タイとペルー 奮戦する身内女性候補 タクシン元首相の末妹とフジモリ大統領の長女
(海外亡命中の兄タクシン元首相に代わって野党首相候補となったインラック・シナワット候補(43) 以前バンコクで初めてアピシット首相のポスターを目にした際には、てっきり映画スターかモデルのポスターと思いました。アピシット現首相とのエリート美男美女対決となっています。“flickr”より By Godfather008 http://www.flickr.com/photos/way008/5741684317/
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【「インラック効果」で単独過半数も視野に】
タクシン元首相派と反タクシン派の対立で政治の機能マヒが続くタイでは、7月3日に総選挙が行われます。
タクシン元首相派のタイ貢献党が第1党になっても単独過半数はとれず、アピシット現首相率いる民主党を軸とした反タクシン派連立政権を維持できる・・・・というのが、総選挙に踏み切ったアピシット首相の読みだと報じられています。
しかし、海外亡命中のタクシン元首相に代わって、末妹のインラック・シナワット候補(43)がタイ貢献党の首相候補となったことで、タイ貢献党が支持を広げ、単独過半数を獲得する可能性も出てきたとか。
ただし、シナワット候補が前面に出ることで、タクシン元首相をめぐる代理戦争の色合いは鮮明となり、いずれが勝利しても国民和解への道は遠くなったとも言えます。
****タイ総選挙:タクシン元首相の妹、台風の目に*****
7月3日投票のタイ総選挙で、同国初の女性首相候補となったタクシン元首相の実妹、インラック・シナワット候補(43)=タイ貢献党=が人気を集め、選挙戦序盤の台風の目となっている。元首相への反感が根強いとされた首都バンコクでも「インラック効果」で貢献党が支持を広げ、このまま人気が続けば、困難と見られていた単独過半数を同党が獲得する可能性も出てきた。
貢献党は28日、最大の票田バンコクで初めて選挙集会を開催。会場のルンピニ公園には約1万人が集まった。夫とともに訪れたバンコク市内の会社員の女性(56)は「政治には関心はなかったが、08年にタクシン派政党が裁判所から解党処分を受けた時から、この国には不公平があると思うようになった。同じ女性として、女性の首相が生まれればうれしい」と語った。
強いカリスマ性が売り物の兄タクシン氏とは対照的に、政治経験のないインラック氏は初々しい雰囲気をアピール。自身の経験不足を認めたうえで「女性として国民に尽くせる道がある」と訴える。「美男のエリート」アピシット現首相(46)に対抗できる「美貌」で人気を集める一方、女性の政界進出を望む高学歴層からも好感を得ているようだ。
タイでは北部、東北部がタクシン派、南部が反タクシン派の地盤とされるが、選挙を大きく左右するのは中部の大票田バンコクを中心とする首都圏だ。比較的裕福な住民の多いバンコクでは、地方の貧困層を優遇したタクシン氏への反感は強い。
だが地元紙が大学と共同で今月23~25日に実施した世論調査では、バンコクの33の小選挙区のうち19選挙区で貢献党の候補がリード。反タクシンの民主党候補が優勢なのは5選挙区のみだった。党派別の支持率でも貢献党47%、民主党41%と差が付いている。
07年の前回総選挙では、タクシン派政党は第1党となったものの、過半数にはわずかに足りなかった。今回も貢献党は第1党を確保するものの過半数は獲得できず、第2党となる民主党が少数政党と連立して政権を維持するとの見方が根強い。少数政党にとってタクシン色の強い貢献党との連立は困難と見られるためだが、貢献党がインラック人気に乗ってさらに勢いをつけ、過半数を確保すれば、連立なしでの単独政権樹立が可能になる。【5月28日 毎日】
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【「半分の民主主義」】
従来、タイの政治には軍と国王が大きな影響力を有していました。
軍はこれまでもたびたびクーデターを決行して権力を手中にしてきましたが、既存勢力を排除しようとするタクシン元首相とは対立がありました。特に、昨年のタクシン元首相派抗議行動を軍が武力で強制排除し、多数の犠牲者が出たことで、その責任を巡っても溝が深まっています。
もし、タイ貢献党による政権奪取ということになれば、再度のクーデーターの可能性も囁かれています。
国民から深く敬愛されるプミポン国王は、政治対立の危機的状況で、その調整役としての役割を果たしてきましたが、近年は高齢で体調がすぐれず表舞台には出なくなっています。
タイの政治混乱が容易に収束しないのは、これまで国王に頼っていた調整がなされなくなったことも大きな原因で、タイ民主主義の新たな再生が求められています。
なお、反タクシン派には「タクシン氏は王制転覆を狙っている」と強い警戒感があります。
タクシン元首相が、既存勢力の枢密院など王室側近と対峙していることは事実ですが、“王制転覆”云々はどうでしょうか?
