BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シムさんを営業に同行させてから二ヶ月が経った
当初はそろそろ独り立ちさせる予定だったのが、俺の方の仕事がバタバタしたせいで予定が大幅にずれ、まだ少し掛かりそうだった
お陰で気紛れのドライブもなかなか時間が取れずにいた
 
 
いつものように営業先を回っている途中、信号待ちで一時停止をしたら、シムさんがパッと俺の方を向いた
 
 
「主任、今日も慌ただしく終わるんですか?」
 
「ん?」
 
「もうずっと気分転換してませんけど」
 
「あぁ、ドライブの話?
そりゃあ俺だって行きたいけど、仕事が詰まっててなかなか時間が取れないんだから仕方がないよ」
 
「それはそうなんですけど...」
 
 
チラリと助手席を見ると、シムさんはあからさまに不満そうな顔で前を向いていた
この二ヶ月間、一緒に営業先を回るうちに自然と二人の距離は縮まり、まるで兄弟のように気軽に話せる関係になっていた
勿論、俺の方は兄弟と思って見てはいないけれど、それでもシムさんが俺を慕って気軽に話しかけてくれるようになって、それはそれで嬉しかった
 
 
時計を見ると、帰社予定の時刻までまだ少し時間があった
二軒目の取引先が思ったより早く済んだお陰で時間に余裕ができたのだ
こんなチャンスは滅多にないと、シムさんには何も告げず、ウィンカーを出して車線変更をして進路を変えた
 

暫く走っていると、見覚えがある景色にシムさんが何かを察知した

 
 
「あれ?この道って...」
 
「分かる?」
 
「もしかして、埠頭に向かってますよね?大丈夫なんですか?」
 
「行けなくて不満そうにしてたのはどこの誰だっけ?」
 
「...僕です」
 
「本当にちょっとしか時間がないから、あんまりゆっくりはできないからね」
 
「分かりました」
 
 
埠頭に着いて車を降りると、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ
冷たい潮風が心地良く、空はどこまでも青く澄んでいた
 
 
「あぁ~...本当に気持ちいいですね」
 
「シムさんもここが気に入ったの?」
 
「えぇ、毎週でも来たいくらいです
主任はプライベートでも来てるって言ってましたよね?」
 
「そうだね」
 
「そこに僕も混ぜてもらったら迷惑ですか?」
 
「え?」
 
 
思わずシムさんを見た
シムさんは悪戯っぽく微笑んで俺を見ていた
時折見せるこういう表情に、俺は毎回ドキっとさせられる
 
 
「プライベートで、俺がシムさんをここに連れて来るって事?」
 
「えぇ、だって、仕事の合間に来るって言っても限られてますよね?
だったら主任のオフに連れて来てもらえばいいなって思って
あ、でも、考え事したいから来てるんですよね?僕がいたら邪魔か...」
 
 
シムさんの表情がサッと曇ったのを見て、慌てて俺は否定した
 
 
「いや、邪魔って事はないよ
でも、いつも予定が決まってるってわけじゃないからいつ誘えるか分からないけど、それでもいいの?」
 
「全然OKです
僕は常にヒマですから、いつでも誘ってください」
 
 
そう言って微笑む様子は単純に可愛いかった
男性の笑顔を見てそう思うのもおかしいけれど、他の奴には見せないで欲しい..そんな風に思ってしまった
 
 
「あ、そしたら僕の連絡先を教えておかないとですよね」
 
「ん?あぁ、そうだね」
 
 
お互いの電話番号とメールアドレスを交換すると、そろそろ時間だからと言って車に乗り込み会社に戻った
 
 
 
夕方、定時になるとシムさんは退勤し、俺は残務処理があるので残っていた
出来上がった書類に目を通しながら、ふと、デスクの上のスマホに目が行った
ここにシムさんの連絡先が入っていて、俺はいつでも連絡を取ることができるようになった
用もないのにメールを送ったりはしないけれど、向こうからメールが送られて来るのではないかと淡い期待をしていただけに少しガッカリしていた
 
諦めて書類に目を戻すと、そこでスマホがブルブルと震えた
画面には、俺が登録した"シムさん"という名前が表示されていた
一体どんな内容だろうとドキドキしながらメールを開くと、そこには丁寧な文章があった
 
 
『お疲れ様です
もう退勤されましたか?まだお仕事中でしたらすみません
明日の土曜日、主任がお暇でしたらドライブに行きたいです
もしお忙しいようでしたら日を改めます』
 
