BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m
「受験票持った?」
「持った
筆記用具、ICカード、ハンカチ、参考書...あ、それと水筒も持った!!」
「じゃあもう完璧ね、後はあなたが全力を出し切るだけ!!」
玄関で母さんが威勢良くエールを送る中、隣近所に聞こえていないといいなと思いながらそそくさと家を後にした
チャンミンとは駅で待ち合わせていて、背負ったバックパックの肩ベルトを両手でギュッと掴むと、小走りで駅へと向かった
泣いても笑っても、今日は試験本番だ
今まで煩悩を我慢して受験勉強に打ち込んで来たその成果がここで発揮される
駅に着くと、チャンミンは既に到着して改札の内側で待っていた
改札を入って駆け寄ると、やや緊張した面持ちで"おはよう"と微笑んだ
「忘れ物ない?受験票は持った?」
「チャンミンまで母さんと同じ事言うんだな」
「だって何か、そういうの普通に忘れてそうなんだもん」
「大丈夫だよ、家出る時に散々確認したから、ほら」
そう言って上着のポケットから受験票を取り出して見せると、チャンミンは驚いた顔をした
「ちょっと!!そういう大事なものを上着のポケットに入れる?
ちゃんとカバンにしまった方がいいよ、貸して、しまってあげる」
「そう?...ありがとう」
予定通りの電車に乗り込んで会場へ向かうと、現地の駅は受験生で溢れていた
どの顔も緊張で強張っていて、自信に満ち溢れた顔なんて一つも見当たらない
会場に向かう間、俺とチャンミンは試験の事には触れず、受験が全て終わった時の事を話して気持ちを盛り上げた
そうでもしないとこのプレッシャーに押し潰されて気が滅入ってしまいそうだった
会場になっている教室が別々なので、俺とチャンミンは建物に入ると階段の脇で立ち止まった
「じゃあ、終わったらまたここで落ち合おう」
「うん、頑張ろうね」
「チャンミンなら絶対に大丈夫だよ」
「ユノも絶対に大丈夫」
「ありがとう」
階段を上り始めてふと振り返ると、チャンミンはまだ階段の下で俺を見上げていた
"行っていいよ"という意味で会場の方に向けて指を差すと、チャンミンはうんと頷いてから、小さくガッツポーズをして"ガンバレ"と言っているのが口の形で分かった
それに向かって親指を立てて応えると、俺はそのまま階段を上がって行った
本当の本当に、泣いても笑っても今日でほぼ決まる
俺もチャンミンも先生からは心配ないと言われているけれど、心臓はバクバクだ
やり直しはきかないし、うっかりド忘れしてしまったらそれきりだ
会場の教室に入ると、大きく深呼吸をした
「どうだった?」
「うん...まぁ、出せる分は全て出し切ったって感じかな、チャンミンは?」
「僕も同じ
とりあえず、脳ミソを思いっ切り使ったせいか、お腹が空いた」
「ハハ、確かに」
ゆうべからずっと続いていた緊張の糸がようやく緩んだせいか、俺もお腹が空いていた
朝はろくに食べられなかったけれど、緊張していて特に気にもならなかった
駅前のファストフード店は既に受験生で埋まっていたので、地元の駅まで戻ってから腹ごしらえする事にした
「あのさ」
「ん?」
「僕んちに...来る?」
「え?」
「あ、ほら、お店で食べるよりゆっくりできるし、もしかしたらさっきの店みたいに混んでて入れないかもしれないじゃん?だったら買ってうちで食べればいいかな..って」
「あぁ...そう言われてみればそうかもね、でも...」
「心配しなくても、今日は二人ともいるから大丈夫だよ」
俺が何を気にしているか察知したチャンミンが、訊くより前に言ってくれた
試験が終わったからと言って一気に気を緩めていい訳ではないのだから、気になって当然だ
今日はお母さんもハンさんも仕事が休みで家にいると知ってホッとした
駅前のファストフード店でハンバーガーやポテトを買ってチャンミンの家に向かう道中、何となく気になって訊いてみた
「いきなり俺が一緒に行って大丈夫かな」
「どういう意味?」
「だってほら、お母さんがめちゃくちゃリラックスした格好とかだと、俺が突然行ってびっくりするんじゃないかな」