****タイ総選挙 続く「タクシン時代」****
・・・・貢献党の比例代表候補には、タクシン派で「赤シャツ」と呼ばれる反独裁民主統一戦線(UDD)の25人以上も、顔をそろえた。そのUDDは19日、バンコク市内のラチャプラソン交差点で、数万人を集めての大規模集会を開いた。ステージの裏で、リーダーのナタウット・サイクア氏(比例名簿9位)が口を開いた。
「貢献党のみが、民衆が主役の民主主義を建設できる。タイには民衆を押さえつける者がおり、それから民衆を解放することが必要だ。民衆が選ぶ政権が誕生すれば、(民主化の)問題は解決できる」
「押さえつける者」とは、ほかならぬ軍である。昨年、バンコクでは「タクシン大統領」と書かれたビラがまかれた。その意味は「タクシン派の王室軽視」だと解釈されている。
■国王ありき
20日、反タクシン派で、かつてはアピシット政権の“後ろ盾”だった「黄シャツ」、民主市民連合(PAD)の集会。国連ビルの目の前の公道を占拠し続け、国王崇拝の歌が流れる。
PADは、アピシット氏の国境紛争などへの対応を不満とし、総選挙では事実上の棄権に回る。アピシット氏には痛手だ。
リーダーのチャムロン元バンコク都知事らは「プレアビヒア寺院遺跡がある4・6平方キロメートルの国境未画定地域から、カンボジアの軍も住民も退去すべきだ。それが地域へのインドネシア監視団派遣受け入れの前提だ」と言う。
メンバーのひとりは「PADは国王ありき。クーデターであれ、国王のためであるならば支持する。UDDは『民主主義』と言うが、タクシンを帰国させたいだけだ」と言い切る。
■割れる評価
国王は政変のたびに強い政治的影響力を発揮し、国王、王室を批判すれば不敬罪で逮捕される。今回の選挙戦でも、批判は“ご法度”となった。「最大の政治勢力」ともいえる軍のクーデター→政権交代→憲法改正というサイクルも、幾度となく繰り返されてきた。
この2つの要素こそが、「タイ式民主主義」「半分の民主主義」と称されるゆえんである。
2006年9月のクーデターで倒れたタクシン政権とは、何だったのか。国家を企業、首相を最高経営責任者(CEO)と位置づけ、上からの経済成長政策、政治・行政改革、農村の底上げなどを推し進めた。同時に、権威主義的で、自身の企業を優遇する恣意(しい)的な政治運営は、軍や官僚の強い反発を買う。国王も苦言を呈した。
タクシン時代の評価は割れている。選挙戦を貫く基本的な対立軸も、なお「タクシン」という1本の線だ。その意味で、タクシン時代は終わってはいない。【5月27日 産経】
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(こちらは、ぐっと庶民的なケイコ・フジモリ氏 大統領の座が手に届くところまできています。「父親の恩赦しか政策がない」との批判もありますが・・・ “flickr”より By periodismope http://www.flickr.com/photos/periodismope/5743206972/
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【ケイコ氏、僅差の激戦】
一方、南米ペルーでは6月5日に大統領選挙の決選投票が行われます。
こちらで注目されるのは、服役中のフジモリ元大統領の長女、ケイコ・フジモリ氏が大統領の座を射止めることができるかどうかということです。
5月8日に発表された世論調査では、ケイコ・フジモリ候補の支持率が41%で、左派民族主義者のオジャンタ・ウマラ候補の39%を上回っていました。
なお、4月10日の第1回投票では、ウマラ氏の得票が31.69%で1位となり、ケイコ氏は23.55%で2位でした。
****ペルー大統領選、決選投票まであと1週間****
1週間後に迫ったペルー大統領選の決選投票(6月5日)は激戦が続いている。
27日発表の世論調査の支持率は、中道右派の国会議員、ケイコ・フジモリ氏(36)が50・3%、左派の元軍人、オジャンタ・ウマラ氏(48)が49・7%で、僅差で競り合っている。
ケイコ氏は4月10日の第1回投票で2位だったが、5月上旬の世論調査で初めて首位に立った。一時は5ポイントまでリードを広げたが、ウマラ氏も巻き返し、互角の状態に戻った。
ケイコ氏は地盤の首都圏貧困層などに加え、好景気の持続を望む富裕層にも支持を拡大している。ウマラ氏は、急進左派イメージの払拭に努め、中間層などへの浸透を図っている。【5月28日 読売】
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全く予断を許さない激戦の様相です。
【「最も拒否感の強い2候補」】
「反フジモリ」勢力は、「(ケイコ氏は)父親の恩赦しか政策がない」と攻撃していますが、ケイコ氏は「私が大統領になりたいのは、国家全体のための決断をするためであり、家族の便宜を図るためではない」と語り、有罪判決を下された父フジモリ元大統領(72)を当選後に恩赦する可能性について、「その考えはない」と明確に否定しています。
もっとも、“恩赦”はなくても、裁判のやり直しとか、他にいろいろあるかもしれませんが。
いずれにしても、ケイコ氏は選挙戦中は「貧困対策」を前面に押し出し、恩赦問題への深入りを避け、国民の幅広い支持を取り付けたい考えとみられています。【5月8日 読売より】
ともに貧困層を支持基盤とする形で競合する両候補ですが、政治姿勢的にはケイコ氏は中道右派とみられ、急進左派のイメージが強いウマラ氏よりは支持層の幅を広げやすい点はあります。
もっとも、強権政治を敷いた元大統領の娘、急進左派的な元軍人という両候補の背景から、
“ケイコ氏とウマラ氏は「われわれは過去の圧政に戻るか、空白に飛び込む自殺行為に身を委ねるか」(トレド前大統領)と批判の的にされることも多かった。ただ、熱狂的とも言える支持基盤を共に固めた結果、一部の国民にとっては「最も拒否感の強い2候補」(地元政治評論家)が勝ち残る形となり、有権者は6月5日の決選投票まで難しい選択を迫られる”【4月12日 時事】との指摘もあります。