シリア  武器供与を巡り米ロが非難の応酬 反体制派は敵・政府軍から武器購入 | 碧空

シリア  武器供与を巡り米ロが非難の応酬 反体制派は敵・政府軍から武器購入

碧空-自由シリア軍
(シリアの反政府武装勢力・自由シリア軍(FSA) “flickr”より By FreedomHouse http://www.flickr.com/photos/syriafreedom/6952530377/

【急速な関係冷却化を危ぶむ声も】
シリアは、国連・アラブ連盟のアナン合同特使の停戦調停案も実質的な破綻に陥り、“内戦”状態にあるとの認識が広まっていますが、武力衝突が止まない現状を惹起している武器供与に関して、アメリカとロシアが冷戦時さながらの激しい非難の応酬を行っています。

シリアでは11日、アサド政権軍の攻撃ヘリが反体制派の拠点となっている中部の都市ラスタンなどで機銃掃射を実施したと言われていますが、クリントン米国務長官は12日、ロシアがシリアのアサド政権に新たな攻撃ヘリコプターの供与を進めているとの情報があると明らかにして、新たな攻撃ヘリの供与は「紛争を劇的に悪化させる」と述べ、輸出の撤回をロシア側に求めています。

オバマ米政権はアルカイダとの繋がりも指摘される反政府勢力への直接的武器供与には消極的ですが、“米紙ワシントン・ポストによると、・・・・反体制派との接触を強めて「支援先」を精査。反体制派は、米国の情報を基にサウジアラビアやカタールが提供する資金で武器を購入し、事実上の「武器支援」が本格化したとされる”【6月13日 毎日】とも報じられています。
こうした状況を受けて、ロシアのラブロフ外相は13日、訪問先のテヘランで「米国は戦闘に使われる可能性のある武器を反体制派に提供している」と非難しています。

****シリア問題、米露の非難合戦過熱 週明け首脳会談 武器供与で応酬続く****
内戦状態に陥ったシリア情勢をめぐり、米露の非難合戦が過熱している。ロシアからシリアへの攻撃ヘリコプター輸送を非難したクリントン米国務長官に対し、ラブロフ露外相は「米国のようなやり方で武器供与はしていない」と反撃するなど応酬が続いている。

18日からメキシコで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議のさいにはプーチン体制発足後、初めての米露首脳会談が行われる予定だが、急速な関係冷却化を危ぶむ声が高まっている。

「米国がシリア反体制派を軍事的に支援したことはないことを、強調しておきたい」。クリントン長官は13日、米印戦略対話後の記者会見で、ロシアの“告発”に対して厳しい表情で不満をあらわにした。
イランを訪問中のラブロフ外相が、「米国も(シリアの)反体制派に武器を供与している」と非難した-との報道に反論したものだ。米国は反体制派への支援を医療品や通信機器に限定していると主張、根拠に乏しいロシア側の非難に長官がかみついた形だ。

クリントン長官はさらに、ロシアがシリアのアサド政権への武器提供を停止するなど「建設的な行動」を取らなければ、シリアや周辺地域に有する「極めて重要な権益を危機にさらすことになる」と警告した。

米側がいらだつ背景には、ロシアがアサド政権への支援をやめない上、国連・アラブ連盟のアナン合同特使の調停案も実質的な破綻に陥った現状への不満がある。米国では、アサド政権が調停案を履行しないのは、ロシアとイランの側面支援があるためだ-との見方が根強い。
シリア情勢は、米露間の溝を広げる要因になりかねない状況だ。【6月15日 産経】
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実際のところ、反体制派が使用している武器・弾薬がどこからくるのか・・・という点は、興味深くもあり、また“戦況”の帰趨を左右する問題でもあります。
“米国の情報を基にサウジアラビアやカタールが提供する資金で武器を購入”ということであれば、ロシア側の言い分ももっともな感もあります。

【「奴らは現体制ではなく、自分の財布に忠誠を誓っている」】
反体制派の主たる武器調達先は、敵である政府軍であるとの面白いレポートがありました。
ただ、政府軍から購入した武器には、暴発するように細工がなされているものもあるとか。

****内乱シリアの奇妙な武器販売****
シリア 反政府勢力の武器仕入れ先は敵である政府軍
アサドよりもカネを愛する彼らが敵に高値で武器を売る


シリア北西部のジャバル・アッザーウィヤにある反政府武装勢力・自由シリア軍(FSA)の基地。男たちの一団が緊張気味の捕虜を独房から連れ出し、外で待つ車に乗せた。数時間後、彼らは大量の武器を手に入れて戻ってきた。
新しい弾丸やロケット弾を倉庫に運ぶ男たちの横で、9ヵ月前に政府軍から離脱して自由シリア軍に合流したハムザ・ファタハッラーが「取引」の仕組みを説明してくれた。

