BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

< The view from Changmin >

 

 

 

 

 

 

チョンさんとのメッセージのやりとりは、僕にとって何よりの癒しになっていた

好きでこの仕事に就いてはいるものの、やっぱりそれなりにストレスは溜まるわけで、そんなストレスをチョンさんの言葉がふわっと包んで消してくれた

 

最近は仕事が忙しいのか、なかなか店に顔を出してくれなくて、だから余計にメッセージは二人が繋がれる貴重な手段だった

 

 

 

「シムさん、今日は何だかテンション低くないですか?」

 

「え?」

 

 

キッチンでポテサラを皿に盛りつけていたら、オーダーを受けていたフロアスタッフがやって来てそう言った

 

 

「いつもと変わらないけど?」

 

「いやぁ、全然違いますよ

あ、もしかしてアレですか?例のお客さんが今日も来てないからとか?」

 

「例のお客さんって?」

 

「マスターが言ってましたよ、あのお客さんがいるいないでシムさんのテンションが雲泥の差だって

そんなに仲が良いんですか?」

 

 

"例のお客さん"とはチョンさんの事か...マスターのお喋りめ、と心の中でこっそり思った

いつもカウンターで一緒にいるからなのか、マスターにはチョンさんの事がそれとなく勘付かれてしまっていて、先手を打って僕は素直に打ち明けていた

とは言え、あくまでも、歳が近くて気が合うから親しくしていると話しただけで、それ以上の事は話していない

ここはそういう店じゃないから、お客さんと親しくなったところで問題はないけれど、万が一関係がこじれた時に誰にも迷惑を掛けないように、とは思っている

 

 

「チョンさんの事は、兄みたいに思ってるんです」

 

「あぁ、そうだった、チョンさんでしたね」

 

「何でも相談に乗ってくれる、頼りになる兄...

だから、来ないからってテンションが低くなるとかそういうのは全然ないですよ」

 

 

彼は疑るような目で僕を見た

この目は完全に信じていない

 

 

「本当ですか?

前に見た時、チョンさんと話すシムさんの目がハートになってるように見えたんですけど、気のせいですかね」

 

「僕の目がハート?気のせいです」

 

「でもま、別にいいんじゃないですか?

今までシムさんのそういう浮いた話を聞いた事がないですし、たまにはお客さんといい感じになったって罰は当たらないですよ」

 

「いい感じって、だからそういうのじゃないですって」

 

 

出来上がったポテサラをカウンターにドンと置くと、彼はまだ何か言いたげに僕を見ながらそれをトレーに乗せ、結局何も言わずに離れて行った

 

 

僕の目がハートになってる?まさか!!

そうならないように気を付けてはいるけれど、昔から僕は感情が顔に出るタイプで、根が正直だから仕方がない

でも、そういう事ならチョンさんにも僕の気持ちが伝わっているかもしれなくて、そうなると、今度の日曜に会った時、感情がダダ漏れだったらどうしようと不安になった

 

いや、むしろその方がいい方向に運ぶかもしれない?

 

良くも悪くも、結果は自ずと見えてくるはず

悩んでも仕方がないからここはもう自分らしく行こう、そう決心した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事が終わって帰り支度をしていると、フロアスタッフの一人が声を掛けて来た

彼は僕より1つ年下で、店に来る若い女性客をナンパするようなけしからん男だ

 

 

「シムさん、今日は直帰ですか?」

 

「そうだよ」

 

「これからちょっと遊びに行きません?」

 

「遊びに?今から?そういう時間?」

 

「えっ、本気で言ってますか?

お楽しみはこれからじゃないですかぁ」

 

「あ、そっか、君は明日は休みか

でも生憎僕は仕事だから、直帰させてもらうよ」

 

「えー、いいんですか?俺、この間いい店見付けたんですよ

1時間10000円、追加料金なしでめちゃくちゃサービスいいところ、行きません?」

 

 

完全に目尻の下がったニヤケ顔を見て、僕は思わず嫌悪感を抱いた

彼が言う"いい店"というのはズバリ、性風俗だ

彼の稼ぎの半分は風俗で消えて行っているのを僕は知っている

 

 

「また風俗?そろそろリアル彼女を作ったら?」

 

「風俗だってリアルですよ、生身ですから

それに、プラベで会ってくれる子もたまにいるんですよ」

 

