BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、俺は同期の仲間に頼まれて、普段は滅多に参加しない合コンに来ていた

参加予定の男が急に体調不良で来れなくなり、人数合わせでどうしてもと懇願されて仕方なく承諾したものの、やはり来るんじゃなかったと後悔していた

 

自分で言うのもおかしいけれど、十中八九、こういう場で俺は同性に煙たがれる

というのも、大抵の女性陣が俺に興味を持ってしまうからで、男性陣からしたら面白くないし、誰が連れて来たんだと揉めた事も過去にはあった

正直俺にとってはそんな事はどうでもよくて、誰かを持ち帰るつもりなんてこれっぽっちもない

 

 

「なぁ、ユノはこの後の二次会も来るんだろ?」

 

「あ?行かないよ」

 

「え、来ないの!?」

 

 

同期が驚いている横で、会話を聞いていた女性陣が一斉に俺を見た

 

 

「えーっ、ユノさん来ないんですかーっ!?」

 

 

行かない事が罪であるかのように、女性陣が声を揃えて反発した

俺は人数合わせでここにいるだけで、本来はいない存在だ

騒ぐ女性陣を無視して帰り支度を始めた

 

 

「マジで帰るのかよ?頼むから二次会も来てくれよ

ユノがいないと女の子たち帰るって言うんだよ」

 

「だったら帰らせればいいだろ

とにかく俺は役目を終えたんだから帰らせてもらう」

 

 

非難の声を浴びながらグループの輪から抜けると、急ぎ足でその場を離れた

うっかり追い掛けられでもしたらそれこそ断り切れなくなる

 

 

安全な距離まで離れると、さてこれからどうしたものかと足を止めた

お酒は大して飲んでいないけれど、何より腹が空いていた

この辺りは歓楽街で、見渡す限り定食屋なんてどこにも見当たらない

仕方なく駅まで出るかとグルリと辺りを見回して、ふとバーの看板が目に留まった

黒地に赤で"Phoenix"と書かれたその店が妙に気になって、腹を満たしてくれそうな店ではないと思いながらも、気付いたらドアを開けていた

 

 

店内は薄暗く、ゆったりとしたジャズが流れていてなかなか居心地が良さそうだ

バーカウンターに一人、ソファ席に2組の客がいた

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 

店主と思しき初老の男性がカウンターの中から俺に向かって声を掛けると、隣にいた若い男もこちらを向いて微笑んだ

歳は同じくらいか、柔らかい印象の男だ

 

 

「お好きなお席にどうぞ」

 

 

初老の男性にそう言われて、俺は直感的にカウンターを選んだ

何となく、この若い男をもっと近くで見たかった

 

 

カウンターに座ってメニューを受け取り、とりあえず酒以外を頼んだ

店主は驚いた顔をして、でもすぐに最初の笑顔に戻って注文した飲み物を持って来た

 

 

「どこかよそでアルコールを飲まれて来たんですか?」

 

 

若い男がさり気なく俺の前にやって来ると、静かに声を掛けて来た

 

 

「えぇ、飲み会だったので

バーに来て酒を頼まないとか、おかしいですよね」

 

 

俺がそう言うと、男はふわっと微笑んで首を横に振った

 

 

「そんな事ないですよ

ここにいらっしゃる方が全てお酒を飲まれるとは限りませんから

お好きなお飲み物を楽しんでいただけたら、それで十分です」

 

「そう...ですか?」

 

 

男は"えぇ"と言ってまた微笑んだ

優しく包み込むような温かい笑顔に、渇いた俺の心がちょっと潤った気がした

 

 

「店員さんは、結構飲むんですか?」

 

 

相手を何と呼んでいいか分からずそう呼び掛けると、男はびっくりした顔を見せた

 

 

「僕ですか?えぇ、それなりに飲みますよ」

 

「バーで働いてるくらいですから、飲めて当たり前ですよね...」

 

 

間抜けな事を訊いてしまったと後悔していると、男はグラスを拭きながら俺をじっと見た

飲みもしないのにバーに来た上、頓珍漢な質問をしている奴だと思っているのだろう

看板に惹かれて足を踏み入れた自分の直感を呪いたくなった

 

 

「僕、シムといいます」

 

「え?」

 

 

男は自分の胸についている名札を指先でクイと持ち上げて俺に見せた

英語表記で"SHIM"と書かれてあった

 

 

「あ、すみません...俺はチョンです」

 

「チョンさん...とお呼びしていいですか?

普段はどんなお酒を飲まれるんですか?」

 

「俺は...

実は、普段は滅多に酒は飲まないんです

今日はたまたま飲みの席があったから軽く飲みましたけど、本当に年に数回程度です

シムさん...は?」

 

「僕は毎日ですね

仕事柄、ここでお客様に勧められていただく事もありますし、自宅に帰ってからも飲んだり...でも変な話、年齢も考えたらあんまり良くないんですけどね」

 

「この仕事は長いんですか?」

 

「会社勤めをちょっとかじってからこの世界に入って、かれこれ5年くらいになりますけど、まだまだ新米です

チョンさんは何のお仕事をされているんですか?

