日本では語られることもなくなった南スーダン 経済制裁解除を待つスーダン | 碧空

日本では語られることもなくなった南スーダン 経済制裁解除を待つスーダン

(スーダン・ハルツームの電子製品のショップ 【7月21日 WSJ】)

【「どこか遠くの世界の出来事」になった南スーダン紛争】
日本では、自衛隊が南スーダンから撤収したあとは、南スーダンの状況に関する報道をほとんど目にしなくなりました。

内戦状態が収まったのであれば結構な話ですが、そうではないようで、来日した南スーダン外相は「全土の約6割で戦闘が続いており、国を逃れた人の多くが戻れない状態だ」と語っています。

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南スーダン外相「停戦が最優先」 全土の6割で戦闘****
反政府勢力との間で紛争状態が続く南スーダンのデン・アロール外相が26日、訪問先のモザンビークで朝日新聞の単独取材に応じ、「全土の約6割で戦闘が続いており、国を逃れた人の多くが戻れない状態だ」と述べ、国際社会と協力して戦闘終結に全力を挙げると訴えた。
 
2011年に独立した南スーダンでは、石油利権などをめぐってキール大統領とマシャル副大統領(当時)が対立。13年末から紛争状態に陥った。
 
アロール氏は、治安の悪化で隣国のウガンダだけで100万人以上が難民として逃れていると指摘。「戦争を止めることを最優先にしたい。融和を進めるための『国民対話』の場に、マシャル氏も参加するべきだ」と呼びかけた。
 
国連は今年に入り、同国の全人口の半分にあたる約600万人が、深刻な食料不足に苦しんでいると公表している。アロール氏は日本に求める支援について、「まずは国連などを通じた人道支援をお願いしたい」と話したうえで、「日本は重要なパートナー。今後もインフラ整備などの国造りを一緒に実施していきたい」と期待を寄せた。
 
一方、12年1月から今年5月まで国連平和維持活動(PKO)に参加した陸上自衛隊の施設部隊の活動については、「非常にいい仕事をしてくれた。戦闘をするためでなく、南スーダンの人々を熱心に支援してくれた」と感謝の言葉を述べた。【8月26日 朝日】
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日本国内での南スーダンに対する関心の低下については、下記のような指摘も。

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保守もリベラルもみんな、自衛隊撤退後には南スーダン紛争を忘れてしまったのか****
「人間の尊厳」。頭の中に自然とこの言葉が浮かんだ。

ウガンダ北部のパギリニヤ難民居住区。今年で4年目を数える紛争によって故郷を追われた南スーダン難民約3万人が、ここでの生活を送っている。急激に深刻化していく難民危機に対して各機関の支援は追いついておらず、多くの人たちが厳しい生活を強いられている。

72歳のスーザンさん(仮名)は、首都ジュバでの戦闘をきっかけに紛争が再燃した昨年7月頃にウガンダへと逃れてきた。不正出血が続いており、これまでに3回病院にかかったが大きな進展は無し。面倒を見ている息子は「これ以上は病院に行くお金が無い」と語っていた。

難民居住区内に建設された、蒸し暑い簡易住居の中。家の外では、まだ幼い彼女の孫4人が遊んでいた。上半身を裸にして、一人寂しそうにベッドに座っている彼女。

「何も支援をしなければ、すぐにでも死んでしまう」。居住区で働くスタッフの言葉に従って、現地で活動するNGOを通じて生理用品と石鹸を渡すことになった。

72歳という年齢で故郷を追われ、異国の地で時間を過ごす彼女は、一体何を思っているのだろうか。その丸まった背中を見ながら、僕は考えてしまった。

UNHCRは17日、ウガンダに逃れた南スーダン難民の数は全部で100万人を超えたと発表した。当初予測されていたスピードよりも速いペースで難民が流出し続けている。

自衛隊が派遣されていた頃は、保守もリベラルも南スーダンのことを度々取り上げていたが、撤退した後はこの国の紛争や難民について、日本ではほとんど話題にも上がらない。自衛隊がいなくなった今、南スーダンの紛争は「どこか遠くの世界の出来事」に過ぎなくなってしまったのだろうか。

事実として、日本はこの国の紛争に無関係ではない。南スーダン紛争は石油を巡る先進国の利害に翻弄されて紛争が起きているという側面があるからだ。

独立前の「スーダン」だった時代からずっと、この国では「石油」という資源をめぐって争いが続いており、日本はこの石油をスーダンから輸入し消費して、僕たちは「豊かな生活」を享受してきたのだ。

居住区で南スーダン難民の子どもたちが笑っている姿を見ると、肌の色が全く違う日本人にも手を振り返してくれる姿を見ると、「彼らの力になりたい」と心から思う。たとえ彼らの記憶には、僕という人間がほんの一瞬しか残らなくても。

平和な世界を創るために、日本人の僕だからこそできること。急速に深刻化していく難民危機の前に、現地で考え続けたい。【8月22日 国際協力団体コンフロントワールド代表 原貫太氏 Huffington Post Japan】
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国連は、旧来のPKOから一歩踏み込んで、住民保護のための積極的な武力行使を認める“地域保護部隊”を現地に派遣しています。

