BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャンミンから告白されて、ずっと自分だけが想いを募らせているものだと思っていたから、同じ気持ちなのだと知って嬉しかった
でも、何と答えていいものかすぐには言葉が出て来なかった
 
 
これが普通の恋ならば、ガッツポーズでもして手放しで喜んだだろう
でも現実には、俺は妻帯者なのだ
 
 
自分の立場を無視して目の前の美しい青年に惹かれ、日々焦がれる想いに戸惑う事はあったものの、そこで踏み止まるとか迷うとか、そういう事なくひたすら突き進んでしまった
だから、今更チャンミンへの想いを捨てる事なんてできない
 
 
「迷惑...ですよね」
 
 
隣でチャンミンがぽつりと呟いた
不安げに俺を見つめるその瞳には、店内の柔らかい光がキラキラと星屑のように映って、ロマンチックとはかけ離れた二人の今とちぐはぐに見えた
何にも引き留められる事なく、俺も好きだと言えたらどんなにいいか
そして、俺の返事に笑顔を見せるチャンミンをこのまま連れて帰れたら...
でもそれは許されない
 
 
「その表情を見る限り、やっぱり戸惑ってますよね...」
 
 
チャンミンはそう言って力なく微笑んだ
今、俺がここで何か言わなければ、きっとチャンミンは自分の気持ちに蓋をしてしまう
そして、こんな風に二人で飲んだり、ドライブに行ったりもできなくなる
でもだからといって、自分の気持ちに正直になっていいのか、本心を隠して言葉を濁すべきか、答えが出せない
 
チャンミンの手はまるで人形の手のように微動だにせず、まだ俺の腕の上にあった
 
 
「何か...変なこと言っちゃいましたね
すみません、今のは全部忘れてください」
 
 
俺がずっと黙り込んでいるからか、チャンミンはそう言って体ごと正面に向き直ろうとした
そして、腕に置かれていた手がフッと離れかけた瞬間、俺は咄嗟に反対側の手でチャンミンの手を掴んでいた
初めて触れるチャンミンの手は、俺の手の中にすっぽりと収まるサイズだった
 
 
「チャンミン...それは無理だよ」
 
「え?」
 
「忘れるなんて無理だって」
 
「でも...迷惑ですよね」
 
「迷惑?俺は迷惑だなんて言ってないし、そんな風に思ってもいない、だって...」
 
 
一瞬躊躇って、でも..と思い直してチャンミンの手をギュッと握った
この手を離したらダメだ、直感的にそう思った
 
 
「ユノさん...」
 
「俺も...チャンミンが好きなんだ」
 
 
すぅっと息を吸う音がして、チャンミンの大きな目が一際大きく見開かれた
結局俺は頭で考えるよりも感情で動いていた
 
 
「いつから...ですか?」
 
「いつから?ん...いつからだろうね、気付いたら好きになってた」
 
「営業に同行するようになってからですか?」
 
「それもあるけど、それよりも前かな」
 
「でも僕、まだ入社してそんなに経ってませんけど...」
 
「じゃあきっと、入社してすぐ好きになったのかも」
 
 
そう言って俺は笑った
本当は、面接で初めて会った時から心のどこかにチャンミンの印象がずっと残っていた
 
 
「チャンミンが叶わぬ恋って言ってた意味が分かったよ
そういえば、万が一もあるし..って言ってたけど、あれはどういう意味?」
 
 
するとチャンミンはハッと顔を上げ、パチパチと瞬きをして慌てたように首を横に振った
 
 
「あれは言葉の綾です、気にしないでください」
 
「そう言われても、気になるよ、何が万が一なの?」
 
「もういいじゃないですか
自分でもなんであんな事を言ったのかよく覚えてません
 
あ、もうこんな時間なんですね、そろそろ出ましょうか」
 
 
そう言ってチャンミンが手を引っ込めようとしたから、俺はそれを離すまいと強く握った
痛かったのか、チャンミンは戸惑ったような顔で俺を見た
 
 
「手を離してくれないんですか?」
 
「まだ話は終わってない」
 
「さっきの発言に関しては、僕も記憶があやふやなので説明できません
ユノさんも早く帰った方がいいですよ、奥さんの手料理が待ってるんですから」
 
「...そういうの、なんか嫌だな」
 
「何がですか?」
 
「二人の時に妻の話題は出さないで欲しいんだ」
 
 
チャンミンはふっと笑うと、もう片方の手で俺の手を解いた
 
 
「だって、それが現実じゃないですか
いくら僕がユノさんを想っても、ユノさんはもう他の人のものなんです
その人の待つ家に帰って、その人の作った料理を食べて、その人の傍で眠って、起きて、その人に見送られて会社に来るんです、違いますか?
現実を言って何がいけないんです?
そうでもしないとユノさんへの想いはどんどん膨らんで、本気で欲しいと思ってしまうんです」
 
