イエメン  北部ザイド派武装勢力との戦闘激化 多数の避難民発生 | 碧空

イエメン  北部ザイド派武装勢力との戦闘激化 多数の避難民発生


碧空-イエメン カート
(イエメンの男性 頬が膨らんでいるのは病気ではなく、カートと呼ばれる軽い覚醒作用があると言われる木の葉を溜め込んでいるためです。
イエメンでは、“イスラム教で禁じられている酒の代わりに、カートを噛む習慣が広く行われている。カートはイエメン人の社交になくてはならないものであり、街中や個人宅で何人かで寄り集まり、カートを噛みながら談笑にふける姿がよく見られる。”【ウィキペディア】
なお、カートは他のアラブ諸国では禁止されています。
“flickr”より By Ferdinand Reus
http://www.flickr.com/photos/ferdinandreus/3202557463/ )

【半島唯一の共和制国家にして中東最貧国】
アデン湾をはさんで東アフリカ・ソマリアの対岸にあたるイエメンは、王族支配の国が多いアラビア半島諸国において唯一共和制をとる立憲国家です。
“民主化に強い意欲があり、言論の自由も認められているとされるが、サーレハ大統領個人に対する批判は認められておらず、厳しい取締りを受ける。近年では、独裁傾向を強めているとされる。”【ウィキペディア】

経済的には、石油で潤う中東にあって、中東最貧国とも言われるように厳しい状況にあり、03年の失業率は35%と高率になっています。
08年度の1人当たりGDP(購買力平価)は2412ドルで、181カ国中134位。

【ザイド派武装勢力】
そのイエメンは最近、北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派武装勢力と政府軍の戦闘が激化しています。

****武装勢力との戦闘激化=複数戦線に直面-イエメン****
アラビア半島南西端のイエメンで、北部の少数派イスラム教シーア派の一派ザイド派武装勢力と政府軍の戦闘が激化している。戦略的要衝に位置する同国は、アデン湾を挟んで対岸にあるソマリアの海賊対策で協力が不可欠な国で、その不安定化は地域情勢にとって大きなマイナス要因になりかねない。

政府は8月23日、過去2日間の戦闘でザイド派武装勢力100人以上の遺体が北部の町ハルフスフィアン郊外で見つかったと発表した。政府軍は約2週間前に攻勢を開始。サレハ大統領は武装勢力を壊滅させると強調しており、戦闘で優位に立っていることをアピールする狙いがあるもようだ。

政府はザイド派武装勢力について、共和制に移行した1962年のクーデターまで続いたイスラム聖職者支配体制の復活を狙っていると主張。ザイド派は政府の抑圧政策に抵抗しているだけと反発している。
ラウジ情報相はシーア派の大国イランがザイド派を支援していると非難。政府当局者はイラン製の武器が大量に発見されたとしており、地域の宗派対立も影を落としている。
イエメンでは、かつて南北に分裂していたことを背景に、最近南側の分離派と政府軍の衝突が頻発。国際テロ組織アルカイダ系組織の活動も続いており、最貧国イエメンは複数の戦線への対処を強いられている。【8月24日 時事】
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【アルカイダと南部分離派】
アルカイダ勢力については、2000年10月のアメリカ駆逐艦爆破事件、02年10月のフランス船籍タンカー爆破事件と、イエメンではかつてテロが多発しましたが、サーレハ大統領による対テロ撲滅対策が実施されてきたこともあり、03年以降は大規模なテロ事件は発生していませんでした。

しかし、06年2月、政治犯収容所に拘束されていたアルカイダ・メンバーら23名が脱走し、そのうちの一部が石油関連施設を標的とする自爆テロ未遂事件を引き起こしたあたりから、アルカイダ勢力の活動が活発化しています。
サウジアラビアと国境を接するサーダ州では外国人9人が誘拐され、そのうちのドイツ人女性2人と韓国人女性1人の遺体が6月に発見されました。こうした外国人を標的にした活動も、アルカイダ勢力の拡大を示すものと見られています。
最近では、アルカイダ系武装グループがイラクやアフガニスタンからイエメンに移動しているとの報道もなされたことがあります。(外相は、こうした報道について「誇張されている」と、否定的な考えを示しています)
アルカイダ勢力が拡大するのは、先述のような経済的困難、高い失業率が下地にあるものと推察されます

南部反政府勢力については、もともとイエメンは南北イエメンに分離しており、南イエメンはイエメン社会党の一党独裁体制による社会主義国で、ソ連の支援を受けていました。
ソ連崩壊で南イエメンも経済的に行き詰まり、1990年5月に北イエメンと統合して現在に至っていますが、旧南イエメン政府高官が中心となり反政府ゲリラとなって現政権と交戦しています。

【イランの影】
そうした、アルカイダ勢力、南部反政府勢力に加えて、北部ザイド派武装勢力との戦闘が激化しているというのが冒頭記事ですが、サーダ州では04年から衝突が続いており、これまでに数千人が死亡しています。
また、シーア派の一派ザイド派をシーア派国家イランが支援しているとの批判もあります。

****イエメン:外相「反政府勢力、イラン宗教指導者が支援」*****
イエメンのキルビ外相は10日、カイロで毎日新聞と会見し、イエメン北部サーダ州などで政府軍と交戦中の反政府勢力について「イラン国内の宗教勢力が財政的支援を行っている」と主張した。戦闘は既に約1カ月続いているが、終結の見通しは「予測できない」と述べ、長期化を示唆。反政府勢力の道路封鎖で避難民の支援が困難になっていると語った。
反政府勢力はイスラム教シーア派の一派ザイド派が主軸。キルビ外相によると、シーア派が多数派のイランで宗教学校(ハウザ)指導者らが支援しており、「国外から現金を密輸している」という。外相は、イラン当局の関与は否定した。
一方、サウジアラビアがイエメン政府を軍事支援している、との反政府勢力の主張について、外相は「現行の軍事作戦には関与していない」と反論した。

避難民は北部サーダ州などで約5万5000人(国連推計)に達している。多数が戦闘地域に閉じ込められ、電気、水、食糧の不足に直面している。外相は、武装勢力が政府支援の妨害によって避難民の状況を悪化させ、イエメン政府に批判が集まることを狙っているとの見方を示した。【9月11日 毎日】
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中東で政治的な問題があると、“イランが・・・”とよく言われます。
真偽のほどはよくわかりませんが、それらが全部本当だとすると、イランも随分と忙しいことです。

【ソマリアから難民、国内でも難民】
避難民が多数発生している状況で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は双方に対し、支援物資の供給ルートの即時確保を強く要請。「戦闘は民間人の安全と福祉に全く配慮せず行われている」として、早期停戦を求めています。

イエメンは海賊の本拠地であるソマリアへの武器密輸の経由地の一つ。
イエメン政府は海賊対策の一環で沿岸警備隊の強化を目指し、日本にも巡視船の供与など協力を要請。海上保安庁が実施した海上犯罪取締研修にも要員を参加させています。【8月14日 毎日】
そうしたソマリア関連の問題もありますが、何よりイエメン住民のために、早期の停戦実現が求められます。