BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔が燃えるように熱い

敬語が嫌だと言われてタメ口にしてみたものの、半ば強制的に距離を縮められたようでしっくりこない

 

 

「ちなみにだけど...シムさんも敬語をやめてくれるんだよね?」

 

「...僕もですか?」

 

 

まるで心外とでも言うような目で俺を見るから、思わず"え?"と聞き返した

 

 

「そこはシムさんも合わせてくれないとおかしいよね?」

 

「おかしいですか?でも、チョンさんは僕より年上ですし...」

 

「そんなの関係ないって

年上って言ってもたった2歳だし、年代的にはほぼ一緒だよ」

 

 

シムさんは納得が行かないのか、うーんと唸った

敬語が嫌だと言ったのはシムさんなのだから、まずはシムさんから敬語をやめるべきだ

 

 

「僕は多分無理ですよ、どうしたって敬語になっちゃいます」

 

「どうして?職業柄?」

 

「えぇ

それに、もし僕が敬語をやめたとして、それがうっかり店でも出てしまったらマズイと思うんです」

 

「そっか...

じゃあ分かった、シムさんは敬語のままでいいよ」

 

「すみません...」

 

 

そう言ってすまなさそうにペコリと頭を下げた

 

 

「12時くらいになったらサンドイッチの準備するでしょ?俺も手伝うよ」

 

「あ、いいですよ、僕一人でできますから」

 

「でも、調理道具がどこにあるかとか、台所の勝手が分からないよね?

俺がいた方がいいと思うんだけど」

 

「それは勘で探すので大丈夫です

一人の方が集中できますし、チョンさんはテレビでも見ながら待っててください」

 

「...分かった」

 

 

敬語をやめた事で、二人を隔てる壁が取り払われて、それがいい方向に働くのかと思っていたら、実際はそれほど距離が縮まらなかった

何かを期待していた俺は、見込み違いだったのではないかと思い始めていた

 

 

12時ちょっと過ぎにシムさんが台所に入って行くと、俺は一人、ソファに座って指示通りテレビを見ながら待つ事にした

シムさんは客人なのに、家人の俺が寛いでいるというのはどうにも落ち着かない

 

待っている間、台所からはカチャカチャという調理器具の触れ合う音や、冷蔵庫を開け閉めする音が聞こえて来て、それを聞きながらふと、この家で誰かに料理をしてもらうのはシムさんが初めてかもしれないと気付いた

親は勿論、友人も、自分ですら殆ど料理をしていない

 

シムさんが今日ここに来てくれた事は何かしら意味のあるものなのだ、そう思ったら、ただじっと待っているのがもったいなくて、テレビを消すと台所へ向かった

 

テレビを見ているはずの俺が突然やって来たので、シムさんはひどく驚いていた

 

 

「まだ出来てないですよ?」

 

「分かってる」

 

「じゃあ、何か別の用ですか?」

 

「うん、ちょっと気になって...」

 

「サンドイッチがですか?」

 

「いや...

 

シムさんが」

 

「...え?」

 

 

ちょうどレタスをパンに乗せる手順のところで、シムさんはレタスを持ったままこちらを向いた

大きな目が、ひと際大きくなっていた

 

 

「僕が..ですか?」

 

「そう

だって、せっかく来てくれたのに、俺一人であっちで座って待ってるなんて寂しいじゃん?」

 

「あの...」

 

「手伝うよ、俺にもやらせて」

 

 

俺はシムさんの手からレタスを奪うと、パンの上に収まるように乗せた

 

 

「こう?」

 

「え?あぁ、はい」

 

「あとは?」

 

「えっと...あとは...」

 

 

オロオロしながらシムさんの視線が調理台の上を彷徨った

そして、メイン食材のコンビーフの和え物が入ったボウルを俺に寄越した

 

 

「これを...上に広げてください」

 

「分かった」

 

 

上手くできたかどうかは分からないけれど、とりあえず二人で作ったサンドイッチを皿に盛りつけると、ダイニングテーブルに運び、向かい合って席に着いた

 

 

「いただきます」

 

「...いただきます」

 

 

サンドイッチは味付けがまさに俺好みで、あっという間に平らげてしまった

店ではいつも、シムさんの作った料理を俺一人で食べているのに、今は二人で一緒に食べている、そう思ったらじわじわと心が満たされて行った

いつもこうだったらいいのに...

 

 

「美味しい?」

 

 

シムさんが余りにも静かなので、機嫌でも悪いのかと心配になって声を掛けた

 

 

「えぇ、美味しいです」

 

「何かさ...こういうのっていいよね」

 

「こういうの?」

 

「うん

一緒に料理して、一緒に食べて、一人じゃないっていいよね」

 

「...そうですね」

 

 

シムさんはそう言ってふわりと微笑んだ

それを見て、俺は何かに急かされるように言葉を探した

 

 

「あのさ...

