BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

< The view from Changmin>

 

 

 

 

 

ユノさんから引き継いだ営業先を回っていると、そこはかとなく感じるユノさんの存在に嬉しい反面、寂しさも感じていた
どこへ行ってもユノさんの話題が出ない日はなく、どれだけ人望が厚い人なのかと改めて思い知る事が多い
そして、そんな人を好きになってしまったのだから、苦労して当然だと思った
 
 
外回りから戻ってデスクに着くと、僕はまずユノさんの所在をチェックしている
社内にいてくれれば嬉しいし、いないと落ち着かなくて、イマイチ仕事に身が入らない
そしてユノさんの名前が聞こえれば、その度に僕の耳はピクリと反応して聞き耳を立ててしまう
 
 
「チョン主任、この企画書どうですか?」
 
「あぁ、いいんじゃないかな
もうちょっとこの辺りを掘り下げてあげるとデータが取りやすくなると思うよ」
 
 
ユノさんと他の社員の距離が近かったりすると、それだけで僕はやきもきしてしまう
 
勿論、ユノさんが僕だけの営業主任じゃないのは分かっている
でも、ユノさんが他の人と同じような素っ気なさで僕に接するのが寂しかった
こんな時しかまともに話せないのだから、せめて目を見て話して欲しいのに、ユノさんはいつもどこか別の場所...頬や鼻に視線を置いて、見つめ合う事すら叶わないのだ
 
 
 
ある日、営業先で担当者とランチをしていたら、僕の為に親睦会を開いてくれるという話になって、その席に前任者のユノさんも是非誘ってくれないかと頼まれた
これは降って湧いたチャンスだ、と思った僕は、どうにかして仕事終わりにでも会えないかと画策したのだけれど、どうにも避けられているようでうまく行かない
 
そこで思い切ってユノさんが利用している最寄り駅で待ち伏せをしたら、見事に会う事ができた
ロマンチックの欠片もない定食屋にはなったものの、久し振りに二人きりで食事ができた事が嬉しくて、この時間が永遠に続けばいいと思った
 
楽しく食事をしながら親睦会の話題を出して、それから...
正直、"何か"を期待していたのは事実だ
 
それが僕の家に来てくれる事なのか、人目を盗んで触れ合える場所に行く事なのかは分からないけれど、お互いの募る想いを確かめ合えるのではないかと淡い期待を抱いていた
でも、その期待は無残に砕け散った
ユノさんは僕が思っていた以上に固い決意だった
 
 
 
帰宅してベッドに寝転がると、ここでユノさんと愛し合った日々を思い出した
目を閉じて、その時の光景をできる限り鮮明に思い出そうとすると、それだけで体は熱くなった
 
艶を帯びた黒い瞳、ぽってりとした唇...全てが色っぽくて、僕をゾクゾクさせた
低い掠れ声が優しく僕の名を呼んで、その声が吐息に変わる瞬間、僕は何よりも幸福に包まれた
ユノさんを満たす事ができるのは僕しかいないのだ..と、全身で感じていた
 
 
あぁ...ユノさん、恋しいよ
今すぐにでもその広い胸に飛び込んで、ギュッと抱き締めて欲しい...
 
 
寝返りを打ったら、真っ黒なテレビ画面に自分の姿が映っているのが見えて、一瞬で現実に呼び戻された
いくら恋しく思っても、ユノさんはここには来ないし、快楽の海に溺れさせてくれる日はまだまだ遠い
 
シラケた気分を紛らわせようと、ベッドから降りてキッチンの冷蔵庫からビールを取り出し一気に半分まで飲んだ
定食屋でもっと飲んでおけば、酔った勢いでどうにか甘えられたかな..なんて今更だ
そういう変なところで真面目な自分が嫌になる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そうして半月が過ぎ、遂に親睦会の日がやって来た
 
この日は朝から妙に浮かれ気分で、洗顔フォームと歯磨き粉のチューブを取り違えたり、砂糖と塩を間違えて入れたり、うっかり電車を乗り過ごしそうになったりと散々だった
嫌な事が続いて、まさか親睦会がキャンセルになったりしないか、ユノさんがドタキャンしないか、僕に急用が入ったりしないか、仕事中ずっとそんな風に気もそぞろだった
 
そして夕方、先方の担当者から親睦会の確認の連絡が入ると、ようやくそこでホッとする事ができた
 
 
親睦会の会場は先方の会社の近く、ここから電車で10分程の場所だ
できればユノさんと一緒に行こうと思っていたので、ユノさんがデスクにいないのが気になっていた
それとなく別の人に訊いてみると、まだ外回りから戻って来ていないらしい
久々に二人きりになれるチャンスだと思っていたけれど、仕事では僕にはどうする事もできない
間に合わなかったらどうしよう...と、ジリジリと焦りだけが募り、1分置きに時計と睨めっこだった
 
