BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m
翌朝、ユノは特に悪びる様子もなく普通に起きてきて、普通に「おはよう」と挨拶をし、普通に朝食を食べ、普通に僕の作ったランチを持って仕事に行った
挙動がおかしくなってからも僕は変わらずユノを見に町まで行っていて、そこにはいつもと変わらず真面目に働くユノがいた
ユノは手紙が来てからというもの、仕事帰りに役所へ寄ったり古い新聞記事を人からもらったりと、何かを調べているような様子だった
だから余計に、あの手紙が何なのかが気になって仕方がなかった
そういえば...ユノにはかつて婚約者がいたと言っていた
女性を好きになれない自分をなかなか打ち明けられず、結婚直前になってようやく打ち明けてそれで町を追われたと話していた
もしかして、それに関係する事なのか?
でも、古傷をえぐるような事はしたくない
なぜなら僕にもユノと似たような苦い思い出があるからだ
お互い追われて出て来た身として、相手の辛い過去を掘り返すような事はしたくなかった
あの手紙が何なのか、ユノは何を調べているのか、遠出の目的地はどこなのか、疑問は挙げればきりがないけれど、いつかきっとユノが語ってくれると信じて待つしかない
もし語ってくれなかったら...
その時はきっとユノがここを去る時で、僕はまた一人になる、ただそれだけ...
ユノがガラクタをしまっている缶に手紙は戻っていなかったから、肌身離さず持ち歩いているのか、どこかへ捨ててしまったのだろう
「チャンミン、今日は帰りが少し遅くなる」
仕事に行こうとしたユノが、支度の手を止めて僕にそう言った
「え..そうなんですか?
またどこかに行くんですか?」
「あぁ...
ちょっと人に会う」
「人に..会う?」
今までにはない新たな展開に胸がざわついて、全身からスーッと血の気が引いた
まさか、捨てた婚約者と会う..とか?
「...誰に会うんですか?」
「うん...ちょっとな」
相変わらず言葉を濁すユノに、さすがの僕もここは引かなかった
でもユノは最後まで誰とは口を割らず、それどころか少し不機嫌になった
そして不機嫌になったまま仕事へ行ってしまった
「...なんなの?」
ここまで秘密にされると途方に暮れてしまう
得体の知れない不安が背後からじわじわと僕に覆い被さって来るような気がして、背筋がゾクッとした
僕に言えない相手と会うとしたら...元婚約者か、もしくはあのしつこく言い寄って来た男だ
でもここ最近、あの男は本当におとなしくしているようだからその線は薄い
今夜ユノが帰って来たら、何としてでも聞き出そうと腹を決めた
その晩、遅くなると言った割にユノは早く帰って来た
ユノからは香水や化粧品の匂いがしなかったから、恐らく相手は女性ではない
ユノの髪型も出て行った時と変わらないし、服装も特に乱れてはいなかったから、僕以外の男と逢瀬を重ねている様子でもない
僕は大きく深呼吸をすると、ユノのいる寝室へと向かった
ユノはちょうど、上着を脱いでラックに掛けているところだった
「ユノ、ちょっといいですか」
「あぁ、何?」
「ユノにとって、僕はどんな存在ですか?」
「...え?」
「ユノにとっての僕は、居ても居なくてもいいような、どうでもいい存在ですか?」
「何だ急に?
そんな訳ないだろ」
「でも僕にはそう思えるんです
最近のユノは僕に秘密ばかり作って、どこに行くとか誰に会うとか、何も教えてくれません
ユノがどこに行くのか、誰と会うのか、僕には知る必要がないからですか?
一緒に暮らしているのに、ユノを心から愛しているのに、僕には関係ないんですか?」
「チャンミン...」
「別に、ユノの行動全て僕に報告しろとは言いません
でも、僕が尋ねているのだからそれにはちゃんと答えて欲しいし、答えられないならその理由を教えてください
遠出した先はどこですか?
今日は誰と会っていたんですか?
手紙は一体、誰からだったんですか?」
僕はできるだけ感情を抑えて、できるだけ丁寧に言葉を選んだ
本当は感情に任せてユノを問い詰めたいくらいだけれど、万が一ユノの気持ちが僕から離れていたとしたら、それはただ惨めなだけだ
「そうだよな...ごめん
いつかちゃんと話そうとは思ってた
でもまだ色々と片付いていない状態で、話せる状況ではないんだ」
「色々と片付いていないって、何がですか?」
「それは...まだ言えない
中途半端な状態でチャンミンに報告はできない
だからもう少し待っててくれないか」
「そうですか...
ユノは、僕がどんな思いでいるか知っていますか?
どこに行くかも分からず、誰に会うかも知らず、ユノを見送る僕の気持ち...分かりますか?」
昂った感情は涙となって、再び僕の目から溢れた
こんな風に訴えている自分が情けなくて、ユノに分かってもらえなかったのが悲しくて、思わず床に座り込んだ
ボロボロと溢れた涙は頬を伝い、シャツの胸元に幾つもの染みを作った
「チャンミン泣かないで
これは俺自身の問題でチャンミンは関係ない
俺の...個人的な問題で、この決着がつかないと前に進めないし、俺たちの将来のためにも解決しないといけない事なんだ」
初めてユノから具体的な言葉が出て来て、僕は顔を上げてユノを見た
いつも優しく僕を見ていた漆黒の目は、偽りなく真っ直ぐ僕に向けられていた
「余計な心配させたくなかったから何も言わなかった
でもこれだけは信じて、俺はチャンミンを愛してる、心から」
「ユノ...」
「チャンミンのいない生活は考えられないし、絶対不可欠の存在だよ
だから、俺の傍にいてくれないと困る」
ユノはそう言うと、床に座り込んだ僕の傍に膝を着き、ギュッと抱き締めてくれた
いつものユノの甘い香りがして、今まで抱えていた不安がゆっくりと消えて行く気がした
暫くそうやって抱き締められていたら少し気持ちが落ち着いて、心配そうに覗き込むユノに向かって微笑む事もできた
「もう..大丈夫です
僕が少し心配し過ぎたみたい」
「いや、ずっと黙っていた俺が悪い」
「僕はユノの言葉を信じます
何だか分からないけど、全部解決したら必ず話してくれるんですよね?」
ユノはしっかりと、僕の目を見て頷いてくれた
「だったらそれまで待ちます
寂しくないって言ったら嘘になりますけど、でも、待ちます
だから必ず解決して、最初から全部話してくださいね」
ユノは答える代わりに、再び僕を腕の中に抱き締めてくれた