BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅前広場に到着すると、さっと辺りを見回した

まさかとは思うけれど、もう来ているのではないかと一瞬思ったからだ

幸い、見える限りではそれらしき姿は見当たらない

待ち合わせは11時で、まだあと15分もある

少し早過ぎるかとは思ったけれど、家に居ても落ち着かないし、外にいた方が気が紛れると思った

 

あぁ...それにしても緊張する

 

俺は今日、遂にシムさんとプライベートで会うのだ

それもただ会うだけではなく、シムさんが俺の家に来る

 

部屋はしっかり掃除をしたし、換気もしたから空気もキレイだ

滅多に人を招かないから、何をどうすればいいかと戸惑ったけれど、俺なりに頑張ったと思う

 

 

プァァァ...ン!!

 

 

警笛を鳴らしながら電車がホームに入って来るのが見えて、いよいよか、と思った

時間的にも、恐らくあれにシムさんは乗っているだろう

 

ダイレクトに姿を見るのがどうにも恥ずかしくて、敢えて改札の方は見ずに広場を行き交う人々を眺めて待った

 

 

少しして、タッタッ..と地面を蹴る靴音がして顔を上げると、まさにシムさんがこちらに向かって走って来るところだった

俺の前まで来ると、ハァハァと息を切らして肩を上下させた

 

 

「すみませんっ、お待たせしましたっ...」

 

「走らなくても大丈夫ですよ」

 

「いえ、チョンさんの姿が見えたので、これは走らなきゃと思って..」

 

 

顔は笑っているけれど苦しそうで、いつもカウンターの向こうで静かに微笑んでいる姿しか見ていない俺にとって、そんなシムさんが新鮮に見えた

 

 

「落ち着いたら行きましょうか」

 

「いえ、大丈夫です、すぐ行きましょう」

 

 

まだ息切れしているシムさんを気遣って、ゆっくりとした足取りで広場を出ると、大通りに沿って自宅マンションへと向かった

サンドイッチの材料は、途中のスーパーで調達する事にしていた

 

白のTシャツにクリーム色のブルゾンを羽織り、濃紺のジーンズ、白いスニーカー姿のシムさんは、店で見る制服姿とは雰囲気がガラリと変わり、ずっと若く見えた

逆にシムさんの目には、スーツ姿ではない俺がどう見えているのか気になるところだ

 

見慣れているいつもの景色に、シムさんの姿が入り込んでいるのが不思議だった

 

スーパーに到着すると、シムさんは必要な材料を慎重に選びながら次々とカゴの中に入れて行った

そんなシムさんの真剣な横顔を見ていると、まるで一緒に暮らしているみたいに思えてきて、それが嬉しくて、敢えて何も話し掛けずに黙ってついて歩いた

 

 

「...退屈じゃないですか?」

 

「え?」

 

 

途中でシムさんが足を止めて俺を振り返り、そう訊いて来た

 

 

「退屈じゃないですよ」

 

「本当ですか?」

 

「えぇ

どんな材料が必要なのか色々と勉強になって楽しいですし、俺に構わず買い物続けてください」

 

「...分かりました」

 

 

シムさんは前を向くと、再び売り場を歩き始めた

でもすぐに足を止めて俺を振り返った

 

 

「チョンさん、気になるので僕の後ろを歩かないでもらえませんか?」

 

「え?」

 

「何か...視線を感じて、気が散るんです」

 

 

そう言って俯くと、みるみる顔が赤くなっていった

やっぱりシムさんは俺を意識してくれている、そう思いたくなるようなリアクションに、俺は控え目ながらそっと期待する事にした

 

 

会計を済ませてスーパーを出ると、もう10分ほどで俺の住むマンションに着く

徐々にゴールが近付いて来ると、それに比例して俺の鼓動も速まって行った

 

 

7階建てのベージュ色のマンションの前で立ち止まると、隣のシムさんを振り返った

 

 

「ここです、俺の家」

 

「ここですか?凄く立派なマンションなんですね」

 

「外見は立派ですけど、中はそうでもないですよ」

 

 

オートロックのエントランスを入り、エレベーターで5階に上がると、出て右側、一番奥の角部屋が俺の部屋だ

基本は単身者向けのマンションなので、間取りはコンパクトに1LDKだ

 

 

「...お邪魔しまぁす」

 

 

シムさんは恐る恐るという感じで玄関に入って来た

殺風景な玄関に、昨日買ったばかりの芳香剤が少しきつめに香っていた

脱臭剤では下駄箱の匂いが取り除けないと踏んだ俺は、芳香剤で誤魔化す事にしたのだけれど、開封したての芳香剤は少し香り過ぎていた

 

 

「ちょっと匂いが強いんですけど...」

 

「これ、香水系のですよね?

