サウジアラビア  女性の参政権を認めることで「アラブの春」に対応 | 碧空

サウジアラビア  女性の参政権を認めることで「アラブの春」に対応

碧空-サウジ 女性参政権
(“flickr”より By Robert Reed Daly http://www.flickr.com/photos/theneointellectual/5843796401/

【異なる人権意識】
サウジアラビアに関しては、7月4日ブログ「サウジアラビア インドネシアからの出稼ぎ家政婦への処遇が問題化」(http://ameblo.jp/azianokaze/day-20110704.html

)で、アジアからの出稼ぎ労働者に対する虐待の問題を、また、6月22日ブログ「サウジアラビア 女性の自動車運転解禁を求める動き クリントン米国務長官も支援」(http://ameblo.jp/azianokaze/day-20110622.html
)では、女性の権利の問題を取り上げました。

先ず、インドネシアからの出稼ぎ家政婦の問題については、「労働者の代わりは他にいくらでもいる」(サウジ当局者)とするサウジアラビア側には譲る気はないようです。

サウジアラビア人の雇い主にインドネシアへの里帰りの許可を求めたが認めてもらえなかったため、雇い主を殺害したインドネシア人家政婦が、今年6月、インドネシア側に事前通告なく斬首刑が執行された件をきっかけに、サウジアラビア人雇い主による虐待の横行への批判がインドンネシアで高まり、インドネシア政府はサウジアラビアへの労働者派遣を停止するなど、強く抗議しています。

****インドネシア:サウジで埋葬の遺体引渡し、政府に協力要請*****
サウジアラビアで雇用主の女性を殺害し、今年6月に斬首刑になったインドネシア人家政婦の遺族が27日、ジャカルタ市内で会見し、サウジ国内に埋葬された遺体引き渡しへの協力をインドネシア政府に求めた。

イスラム教の聖地メッカで働いていたルヤティさん(54)は昨年1月、雇用主の女性をナイフで刺して殺害し、今年5月に死刑判決を受けた。死刑執行後、長女エエンさん(36)ら遺族はインドネシア政府を通じ、サウジ側に遺体引き渡しを求めてきたが交渉は進んでいない。
エエンさんは先月中旬、出稼ぎ労働者を支援する民間団体の調査団と現地を訪問。メッカのインドネシア総領事に協力を要請したが、サウジの法律では一度埋葬した遺体を掘り起こすことは禁止されており、引き渡しは難しいと拒絶された。【9月27日 毎日】
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【女性の権利拡大要求を受け入れ、内政の足固め】
女性の権利問題については、大きな前進が見られました。
サウジアラビアは、イスラム教ワッハーブ派(スンニ派のひとつ)が国教とされていますが、ワッハーブ派は厳格さで知られており、女性の権利も大きく制約されています。
例えば、女性による車の運転や近親者による付き添いなしでの外出は禁止されています。

そんなサウジアラビアで、アブドラ国王が女性の参政権が認めることを発表して話題になっています。
****サウジアラビア:女性に参政権認める 国王が発表****
サウジアラビアのアブドラ国王は25日、男性だけを任命していた国政の助言機関・諮問評議会(150議席、任期4年)に女性を登用し、地方選挙での投票と立候補も認めると発表した。諮問評議会への任命は次期からで、地方参政権は早くても4年後の次回選挙からだが、政治参加が厳しく制限されるサウジの女性に参政権が認められるのは初めて。中東の民主化政変「アラブの春」の影響で高まる女性の権利拡大要求を受け入れ、内政の足固めを図る意図があるとみられる。

国営サウジ通信によると、アブドラ国王は今回の決定について、「シャリア(イスラム法)に沿った全ての社会的役割から女性を排除することを拒否するがゆえだ」と発言。国家の重要政策がイスラム法にかなうか審議する高位聖職者評議会などに諮問した上の判断だと説明した。

保守的な部族文化が根強く戒律の厳しいイスラム教ワッハーブ派を国教とするサウジでは、女性は基本的に政治参加できない。外出には男性後見役の同行が求められ、車の運転も禁じられている。09年に初めて女性が女性教育担当の副大臣として入閣した。

