとも30%は高く売れる。肉や骨も中国や韓国、台湾などでは漢方薬として大きな需要がある」と言うのは、森林・野生生物局のビペク・ジョーリ局長だ。「象牙1キロは2010年に750ドルだったが、この4年で2100ドルにまで上昇した。サイの角だと、今ではlキロ2万9000ドルもする」
インドの非営利団体「科学・環境センター」によると、14~16年の間に密猟や野生生物に関わる犯罪は52%も増えている。
野生生物がらみで摘発された犯罪は昨年1年間で3万件以上。トラは昨年だけで50頭が密猟の犠牲になり、過去10年で最悪の数字となった。
「押収物を見ると、密猟グループによる犯罪が次第に組織的に、手際よくなっているのが分かる」と、ヒマラヤ地方での貴重な動植物の減少を記録している自然保護活動家ラージャ・ラクシュマンは言う。
密猟された動物の骨などの大半は陸路で隣国に運ばれることになっていたと、ラクシュマンは言う。残りは空路や海路で東南アジアや東アジア、ヨーロッパヘ。違法取引は約50億ドル規模と推測され、密輸品目としてはドラッグ、武器、人身売買に次いで第4位だという。
輸出だけでなく輸入も
何か原因なのか? インドの法律や政策に不備があるからではない。
インドでは72年に成立した野生生物保護法の下、1800種以上の動植物とその派生物の取引が禁じられている。違反者には刑法と動物虐待防止法が適用され、罰せられる。絶滅の恐れのある種の国際取引を規制するワシントン条約機構にも、76年に加盟している。
しかし専門家によると、一向に違法な売買が減らない大きな理由は国境地帯での取り締まりが穴だらけだからだ。しかも監視を強化する上で妨げになる事情はたくさんある。(後略)【11月14日号 Newsweek日本語版】
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野生動物と人間の共存の問題にくらべれば、密漁・違法取引の問題は話が単純なようにも。取締り強化の問題です。
もっとも、密漁する以外に収入を得るすべがない・・・といった話になると、話は簡単ではなくなりますが。
【路上や街中の「牛」による事故もさることながら、もっと厄介なのは・・・】
インドには、上記のような野生動物の問題とは別の、ある動物に関する問題もあります。ヒンズー教徒に神聖視される牛です。
****街中を歩く牛に角で突かれ観光客が死亡、インド西部****
インドの人気観光地として知られる西部ラジャスタン州ジャイプールで、同地を休暇で訪れていたアルゼンチン人の男性(29)が雄牛に角で突かれ、死亡した。地元警察が19日、明らかにした。
男性は18日午後、ジャイプールの市場近くの道路を歩いていたところ牛に襲われ、重傷を負ったという。
AFPの取材に応じた警察当局の職員は、男性は病院に搬送されたが死亡したと明かし、「男性は雄牛の角で首と腹部を突かれた」と語った。
インドのPTI通信によると、在インドのアルゼンチン大使館も男性の死亡を把握しているという。
ラジャスタン州の州都であるジャイプールはピンクシティーという呼び名でも知られ、華麗な宮殿やとりでがあることから、インドで観光客に最も人気のある都市の一つとなっている。
インドで牛はヒンズー教徒らから神聖なものと考えられており、幹線道路や街中を歩く姿もよく見かけられる。2012年の調査によると、路上や街中にいる牛の数はインド国内で500万頭以上に上るという。(c)AFP
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上記の件はたまたまニュースになりましたが、“路上や街中にいる牛の数はインド国内で500万頭以上に上る”ということで、日常的に多くのトラブルが発生しているのではないでしょうか?
牛をめぐる最も厄介な問題は、昨今のヒンズー至上主義の高まりに伴う宗教的な軋轢、イスラム教徒に対する暴力です。
****インドで「牛」守る自警団、深まる宗教対立****
最近のある夜、インド北部の町パニパットで複数の若い男性グループがパトロールを開始した。幹線道路沿いを調べるグループもあれば、薄暗い路地や屋根の上を巡回するグループもある。彼らの目的は食肉処理のために輸送されている疑いのある牛を救うことだ。
インドの大半の地域では牛を殺すことが禁じられている。何億人ものヒンズー教徒にとって神聖な生き物だからだ。自警団のメンバーは時に警察と連携しながら、牛をひそかに輸送しているとみられる男たちを取り押さえる。カーチェイスになることもあれば、銃撃戦に発展して死者が出ることもある。
「われわれは牛を解体・殺害から救うことに100%の力を注いでいる」。ほぼ毎晩パトロールに出るリンク・アリヤ氏(36)はこう話す。
インドで牛をめぐる宗教対立が深まり、議論が二極化する中、数千人が参加する自警団の活動に厳しい視線が注がれている。
自警団に対する強力な措置を求める申し立てを受けて、インド最高裁判所は先週、各州政府に対し、自警団を抑制するため、特別警察官の任命と幹線道路でのパトロールの強化を指示した。
ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)はヒンズー・ナショナリズムにルーツを持ち、牛の保護を優先事項の一つに掲げる。宗教票の利用と経済開発の約束に頼った選挙戦略の一環だ。BJPは多くの州で牛の食肉処理を禁止する法律を強化し、選挙運動でこの問題を取り上げた。
モディ首相の支持基盤であるヒンズー教徒のグループは、違法に牛を殺したり、食肉解体が許可されている一部の州に牛を供給したりしているイスラム教徒に強い怒りを感じている。
ヒンズー教徒にとって牛の食肉処理は、かねてイスラム教徒から向けられている敵意の象徴なのだ。インド国民の14%が信仰するイスラム教では、牛肉を食べることは禁止されていない。
多くのイスラム教徒によると、現在のような緊張状態では、牛に関するうわさが出たり疑いをもたれたりするだけで、イスラムコミュニティーを狙う口実に利用される。
メディアでは何カ月も前から、暴徒によるイスラム教徒の襲撃や殺害が報じられている。一部の国民からの反発を受けて、モディ首相はこうした暴力を非難している。
一方で、法律を破っているのではなく、法律の執行を手助けしている、というのが牛を守る自警団の主張だ。(後略)【9月13日 WSJ】
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この問題はこれまでも取り上げてきた話ですので、今回はパスしますが、現代インドが抱える非常に危険な問題のひとつです。