今回は前方の観やすい席。
キャスト変更は残念だが、一緒に稽古もしていたであろう峰崎亮介くんにとっては大きなチャンス。
休演期間中と観劇日が重ならなくてよかった。
井上ひさしの昭和庶民伝三部作の第一部。今回で2度目の演出になる栗山民也にとっても、一番好きな作品らしい。
太平洋戦争前夜昭和15年から16年、浅草のレコード屋オデオン座が舞台。
音楽や歌が大好きな家族で、なんでも歌に結びつけて、すぐ歌い出す。
下宿中の音楽学生(後藤浩明)の生ピアノ伴奏が絶妙に流れるから、メロディや歌を耳にするだけで、顔がほっくりしてしまう。
「燦めく星座」や「青空」は耳に馴染み、「一杯のコーヒー」だけであんなに楽しく歌えてしまうのも愉快。関係ないが、ナメクジだけで熱唱できるミュんたまを思い出した。
オデオン座主人の信吉(久保酎吉)の友人で下宿中の慶介(木場勝己)が広告文案を業にしてるから、こまつ座でも“人間キャッチコピー”を募集していたようだ。
見どころの一つ、慶介が語る「人間についての広告文」はイマイチ論理的ではないが、精一杯の真心でぶつけた言葉はストレートに観客の胸を打つ。
井上ひさしといえば、音楽劇と名台詞だが、この作品はどちらの点でも最上級の集大成で、宝石箱のような煌めきに満ちていた。
明るさの源が信吉の後妻のふじで、何と爽やかで大らかで賢くて度胸があることか。秋山菜津子さんが穏やかなお色気を振りまき、生き生きと演じ上げ歌い上げてハマり役だ。
オデオン座に婿入りした 源次郎がキーマン。自身の信念と家族の様子とを照らし合わせて心の変化を遂げるが、山西惇さんが巧みに力強く演じる。右手を失くした義手は、ハガレンのエドとたまに重なる。
酎吉の息子の正一は脱走兵なのに、人脈であちこちを渡り歩くタフな青年。サザエさんのカツオくんが浮かんだ。
峰崎亮介くんは歌はまあまあだが、大柄で柔軟な雰囲気は面白い。伸び伸びと家族に溶け込んでいた。
田代万里生くんならさぞ凛々しい歌を聴かせてくれたと思うが、ここまでお調子者になりきれたかな。もしや首がオカシクなった遠因は、蓄電器の蓋でバンバンされたり、ふじに組み伏せられたからではないかと疑ったり。
木場さん演じる慶介が一幕ごとに星座の名を呟くが、ちゃんと冬や春や夏の星座ごとなので、プラネタリウムが浮かぶ。
源次郎の台詞の後には「乙女座」が出てきて、彼はスピカみたいだと思った。娘みさをの騒動の後には「くじら座」が出て、妊婦にぴったりだと思った。
人には其々、ホロスコープとは別に星座があるのかもしれない。だからその命は「きら星」の如く大切で、はかなくもある。
「ペガサス座」の名も出たが、アニメ『聖闘士星矢』のED「永遠ブルー」の出だしは「きらめく星座が おまえを呼んでる♪」だったなと思い出した。
お気に入りの一つは食のシーン。コーヒーとお茶は香り。卵1個であんなに色んな食べ方が出てきたり。くじら肉やスキヤキなんて、今や殆ど食べれないので、かえって羨ましくもあり。
これからコーヒーを飲む度に、あの「一杯のコーヒーが♪」が浮かんできそう。
歌は、音楽は、人生の活力だ。
暗転中は緞帳に星が輝き、オデオン座の文字を照らす。
だが劇の始まりも終わりも、防毒マスクで埋められて不気味だ。星を見る綺麗な眼は、戦いの世の中にあっては息苦しくさせ、心まで腐らせてしまう、それ程毒気が強いのか。
12月7日のカレンダーが開戦を知らせる。マスクで顔を見せない人物は全て、その後に訪れる死を暗示しているのだろうか。
宇宙のように暗黒で恐ろしい話だったのかもしれない。
スペシャルアフタートークショー。
本日が最終回。
生ピアノ演奏の後藤さんは俳優ではないのね。いい年齢だが学生服姿がそろそろ馴染み、音楽への拘りを弁舌に語った。
可憐な深谷美歩さんは、みさをの中絶未遂シーンについて言葉少なに語る。
オカマ役も多かったという木村靖司さんは、食のシーンについて語る。憲兵伍長の権藤は招かれざる客で、『イットランズ』の警官を思い出した。
木場さんは22年前は40代なのに正一役だったので、康介役と比べフシギな感じだと思い入れたっぷり。栗山さんとも結構意見を交えると言い逞しさも覗かせた。
次の栗山民也さんの演出は、ミュージカル『スリル・ミー』かな。あれも生ピアノ演奏と歌とが織りなす濃密空間だ。