また来て欲しいって言ったら、迷惑かな

勿論、無理にとは言わないけど、またシムさんの手料理が食べられたらいいな..って」

 

 

これきりで終わりにしたくない、そう思ったら勝手に言葉が口をついて出ていた

こんな風に誰かに気持ちを伝えるのは久し振りで、心臓が物凄い速さで脈打っている

 

シムさんはゆっくりと視線をテーブルの上に落とした

どんな答えが返って来るのか、ゴクリと唾を飲み込んだ

 

 

「僕の手料理を食べたいなら、できればお店に来てくれた方が有難いんですけど...」

 

「あ...そうだよね、ここで食べたら売上げにならないか」

 

「あ、いえっ、そういう意味じゃないんです

でも...また来ていいなら、今度はチョンさんの食べたいものを作ってもいいですか?」

 

「俺の?」

 

「えぇ、だって、お店と同じメニューじゃ僕も作り甲斐がないですし、チョンさんの好物も気になるし...

あ、どうせなら、夕飯にしましょうか?」

 

「夕飯?夜までいるって事?」

 

「えぇ、ダメですか?」

 

「いや、ダメではないけど...」

 

 

昼間に会うのと、夜に会うのとでは、こちらの心持ちが全然違う

シムさんはそれを分かって言っているのだろうか

 

 

「夕飯だったらお酒も飲めるし、僕はその方が嬉しいです」

 

 

そう言ってシムさんは照れ臭そうに笑った

お酒が入ったシムさんがどんな風になるのか見てみたい

 

 

「気が早いですけど、来週なんてどうですか?」

 

「来週?そんなにすぐ会ってくれるの?」

 

 

俺がそう言うと、なぜかシムさんはクスっと笑った

こういう時に見せる特有の色っぽい表情にドキっとした

 

 

「何?おかしい?」

 

「なんだかデートに誘われてるみたいですね、僕」

 

「え...そんな感じだった?」

 

 

シムさんは笑顔のままコクリと頷いた

 

 

「でもこういうの、楽しいからいいです

誰かと出掛けたり、一緒に食事したり、本当に久し振りなんです」

 

「そっか...

 

シムさんて、付き合ってる人とか...いたりしないの?」

 

「え?」

 

 

シムさんが驚いた顔で俺を見た

流れでつい訊いてしまったけれど、これは余りにもストレート過ぎた

 

 

「どうしてそんな事を訊くんですか?」

 

「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど、つい...」

 

「僕に恋人がいるかどうか、気になりますか?」

 

 

俺はシムさんが気になるし、誰かのものであって欲しくはない

でも、どこまで想いを伝えたらいいのか...まだ俺たちは知り合って間もない

 

 

「気になるよ

シムさんに特定の相手がいるのかどうか、凄く気になる」

 

「どうしてですか?」

 

「どうしてって、それは...

シムさんの事が気になってるから

だからこうしてプライベートで会いたいと思ったし、また来て欲しいと思った」

 

 

シムさんは目を伏せると、すぅっと息を吸い込んでゆっくりと吐き出した

答えに困っている、そう思った

 

 

「困らせてるよね、ごめん

来なければ良かった..って、思ったよね」

 

 

すると、シムさんはパッと顔を上げた

 

 

「来なければ良かったなんて、思う訳ないじゃないですか

チョンさんの家に行ってもいいって言ったのは僕だし、無理やり連れて来られたとも思っていません」

 

「でも、ちょっとは困ってるでしょ?」

 

「それは...」

 

 

シムさんの顔がみるみる赤くなって行った

 

 

「それは...僕も同じだから、別に困りません」

 

「...同じ?」

 

「僕もチョンさんの事が気になってます

気にならなかったらこんな風に会ったりしません」

 

 

そうであって欲しいと願っていた事が現実になった

でも、お互いが気になる存在だと分かっただけで、恋愛的な要素がどれだけ含まれているかはまだはっきりしていない

 

気を紛らわせようとカップを持ち上げたら、既に飲み切って空だった

 

 

「コーヒーのお代わり、飲むでしょ?」

 

 

そう言って立ち上がると、シムさんのカップも持って行こうと手を伸ばした

 

 

「あ、僕がやります」

 

 

シムさんが自分のカップを取ろうと手を出して、俺の手の上に重なった

 

 

「あっ、すみません」

 

 

慌てて手を離したシムさんの手を、俺は咄嗟に掴んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※