BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めてチャンミンとドライブに行って以降、ふとした時に、あのふわっとした優しい笑顔や、鼻に掛かった少し甘えるような声を思い出して、次のドライブはどこに行こうかと考えていたり、それでチャンミンが喜ぶ様子を勝手に想像したりして、俺だけが一人暴走していた
 
一方のチャンミンは、ドライブの話題を出す事は一切なく、ただ黙々と仕事をこなしている風で、それはそれで寂しくもあった
 
たった一度ドライブに連れて行っただけで俺は自分の株が上がったと思い込んで、ひょっとしたら好意を持ってくれたんじゃないか..なんて都合のいいように考えていたのかもしれない
でも実際は、自分が思っているほどチャンミンは俺に対して特別な感情を抱いてはいないのだ
だから、催促されるまでは次のドライブに誘うのはやめておこうと、そう心に決めた
そうでもしないと、とんどん沼にハマってしまいそうで怖かった
 
 
 
 
 
金曜日の午後、外回りから会社に戻る途中で、チャンミンが遂に週末の予定を訊いて来た
一週間何も言って来なかったから、てっきりこのまま何事もなく土日を迎えるものだと思っていた俺は、嬉しい反面、どうしようという焦りも感じていた
チャンミンはさも当然のように、俺の都合が良ければまたドライブに行きたいと言った
 
 
「二週連続だよ?」
 
「ダメですか?」
 
「ダメって言うか...」
 
 
俺はそこでう~んと唸った
正直、二週続けて出掛ける事に少し抵抗があった
一人でドライブに行くのはせいぜい月に1~2回だし、二週続けて行く事はまずない

だから普段とは違う行動に、万が一浮気を疑われたら...という考えが頭をよぎった

 
 
「奥さんがいい顔しないんですか?」
 
「いい顔しないって言うか、二週続けてだからね」
 
「...浮気してると思われるのが嫌なんですね?」
 
 
まさに図星だった
 
実を言えば、今までそういう心配をした事は一度もなかった
なぜなら俺自身に後ろめたさがないからで、だから妻にそういう不安を感じさせる要素が全くなかった
でも今は、はっきりと後ろめたさを感じるようになってしまった
 
チャンミンを助手席に乗せた時、隣にいてくれるだけで俺の心は満たされた
そして、毎日仕事で一緒にいるにも関わらず、休日もその顔が見たいと思ってしまう程に、俺の頭の中は常にチャンミンで溢れていた
 
浮気の線引きについては人それぞれあるだろうけれど、俺の中での浮気とは、心が完全に持って行かれた時点でそうだと思っている
だから今の俺は、完全にクロだ
 
 
「僕と出掛ける事は浮気じゃないんですけど、そう思われちゃいますかね...」
 
「頻繁に出掛けていれば、そう思われちゃうかもね」
 
「相手が僕でもですか?」
 
 
チャンミンの不満げな顔を、俺は何とも言えない気持ちで見ていた
君だからだよ、と言ったらどんな顔をするだろう?
 
 
「やっぱり僕が奥さんに会うのが一番だと思います
出掛ける相手が僕だと分かれば奥さんも安心ですよね?」
 
「それは、うちに来るって事?」
 
「そうです
それしかないと思います」
 
 
前方に会社の建物が見えてきて一旦会話を中断すると、角を曲がってそのまま地下駐車場へと入って行った
車を停めると、すぐには降りずにシートに座ったまま会話を続けた
 
 
「チャンミンは独身だから分からないかもしれないけど、夫婦って色々あるんだよ」
 
「確かに僕は独身ですけど、結婚している友人は何人もいますし、夫婦がどんなものかある程度は分かっているつもりです
僕の友人も...彼は実際に浮気してましたけど、頻繁に出掛けていたせいで浮気を疑われて、結局そのままバレて別れちゃいました」
 
「それは...」
 
「だから、僕が顔を見せれば大丈夫ですって」
 
「そういうものかな」
 
「そうですよ」
 
 
チャンミンは自信たっぷりにそう言って微笑んだ
自分が俺の心を揺さぶっているとは露ほども知らずに、その妻に会おうとしている
二人が顔を合わせている場で、俺はどんな顔をすればいいのだろうか
 
 
ブィーーン、ブィーーン...
 