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“積極的に武力行使認められた部隊” 南スーダンに到着****
アフリカの南スーダンでは、日本の陸上自衛隊の部隊が国連のPKO=平和維持活動から撤収したあとも、各地で武力衝突が繰り返されています。

こうした中でPKOを強化し、市民を保護していくため、より積極的に武力行使に踏み切ることが認められた新たな部隊が活動を開始しました。

南スーダンでは、去年7月、首都ジュバで政府軍と反政府勢力の戦闘が再燃し、多くの市民が死傷する事態となり、国連の安全保障理事会は、PKOを強化するため、部隊の追加派遣を決めました。

「地域保護部隊」と名付けられた新たな部隊は首都ジュバを拠点に、市民や援助関係者、それに空港などの重要施設を守るため、より積極的に武力行使に踏み切ることが認められています。

当初、南スーダン政府が受け入れに難色を示すなど調整に時間がかかっていましたが国連は、8日、「地域保護部隊」を構成するルワンダ軍120人の部隊が首都ジュバに到着し、活動を開始したと発表しました。

「地域保護部隊」にはルワンダのほか、エチオピアやネパールなどの軍が参加することになっていて、最大で4000人規模の部隊が見込まれています。

南スーダンでは、日本の陸上自衛隊の施設部隊がことし5月にPKOから撤収したあとも、各地で武力衝突が繰り返されています。

各国のPKO部隊が危険で厳しい任務を続ける中で、国連は、新たな部隊が展開することで、より積極的に市民を保護し、平和維持に貢献できるようになるとしています。【8月10日 NHK】
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4000人規模で展開すれば一定の効果も期待できますが、エチオピアやネパールなど・・・・ということで、本当に派遣されるのか?派遣されたとして危険な“住民保護”の任務が遂行されるのか? やや疑問も残ります。

もっとも、いち早く“危ないスーダン”から撤収した日本がどうこう言える話ではありませんが。
日本としては、せめて資金的なバックアップなど、可能な範囲で協力すべきでしょう。


【スーダン経済は逆境下でも活気 「人々は制裁が解除される日を今か今かと待っている」】
一方、南スーダン以上に情報が少ないのがスーダン。

バシル大統領は、2003年から続くダルフール紛争での集団虐殺に関与にしたとして国際刑事裁判所から逮捕状が出されていますが、逮捕されたという話はなく、一向に支障なく大統領職をこなしているようです。

国全体としてもアメリカの制裁対象になっていますが、解除は先送りされているようです。

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スーダン制裁解除、判断先送り=米****
米ホワイトハウスは11日、人権問題を理由に科した対スーダン制裁の一部解除に関し、今月12日だった最終判断の期限を10月12日まで3カ月延期すると発表した。スーダン政府の取り組みをさらに審査するためという。
 
オバマ前大統領は退任前の1月13日、スーダン政府が対テロ戦で米国に協力姿勢を示したことなどを評価し、禁輸や資産凍結を含む制裁の解除を定めた大統領令を出した。

その中で、正式に解除するまで180日の検討期間を設け、最終判断をトランプ大統領に委ねていた。【7月21日 時事】 
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そうした制裁下にあっても、また、南スーダンの独立で石油産出地域を失ったにもかかわらず、思いのほかスーダン経済は活力があるとの報道も。

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スーダン、経済制裁下でも衰えぬ起業意欲****
活路見いだす市民と権力にしがみつく独裁者、湾岸諸国のマネーが命綱

世界から最下層の国家と見られているスーダンの首都ハルツームは、常に人々の活気に満ちあふれている。
 
「在庫品はすべてドバイ(アラブ首長国連邦ドバイ首長国の首都)やドーハ(カタールの首都)からスーツケースに詰めて持ち込む」と、電子製品を販売するアリ・カマル・アリ氏は話す。

小さなショップにはスマートフォンのほか、パリのエッフェル塔やメッカのグランドモスク(イスラム教の大聖堂)などをあしらったスマホケースが所狭しと並んでいる。「そこから来る航空便がいつも満席になるのはなぜだか分かるかい?」
 
しかし、米国主導の国際的な経済制裁を20年近く科された人口4000万人のこの国は、西側諸国の金融システムから完全に締め出され、多くの投資家から敬遠されている。米国は先週、制裁の解除を先送りすることを決めた。
 
金融面の孤立状態によって――米国から「テロ支援国家」に指定されたことや、国際刑事裁判所(ICC)がオマル・ハッサン・アハメド・バシル大統領を戦争犯罪で追及していることもあり――スーダンでは企業の重役であれ露天商であれ、ビジネスに関する特殊な洞察力を身につけている。

代わりになる資金供給ルートを開拓し、貿易障壁を巧みにかわし、独創的な方法で消費者向け商品を輸入しなければならなかったのだ。
 
国際通貨基金(IMF)によると、ペルシャ湾岸諸国からの投資が、スーダン経済の資金繰りを支える重要な手段になっているという。特に南スーダンが独立した2011年以降はそれが顕著になった。同国の収入の大半は石油資源の豊富な同国南部から得ていたからだ。
 
