BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...どうした、ニヤニヤして」

 

「いえ、別に」

 

「...別にって事はないだろう

意味もなくニヤついて俺を見るんじゃない」

 

「すみませ~ん」

 

 

後輩の女子社員は舌をペロッと出して肩を竦めると、逃げるようにしてデスクに戻って行った

 

 

「...やれやれ」

 

 

昨夜、チャンスニからこの女子社員が店に来たという話を聞いた

夕方からの会議で店には行けないと分かっていたので、事前にチャンスニにその事を伝えておいて良かった

そうでなければ、いつ俺が来るかとハラハラさせてしまうところだった

 

それにしても...後輩女子には困ったものだ

普段これといって俺に対してアピールがなかったから全く気付かなかったけれど、まさか俺に好意を寄せていたとは...

特別優しくしているつもりはないけれど、同僚曰く、俺の態度や接し方は女性のウケがいいらしい

 

 

昼になって社員食堂に向かうと、既に同僚の姿があったので同じテーブルについた

俺が置いたトレーの上にさっと目を遣ると、ふ~んと言った

 

 

「今日は塩鮭定食にひじき煮をプラスか...

相変わらずお前は健康的なメニューだな」

 

 

言われて同僚のトレーを見ると、生姜焼き定食に生卵がかかっていて、脇にちゃっかりチョコ菓子が置かれていた

 

 

「なぁユノ、最近あの店に行ってるか?

っていうか、わざわざ店に行かなくてもプライベートで会ってるか...

いいよな、あの色っぽい美人を独り占めできるんだからよ」

 

 

同僚の言葉を聞いて、思わず鼻で笑ってしまった

まさかプライベートでもチャンスニでいると思っているのだろうか

 

 

「何か勘違いしてるみたいだけど、プライベートは短髪長身のチャンミンでチャンスニさんではないから」

 

「ったく夢がないな、そんなの分かってるって

でもさ、メイク落としたって美人に変わりはないんだろ?」

 

「まぁ...美人というか、キレイ...というか

言っても男だし、チャンミンはチャンスニさんと重ねて見られるのを嫌がる」

 

「え、そうなの?

いやぁ、でも、俺も一度プライベートのチャンミンに会ってみたいぜ

どうだ?お前んちで酒盛りでもするか?」

 

 

そう言ってニヤつく同僚に思わず溜め息が出た

チャンミンを一体何だと思っているのか

 

 

「チャンミンは見世物じゃないんだぞ

それに一応お前は店のお客さんなんだから、チャンミンがそういうの嫌がると思う」

 

「そうかなぁ...一応聞いてみてよ、な?」

 

 

聞くだけ聞いてみてもいいけれど、恐らくチャンミンは首を縦に振らないだろう

夢を売る仕事である以上、あまりプライベートを知られたくはないと思う

 

 

「あ、チョン先輩~!!」

 

 

聞き間違いであって欲しい声が聞こえて振り向くと、あの後輩女子がトレーを手にこちらに向かって歩いて来ていた

そして黙って俺の隣に座ると、同僚の方を見ていかにも社交辞令的に「お疲れ様です」と言った

 

 

「チョン先輩、ご一緒してもいいですか?

あ、もうお二人とも食べ終わろうとしてたんですか?」

 

「あのさ、同期とか親しい子と食べないの?」

 

「もう学生じゃないんで、そういうのは気にしていません

それに私、先輩と一緒がいいんです」

 

 

その言葉を聞いて同僚が目を丸くした

 

 

「なんだなんだ、随分と大胆だな

そういうのはあけっぴろげに言うものなのか?」

 

「だってチョン先輩も知ってますもんね?」

 

 

そう言って後輩女子が頭を傾げて俺を見上げた

返事をする気にもなれず、黙ってコップのお茶を飲んだ

 

 

「あ、そうだ、今度皆で一緒にNight Butterflyに行きませんか?

一人で行っても会話が止まっちゃうし、チャンスニさんは不機嫌になるし...」

 

「おいおいおい、君一人であの店に行ったのか?

しかもチャンスニさんが不機嫌になったってどういう事だ?