 
そろそろ覚悟を決めて一人で行こうか...と思っていた矢先、ユノさんが息を切らしながらバタバタと駆け込んで来て、僕を見てホッとしたような顔を見せた
 
 
「シムさんごめん!!打ち合わせが思ったより長引いて遅くなった」
 
「お疲れ様です、大丈夫ですか?」
 
 
ユノさんは肩で息をしながら僕を見下ろして、キョトンとしていた
 
 
「あれ...別に俺を待ってはいなかった?」
 
 
事前に約束していた訳でもないのにユノさんが僕と一緒に行くつもりでいてくれた事も、僕がここで待っていると思っていた事も嬉しくて、ちょっと感動していた
 
 
「あ、いえ、待ってました、行きましょうか」
 
「結構待たせたよね?」
 
「いえ、大して待ってはいませんけど、戻って来なかったらどうしようって、焦りました」
 
 
駅まで早足で歩きながら、ユノさんのテンションが今までと違う事に何となく気付いた
さっき会社に戻って来た時もそうだけれど、妙に明るいオーラを感じていた
 
 
「ユノさん...何かいい事ありましたか?」
 
「どうして?」
 
「凄く機嫌がいいみたいなので...」
 
「って事は、いつも不機嫌ぽい?」
 
「あ、いえ、そういう意味じゃなくて...」
 
 
僕が慌てて否定すると、ユノさんはアハハと笑って"冗談だよ"と言った
 
 
「新しい契約が取れたのもあるけど、それ以外にもちょっとあったんだ」
 
「それは良かったですね」
 
「うん」
 
 
駅に着いてホームに出ると、ちょうど帰宅ラッシュと重なって凄い人の波だった
はぐれないように僕はユノさんの背中をずっと追い掛けながらなんとか電車に乗り込むと、後ろから入って来た人に押されてユノさんの背中にぎゅっと押し付けられる格好になってしまった
 
 
「チャンミン大丈夫?」
 
「はい...何とか」
 
 
僕もユノさんも高身長で頭が他の人より飛び出ている分、埋もれて苦しいとかはないけれど、ちょうど僕の後ろに力士並みの体格の男性が立っていたので、押され具合が半端なく、駅に着くまでの10分間、僕はずっとユノさんの背中に密着していた
 
ほのかに香る甘い香水と、そこに混じるユノさんの肌の匂いが堪らなく懐かしくて、恋しくて、僕の心臓はずっとドキドキしていた
逆だったらどうなっていたのかな..なんて想像して、ユノさんも同じようにドキドキしてくれたらいいのにと思った
 
 
ようやく駅に着いて電車を降りると、車内の熱気で二人ともやや汗ばんでいた
自分の体に何となくユノさんの匂いが移っているような気がして、そこでまたドキドキした
 
 
 
親睦会の会場は、馴染みのある居酒屋チェーンだった
部屋に案内されると、有難い事に僕とユノさんは隣同士に配置してくれて、単純に同じ会社の者同士という意味なのだろうけれど、僕たちは思わず顔を見合わせてしまった
 
 
宴もたけなわで場が盛り上がって来ると、当然のようにユノさんにお酒を勧める人が出て来て僕をハラハラさせた
でもどうした事か、ユノさんはお酌されるままに焼酎をグイっと煽ってしまった
 
 
「チョン主任...飲んで大丈夫ですか?」
 
 
僕は小声でこそっとユノさんに注意を促した
放っておいたらみんなガンガンお酒を注いでしまう
でもユノさんは平気な顔をして、また別の人のお酌を受けていた
 
 
「これくらい大丈夫だよ
それに俺は飲めないんじゃなくて、飲まないだけだから
シムさんみたいに泥酔して前後の見境がなくなるような事はしない」
 
「いつ僕が前後の見境がなくなるくらい泥酔しましたか?
変なこと言わないでください」
 
「...そうだった?」
 
 
ユノさんの揶揄うような眼差しすらも懐かしくて、今はきっと何を言われても嬉しく感じてしまうと思った
 
 
ユノさんはその後も焼酎を何杯か飲んで、気付けば真っ赤な顔をしていた
話す口調は変わらないから、見た目ほど酔っていないのかもしれない
 
 
「えーそれではそろそろお時間も来てしまいましたので、この辺で一本締めと行きたいと思います」
 
 
幹事の部長さんが立ち上がって場を仕切ると、一本締めで親睦会は閉じた
ぞろぞろと連れ立って店の外に出ると、二次会に行く人を募る人が現われて、僕は咄嗟にユノさんを見て、ユノさんも僕を見て目が合った
 
 
「どうしますか?行きますか?」
 
「俺はパスかな
チャンミンは行っといでよ」
 
「ユノさんが行かないなら僕も行きません」
 
 
幹事役の若い営業さんが僕らに出欠の有無を確認しに来ると、ユノさんは丁重にお断りを入れてくれた
それから僕らは一人一人にお礼を言って、完全にお開きになったところで駅に向かって歩き出した
 
 
黙々と歩くユノさんを横目で見ながら、二人の時間も残り僅かなのだと実感して急に寂しさが込み上げて来た
かつての二人だったらこのまま僕の家に行っていただろう
駅の入口が見えて来ると、寂しさは一層強くなった
 
やっぱり今日も何もないままなのかな...そんな風に悲観的に思っていると、改札の手前でユノさんの足が止まって、僕を振り返った
 
 
「今からチャンミンの家に行ってもいい?」
 
「...え?」
 
 
予想外の展開だった
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※