 
低く唸るような音と共に、カーナビの脇に取り付けていたスマホホルダーの中で俺のスマホが震えた
それを取ろうとしたら、うっかり手が滑ってチャンミンの足元に落としてしまった
 
 
「あ、ごめん!!」
 
「いえ、大丈夫です、今取りますね」
 
 
チャンミンはそう言うと、屈んで手を伸ばし、スマホを取ろうとした
でも、小振りな車体に高身長のチャンミンでは、ダッシュボードに顔が当たってうまく取れない
 
 
「あれ....手は届いてるんですけど...っと....んんっ....」
 
 
苦戦しながら体を屈め、腕を伸ばし、うんうん唸っているチャンミンのその吐息が妙に色っぽく聞こえて、こんな状況なのに思わずドキっとしてしまった
今まで想像した事もなかったチャンミンの色っぽい一面に、俺の中の何かが疼き、目の前のこの美しい男にもっと触れたいと思った
 
同時に、それを制御しようとするアラートのようなものも発令された
 
 
「チャンミンもういいよ、一旦車を降りようか
自分で取るよ、ごめん」
 
「...そうですか?」
 
 
チャンミンが先に車を降りると、俺は運転席から助手席の足元に上半身を潜りこませ、スマホを拾い上げた
無理な体勢をしたせいで頭に血が上ってクラクラして、すぐには車を降りずに落ち着くのを待っていると、コンコン、と助手席側の窓を叩く音がして、チャンミンが窓の向こうから怪訝な顔でこちらを見ていた
 
車を降りると、何をしていたのかと訊かれ、事情を話すと笑われた
 
 
「そんな事でクラクラしちゃったんですか?」
 
「笑うことないだろ
チャンミンだってさっきは真っ赤な顔してたんだから」
 
「でも僕はリカバリー早いですよ
僕とユノさんと2歳しか違わないのに、そんなに変わりますか?」
 
「変わるさ
だからもう少し老体を労わってもらおうかな」
 
「老体って...ぴんぴんしてるじゃないですか」
 
 
そう言いながら、チャンミンが俺の腕に軽く触れた
掴むとかそういうのではなく、本当に軽く、手の平でそっと触れた
その瞬間、触れられた部分を中心に体全体がかぁっと熱くなって、全神経がそこ一点に集中した
チャンミンにこんな風に触れられるのは、全く初めてだった
 
 
「...どうしたんですか?行かないんですか?」
 
 
俺は無意識に足を止めていたのか、チャンミンが不思議そうに振り返った
 
 
「ん?あぁ、行くよ」
 
 
明日どうするか、猶予はほとんど残されていない
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
部長に頼まれていた文書を完成させて時計を見ると、まだ19時半だった
結局明日の事は何も決めないまま、チャンミンは定時に帰ってしまい、何となくきりがいいこのタイミングで俺も切り上げた方がいいような気がしていた
 

新着メールをチェックして急ぎの用件がない事を確認すると、さっと支度をして会社を出た

 

 

駅に向かって歩いている途中、突然後ろからポンと肩を叩かれ、振り返るとチャンミンが立っていた

 
 
「あれ...とっくに帰ったんじゃなかったの?」
 
「僕も一緒に帰っていいですか?」
 
「う...うん、いいけど、今までどこにいたの?」
 
「その辺をぷらぷらしてました」
 
 
こんなオフィス街でぷらぷらするような場所は飲食店くらいしかない
これはもしかして、偶然を装った待ち伏せではないか、そう思ったら急にドキドキし始めた
俺は一体何を期待しているのか、チャンミンにはその気はゼロだ
 
 
「...もしかして、俺を待ってた?」
 
 
冗談半分、本気半分でそう訊くと、チャンミンはすぐには答えずじっと俺を見た
今まで見せた事のないような、試すような目付きにドキっとした
 
 
「待ってた..って言ったら、どうしますか?」
 
「そりゃあ、嬉しいよ」
 
「嬉しいんですか?どうして?」
 
「それは...慕われてるのかな?って思うから、違うの?」
 
 
チャンミンはそれには答えず、ニコッと微笑んだ
 
 
「軽く飲みませんか?」
 
「え...これから?」
 
「長くならないようにしますから、ほんの1~2杯だけ」
 
「でも...俺はお酒飲まないけど」
 
「それでもいいです
1時間、いえ、30分でもいいです」
 
 
強請るような目で俺を見上げるチャンミンに、NOとは言えなかった
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

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