10年以上前から、身体の調整でウチにいらしている
恰幅の良い穏やかな老紳士、
Oさん84歳、職業役者。
そのOさんが、昨年後半から今年にかけて
頻繁に通って来ていた。
「いやぁ、この歳になって初めて映画の主役を演じることになりましてね」
それまでは特に目立った役をもらえることもなく
脇役として舞台や映画などに出演していた。
役者人生60数年にして、初の主演。
監督は、カンヌでパルムドール賞やヴェネチアでグランプリを受賞したこともある
世界的巨匠のアッバス・キアロスタミ。
Oさんの役柄は
夜はデートクラブで仕事をしている美人女子大生の相手役の
孤独な元大学教授、かりそめの恋を夢見る老人。
「台本が無い映画なんて、これも初めてです。
監督がその都度シーンを決めながら撮っていくもんで
待ち時間も多くて、もうクタクタですよ」
「昨日は車の中のシーンで、座ってばかりで腰が痛いです」
「今日は1日屋外で、足が棒のようです」
疲れた顔をしながらでも、どことなく嬉しそうなOさんであった。
そして撮影も無事終わり
なんとこの作品が、今年5月のカンヌ国際映画祭の招待作品に選ばれたのだった。
5月のある日、
「私も招待されたので、明日からカンヌに行ってきます。
海外旅行は初めてなんですよ、心配でね。
この歳で、飛行機に何時間も乗りたくないんですけどね。」
渋い顔をしながら言っていたが、やっぱり嬉しそうなOさん。
そして映画祭の風景やインタビューなどで
Oさんは何度もTVに登場していた。
インタビューを受け、Oさんは
「こんなに取材を受けると、今度からチョイ役の出演依頼が減ってしまいそうですな。
困りますなぁ、あっはっは」
なんて笑いながら答えていた。
84歳、まだまだ仕事をやる気満々なのである。
カンヌでの上映後
観客の暖かい拍手が10分程鳴りやまなかったそうである。
Oさんから試写招待券を頂き、観に行ってきた。
嘘と真実、刻々と移り変わる表情と心情。
「ええっ!」というラストシーン。
画面いっぱいに、何度も何度もOさんが映っていた。
普段のOさんとダブり、なんだか冷静に観ることができなかった。
9月にロードショー公開とのことである。
キントカゲ君に見送られ
とっておきの















































