BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

< The view from Changmin>

 

 

 

 

 

僕は悩んでいた
どちらも魅力的だけれど、ここぞという決定打に欠けていた
 
どうせならば唯一無二だと思える方がいいし、その方がこちらのモチベーションもグンと上がるし、選ぶ側だってメリットは大きいと思う.....なんて、採用してもらう立場でそんな事を言ったら面接官にぶん殴られるかもしれないけれど、でも、本当に自分が進みたいのはどっちなのか、土壇場に来て悩み始めていた
 
 
転職活動中の僕は、希望する企業の採用試験で書類通過、一次面接通過とトントン拍子に進み、次は役員面接を控えていた
 
しかも、二社の
 
どちらの企業も魅力的で、僕にとってはいわば挑戦だった
今まではクリエイティブ系の仕事に就いていたのを、思い切って営業職に路線を変更してみようと思ったのだ
 
正直、僕は人と接するのがどちらかと言うと苦手で、つい相手の顔色を窺ってしまう
そんな僕に営業職が務まるのかと思った事もあったけれど、苦手なものから逃げ続けている自分に嫌気もさしていた
思い切って転職するなら、ここは賭けに出てみよう、そう思ったのだ
 
とりあえず先にA社の面接を受ける事になっているので、それからでもいいか...そう結論付けて資料を封筒にしまった
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「シムさん、どうぞ」
 
 
面接室の前に立つと、中から名前を呼ばれて背筋を伸ばした
ドアノブに手を掛け、そっとドアを開けて中に入ると、まずは面接官の方を向いて一礼、それから後ろ手にドアを閉めると、もう一度一礼して面接官の前へと進んだ
 
 
「お掛けください」
 
「...はい」
 
 
面接官は3人いた
役員がどの人なのかは分からないけれど、真ん中にいるのは一次面接にもいた採用担当の女性で、左側には少し年配の男性、右側には僕より少し上くらいの男性が座っていた
 
面接担当の女性が僕の書類を読み上げ、面接の流れを説明した後に、左側の年配の男性が次々と質問をしてきた
思っていたよりも和やかな雰囲気で、自然と僕も笑顔になっていた
 
 
「それじゃあ...チョン君から何か訊きたい事があればどうぞ」
 
 
年配の男性が、女性を挟んで向こう側にいる若い男性に声を掛けた
男性は手元の書類に目を落とし、それから僕の方を向いた
あまり見ていなかったので気が付かなかったけれど、びっくりするくらい端正な顔立ちだった
 
 
「はじめまして、営業主任のチョンです
シムさんは...営業の経験はないみたいですけど、人と接するのは好きですか?」
 
 
ドンピシャで核心を突く質問が来て、咄嗟に言葉が出なかった
それでも何とかうまく返事をすると、チョン主任という人はニッコリと微笑んだ
遠くからでも分かる黒目がちの猫目が笑うと三日月型になって、口元から覗く白い歯が爽やかでとても好感が持てた
営業マンとはこうあるべきだ、と模範を見せられているようだった
 
 
「チョン君は当社の営業マンの中でも特に優秀で、もしシムさんが我々の仲間になるとしたら、まずは彼のところで頑張ってもらう事になると思う」
 
 
年配の男性がそう言うと、チョン主任は笑顔を崩さず僕に向かって会釈をした
 
 
「営業は人と人との繋がりが大事で、それは社外だけでなく社内でも同じです
だから、シムさんともしっかり信頼関係を築いていけたらいいなと思います」
 
 
チョン主任はそう言うと、真剣な表情で僕を真っ直ぐ見た
その瞬間、ここの会社で働きたい、と思った
 
 
 
 
 
そして無事、その会社で採用が決まった
 
 
 
 
 
最初のうちは事務的な業務内容や雑務的なものを手伝わされたりと、会社の雰囲気に慣れるいわゆる"慣らし期間"みたいなものだった
そして一ヶ月が過ぎた頃、いよいよ営業部での研修が始まった
 
 
事務の人に案内されて営業部のセクションに行くと、真剣な顔で電卓と書類を睨めっこしている男性に引き継がれた
 
 
「チョン主任、中途採用のシムさんです
今日からこちらで研修ですので、よろしくお願いします」
 
 
チョン主任、と呼ばれた男性がパッと顔を上げて僕を見た
面接の時に会ったチョン主任は、間近で見ると更にその端正な顔立ちがよく分かった
社内で何度か見掛けてはいたけれど、こうして言葉を交わすのは初めてだったから、緊張してうまく喋れるか不安になった
 
 
「初めまして、営業主任のチョンです」
 
「は...初めまして、シムと申します、よろしくお願いいたします」
 
「本当は初めましてじゃないよね?面接の時に会ったの、覚えてる?」
 
「え...あ、はい、勿論です」
 
「そっか、良かった
忘れられてたらちょっと寂しいなと思ってたんだ」
 
 
チョン主任はそう言うと、アハハと白い歯を見せて笑った

カラッとした夏の太陽みたいな笑い声は耳にとても心地良く、やっぱりこの会社にして良かったと、僕は心からそう思った

 

 

この日から、僕はチョン主任に同行してあちこちの得意先を回るようになり、得意先によって異なる営業ノウハウを事細かく教えてもらった

 

車の免許を持っていない僕を採用してくれた人事には感謝しかないし、そんな僕に小言や不満を言うことなく、むしろ助手席のドアを開けてくれるくらいの勢いで接してくれるチョン主任に、どんどん惹かれて行った

 

そして、面接の時から感じていたチョン主任への憧れの感情は、いつしか恋愛感情に変わっていた

 

 

 

僕が最後に誰かと付き合ったのは、恐らく5年は前だったと思う

当時の職場で、後輩なのに生意気な口を聞く奴だった

交際したのはほんの2年くらいで、別れた理由は相手の浮気

そして浮気相手は僕の同期だというのだから、人間不信になって当然だ

 

元カレと浮気相手の同期がいる会社に行くのは物凄く辛かったけれど、当時の僕には転職する気力もなく、心を無にしてひたすら働いた

そして、社内人事が大きく変わるのをきっかけに、僕は転職する事にした

 

 

 

新天地で新しい恋...なんて大して期待していなかったのに、面接の時に会ったチョン主任に心を奪われ、入社してから時折見掛ける姿にときめき、いざ営業の研修で一緒に過ごすようになると、そこで完全に恋に落ちてしまった

 

 

勿論、既婚者と知った時の絶望は...言うまでもない

 

 

それでも僕は、自分の恋をそこで終わりにしたくはなかった

叶わぬ恋だとしても、このままずっと好きでいたかった

そうでもしないと、とてもじゃないけれど営業に同行なんてできない

 

でも、心のどこかでは、チョン主任も僕に好意を持ってくれたらいいな...そんな淡い期待も抱いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い店内、ゆったりとしたジャズが流れる中、僕は衝動的にユノさんに告白していた

それは完全に計画外の展開で、本当はもう少しユノさんの気持ちを探ってからにしようと思っていた

でも、僕に恋人はいるのかとか、好きな人はいるのかとか変な事を訊いて来るものだから、胸の奥で燻っていたユノさんに対する疑念がむくむくと大きくなって、つい、奥さんを愛しているのか?なんて恐ろしい質問をぶつける事態になってしまった

 

奥さんを愛していない...というのは決して当てずっぽうで言った訳ではなく、ユノさんの孤独を僕は密かに感じていたからだ

だからこそ、ユノさんへの想いは強くなるばかりで止まらなかった

 

 

僕の告白に戸惑うユノさんの顔を、祈るような思いで見つめていた

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※