 
控え目だけれどしっかり主張はして、シムさんらしい文章だと思った
明日は特に予定はなく、天気が良ければドライブに行くのもありだと思っていた
俺からはどうにも誘いにくいと思っていたから、シムさんから誘ってくれて助かった
 
すぐに返事を送ると、今夜はこれ以上仕事に集中できる気がしないので、もう一度書類に目を通してそのまま退勤した
 
明日の事を考えると気持ちがふわふわして落ち着かず、まるで恋人と初デートをする前日のような気分だった
でも相手は自分の部下で、恋人ではない
少なくともシムさんにとって俺は、ドライブに連れて行ってくれるいい上司なだけだ
 
 
自宅マンションのエントランスに着くと、シムさんの事を一旦頭から切り離した
ここから先は現実が待っていて、浮かれている場合ではない
大きく深呼吸をしてエントランスに入って行った
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その日の晩、寝支度をしている妻の背中に向かって俺は明日の予定を話した
いつも通りの埠頭ドライブに、妻は何の疑いも抱かずに快諾した
 
 
「夕方には帰って来るんでしょ?」
 
「勿論、夕飯は家で食べるよ」
 
「分かった」
 
 
妻はそう言って先にベッドに入った
俺は寝室を出ると、数日前から見始めた映画の続きを見る事にした
眠くない訳ではないけれど、妻と同じタイミングでベッドに入るのを避けるために、いつからかこうして一人で映画を観るようになった
幸か不幸か妻とは映画の好みが違うので、一緒に観たいと言って来ないのが救いだった
 
 
エンドロールを最後まで見届けてからテレビを消すと、もう深夜1時を回っていた
水をコップ1杯飲んで寝室に向かうと、妻を起こさないようにとそっとベッドに入った
 
 

暫くして、背後でもぞもぞと動く気配を感じ、妻が俺の毛布の中に入って来た

あぁ..と思った時には背後からぎゅっと抱き付かれていた

 

 

「...寝てなかったの?」

 

「うん、ねぇ...いい?」

 

「何?」

 

「何って...一つしかないでしょ」

 

「もう1時過ぎだよ?」

 

「明日休みなんだから時間なんて関係ないじゃない、したいの、ダメ?」

 

 

そう言いながら、妻の手は既に俺の下半身へと伸びていた

服の上からまさぐられ、体は勝手に反応し、それを知って妻は嬉しそうだった

 

 

「ほら、大きくなった」

 

「生理現象だから」

 

「そんな事言わないで

ねぇ、今日はゴムつけないでしたい」

 

「ダメだよ」

 

「どうして?結婚してるのに、いつまでも避妊しなくちゃいけないの?

私だってもういい歳なんだから、そろそろいいでしょ?

...ユノは欲しくないの?」

 

 

まるでデジャヴのようなお決まりの質問に、胸がちくりと痛んだ

妻には申し訳ないけれど、俺の答えもまた、いつも通り決まっている

 

 

「今はまだ仕事が忙しくて、そういうの考えられない」

 

「...そう」

 

 

妻の手がすっと引っ込んで、それきり何もなくなった

 

 

こうしたやりとりは月に数回程度あった

さすがに全く相手をしない訳にも行かず、時々は妻の要求に応えている

でも避妊だけは徹底して、妻はそれが不満で仕方がないのだ

いつ離婚を切り出されるかと覚悟はしているけれど、そういう話題はまだ出ていない

 

 

何だかモヤモヤしてしまって、昂った体を冷まそうと集中していると、なぜかシムさんの顔がパッと浮かんで来た

明日会う予定だからなのか、それとも俺が気になっているからなのか?

多分、そのどちらもだろう

 

シムさんの美しい顔は、女性社員の間でも評判になっていた

くりっとした大きな目や、丸く突き出た頬骨、少し鼻にかかった優しい声、今まで知り合ったどの男とも違って男臭さがなかった

ちょっと悪戯っぽく見上げる目付きや無邪気に笑う姿に俺は何度もドキッとさせられ、思い返す度に心は搔き乱されていた

 

 

この感情を言葉で表現するのなら、それは紛れもなく「恋」だった

俺は人生で初めて、男に恋をしていた

 

 

今、隣にいるのが妻ではなくシムさんだったら...?

昂った体を鎮めようと思っていたのに、余計に熱くなっていた

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※