BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅までの帰り道、頭の中でチャンミンの言葉が何度も繰り返されていた
 
 
"ユノさんを、もっと近くに感じたいんです"
 
 
そう言って俺の指に自分の指を絡ませ、甘えるような視線を投げかけてきたチャンミン
男にそんな風にされたのは初めてで、俺の中の本能が、殻を突き破ってしまうかと思う程に激しく揺さぶられた
 
どうして俺は、そこでダメだと言って絡まる指を解かなかったのか
自分には妻がいるからとチャンミンを諭す事が出来なかったのか
それは俺自身が、チャンミンをもっと近くに感じたくて堪らないからだ
 
 
最寄り駅についてマンションまで歩きながら、明日の事を思って溜め息が漏れた
チャンミンと再びドライブに行くと約束してしまったけれど、それを妻に言った時の反応を想像するとなんとも気が重く、足取りもつい重くなる
 
 
「ただいま」
 
 
玄関を入って声を掛けると、リビングの方はしんと静まり返っていた
どうせうたた寝でもしているのだろうと思い、そのまま寝室に入って時計や財布を定位置に置いて洗面所へ向かうと、手を洗っているところへパジャマ姿の妻がやって来た
 
 
「おかえりなさい、随分と遅かったのね」
 
「うん、思っていたより遅くなった、ごめん」
 
「仕事で遅いんだもの、謝らないで」
 
「後は自分でやるから、先に休んでていいよ」
 
「そう?でも...せっかくだからちょっと飲もうかな、ワインもあるし」
 
「寝る前に飲んで大丈夫?」
 
「少しくらいなら平気よ」
 
 
そう言って妻はリビングの方へと戻って行った
 
俺が飲まないのをよく分かっているから、こういう時の妻は無理に酒を勧めたりせず一人で嗜んでくれるので有難かった
でも、酔った妻は必ずといっていいほど俺を誘ってくるので要注意だった
疲れているから、もう遅いから、そんな理由でやんわりと拒む事はできても、ここ最近はそれが続いてしまっているからさすがにそうもいかない
 
 
夕食を食べながら、今夜の事と、明日の事で頭の中はぐちゃぐちゃだった
ようやくドライブの事を話した頃には妻はもう完全に出来上がっていた
 
 
風呂に入って寝支度を済ませると、俺がベッドに入った途端に声が掛かり、良くも悪くも予想通りだった
 
 
「ねぇ、今夜はいいでしょ?」
 
「君、酔ってるんだから無理しない方がいいよ」
 
「別に平気よ
ここ最近、ずーっと相手してくれないから、そろそろ限界なの」
 
 
そう言って妻は俺の下半身に手を伸ばした
無視しようと思っても、俺の意志とは関係なく体は勝手に反応してしまう
 
 
「...ほらね、準備万端」
 
 
そう言って妻は嬉しそうに微笑むと、布団の中でパジャマを脱ぎ始めた
 
 
「ちょっと待って...ゴムは?用意してあるの?」
 
「え?なくてもいいじゃない」
 
「ダメだよ」
 
 
俺はベッドから出ると、それがしまってあるタンスの引き出しを開け、装着に失敗した時の為に2つ取り出した
そしてベッドに戻ると、捲れた布団から無防備に覗いている妻の白い肌にドキっとした
それはときめきとは違う、心臓がキュッと縮こまるような感覚で、たとえどんなに淫らな姿態を見せられたとしても、男として欲情する事はもうなくなっていた
 
これは義務だとひたすら自分に言い聞かせながら、潤んだ瞳で俺を見つめる妻の方へと近付いて行った
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
待ち合わせの駅に着くと、前回と同じ場所にチャンミンは立っていた
俺の車に気付いて満面の笑顔で駆け寄ってくる姿を見たら、ゆうべも会っていたというのに、もう随分と会っていないような気がして思わず胸が熱くなった
 
 
「待たせちゃった?」
 
「いえ、僕もさっき着いたばかりです」
 
 
今日はいつもの埠頭ではなく、チャンミンの希望通りに少し遠くまで行こうと思っていた
 
 
「本当にいいんですか?」
 
「だって、チャンミンが遠くに行きたいって言ったんだろ?
そのつもりで時間配分を考えてるから、今更嫌だって言われても無理だよ」
 
「そんな事、言うわけないじゃないですか
で、どこに連れてってくれるんですか?」
 
「それは内緒」
 
「えぇ~...サプライズですか?」
 
「まぁね」
 
 
言っている自分の顔がニヤけているのが分かって、チャンミンに気付かれないように顔を外側に向けた
 
 
普段、一人の時も少し遠くまでドライブをする事はあったけれど、こんな風に誰かを助手席に乗せて..というのは初めてだ
 
 
「そろそろ着くよ」
 
「え、着くって...まだ高速降りてませんよ?」
 
「そうだよ、降りたら辿り着けない場所だから」
 
 
まず最初の目的地は高速のサービスエリアだった
ここを目指してわざわざ車を走らせる人がいるほど有名なSAで、食べる事が好きなチャンミンだったら喜ぶであろう美味しい料理もたくさんある
本当の旅行はできないから、旅をしていなくとも旅をしているような気分になれる、そういう場所を選んだ
 
