舞台『リチャード三世』プレビュー公演
ルーマニアの鬼才プルカレーテが、ほぼオールメールの日本人キャストで初演出。
シェイクスピアの極悪ヒーローに、佐々木蔵之介が挑む。
「リチャード三世」はあれこれ観てきたが、今回はtutiこと土屋祐壱がお目当て。奇しくも「レディ・ベス」公演期間なのもオツ。
芸劇で直接取ったら前から2番目という席だった。
15世紀後半、ランカスター家とヨーク家の王位争奪戦も続行中。醜く野心家のリチャードは、忠臣らと共に、周囲の人間を次々に陥れ、邪魔な人間を次々と葬り去り、ついにイングランド王国を手に入れる。
シェイクスピア劇は、長くて難解で比喩的なやり取りが繰り広げられる会話劇だったと思うが、この舞台は言葉や台詞を通り越し、視覚や聴覚に狂おしく訴えてくる舞台であった。
喋りだけではなく、眼と耳にヒリヒリとジャブ&パンチを食らわせてくる、シェイクスピア劇としては斬新で刺激的な作品に作り変えられていた。
四方を壁や布で覆い隠されただだっ広いステージに、役者自らが椅子を動かし並べ、テーブルの用意もする。「王座獲り(イスとり)ゲーム」よろしく、椅子が男たちのモチベーションとなっている。
リチャードが座る玉座さえ、普通の安っぽい椅子なのも興味深い。
ほぼオジサンだらけのオールメール、衣装は凝っている風でもなく、華もないが、歳月が染みた濃くと愛嬌がある。
道化から裸の王様まで、変幻自在かつ荒唐無稽に演じきる佐々木蔵之介は、様々な表情を覗かせて熱くてエロイ。
信頼の証として男同士のディープキッスがあるが、これがまた全然萌えなく、キモイぐらい。それでもバッキンガム公の山中崇らは、よく耐え抜いたと思う。
少し若いイケメンらが次々アボーンされていくが、土屋祐壱も例外でなく、中盤でアボーン。行動を共にした山口馬木也は、後に別の役で登場するから贔屓だな。
女役も男性が演じるが、特に鬘やメイクに拘るものでもなく、衣装もドレスをざっくりと着ているだけ。それなのに、みんな女に見えてくるからフシギ。
壤晴彦、今井朋彦、手塚とおるはそれなりに演じきっていたが、スキンヘッドの植本純米のエリザベスが毅然とした美しさで輝いていた。カテコでも植本さんだけが満面の微笑みで丁寧にお辞儀をしていて好感。
『レディ・ベス』と同様に、男の子役2人が登場、悲劇的役割を果たして情感を誘う。
植本さん演じたエリザベス。彼女の娘こそが、レディ・ベスの祖母になるわけか。
時代に隔たりはあれど、王座獲りゲームはなくならない。
イングランドの壮絶な光と闇、義と悪をまざまざと見せつけられる2作品でもあった。