ハルツームの一角は湾岸諸国の首都かと見まがう姿に変わり始めた。サウジアラビアやクウェート、カタールの融資を受けて建設された超高層ビル群が、市内で合流する青ナイル川と白ナイル川を見下ろすようにそびえている。最近開発されたばかりの商業・住宅地区は「リヤド」(サウジの首都)と呼ばれている。
 
同国で最も著名な実業家、オサマ・アブデラティフ氏は、従業員8500人を擁する砂漠の複合企業DALグループを築き上げた。主に中東の銀行と取引し、湾岸諸国の裕福な消費者をターゲットにする。
 
「経済制裁によって当社のビジネスは甚大な影響を受けた。最も頭が痛いのは銀行だ」と広大な敷地をもつDALの複合施設でアブデラティフ氏は語った。

ドイツ製やスイス製の最新式機械が導入され、瓶入り コカコーラ や袋詰めした小麦粉、パック入り牛乳を大量生産している。「銀行はここでビジネスを行うのを極端に恐れている」
 
経済制裁違反を認めたフランスの大手銀行 BNPパリバ が2015年、89億ドル(約9970億円)の罰金を科されたことは、主要金融機関にとって身の凍るようなメッセージだった。IMFによるとその直後、スーダンと諸外国間の中継役を務めていた、いわゆるコルレス銀行が一斉に引き揚げ、貿易金融が事実上不可能になったという。
 
政府や大企業が湾岸諸国のマネーを頼りにする一方で、スーダンの消費者には米国の経済封鎖が紛れもない現実としてのしかかった。
 
スーダンには国際的な現金自動預払機(ATM)がなく、デビットカードの決済もできない。それでも、起業家志望の人々がひるむことはない。
 
個人事業主などがオフィスとして空間を共有するコワーキング・スペース「インパクト・ハブ」は、軽食の取れるコーヒーバーを備え、流行の家具を配したおしゃれな雰囲気だ。

ここにハイテクに精通するスーダンの若者が集い、新事業の立ち上げを目指している。その多くはテクノロジーを活用して経済制裁の影響を和らげる解決策に主眼を置くものだ。
 
アフメド・アブダラ氏はここでモバイル決済プラットフォーム「SIMペイ」の開発に取り組む。プリペイド携帯電話の通信時間を活用し、国内全域で決済を可能にする仕組みだ。

昼間はアフリカの大手携帯電話会社MTNでサイバーセキュリティ専門家として働いている。
「人々は制裁が解除される日を今か今かと待っている」と同氏は語った。
 
同国の外交官は、オバマ前政権の終盤に予定されていた通り、米政府が今秋にも制裁を解除すると期待している。米国が掲げた主な狙いを達成できなかったのだからなおさらだ。
 
「経済制裁が発動されたとき、困窮した市民がバシル大統領に対して反乱を起こすことが期待されていた」と西側のある外交官は話す。「あれから20年たつが、確実に言えるのは効果がなかったことだ」
 
米国の一部の議員や人権活動家は制裁解除に反対する運動を続け、バシル大統領と結びつきのある個人や企業を対象とする「賢明な制裁」に移行するよう提案してきた。バシル大統領は27年間権力の座にとどまり、テロ組織とのつながりが疑われている。
 
たとえ米国が10月に制裁を解除しても、スーダン経済が回復するには多くの年月を要するだろう。
 
米国は制裁の見直し対象外となっている別の制裁措置の一環で、スーダンの債務救済を拒否している。IMFによると、スーダンは国外の債権者に対する550億ドル余りの債務を抱えている。これは国内総生産(GDP)のほぼ半分の規模だ。

米政府が方針転換しない限り、重債務貧困国(HIPC)プログラムの適用条件を満たしていても、スーダン政府は債務免除を申請することができない。1990年代、サハラ以南のアフリカの複数の国々がHIPCプログラムによって経済を圧迫する債務を軽減された。
 
スーダンの企業は当面、いまの孤立状態が解消されるのを待つしかない。
 
米政府が12日に判断を先送りした後、闇市場では米ドルが10%急騰したと、暑さを振り払うように札束であおぎながら両替業者たちは話した。
 
「スーダン人は新しいテクノロジーを買うのが好きで、流行のファッションにも関心が高い」とアフメド・ムラード氏は話す。

仏高級ブランド、シャネルのTシャツの模造品を露店で売っているが、プリントされた文字は「CHANNEL」とつづりが違っている。「経済政策がなくなったら、本物を仕入れてブティックを開きたい」【7月21日 WSJ】
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アフリカ諸国は紛争さえ収まれば、たくましい活力で経済が拡大する下地があります。(あと、社会の不正・汚職がなくなれば、もっと)
問題は、その過程での格差拡大など、社会的公正をいかに実現するかという点でしょう。

前半で取り上げた南スーダンも例外ではないでしょう。