BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m
< the view from Changmin >
「ねぇ、チャンスニちゃん、最近やつれ気味じゃない?」
「...え?」
「ユノさんの事で何か悩みでもあるの?
あたしで良ければ話し相手になるわよ」
出勤して早々、イチゴが僕の様子を心配して声を掛けて来た
体重も変わらないし食欲も旺盛だし、自分としてはやつれているつもりは全くなかったけれど、イチゴにはそう見えたらしい
確かに、疲れてはいる
「悩みというか...いえ、大丈夫です」
思わず言い掛けてすぐにやめた
実を言うと、例の後輩女子がいつ来るかと気が気じゃなくて、仕事に身が入らなくなっていた
でもそうは言ってもお客様である事に変わりはないし、ユノさんの恋敵という以外に特に問題はない
「そう言えば...あの女の子、どうした?」
「え?」
後輩女子の事を言っているのだと分かってドキっとした
こちらから言うまでもなく、イチゴには何となく分かってしまうのかもしれない
隠し通せる自信がなくなった僕は、直近までの出来事を洗いざらい打ち明けた
「それはそれはとんだ災難ね
でも、ユノさんのあの完璧なルックスからしたら当然と言えば当然よね
チャンスニちゃんがユノさんを掴まえられたのは相当運が良かったんだと思うわよ」
「やっぱりそう思いますよね
ユノさんに恋人がいなかった事はまさに奇跡です」
「でもさ、その女子にユノさんとチャンスニちゃんがいい仲だって見せつけたとして、諦めてもらえそうなの?」
「それは...」
それは僕にも正直分からない
でも今はそれしか方法が思い付かないのだから仕方がない
「ユノさんも罪作りよね
こんなに可愛いチャンスニちゃんがいるのに、隙があるからそうやって他の女子が言い寄って来ちゃうのよ」
「...イチゴさん、厳しいですね」
「当たり前でしょ?
何年この仕事してると思ってるの?
色んな男の悲喜こもごも見て来てるの、だからああいう好青年は危険なのよ」
「危険..?」
「誰にでも分け隔てなく優しいから、勘違いされちゃうってこと
あ、勿論、チャンスニちゃんに優しいのは本物だけどね」
イチゴはそう言うと悪戯っぽく僕を睨んで笑った
確かにユノさんは後輩女子にも優しい、だから僕は困っている
きっと冷たく接するなんてできないだろうし、そこがいい所でもある
支度を済ませてフロアに出ると、早速指名が入って気持ちを切り替えた
ここには常連さんを始め色々な人が毎日やって来て、僕はその人たちを楽しませる為に働いている
ユノさんや後輩女子だけがお客さんではないのだ
そんな中でユノさんと出会えた事は、まさに奇跡だった
しかもユノさんは僕の学生時代に痴漢被害から救ってくれた人でもあった
名前はおろか、どこに住んでいるかも知らない人と数年ぶりに再会するだなんて、これ以上の奇跡があるだろうか?
「ユノさん...」
思わず声に出して呟いてしまったようで、お客さんが不思議そうに僕を見た
適当に誤魔化してお酌をしたらすっかりデレデレになって、僕が口走った事を忘れたようだった
2時間ほど接客をして一旦控室に戻ると、イチゴが大慌てでやって来て僕の腕を掴んでフロアに連れて行こうとした
「えっ...ちょっ...今戻ったばかりなんですけど」
「何言ってるのよ、来たわよ、来た来た」
「え...あの子ですか?」
「もう、やあねぇ!!
違うわよ、ユノさんよ」
その言葉を聞いて僕は弾かれたようにフロアに飛び出した
イチゴも追い掛けて来て、僕がキョロキョロしていると、あっちよと入り口の方を指差した
店の入り口に立つユノさんのシルエットは、遠くからでもすぐにユノさんだと分かる
スラっと手足が長くて、でも痩せているのではなく筋肉質な体つきで、僕にとってそのシルエットは誰よりも美しくて格好良かった
僕が近付いて行くと、向こうも気付いて僕の方に来てくれた
「ユノさんこんばんは」
「...こんばんは」
しょっちゅう見ている顔なのに、なぜか恥ずかしくて真っ直ぐ見れなかった
何より、ユノさんの視線が僕の顔に注がれていると分かるから余計に
「今日はお一人ですか?」
「はい、僕だけです
他にもいた方が良かったですか?」
「...意地悪ですね
そんな訳ないでしょう?」
「ハハ、分かってますよ
ちょっと言ってみただけです」
フロアマネージャーが僕たちを空いたテーブルに案内してくれて、去り際に僕とユノさんをまじまじと眺めて行った
「...何だろう?
いつもあんな風にジロジロ見られた記憶がないんですけど...
僕、変な事言いましたか?」
「いいえ、何も
でもちょっと気になりますね
後でそれとなく訊いてみます」
「くれぐれも怪しまれないようにお願いします
僕たちの事はイチゴさんしか知らないんですよね?」
「えぇ」
「チャンスニさんの立場が悪くなるとマズイから、慎重にね」
フロアマネージャーの態度が気になったけれど、いつも通りにユノさんの相手をした
今日は後輩女子が研修で別の施設に行っているそうで、だからここぞとばかりに一人で会いに来てくれたのだと言う
「ねぇ、ユノさん」
「何でしょう?」
「会社で色仕掛けとかされてないですか?」
「い...色仕掛け?」
「さり気なくボディタッチとか、耳元で囁かれたりとか、遠くから熱っぽく見つめられたりとか」
言った直後にしまった..と思ったけれど後の祭り
ユノさんはやれやれとでも言いたげに静かに溜め息をついた
「何度も言ってますけど、そういう心配はしなくて大丈夫です
彼女はそういう事をするような人じゃない」
その言い方に、胸がチクリと痛んだ
特に深い意味はないのだろうけれど、まるで彼女を庇っているように聞こえてしまった
ユノさんからしたら、自分の後輩が自分の恋人、つまり僕のライバルになってしまって、それだけでも厄介なのに、そこで僕がヤキモチを焼いたりするからますます困っているだろう
頭では分かっていても、気持ちの方がなかなか整理できないでいた
「僕が彼女の肩を持ってる..って、言いたそうな顔をしてますね」
「え?」
「この間話した計画通りに進めば、こうやってチャンスニさんを悩ませる事もなくなると思うんです
だからもう少しの辛抱だと思って、我慢してもらえませんか?」
「ユノさん...」
「それよりチャンスニさん、僕の飲み物、作ってくれませんか?」
水割りを作りかけていたのをすっかり忘れて、お陰でグラスの氷が溶け始めていた
急いで新しい氷に交換すると、いつものように薄い水割りを作って渡した
「今夜も来てくれますか?」
「もう..そんなの、聞かなくたって分かるでしょう?」
そう言ってユノさんの腕を指先でツンと突いて微笑んだ
周りの人たちはまさか僕たちが愛し合っているだなんて微塵も知らない
二人だけにしか分からない共犯者のような空気につい酔い痴れたくなってしまう
僕はユノさんの美しく整った顔をじっと見つめ、そうやって暫く無言で見つめ合っていた
そしてそれを、フロアマネージャーが奥からじっと見ている事に僕は気付かなかった
※画像お借りしました※