ユノ、お前知ってるのか?」

 

 

同僚が驚いてそこまで言って、ハッとして口を噤んだ

後輩女子は不思議そうに俺と同僚を交互に見た

 

 

「どうしてチョン先輩がその事を知る必要があるんですか?

別にお店の関係者とかじゃないですもんね」

 

 

危うく俺も、「チャンスニから聞いた」と言いそうになっていた

こんな流れでカミングアウトする訳には行かない

これ以上この話題が続くと面倒だと思った俺は、トレーを持って立ち上がった

 

 

「先に失礼するよ、じゃ、ごゆっくり」

 

「お、あ、もう行くの!?

ちょっとユノ、待てって!!」

 

 

同僚は慌ててお茶を一気飲みすると、ドタドタと音を立てて俺の後に続いた

 

 

「...なぁユノ、今の話、どういう事だよ?」

 

「ん?あぁ、あれ

彼女、チャンスニさんに敵対心を持ってるみたいなんだよね

俺の事をあれこれ聞き出そうとしたみたいで」

 

「お前さぁ...

チャンスニさんという人がいながら自分の後輩にまで手を出してるのか!?」

 

「勘違いするなって、向こうが一方的にだよ

一人で店に行ってチャンスニさんを指名したって聞いて、正直困ってる」

 

「スゲェな...あの子、本気なんじゃない?」

 

 

本気だとしたらますます困る

かと言って同じ部署の後輩なので、ややこしくなるのだけは避けたい

時間を作ってチャンミンと話し合ってみるべきだと思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頼まれていた書類を作り終わって時計を見ると、定時を30分も過ぎていた

今日はチャンミンが休みなので、できるだけ早く上がって一緒に食事でもしようと思っていた

 

デスクの上を片付けて、飲み終わった缶コーヒーを捨てに休憩コーナーに向かうと、どこからともなく後輩女子が来て脇に立っていた

 

 

「びっくりした..

音を立てて歩いてくれないかな」

 

「すみません...

 

あの...先輩、私の事、冗談だと思ってますか?」

 

「え?」

 

「先輩の事が好きだって、軽く受け止めてませんか?」

 

「いや...」

 

 

後輩女子は一瞬俯いて、またすぐに顔を上げると思い詰めたような表情で俺を真っ直ぐ見た

 

 

「あのっ...私っ...!!」

 

 

ブィーン..ブィーン..ブィーン..

 

 

ポケットの中のスマホが震えて何かの着信を告げた

ずっと震えっぱなしなのを見ると、恐らく電話の着信だ

 

 

「ごめん、電話が来たから、その話はまた今度」

 

「え、あ、先輩っ!!」

 

 

引き留める声を背にその場を離れると、非常階段まで行ってから電話に出た

耳元からチャンミンの優しい声が聞こえて来てホッとした

 

 

「あ、ユノさん、まだ会社ですか?」

 

「あぁ、ごめん

今終わったから、これから帰るよ」

 

「そうですか、良かったぁ

全然連絡ないし、電話したってなかなか出ないから心配しました

 

僕、駅まで行きますから、電車乗る時に連絡ください」

 

「分かった」

 

「気を付けて帰って来てくださいね」

 

「...ありがとう」

 

 

電話を切って、画面をじっと見つめた

あの時彼女が何を言おうとしていたのか、何となくだけれど想像はつく

でもそれをはっきり言わせてしまってはいけない

 

 

耳に残るチャンミンの声の余韻に、自分の気持ちを改めて理解した

彼女には申し訳ないけれど、俺にはチャンミンしかいない

この存在に支えられて俺は日々生きていると言ってもいい

 

確かにきっかけはチャンスニだった

 

目を引く華やかさと色気に男だという事をすっかり忘れて惹かれた

メイクや衣装で多少は作られたものだとしてもそれは外見だけで、チャンミンという人間性がそのまま出ていると俺は思っている

つまりチャンスニは、随所にチャンミンらしさを感じさせるキャラクターだった

 

そんな事を考えていたら一分でも一秒でも惜しくなって、急いで会社を出ると駅まで小走りで向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※