BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

< The view from Yunho>

 

 

 

 

 

 

「旅行、楽しかったですね」

 

「そうだね」

 

「次はどこに行きますか?」

 

「...次?行ったばかりなのに、もう次の計画立てるの?」

 

「だって、楽しみは幾つあってもいいじゃないですか」

 

「まぁ、そうだけど」

 

 

チャンミンはサンドイッチをはむ..と齧ると、パンの端を少し千切って地面に放り投げた

すかさず鳩が四方から飛んで来て、小さなパンの欠片に群がった

 

 

「チャンミン...それはやめようって話しじゃなかった?」

 

「あ、そうだった...つい習慣でやっちゃうんですよね」

 

「お陰で俺のサンドイッチまで狙われてる気がする

残念だけど、俺はあげないから諦めるんだな」

 

「鳩に言ったって分かりませんよ、ほら、しっしっ!!」

 

 

チャンミンが鳩の群れに向かって手を振ると、バサバサと音を立てて飛び去り、羽毛がふわふわと宙を舞って危うく俺のサンドイッチに乗りそうになった

 

 

「行きたい気持ちは山々だけど、暫く旅行は無理かもね」

 

「どうしてですか?」

 

「新しい改善案が出てるんだけど、そっちに着手するとまた忙しくなりそうなんだ

それがある程度落ち着けばまた時間は作れるけど、なんせまだ企画段階だからね」

 

「そっかぁ...それは残念です」

 

 

チャンミンは残ったサンドイッチを一口に頬張ると、不満そうな顔で足元のパン屑を見つめていた

その横顔を見て、つい数日前まで二人で過ごしていた温泉宿でのチャンミンを思い出した

こんなに可愛く拗ねている人が、あれほど大胆な姿を曝け出していた人と同じだとは到底思えない

何度も俺を欲し、挑発するように誘い、甘く官能的な声を発していたチャンミンが、今俺の隣でサンドイッチを頬張りながらちょっと可愛くいじけている

 

俺の視線に気付いたチャンミンがこちらを向いた

 

 

「何ですか?」

 

「うん...可愛いなと思って」

 

「やめてください、こんな所で...恥ずかしいじゃないですか」

 

 

そう言って耳まで赤く染める様子は、浴衣姿のチャンミンが敷布団の上、ほろ酔いで頬を赤くしながら俺を熱っぽく見つめていたあの艶めかしい姿を想起させた

 

いい加減、旅行気分から抜け出さなければならないのに、ちょっとしたきっかけで俺の脳裏にはチャンミンと過ごした甘いひと時がありありと蘇ってしまう

 

 

「雪と温泉は堪能したから、次は暖かくなる頃に計画しようか

チャンミンはホテルと旅館とどっちがいい?」

 

「う~ん...旅館の風情もなかなか捨て難いんですけど、ホテルの快適さも欲しくなるし...あ、でも、敷布団と浴衣の組み合わせって結構盛り上がりましたよね?」

 

 

チャンミンの宿の選定ポイントは、どうやら夜のしっぽりタイムに重点が置かれているらしい

 

 

「でも正直、敷布団よりベッドの方が体へのダメージが少ないような気もするんですよ

ユノはあんまり気にならないかもしれませんけど、僕の方は結構腰に来るんです」

 

「だったら和洋室っていう選択肢もあるよ」

 

「あ、それいいですね!!それにしましょう」

 

 

そう言ってチャンミンが嬉しそうな顔を見せるから、思わず頭をポンポンと撫でた

こうして公園のベンチでランチをする回数も日に日に増え、周りを気にせず親し気に接する事にいつの間にか抵抗を感じなくなっていた

会社を一歩出てしまうと、二人を縛る"仕事"という括りが曖昧になり、無意識にチャンミンと過ごす時間に夢中になってしまう

今までの自分だったら、もっとコンプライアンスには敏感になっていたし、常にアンテナを張って周囲の視線を気にしていた

それがどうしてか今は、チャンミンを前にすると緊張感が緩みがちだった

 

 

「そろそろ時間だから俺は戻るけど、チャンミンはゆっくりしてて」

 

「分かりました」

 

 

自分の分とチャンミンの分と、食べ終えたサンドイッチの袋を掴むとベンチから立ち上がった

そのままうっかりまたチャンミンの頭に触れそうになって慌てて手を引っ込めると、チャンミンの笑顔に見送られながら会社に戻った

 

 

共に過ごす時間が増えれば増えるだけ、公私の境界線が曖昧になって来ていた

でもだからと言って、勤務中はできるだけ会わないようにしようという気にもなれず、いつから自分はそんな意志薄弱な男になったのだろうと戸惑った

 

いっその事、周囲にカミングアウトしてしまった方がまだ気が楽になるのでは..と思う事もなくはないけれど、それにはチャンミンの了解を得る必要があるし、それによるリスクもよく見極めなくてはいけない