僕も違うシリーズを使ってますけど、時間が経つと馴染むから大丈夫ですよ

いい匂いですね」

 

 

シムさんの優しいフォローに救われながら部屋に上がり、ひとまずソファに掛けてもらった

まだ昼食には少し時間が早いし、来てすぐ調理させるのも違うような気がして、コーヒーで軽く気持ちを解そうと思った

少なくとも、俺は緊張を解したかった

 

 

「コーヒーでいいですか?」

 

「あ、お構いなく

サンドイッチ食べる時にも何か飲みますよね?その時でいいですよ」

 

「そういう訳にも行かないですよ、ちょっと待っててください」

 

 

そう言ってキッチンに行こうとして、シムさんが上着を着たままなのに気付いた

本来ならば俺が預かってハンガーに掛けてあげるべきなのだ

来客が滅多にないせいか、こういう事に鈍感になっていた

 

 

「気が付かずにすみません、上着、ハンガーに掛けますよ」

 

「え?あぁ、すみません...じゃあお願いします」

 

 

シムさんがするりと上着を脱いでTシャツ姿になった瞬間、肩回りの隆起に沿って生地がフィットしている様子に思わず目が行きドキっとした

脱ぎ方も妙に色っぽいと感じてしまったのは、俺がそういう目で見ているせいなのか

 

預かった上着はほんのり温かく、甘い香りがした

シムさんという存在の生々しさに、体がかぁっと熱くなった

 

 

「コ、コーヒー、すぐ淹れますから」

 

 

逃げるようにキッチンに向かうと、大きく深呼吸をしてひとまず気持ちを落ち着かせた

シムさんの一挙手一投足に反応していたらキリがないし、まだ来たばかりでこんな状態では、これからサンドイッチを作ってもらって一緒に食べて、その頃には俺はどうなっているのだろう?

 

不安でしかない

 

そんな事を考えながらコーヒーを淹れて戻ると、シムさんはソファに寄り掛かるでもなく、姿勢良く座って待っていた

俺に気付いてこちらに顔を向けると、ふわりと微笑んだ

 

頼むから、そんな可愛い顔を見せないでくれ...

 

 

「お、お待たせしました...」

 

 

ぎこちない手付きでコーヒーをローテーブルの上に置くと、一つを取ってシムさんから少し離れた位置に腰を下ろした

 

今回、シムさんが来るからと少し奮発していいコーヒーを買ったのに、緊張のせいか全く味が分からなかった

この分だと、サンドイッチも味が分からないかもしれない

 

シムさんはコーヒーカップをローテーブルに置くと、背凭れに寄り掛かって部屋をぐるりと見回した

 

 

「気を悪くされたら申し訳ないんですけど、思ったよりもチョンさんの部屋がさっぱりしててびっくりしました」

 

「さっぱり...?」

 

「えぇ、もっと雑然としてると言うか...ごめんなさい、失礼な事言ってますよね

でも、こんなに何もない部屋だとは想像していなかったので...」

 

 

その言葉を聞いて、やっぱりそう思うか...と思った

自分でも違和感を覚えるくらいきれいに片付き過ぎていた

その事を打ち明けると、シムさんは可笑しそうに笑った

 

 

「そうだったんですね

確かにチョンさんの人柄というか、キャラクターからすると、こざっぱりって感じではないなと思っていたんです」

 

「そうなんですか?

俺って、シムさんから見てどんな感じですか?」

 

「んー...」

 

 

シムさんはそう唸ると、大きな目で俺をじっと見つめた

思わず視線を逸らしそうになって、でも、もったいないと思ってじっと我慢した

薄茶色の瞳がとてもキレイだった

 

 

「安心感、でしょうか」

 

「安心感?」

 

「一緒にいてホッとするというか、凄く落ち着く感じがします」

 

「へぇ...って、あ、すみません、馴れ馴れしいですね」

 

 

慌てて謝ると、シムさんは優しく微笑んで首を横に振った

 

 

「馴れ馴れしくていいですよ、お店じゃないんですから」

 

「でも..」

 

「むしろそういう方が僕は嬉しいです

ずっと敬語なんて、何か...壁を感じて嫌です」

 

 

一瞬、コーヒーにお酒でも入れたのか?と思った

シムさんの口調はふざけてもいないし表情も真剣で、だからこそ余計に、突然そんな事を言われて動揺した

 

 

「俺は...敬語の方が話しやすいんですけど、まだ」

 

「でも、チョンさんの家に来てサンドイッチを作るんですよ?

もうそれなりに親しい仲なんじゃないですか?

まぁ...チョンさんが嫌だって言うなら、無理にとは言いませんけど」

 

 

明らかに不満そうなシムさんの顔を見て、なんでそんなに可愛いんだ?と思った

こんな表情を見せるという事は、もうシムさんはそれなりに俺に打ち解けてくれている

それなのに俺が敬語にこだわっていては、いつまで経ってもシムさんとの距離は縮まらない

 

 

「じゃあ...敬語やめます...やめるよ、これでいい?」

 

 

そう言いながら、自分の顔が燃えるように熱くなるのを感じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※