「リラックスした格好って?」
「例えばすっぴんとか、凄くカジュアルな服装とか...あるじゃん、女の人ってそういうの
うちの母さんはそういうの気にするから、事前に友達連れて行くって言っておかないと凄い怒るんだよね」
「そっか、うちはそういうのないよ、いつも薄化粧してるし、服装もそれなりに気を遣ってるし」
「ふ~ん...だったらいいけど」
「もう着いちゃうし、今更だよ」
マンションに着いてエントランスを抜け、エレベーターで上がって行くと、エレベーターの個室内にポテトのいい匂いが充満した
次に乗る人が空腹じゃないといいね、とか話しながらエレベーターを降りてチャンミンの住む部屋の前に到着すると、鍵を開けて先に入ったチャンミンが"あ"と声を上げた
「どうしたの?」
ドアに手を掛けて俺も中に入ると、しんと静まり返った玄関の空気から、部屋の中に誰もいないのが気配で分かった
「...もしかして、いないの?」
「うん
ここにあった靴がどっちもなくなってるし」
「だって、連絡は?」
チャンミンは慌ててスマホを開いて、再び"あ"と声を上げた
「僕がこれから帰るって連絡した後に返信が来てた
"知り合いが近くまで来てるという言うので、ハンさんと一緒にランチに出掛けて来ます、夕方には帰ります"、だって...」
「夕方までいないの?」
「うん」
「とりあえず...お昼だけでも食べようか」
降って湧いたチャンスに顔が綻ぶのをグッと堪えて、買って来たハンバーガーをダイニングテーブルの上に置いた
それから二人で試験の話をしながらあっという間に平らげると、何かに急かされるように手早く片付けてソファに移動した
チャンミンのお母さんもハンさんも夕方までは帰って来ない
もし帰宅が早まるとしても、いつも必ず事前に連絡をくれるので、突然帰宅するという事はまずない
という事は...
「試験は一旦終わったし、結果が出るまでは小休止って事でいいんだよね?」
「そうだね、ハメを外さない限りは多少遊びに行っても許されるかも
ユノ、カラオケに行きたいって言ってたもんね」
「いや...そういうんじゃないんだけど...」
「え?」
「ほら...今、こうして俺たち...二人きりじゃん?」
様子を窺うようにチャンミンの方をチラリと見ると、とろんとした甘い眼差しが俺を見つめていてドキッとした
これはもう、言わなくても全て分かっている目だ
「少しだけならいいよね?」
「...うん」
何が"少し"なのかをお互いに理解しているのか微妙だけれど、少しくらいなら触れ合ってもいいという許可は下りた
俺はチャンミンの方に一歩近付くと、両手で頬を包み、切なげに俺を見つめる視線を顔面に感じながら顔を近付けて行った
「ん...」
唇を重ねた途端に甘い吐息が漏れて、一瞬で俺の体は熱くなった
ずっとずっと堪えていた感情が一気に爆発しそうになって、必死に制御したものの、制御不能になるのは時間の問題かもしれない
チャンミンの柔らかい唇がすっと開いて、お互いの舌が出会い...もうそこまで来たら、あとは雪崩のように感情はただひたすら急降下を始めてしまう
これ以上はダメだ...ここはチャンミンの家だし...
そんな事を自分に言い聞かせてみたところで何の意味もなさないと分かっている
親がいないと分かった時点できっとチャンミンもこうなる事を期待していたし、そもそも家に誘ったのだって、少なからずとも何かを期待していたからに違いない
チャンミンの体をゆっくりとソファに押し倒すと、本気モードでキスに取り掛かった
背中に回された両腕が俺の感情を後押しして、もっと突き進めと言われているようだった
「...ユノ」
「ん?」
「僕の部屋に行かない?そっちの方がゆっくりできるし」
「うん...いいよ」
チャンミンの部屋に移動すると、堰を切ったように二人でベッドになだれ込んだ
"少しだけ"なんて言っておきながら、ちっとも"少し"じゃ終わらなかったけれど、チャンミンのお母さんが帰る頃には俺たちは十分に満たされていた
※画像お借りしました※