BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、チャンミン、これそっちに置いといて

あと、これはそこの下に補充しといて」

 

「はーい」

 

 

開店準備でバタバタな僕とジニの脇で、マスターが静かに豆の挽き具合を見ていた

今日は開店20周年で節目の日、いつもとはちょっと違う日になる

 

馴染みのお客さんには口頭で記念日の事は伝えていたので、しっかりお祝いのお花なんかも届いたりしてそれっぽい雰囲気になっていた

 

 

「マスターが独立してから20年かぁ...

私もそれくらい続くお店が持てたらいいなぁ」

 

「ジニは、自分のお店を持つのが夢なの?」

 

「そりゃそうよ

ん~でも、カフェというより町の喫茶店って感じかな

まだまだ修行に修行を重ねないと無理だけどね」

 

「ジニならきっと叶えられるよ

その時は僕もお客さんとして駆け付けるから」

 

「え?チャンミンは従業員じゃないの?」

 

「ちょっと!!勝手に僕の将来を決めないでよ

僕はマスターの元で地道に働くつもりなんだから

ユノさんからも永久就職のお許しが出たしね」

 

「...はぁ?

あ、だからその指輪なのね

ユノさんてそういうとこホント抜かりないわ」

 

 

ジニにそう言われて、僕は右手の指輪にそっと触れた

結局のところ、指輪は左手ではなく右手の薬指に付ける事にした

誰に何か言われた訳ではないけれど、その方がユノさんもすんなり指輪を付けてくれるような気がして何となく遠慮してしまった

 

でも指輪の威力は凄くて、付けているだけで心身ともに満たされるし、何よりやる気が漲る

こんなに前向きにしてくれる力があるとは、ペアリング恐るべし

 

 

「あ、そう言えばヤン君も今日は少し早めに出勤するんだっけ?」

 

「うん、そうみたいよ

せっかくの記念日だから少しでも長く店にいたいって

ユノさんと鉢合わせしなきゃいいけど、チャンミン大丈夫?

内心ビクビクなんじゃない?」

 

「まぁね...ちょっと緊張する」

 

 

ユノさんも今日は時間を作って顔を出しに来ると言ってくれた

でもヤン君と遭遇してしまうと、それはそれで面倒臭い

 

 

開店して暫くは、馴染みの常連さんたちが次々と顔を出してお祝いの言葉を掛けてくれた

今日はマスターも裏に引っ込んではいられず、カウンター越しに立ちっぱなしだ

でもお昼を過ぎる頃にはそれも落ち着き、いつも通りの流れに戻った

 

 

そしてヤン君登場

 

 

午前中にユノさんが来てくれたら良かったのに、やっぱり午後にならないと時間が作れないのだろう

こちらはいつユノさんが来るかと心臓バクバクなのに、ヤン君はそんな僕の気持ちなんて知る由もなくのんびりしている

 

 

そして遂に、その時が来てしまった

 

 

自動ドアが開いてユノさんが姿を見せると、一気に空気がミントの香りに変わった

淡い水色シャツにベージュのチノパンで、まさに爽やかを絵に描いたような姿

 

 

「やぁ」

 

「あ、ユノさ..」

 

「いらっしゃいませーっ!!!」

 

 

僕より先にヤン君が大声で声を掛けたものだから、店内にいた他のお客さんが一斉にこちらを見て、ユノさんも目を丸くした

 

 

「ユノさんっ、お久し振りですっ!!

相変わらず爽やかで素敵ですっ!!」

 

「そ...そう、ありがとう

 

ホットのカフェオレ、テイクアウトで」

 

「はい、かしこまりましたぁっ!!」

 

 

ヤン君がオーダー準備に取り掛かるのをチャンスと思って、僕はすかさずカウンター越しに話し掛けた

 

 

「ユノさん、来てくれてありがとうございます」

 

「僕にとっても大事な店だから一緒にお祝いしないとね

はい、これ、皆で休憩時間にでも食べて」

 

 

そう言って紙袋を僕にくれた

有名な老舗洋菓子店のマカロン詰め合わせだ

これを買っているユノさんを想像して胸がキュンとなった

 

 

「あの子、今日は早いんだね」

 

「ヤン君ですか?

記念日だからって張り切っちゃって、時間早めてるんです

お陰で僕はユノさんのコーヒーを用意できませんでした...」

 

「ハハ..

毎日家で愛情たっぷりの美味しいコーヒー淹れてもらってるから、大丈夫だよ」

 

「...そうですか?

だったらいいですけど...」

 

「今夜は美味しいものでも食べに行こうか

せっかくのお祝いだから、チャンミンを労ってあげたい」

 

「でも、20周年はお店で、頑張ったのはマスターで、僕はほんの数年です」

 

「それでもお店に貢献はしてるだろ?

あ、初めて行ったあのレストランなんてどう?

