BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だこの違和感は...

あ、そうか、視線だ、さっきからずっと視線を感じる

 

 

思い切って同僚の方を向くと、目がばっちり合った

 

 

「さっきから何だよ」

 

「何って?」

 

「ずっとこっち見てるだろ?

言いたい事があるならはっきり言えばいいじゃん」

 

「見てないし、シムって自信過剰なんじゃないの?」

 

「...とにかく気が散るんだよ、ちゃんと仕事しろ」

 

「なぁシム」

 

「ん?」

 

「今夜付き合えよ、久々に飲みに行こうぜ」

 

「飲み?」

 

 

ふとユノの顔が浮かんだ

本当は今夜、ユノの家に行こうと思っていた

でもさっきあんな事があったばかりだから、同僚に付き合った方がいいかもしれない

何を言われるのか怖くはあるけれど、お前が見たのは何でもない、ただの気のせいだと念押ししておかないと不安でしょうがない

 

 

「いいけど、あんまり長くは無理だからね

最近寝不足気味で疲れも溜まってるから」

 

「おっけ」

 

 

同僚は満足したのか、それきり僕の方を見なくなった

 

 

それにしても...まさか同僚に変なところを目撃されてしまうとは迂闊だった

確かに最近のユノはちょっと不用心というか、大胆だなと感じる事が多い

公園でのランチにしてもそうだし、あそこは会社からある程度離れているとは言え、僕が昼休みに使うくらいだから同じ会社の人を見掛ける事もあり、ハラハラする事もあった

最初の頃はユノも警戒してむやみに話し掛けて来たりはしなかったのに、いつの間にかユノの方から公園にやって来るようになって、必ず一度は僕の頭をポンと撫でるのだ

 

正直、そういう触れ合いは凄く嬉しい

嬉しいけれど、タイミングを間違えると今回みたいに目撃されてしまうから怖い

 

今夜同僚と飲みに行って、どんな尋問を受けるのかと想像して背筋がゾッとした

 

 

 

 

 

仕事終わり、ユノには同僚と飲みに行くとメールを入れておいた

店が決まったらそれも連絡するつもりで、別にそういうルールがある訳ではないけれど、僕がどこにいるかをきちんと知っておいてもらいたかった

 

 

「よし、シム、行けるか?」

 

「うん、いいよ」

 

 

同僚と会社を出て向かった先は、サラリーマンでいつも賑わっている飲み屋の一角、若者向けにオープンしたばかりのスタンディングバルだ

長居したくないので敢えてスタンディングを選んだ

 

飲み物と簡単なつまみを頼むと、それが来るまでの間に早速尋問が始まった

 

 

「なぁシム、チョンさんとはどれくらい親しいんだよ」

 

「どれくらいって...何度か飲みに行った程度だよ」

 

「本当に?それ以上の雰囲気があったけど」

 

「ナイナイナイ、気のせいだって

僕とチョンさんとじゃ立場も違うし、そう簡単に打ち解けられる存在じゃないよ」

 

「...そおかぁ?」

 

 

同僚は納得行かない様子で、お酒が来ない代わりに水を一口飲んだ

そしてお酒が到着すると、そこから本格的な尋問が始まった

僕は終始一貫して"気のせい"を通したけれど、全くもって納得してくれなかった

 

 

「だってさ、例えば常務が俺の髪の毛にゴミがついてるからってわざわざ取ってくれるとは思えないんだよな」

 

「そう?取ってくれるでしょ」

 

「いや、ゴミがついてるからトイレの鏡で確認しておいで、で終わりだよ

他人の髪の毛にあんな風に触れるって、そこそこ親しくないとできないぜ?」

 

「う~ん...」

 

 

言われてみればその通りかもしれない

あの時、僕とユノの距離は確かにただの上司と部下としては近かったかもしれない

そもそも僕たちが恋人同士であるという揺るぎない大前提により、自然とそういう空気になっていたのは否めない

 

 

「とにかく気のせいだよ

チョンさんにも失礼だから、あんまり深読みするなよな」

 

「分かった

でも次またそういう場面を見たら、今度こそ疑うからな」

 

「...疑うって何をさ?」

 

「お前とチョンさんがいい仲だって事」

 

「あのさ...僕とチョンさんの性別分かってる?」

 

「分かってる」

 

「ここに入社した頃、僕が付き合ってた人の性別は?」

 

「女」

 

「で、チョンさんの性別は男、つまり僕とチョンさんでは恋愛成立しないよね?」

 

「そうとは限らないよ、人間は常に進化する生き物なんだから

まぁこれ以上突っ込んでもお前ははぐらかすんだろうから、もういいよ、終わりな」

 

 

同僚の言い方にムッとしたけれど、墓穴を掘る事もないと思ってそれ以上は言わなかった

その後もなぜか同僚はイライラしているようで、いつもだったら笑って流すような僕の冗談も本気にしたり怒ったり、何となくギスギスしていた

 

 

お会計を済ませて店を出ると、駅に向かいながらせめてギスギスするのだけでもどうにかならないかと同僚の機嫌を窺った

 

 

「...何でそんなに怒ってるの?」

 

 

僕の問い掛けに、同僚は乱暴に"あぁ?"と言った

 

 

「チョンさんとちょっといい雰囲気ってだけでそんなに突っ掛かる?