テレビでしか見た事のない大人気のSA、チャンミンは大興奮で、あれも食べたいこれも食べたいというチャンミンに付き合って、俺の腹ははちきれそうだった
それでも、幸せそうな顔を見ると、連れて来て本当に良かったと思った
 
少しゆっくりしてから再び車に乗り込むと、今度は高速を降りて次の目的地へと向かった
 
 
「ユノさん、何か音楽聴きませんか?」
 
「音楽?ラジオでもつける?」
 
「そうじゃなくて、ユノさんが持ってるCDとか、車に入ってないんですか?」
 
「CD?入ってはいるけど、チャンミンが好きかどうか分からないよ」
 
「僕の好みはどうでもよくて、ユノさんが普段どんな音楽を聴いてるか知りたいんです」
 
「それは...めちゃくちゃ恥ずかしいな」
 
「いいじゃないですか」
 
 
チャンミンはそう言うと、勝手にカーナビのパネルを操作して中に入っているCDを再生した
最近気に入ってよく聴いている男性ヴォーカルで、アコースティックギターの音色がとても心地良くてリラックスするにはぴったりだった
 
 
「へぇ...いいですね、これ」
 
「そう?それなら良かった
こういうのって、自分が丸裸にされてるみたいで恥ずかしいね」
 
「じゃあ僕、ユノさんの裸を見ちゃってるんですね、ふふ」
 
 
チャンミンはそう言って嬉しそうに笑った
丸裸などと変な言い回しをした自分を後悔したけれど後の祭りだ
 
 
「もうすぐ着くからね」
 
 
気を取り直してナビを見ると、ゴール地点はもう目の前に見えていた
駐車場に車を停めて降りると、すぐ目の前が最後の目的地、海が一望できる展望台で、家族連れやカップルで賑わっていた
 
俺とチャンミンは目立たないように展望台の一番端に陣取ると、どこまでも広がる大海原を溜め息と共に眺めた
 
 
「ユノさん、今日はありがとうございました
無理言って2週続けてドライブさせちゃいましたけど、凄く楽しかったです」
 
「そっか、楽しんでもらえて良かった
でも、お礼はむしろ俺の方が言うべきかも」
 
「どうしてですか?」
 
「いつも一人でドライブしてたけど、誰かと一緒だとこんなに楽しいんだなって、ただ隣にいてくれるだけでホッとするって言うか...さ」
 
「それは、僕だからですか?」
 
「勿論だよ」
 
 
チャンミンは嬉しそうに微笑むと、一歩俺の方に近付いてさり気なく俺の手の中に自分の手を滑り込ませた
指と指が絡まり合って、腰の辺りが妙に疼いた
 
ここを出たら、後は最初の駅に戻るだけ
もっと長く一緒にいたい気持ちをグッと堪えて、目の前の美しい景色を目に焼き付けた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
最初に待ち合わせをした駅に戻ると、周囲には人が溢れ、しきりにスマホを眺めたり電話をかけたりと様子がおかしい
何かあったのかとチャンミンがスマホで調べてみると、架線がショートして停電になり、電車が止まっているという
他の路線に振り替えているらしく、チャンミンをそっちに送ってもいいけれど恐らく大混雑は必至で、せっかく駅に辿り着いても電車に乗れないのでは意味がない
 
 
「もし良かったら、このまま家まで送ってあげようか?」
 
「え、いいんですか?でも、ユノさんの帰りが遅くなっちゃいますけど」
 
「それは気にしなくていいよ」
 
「じゃあ...お願いしていいですか」
 
 
チャンミンの住所をナビに登録してもらい、目的地にセットして案内をスタートさせると、30分程度でチャンミンの住むマンションに到着した
 
 
「思ったより早く着いたね」
 
「家まで送らせてしまってすみませんでした」
 
「いや、ドライブが延長できてむしろ良かったよ
でも、あのままチャンミンを降ろしてたら大変な事になってたね」
 
「本当にそうですよね」
 
「気を付けて帰って...って、目の前だけど」
 
「ユノさんも、気を付けて運転してくださいね...」
 
 
チャンミンはそう言ってシートベルトを外すと、ドアを開けるでもなくじっとしていて、どうかしたのかと声を掛けると、言い辛そうに口を開いた
 
 
「あの...せっかくだから、部屋に上がっていきませんか?っていうか、ずっと運転しっぱなしだから、ちょっと休憩挟んだ方がいいと思うんです
コーヒー一杯くらいならいいですよね?あの...えっと...無理にとは言いませんけど」
 
 
コーヒーがただの口実なのはチャンミンの口ぶりから何となく感じ取れた
そして、この誘いに乗ってしまったらきっと後戻りできなくなるのも分かっていた
 
 
「じゃあ、一杯だけいただこうかな」
 
 
俺は迷わずそう答えた
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

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