俺だけが嫌な思いをするのは構わないけれど、チャンミンにまで迷惑が掛かるのは極力避けたかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の会議が終わって自室に戻るついでに自販機コーナーに立ち寄ると、見慣れた後ろ姿を見付け、そっと近付きピタリと真横に立った

 

 

「...ユノ!!びっくりするじゃないですか、何も忍び寄らなくても...」

 

「忍び寄ってなんかいないよ...買わないの?」

 

 

自販機の前にじっと立ったまま買う様子のないチャンミンにそう尋ねると、コーラかジンジャーエールで悩んでいると言った

 

 

「へぇ、珍しいね、炭酸ジュースなんて

いつもはミネラルウォーターか炭酸水なのに」

 

 

するとチャンミンは照れ臭そうに微笑んだ

 

 

「やっぱりそう思いますよね?でもユノと付き合うようになって、たまにこういうのが飲みたくなるんです」

 

「俺がサンドイッチを食べたくなるのと一緒だ」

 

「あ、そうですね

ユノはどれにするんですか?」

 

「俺?俺はアイスコーヒー

まだ悩んでるなら先に買ってもいい?」

 

「えぇ、どうぞ」

 

 

お金の投入口に硬貨を入れてアイスコーヒーのボタンを押し、取り出し口から缶を取り出そうとかがんだ時、ふとチャンミンの足元が目に入り、爪先部分に土がついている事に気付いた

 

 

「...チャンミン、靴が汚れてるよ」

 

「え?あ、本当だ」
 

「拭いてあげる」

 

 

俺がそう言って指先で軽く払うと、乾いた土は簡単に取れた

 

 

「え!!そんな...手が汚れちゃうじゃないですか」

 

「別にいいよ、後で洗えばいいし」

 

「そういう訳には...ちょっと待ってください」

 

 

チャンミンはポケットからハンカチを取り出すと、俺の手を取って指先をゴシゴシと拭き始めた

 

 

「大して汚れてないから大丈夫だって」

 

「でもダメです、靴の爪先なんてキレイじゃないんですから」

 

 

そう言って俺の手を一所懸命にゴシゴシ拭いているチャンミンの手元をじっと眺めながら、ふと顔に目をやった

会社でこんな風に至近距離でチャンミンの顔を見る事などそうそうない

大きな目元を縁取る長い睫毛はまるで付け睫毛のようで、これが自前なのだから、同僚の女性たちはさぞかし羨ましく思っているに違いない

鼻筋はすっと通り、肌は絹のように滑らかで美しい

唇はきゅっと横一文字に結ばれ、そこに意志の強さが窺える

 

こんなにキレイな人が自分の恋人なのだと思うと誇らしかった

 

 

「よし...と、後でちゃんと石鹸で洗ってくださいね」

 

 

チャンミンは拭いた指先をまじまじと眺めて確認すると、俺の手をスッと離した

手にはまだ温もりが残っている

 

 

「ありがとう」

 

 

そう言って視線を上げた時、チャンミンの髪の毛の間に何か茶色いものが見えた

よく見てみると、それは小さな枯葉のようだった

恐らく公園にいた時に上から降って来たのだろう

 

 

「何か髪についてる...葉っぱかな」

 

「え?」

 

 

手を伸ばして取ろうとしたけれど、ギザギザした葉の縁が髪の毛に引っ掛かってうまく取れない

コーヒーの缶をチノパンのポケットに突っ込むと、両手を使ってようやく取れた

 

 

「ほら、これ」

 

「あ、本当だ、ありがとうございます」

 

「お疲れ様でーす」

 

 

突然声がして振り向くと、いつしか一緒に飲みに行ったチャンミンの同僚が立っていた

いつからそこにいたのかは分からないけれど、角を曲がってから自販機までの数メートルの間に俺たちの姿は目に入っていたはずで、という事は、俺がチャンミンの髪の毛に触れているところは確実に見られている

 

 

「二人で仲良く何やってんすか」

 

 

チャンミンの脇を肘でつついて冷やかすようにそう言うと、案の定、チャンミンはムッとした表情で同僚を睨んだ

 

 

「仲良くって...たまたま遭遇しただけだよ」

 

「本当?ちょっといい雰囲気だったけど」

 

「僕とチョンさんでいい雰囲気って変だろ」

 

「そうか?でも前に飲んだ時もなんかそんな気配あったけど...」

 

 

チャンミンの同僚はそう言いながら俺の方をチラリと見た

これ以上ここにいると妙な流れになると察した俺は、電話がかかって来た風を装って慌ててその場を離れた

 

鳴ってもいないスマホを耳に当てながら自分の部屋まで戻ると、デスクの上にスマホを置き、それからさっきのやりとりをじっくりと思い返した

 

 

同僚のあの目...あれは紛れもなく疑いの目であり、嫉妬の目でもあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

※画像お借りしました※