後で予約しておくよ」

 

「わ...嬉しい!!」

 

「カフェオレお待たせしましたーっ!!」

 

 

ヤン君が割り込んで来て僕をキッと睨んで、楽しい会話はそこで終わってしまった

ユノさんが去って行くと、何を話していたのかしつこく聞かれてウンザリした

でも今夜はユノさんとの素敵なディナーが待っている...そう思うと、そんな煩わしさも苦にならないから不思議だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事が終わってスマホを見ると、ユノさんから既に連絡が入っていた

定時にあがれたから車でこちらに向かっているという

 

ふと、あの時の事を思い出して懐かしくなった

初めて食事に行った日は、ユノさんが突然車で迎えに来てびっくりしたのを覚えている

 

 

憧れていた人から声を掛けられ、名刺を貰って、連絡くれと催促までされて...

それで一度食事に連れて行ってもらったのが全ての始まり

 

美しく品のあるユノさんにあっと言う間に夢中になって、しかも好きだと言われて、僕は完全に正常な判断力を失っていたと思う

何の疑いもなくユノさんの誘いに応じて会っていた

 

でもその美しさの下にはとんでもない獣が潜んでいて、ユノさんに調教された僕はすっかりお仕置きの悦びに目覚めてしまった

 

僕は僕で、大学の同級生・イさんや職場の先輩・ジニに告白されたりすったもんだあったけれど、常にユノさん一筋だったし、ユノさんが社長秘書に誘惑されたりヤン君に好かれたりしても、やっぱり僕一筋でいてくれた

 

こんなに幸せでいいものか時々不安になるけれど、ユノさんと見つめ合っているとそんな不安は消えてしまうし、それだけの確かな愛を感じていた

 

 

 

聞き慣れたエンジン音に顔を上げると、ユノさんの黒い車が脇に止まった

わざわざ運転席から降りて来て助手席のドアを開けてくれて、僕はそこに乗り込んだ

 

あの頃よく行っていた隠れ家風のイタリアンレストランは、支配人が変わってしまってから足が遠のいていたけれど、あの頃と変わらない味とサービスで、それがとても嬉しかった

 

 

「ユノさん、今日はありがとうございました

僕のお祝いじゃないのに、本当に良かったのかな」

 

「じゃあマスターやジニを呼んだ方が良かった?」

 

「それは嫌です

そもそもジニにこの店はもったいないです

それに...二人きりがいいですもん」

 

 

ユノさんは優しく微笑むと、テーブルの上にある僕の手をそっと握ってくれた

お酒が入って赤い僕の手とは対照的に、ユノさんの手は白くてキレイだった

 

 

「あの時、チャンミンに思い切って声を掛けた自分を褒めてあげたい

そうじゃなかったら、僕たちは今こうしていなかった」

 

 

潤んだ瞳に見つめられて、僕は今にも泣きそうだった

 

 

「僕の我儘で色々振り回したり、困らせた事もあったと思う

本当に今までありがとう」

 

「やめてください、何ですか、それ

今日はそういう日なんですか?」

 

「どうしてだろうね...

あの店が20周年と聞いて、ちょっと感傷的になってるのかもしれない

 

なぁ、チャンミン」

 

「何ですか?」

 

「僕たちにも...20周年はあるかな」

 

「え?」

 

「20年後も、こうして変わらず君の隣にいられるかな」

 

 

ユノさんが珍しく弱気に見えてドキッとした

 

社長の御曹司として自由気ままにいられた生活から、僕と出会って役職を捨て、億ションから普通のマンションに移って、取り巻く環境が大きく変わった

ユノさんなりに不安を抱えているのかもしれない

 

 

「20年どころか、ずっとずっとずーっと一緒ですよ

ユノさんが嫌だって言っても、僕は離れませんからね

その覚悟はありますか?」

 

 

ユノさんはふっと笑うと、うんうんと何度も頷いてくれた

それから会計を済ませて店を出ると、僕たちは車に乗り込んだ

 

エンジンを掛けて温まるのを待つ間、僕たちは甘いキスを交わしていた

駐車場は店の裏手の木立ちに面して作られているので、誰の目もない

 

 

「チャンミン...愛してる」

 

「僕も、ユノさんを心から愛してます

今夜はめいっぱい奉仕しますから、たくさん甘えてくださいね」

 

「ありがとう

じゃあ、帰りはちょっと長めにドライブしようか」

 

 

ユノさんはそう言って車を発進させた

 

きっと、あの夜景のキレイな場所に行くつもりだ

そこで僕たちは、世界中の誰よりも甘い時間を過ごすのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんばんは

遂に「君のとなりに」完結いたしました

途中、どうやって続きを書くか悩んだ時期もありました

でも書き始めると不思議や不思議

ユノとチャンミンが勝手に動いてくれるのです(笑)

 

あとは

・転校生

・I'm your Butterfly

・君が僕から盗んだもの

こちらを完結させて行こうと思います

 

お時間ありましたら、お付き合いいただけますと幸いです

 

※画像お借りしました※