「われわれは政府軍の兵士をたくさん捕虜にした。もう軍には戻らないという条件で、少額の現金と引き換えに彼らを故郷に帰してやるんだ。その金でわれわれは武器を買っている」
今回の捕虜の「代金」は500ドル。この金で最も有力な仕入れ先から弾薬を買うことができると、フアタハッラーは言う。最有力の仕入れ先とは彼らの敵、シリア政府軍のことだ。

この奇妙な取引は、バシヤル・アサド大統領の現体制に対する武装蜂起が始まった当初から続いている。ファタハッラーの推定によれば、彼の住む村では武器の40%政府軍から買ったものだ。捕虜の解放と引き換えに手に入れた現金は8万ドル近く。すべて武器の購入に充てる予定だと、ファタハッラーは言う。

その他の50%は戦闘で奪い取った武器。残りの10%は外国からの援助や密輸品、あるいは民間の武器商人から購入したものだという。この市場調達分の大半はイラクから流人している。

体制側(少なくとも忠誠心の薄い軍人たち)にとって、敵への武器供給は「おいしい」ビジネスだ。政府軍の将校たちはAK47自動小銃の弾を1発約4ドルで売っているが、内戦前の相場は10分のI以下だったと、ジャバル・アッザーウィヤ地域で反政府武装勢力の総司令官を務めるアフメッド・アッシェイフは言う。

アッシェイフの指揮下にある8個大隊、約6000人の戦闘員は「シャームの鷹」と呼ばれている(シャームはヨルダン、レバノンなどを含む歴史上の「大シリア」地域のこと)。

売り手の大半は将校たち
アッシェイフによると、AK47の取引相場は1000ドルほど。ロケット砲は砲弾4発付きで最大4000ドルするという。
「(政府軍の)将校連中が武器を売るのは、革命を支持しているからではない。カネを愛しているからだ」と、アッシェイフは言う。「奴らは現体制ではなく、自分の財布に忠誠を誓っている」

売り手の大半は将校クラスだが、中には下士官以下の兵士が政府軍の武器庫から盗んだ武器や弾薬を売るケースもある。
この取引は必ずしもスムーズにいくとは限らない。自由シリア軍の基地で昼食を終えた男たちが休憩中、大きな爆発音がして全員が慌てて立ち上がった。彼らが心配していたとおり、前日の夜に購入したAK47の弾が仕掛け爆弾だったのだ。幸い、この日は1人の死傷者も出なかった。

男たちはこれまでの経験から、政府軍から買った弾丸の危険性を知っている。一部の弾にはAK47とその使用者を爆破するため、通常の火薬の代わりにTNT火薬を詰めてあるのだ。
男たちはこれまで、数人の負傷者を出し、2丁のライフルを失った末に、偽の弾丸を見つける方法を身に付けた。今回は「怪しい」と思った誰かが「爆破処理」したようだ。被害は処理係の手が真っ黒になり、髪の一部が焦げ、テーブルに穴が開いただけで済んだ。(中略)

イブラヒムによると、偽の弾丸はこれまでに他の部隊で多数の銃を破壊し、数人の死傷者を出しているという。だが、喉から手が出るほど武器が欲しい彼らにとって、危険は承知の上だ。

政府軍の武器庫襲撃も
アッシェイフによると、「シャームの鷹」が保有する武器の半分は敵から押収したもの。その大半は政府軍との戦闘や検問所への襲撃で手に入れた武器だが、政府軍の武器庫に対する組織的攻撃も行っているという。
先週、ムガーラの検問所を襲撃したときは、珍しい戦利品が手に入ったと、アッシェイフは誇らしげに言った。対空兵器と一緒に奪い取ったT62戦車だ。

もう1つの有力な武器人手ルートは、政府軍から離脱した兵士が武器と一緒に反政府勢力に合流するケースだ。(中略)
自由シリア軍は武器の調達だけでなく、製造も得意だ。基地から見て町の反対側にある秘密倉庫では、大きな釜で肥料と砂糖を煮込んでいた。ティーポットから大きな金属製パイプまで、彼らはあらゆる材料を組み合わせ、対戦車・軍用車両用の仕掛け爆弾を作る。23ミリ弾の薬莢には、爆薬と一緒に小さなろうそくの芯が入っていた。

「われわれはとても単純な武器で、戦車やロケット、ミサイルといった高度な兵器を持つ体制側と戦っている。国民をひたすら殺すだけの政府や体制とは、いったい何なのか」と、離脱兵のファタハッラーは大忙しの武器工場を案内しながら言った。

「シャームの鷹」の男たちが繰り返し必要性を訴えていたのは、外国による軍事介入ではなく、武器調達への支援だった。だが外国の支援があるかどうかにかかわらず、彼らはアサドを権力の座から追放するまで戦い続ける覚悟だ。
「コーランには、敵と戦うために可能な限り武器を備えよと書いてある」と、アッシェイフは言った。部下の指揮官たちは次の作戦をめぐり議論を続けている。
「たとえ武器がなくなっても、使えるものが石だけでも、われわれはアサドが失脚するまで革命運動を続けていく」【6月20日号 Newsweek日本版】
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