「でもそれって結局は仕事の延長線上でしょ?お金絡んでる時点でアウトだよ

どうせデート代全部払わされて、おまけに高い物とか買わされてるんじゃないの?」

 

「...なんで知ってるんですか?」

 

 

適当に言ったら図星だったので、思わず絶句した

そういう意味では僕みたいに恋愛に興味がない方が幸せなのかもしれない

あ、チョンさんを除いては

 

 

「行くのは自由だけど、くれぐれも騙されないようにね

じゃ、お疲れ様」

 

「あ、シムさんっ」

 

 

後ろで彼が何か言っていたけれど、無視して店の通用口を出た

好きでもない人に体を触られたり、触ったり、そんな事のどこが楽しいのか僕にはさっぱり分からない

 

 

通りに出てスマホを取り出すと、仕事中にチョンさんから届いていた数通のメッセージを開いた

店に行けなくてスミマセンという謝罪から始まり、今日こんな事があった、夕飯は何を食べた、そして最後に、日曜が楽しみです、と結ばれていた

 

店に来る事はマストではないのに、来れない時は必ずスミマセンと謝ってくる

そんな必要ないのに、僕が楽しみにしているのを知っているから申し訳ない気持ちになるのだろう

そういう律儀なところがチョンさんのいいところだ

 

深夜に返事は送れないので、明日の朝に送るメッセージを今のうちにしたためた

気を付けないと、つい熱のこもったメッセージになってしまうので、あくまで淡々と、チョンさんと同じように今日の出来事をメインに書いた

僕からのメッセージを受け取ったチョンさんが笑顔になったらいいな、そんな事を思いながら書いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせ時刻の5分前に到着すると、既にチョンさんは駅前広場に立っていた

黒いデニムパンツに同色のデニムジャケット、インナーに白いTシャツ、スタッズの付いた黒い革靴姿、艶のある黒髪も今日はラフに流していて、いつもスーツ姿しか見た事がなかった僕は、そのギャップにドキっとした

スーツ姿もシュッと決まっていてカッコいいけれど、こういうチョンさんもいいな..なんて、遠巻きに見ながらキュンとした

 

遂に今日、プライベートでチョンさんと会う

それがどんな変化を生むのか、楽しみでもあり、不安でもある

 

部屋に上がって、コーヒーを飲んで、それからサンドイッチを作って食べる...たったそれだけの事なのに、僕の心臓はずっと早鐘状態で、手の平はじっとりと汗ばんでいた

落ち着こう落ち着こうと思っても、チョンさんの視線を感じる度にいちいち顔が熱くなってしまうし、チョンさんがどんな気持ちで僕を見ているのかと思うと息をするだけでも緊張した

そのうち酸欠になりはしないかと本気で思った

 

 

実を言うと、僕は今日、チョンさんとどうにかなってもいいと、少なくともその覚悟を持って出て来ていた

お互いの気持ちを確認もせずに時期尚早かもしれないけれど、何となくお互い惹かれ合っているような気がして、だから万が一そうなったとしても全然構わなかった

 

 

そしてそんな僕の期待を裏切る事なく、急接近の事態は不意にやって来た

 

 

それはちょうど、僕がチョンさんに自分の気持ちをそれとなく打ち明けた直後だった

コーヒーのお代わりを淹れに行こうとしたチョンさんの手に、うっかり僕は触れてしまったのだ

慌てて手を引っ込めたら、チョンさんにいきなりその手を掴まれた

突然の事に僕はびっくりして固まってしまって、チョンさんも同じように固まっていた

 

掴まれた手にチョンさんの手の温もりが伝わって、じんじんしていた

 

 

「チョン..さん?」

 

 

辛うじて出せた声は掠れてしまって声にならなかった

チョンさんはハッとして手を離すと、"ごめん"とだけ言った

 

もし僕が立っていたら、チョンさんは手を掴んだ流れで僕を抱き締めただろうか?

もし抱き締められたら、それから先はどうなってしまうのだろう?

ここがダイニングじゃなくてソファだったら...?

 

そんな仮定の話を一人脳内で繰り広げていたら、チョンさんは僕のカップをサッと取ってキッチンに行ってしまった

 

 

「...今のは何!?」

 

 

心臓が口から飛び出しそうな勢いでドキドキしていた僕は、思わぬ置いてけぼりに遭って、そう呟やかずにはいられなかった


着火するだけしといて後始末をしないなんて、あんまりだと思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※