あ、差し支えなければで結構ですので...」

 

「いや、別にいいですよ

俺はメーカー勤務です、電子機器の

今日は同期に誘われて合コンに付き合ってました」

 

「...合コン?」

 

 

シムさんの眉が持ち上がって、大きな目が一段と大きくなった

俺と正反対で、シムさんは目が大きい分、黒目が小さく見える

 

 

「合コンに行った帰りだったんですか?

でも...まだ22時ですし、お開きにはちょっと早くないですか?」

 

「行きたくて行った訳じゃないんで、二次会はパスしたんです

正直、ああいうのが苦手で」

 

「そうなんですか...

僕からすると、とても社交的な方に見えますけど...ってごめんなさい、チョンさんの事をよく知りもしないで」

 

「いえ、構いませんよ

確かに社交的な部類かもしれないけど、恋愛とかが絡んで来ると面倒臭いし、相手に合わせて話すとか、結構神経使いますよね」

 

「僕は仕事柄、そういうのに慣れてるのであまり気にした事はないですけど、確かに男女の問題が関わってくると厄介かもしれませんね」

 

 

それからシムさんは気まずそうな表情になって、こちらを窺うように上目遣いで俺を見た

 

 

「あの...もしかして、今僕がこうして話し掛けてるのもちょっと苦手だったりしますか?」

 

「まさか!!そう思わせてしまったら誤解です

シムさんとだと、不思議とそういう感覚にならないと言うか、むしろ話していて楽しいです

やっぱり人と接するのが上手なんですね」

 

「本当ですか?それは良かったぁ」

 

 

シムさんはそう言ってニコッと微笑んだ

 

 

本当になぜだろう?

初めて会ったのに、初めてな気がしない

自然と会話が生まれるし、もっと話したい、もっと何か聞きたいと思ってしまう

シムさんの耳触りのいい優しい声が、俺にはとても心地良かった

この得体の知れない不思議な感情は一体何なのか...今までに経験した事のない初めての感覚だった

 

 

入口のドアが開く音がして、店主とシムさんが一斉にそちらを向いた

何となく俺も一緒になって振り返ると、俺より少し上か、中年の男性が立っていた

常連さんらしく、二人は笑顔で迎え入れると、シムさんは俺に断りを入れて一旦そちらに移動した

 

男はシムさんの肩に手を掛けて、何やら楽しそうに話し始めた

シムさんはというと、男のテンションに比べると随分と落ち着いた様子で、ただ相手の話を聞いている、そんな風に見えた

 

男はなかなかシムさんの肩から手を外そうとせず、店主がやって来て声を掛けるとスッと手が離れた

店主がバトンタッチをするように男の相手を始めると、シムさんは俺の方に戻って来て小さく溜め息をついた

 

 

「...あのお客さん、常連さんですか?」

 

「え?あぁ、そうなんです、ほぼ毎日のようにいらっしゃいます」

 

「毎日?」

 

「えぇ、毎日」

 

 

その言い方が妙に気になる言い方だったので、シムさんとその男の関係がどういうものなのか知りたくなった

 

 

「あの...料理の注文してもいいですか?」

 

「えぇ、何でしょう?」

 

「コンビーフのサンドイッチ...お願いします」

 

「かしこまりました」

 

 

シムさんは一旦奥に引っ込むと、数分経ってサンドイッチの乗った皿を運んで来た

 

 

「お待たせしました」

 

「シムさんは調理もやるんですか?」

 

「えぇ...というか、僕は調理がメインなんです

まだドリンクは見習いというか、調理の方が得意なので」

 

「へぇ..」

 

 

改めて目の前のサンドイッチを見たら、これをシムさんが作ったのだと思って余計に美味しそうに感じた

そして、それは実際にとても美味しかった

 

 

「これ、凄い美味いです」

 

「ありがとうございます

こういうボリュームのあるメニューは滅多に注文が来ないので、コンビーフ多めにサービスしておきました」

 

「いいんですか?」

 

「マスターには内緒ですよ」

 

 

シムさんはそう言って俺にウィンクをすると、初老の男性の方をチラッと見た

マスターと呼ばれたその男性は、別の客の相手をしていて全くこちらには気付いていない

 

 

「シムさん、オーダーです」

 

「あ、はい

すみません、ちょっと失礼します」

 

 

シムさんはホールのスタッフに呼ばれてカウンターの奥に入ってしまうと、残された俺はコンビーフ多目の絶品サンドイッチをパクっと齧った

 

心臓が、異様な速さでドキドキしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんばんは

いつもご訪問ありがとうございます

ミュージカル「ベンジャミン・バトン」のトレーラーを見ていたら、バーテンダーチャンミンが思い浮かびました

短編で終わらせるつもりでおりますが、いつものことながら、どうなるか分かりません(笑)

 

※画像お借りしました※