サウジアラビアでは今年、東部地域で政治犯の釈放を求めるデモが発生。知識人らが女性の不参加を理由に地方選挙のボイコットを呼びかけたり、女性が車を運転する権利の承認を求める抗議活動を行っていた。【9月26日 毎日】
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「アラブの春」のような革命的な民主化・政変を避けるための、“上からの改革”のようです。

女性の権利が制約されているサウジアラビアですが、“スンニ派の一派で最も保守的とされるワッハーブ派を奉じるサウジでは、女性による自動車の運転が禁止されており、進学や就職にも男性親族の許可が必要だが、着実に女性の社会参加は進んできた。2009年には初の男女共学の大学が開校。欧米で教育を受けた女性を中心に企業で活躍する人も多く、「銀行口座の7割は女性が保有する」(金融関係者)” 【9月26日 時事】と、女性の社会参加が拡大する流れにあるようです。
女性の運転についても、現在でも都市部に比べて規制の緩やかな地方・農村部では実際に行われています。

今回発表によれば、実際の選挙への参加は早くても4年後とまだ先ですが、女性の社会進出を加速する起爆剤になることが期待されます。
当然ながら、宗教界などを中心にこうした改革に批判的な勢力も強く、抵抗も予想されています。

なお、女性の車の運転が禁止されている理由は、車の運転により男性との接触機会が増え、不倫などにつながりかねない・・・ということだそうです。
確かに女性の社会活動が拡大すれば、恋愛などの有り様も変化してくるでしょうが、それは自由な人間として当然の成り行きであり、女性を家庭に閉じ込めることで防止するという発想はいかにも男性中心的で理解できません。

そう言えば、アフガニスタンの旧タリバン政権は、女性のハイヒールの靴音が男性に情欲を起こさせるという理由で、ハイヒールを禁止していました。同様の発想でしょう。

【モロッコの“上からの改革”】
「アラブの春」への“上からの改革”による対応は、モロッコでも見られます。
民主化デモがモロッコで続いていることに危機感を抱いた国王モハメド6世の提案により、従前は国王による任命制だった首相を議会の多数派の党から選出されるシステムに変更するなど、国王の権限縮小を含んだ憲法改正が行われました。

“上からの改革”というものは、基本的に現行枠組みを維持・延命するためのものであり、改革の徹底を求める立場からは容認し難い不十分なものでもあります。
そうした不満・挫折感は鬱積していますが、今のところ、国王モハメド6世の対応は功を奏したようで、民主化要求デモは収まっているようです。

****モロッコ国民投票、 圧倒的多数で憲法改正案を承認****
モロッコで1日、国王の権限縮小などを盛り込んだ憲法改正案の国民投票が行なわれ、ムーライ・タイエブ・シェルカウィ内相は同日夜、98%の賛成多数で承認されたと述べた。

シェルカウィ内相によると、94%の投票所から報告を受けた時点で、98%が憲法改正案を承認した。投票率は72.65%で、今回の国民投票が若年層に支持されていたことを反映し、同内相によると投票した人の30%が35歳未満だった。

モロッコを含む中東・北アフリカ各地で民主化を求める抗議行動が起きたことを受け、モロッコのシディ・モハメド6世国王は前月、国王の権限の一部を首相と議会に委譲するとした憲法改正案について国民投票を実施すると発表していた。

憲法改正案によると、国王はモロッコの元首、軍の最高指導者、モロッコにおけるイスラム教の最高指導者としての地位にはとどまるが、議会で最大の議席を持つ政党から選ばれる首相が政府のトップになる。憲法改正案は首相の権限強化のほか、司法の独立の強化や議会の役割の拡大も定めている。また国王を「神聖」とする記述も削除した。
また、憲法改正案は女性の権利の拡大や、一部の地域で古くから話されているベルベル語をアラビア語とならぶ公用語とすることも定めた。モロッコでベルベル語に公的な地位が認められたのは初めて。

憲法改正案は数週間前から街頭に出ていっそうの民主化を求める抗議行動を行っていた多くの人々が求めていた完全な立憲君主制にはいたらない内容で、デモ参加者らは1日の国民投票のボイコットを呼びかけていた。【7月2日 AFP】
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