 
チャンミンは一気にそう言うと、肩を大きく上下させて息をついた
 
 
「別にユノさんを責めてる訳じゃないんです、ただ、僕の気持ちも分かって欲しいんです」
 
「...分かるよ、その気持ち
ねえ、そんな疑るような顔をしないで
俺だって毎日のように葛藤してるんだ」
 
「どんな葛藤ですか?」
 
「チャンミンの事をこれ以上好きになったらいけないって、何度も自分を止めようとしたけど、でもどうしたって無理だった
一緒にいても、いなくても、想いは強くなるだけなんだ」
 
 
俺たちはじっと見つめ合っていた
チャンミンの茶色い瞳は薄暗い店内では黒く見えて、その黒い瞳の中には俺が映っていた
お互い同じ想いを抱いているのに、交わることができない平行線
 
 
「どうして出会っちゃったんだろうな...」
 
「そんな事言わないでください
僕はユノさんと出会えて良かったと思ってます
たとえ叶わぬ恋でも、好きになった事を後悔していません」
 
「俺だってそうだよ...
でも、まさかこんな風に、自分を制御できなくなるほど好きになるとは思わなかった」
 
「それで...ユノさんはどうするつもりなんですか?」
 
「どうって?」
 
「その想いをただ胸に抱えて過ごすんですか?」
 
「うん...」
 
 
また振り出しに戻った
でも、チャンミンに想いを伝えてしまった以上、もう誤魔化す事はできなくなった
そして、伝えてしまったからこそ割り切ってもいいのではないか、そんな考えが浮かんでもいた
とても危険な考えだけれど、とても魅力的でもあった
 
 
「ユノさん」
 
「ん?」
 
「ユノさんが嫌だと言うなら、僕はもう奥さんの話はしません
その代わり、僕といる時はユノさんも奥さんの事を忘れてくれますか?」
 
「...え?」
 
 
チャンミンの手がスッと伸びて俺の手に触れると、上からそっと包むように握られた
 
 
「いけない事なのは分かってます、でも、傍にいると想いが溢れてしまって、その溢れた想いをそのままにしておきたくないんです
 
ダメですか?」
 
 
まるで訴えかけるような眼差しに、ダメだと言える訳がなかった
俺はチャンミンの手に自分の手を重ねると、ゆっくりといとおしむように撫でた
 
 
ずっと想いを募らせていた人と同じ気持ちだと分かって、こうして触れる事ができて、切なさと愛おしさで胸がいっぱいだった
できることなら何時間もこうしていたい
 
 
「俺は...最低な男だね」
 
「でも、最高に魅力的です
明日、ドライブに連れて行ってくれますよね?」
 
「...本当に行くの?」
 
「ユノさんは行きたくないんですか?」
 
「いや...行きたいけど、でも...」
 
 
不安要素が多過ぎると思った
お互いを好きだと伝え合って、でも許されない仲だと承知の上で会うのだ
二人きりの時間をそれぞれが理性を保って過ごせるのか...?
少なくとも俺自身で言うと、絶対に大丈夫だとは言い切れない

 

 

「またこの間の駅で、同じ時間に待っていればいいですか?」

 

「ん?あぁ...そうだね」

 

「楽しみです」

 

 

チャンミンは嬉しそうに微笑むと、まるでサンドイッチのように俺の手に挟まれた手をくるりと返し、手の平同士が向かい合うようにしてスッと指の間に指を滑り込ませてきた

 
 
「チャンミン...」
 
「二人きりの時はこうしてもいいですか?
ユノさんを...もっと近くに感じたいんです」
 
「うん...いいよ」
 
 
俺を、もっと近くに感じたい...
俺だって、チャンミンをもっと感じたいよ
 
 
もっと近くに...もっと
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※