別にお前に迷惑掛けてないんだし、気にするような事じゃないよね?」

 

「それは認めてるって事?」

 

「え?」

 

「チョンさんといい仲だって認めるのか?」

 

「違うよ!!今回俺に言いがかりをつけてきたキッカケの話をしてるんであって、別に認めてる訳じゃない

ただ、そこまで追求するような事なのかなって単純に思ったから」

 

 

同僚は少しの間無言になって、それから突然ピタリと足を止めた

 

 

「シムさぁ...俺、何年彼女がいないか知ってる?」

 

「彼女?えっと...何年だろう...?」

 

「分かる訳ないんだよ、お前と会う前からずっといないんだから」

 

「あれ、そうだったっけ?てっきり彼女がいるんだと思ってた」

 

「いたら合コンなんてしないよ、だろ?」

 

「まぁそうだけど...

それと今回の件とどう関係してるの?」

 

「まぁ...関係してるような、してないような...って感じかな」

 

 

同僚は再び歩き出して、僕も慌てて後について行った

 

 

少し行ったところで信号のある横断歩道に出て、信号が赤だったのでそのまま舗道の端で止まった

車は一台も通らず、歩行者も僕らだけで、街灯も少し薄暗い

一人だったらささっと赤でも渡ってしまいたくなるような状況だ

 

 

信号は思いの外長く、なかなか変わらない

僕と同僚は何となく無言のまま突っ立って、信号が青になるのを待った

 

 

とその時、突然同僚が僕に抱き付いてきた

 

 

「えっ...!?」

 

 

斜め後ろに立っていた同僚が、ガバっと僕に抱き付いて来て、あまりの出来事に言葉も出ず、身動きも取れず、ただじっと固まっているしかなかった

 

すぐに同僚は僕から離れ、僕も咄嗟に距離を取って離れた

 

 

「な...何すんだよ!!」

 

「ごめん、驚いた?

男に抱き付かれたらお前がどんな反応するのかと思って」

 

「何だよそれ、揶揄うのもいい加減にしろよ」

 

「悪い悪い、ちょっとふざけただけだよ

俺さ、思い出したんだけど、ちょっと寄りたいとこあるからここで解散していい?」

 

「え?」

 

 

同僚は"じゃあな"と言うと、サッと走って行ってしまった

その後ろ姿を見つめながら、今のは一体何だったのかと首を傾げた

冗談にしては質が悪い

 

青になっていた信号が点滅を始めたので、慌てて小走りで渡った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下鉄に乗って真っ直ぐユノのマンションに向かうと、同僚と飲みの席で交わした会話をそのまま話した

でも、別れる間際に抱き付かれた事は話さなかった

 

 

ユノは自分のせいで僕に迷惑を掛けてしまったと、酷く申し訳なさそうな顔をした

 

 

「俺のせいだよね、ごめん

自分でも最近、自由に振る舞い過ぎてるなって自覚はあるんだ

もし社内に噂でも広まったら、コンプライアンス違反で契約打ち切りかも」

 

「え、そんな!?」

 

「...ってのは冗談だけど、注意くらいは受けるかもしれない

どちらかが既婚者とかじゃないからまだいいけど、心象は間違いなく悪くなるね」

 

 

ユノは珍しく大きな溜め息をつくと、ソファに深く身を沈めた

 

感情に走ってしまった結果、僕に迷惑を掛けたと思っているようだけれど、僕はユノを責める気にはなれなかった

なぜなら、僕だってユノとの公園ランチを一緒に楽しんでいたし、今日の自販機コーナーでの出来事だって、特に警戒せず無防備だった

僕らがお互い夢中になり過ぎたが故の結果であって、ユノ一人の責任じゃない

 

 

「チャンミンが何と言おうと、これは完全に俺の責任だ

俺がチャンミンを好きになったところから全ては始まってるんだから」

 

「それは...ちょっと大袈裟じゃないですか?」

 

 

ユノは体を起こすと、真剣な眼差しを僕に向けた

 

 

「同僚には打ち明けた方がいいのかもしれない」

 

「僕たちの関係を話すって事ですか?」

 

「うん

先輩の時もそうだったけど、一番近しい存在には話しておいた方がいいんじゃないかと思うんだ

特に彼とは一番仲が良いんだよね?

俺も一緒に飲みに行く事もあるし、いつまでも隠し通せるとは思えない」

 

「確かにそうなんですけど...」

 

 

ユノとの交際を誰かに知って欲しいとずっと思ってはいたけれど、まさかこんなタイミングで同僚に話す事になるとは思ってもいなかった

あの様子では相当僕らの仲を疑っているし、今後は常にそういう目で見られる覚悟でいた方がいい

 

でも...

 

あの抱き付き事件が何だったのか、それはそれで気になっていた

本当に僕を揶揄うつもりだったのか、引き攣った同僚の表情が頭から離れなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※