BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふらっと途中下車した町でにわか雨に降られ、目の前に見えた喫茶店のひさしの下へ逃げ込んだ
そこへ同じく雨宿りで飛び込んで来た男・シムさんと知り合い、その場の流れで一緒にお茶をすることになった
 
 
 
 
 
「...そうでしたか、シムさんは妹さんの誕生日プレゼントを」
 
「えぇ、そうなんです
この歳になると何をプレゼントすればいいのか分からなくて、あちこち彷徨ってるうちに雨に降られてしまいました」
 
「あ、ってことはまだ買えていない?」
 
「いえ、雨に降られる直前に見付けた雑貨屋で無事に買えました
まぁ...喜んでくれるかどうかは分かりませんけど」
 
「もちろん喜んでくれますよ
気持ちですから、こういうのは」
 
「...そうですよね」
 
 
そう言ってにっこりと微笑んだシムさんの表情にドキッとした
 
胸の鼓動が速まるのを感じて、誤魔化すようにカフェオレを飲んでみたけれど、落ち着くどころか視界に入るシムさんが気になって仕方がない
気付かれないようにチラリと盗み見ると、窓の外の様子をじっと見つめる横顔があった
 
やはりキレイだ
 
同じ男性に対してキレイだと感じる自分はどうかと思いながらも、素直にその横顔に見惚れていた
 
 
ふいにシムさんがこちらを向いたから目が合いそうになって、慌てて視線を逸らした
幸いな事にシムさんはそんな俺の様子に何も気付いていない
 
 
「チョンさんはただぶらぶらしていただけなんですか?」
 
「え?あぁ...はい、そうです
時々ふらっと電車に乗って、思い付くままに途中下車して散策するんです」
 
「へぇ...」
 
 
変な奴と思われたかもしれない
そもそも、見ず知らずの人にいきなり話し掛けるような俺は変な奴と思われている
シムさんの目に俺はどう見えているのだろう
 
 
「何か、楽しそうですね
僕は基本的に目的がないと出掛けない性質なので、そういうのもたまにはいいかもしれません」
 
 
意外な反応が返って来て少し驚いた
 
 
「楽しそうですか?
いや、実際に楽しいですよ
お洒落な店があったり掘り出し物と出会えたり」
 
「それはいいですね」
 
 
シムさんが笑顔で聞いてくれるから何だか気分が良くなって、ぶらぶら歩きの醍醐味を身を乗り出すようにして語り出してしまった
 
そんな俺の話しを聞きながら静かにうんうんと頷いて、時折質問をしてくれたり、興味を持ってくれているようで嬉しくなった
 
 
「雨、なかなか止みそうにないですね」
 
 
会話が途切れたタイミングでシムさんが窓の外を見てそう言った
俺にはまるで、早く雨が止んでここから脱出したいと言っているように聞こえた
 
話を聞いてくれているのはただ単に愛想がいいだけで実はちょっと迷惑していて、そうと気付かず俺は自分に都合のいいように解釈しているだけ...?
 
 
「チョンさんは、休みの日はどんな風に過ごしているんですか?」
 
「え、休みの日?」
 
 
俺といるのが退屈なはずのシムさんが新たな話題を提供してきた
 
恋人のいない俺にとって、休日は男友達と海や郊外にドライブに行ったり、カフェでわいわい集まったりする事が多い
一人でいるのが好きではないから家でじっとしている事は滅多にない
 
 
「そうですか...
チョンさん、お友達多そうですもんね」
 
「シムさんは?」
 
「僕は...狭く深くなタイプなので、いつも決まった仲間と飲んだり食べたり
あとは家に籠って趣味に没頭しています」
 
 
つまり、俺と同じシングルで特定の交際相手はいない
もっとも、恋人がいたとしても初対面の俺に話したりしないか...
 
 
「あ、お代わりしますか?
それとも他の飲み物にします?」
 
 
シムさんが俺の手元のカップを覗いてそう言った
見るとシムさんのカップは既に空っぽになっていた
 
 
雨は少し小降りになって、行き交う人々もさっきより増えた気がする
 
 
「いや、同じものにします」
 
 
シムさんが店員を呼んで、それぞれさっきと同じものを注文した
 
立ち去ろうとした店員を俺は咄嗟に呼び止めて、最初にメニューを見た時に気になっていたストロベリータルトを追加注文した
 
 
運ばれて来たタルトを見てシムさんが目を丸くした
零れ落ちそうなほどにぎっしりとイチゴが乗っていて、1ピースがかなり大きい
 
 
「それ...一人で食べるんですよね?」
 
「そうですけど...食べますか?」
 
 
シムさんはぶんぶんと首を横に振った
そして甘々なタルトを食べる俺を、感心したようにずっと見ていた
 
 
「チョンさんは甘い物が好きなんですね
僕と正反対です」
 
「甘い物は嫌いですか?」
 
「嫌いというか...特になくても生きて行けると言うか
その代わりと言ったらなんですが、お酒が大好きです」
 
「あぁ...じゃあ本当に俺たち正反対ですね」
 
 
食の嗜好が全く違う事が分かって少し寂しくもあり、シムさんの事を知れた事が嬉しくもあり、何とも複雑な思いだった
 
 
窓の外が明るくなった気がして目を遣ると、いつの間にか雨はあがって陽射しが出ていた
 
 
「雨、止みましたね」
 
「...本当だ」
 
 
もうタルトは完食している
俺のカフェオレは残り3分の1で、シムさんのカプチーノも殆ど入っていない
 
恐らく飲み終わったらこの時間は終わり
それぞれが当初の予定に戻って行く
 
 
 
 
 
************************************
 
 
 
 
 
たまたま雨宿りをした先で、チョンさんという人に出会った
 
見ず知らずの僕に躊躇う事もなく話し掛けて来て、何だかその調子に乗せられて一緒に喫茶店に入ってしまった
 
 
面と向かってチョンさんを見た時、思わず僕は言葉を失った
彼はまさに、理想のタイプだった
 
艶々とした黒髪
黒目がちの切れ長の目
スッと通った鼻筋に色っぽい唇
 
ここまで完璧に僕好みの男性が存在するとは、これは夢なんじゃないかと我が目を疑いたくなった
 
 
探ってみると、チョンさんには恋人がいないという事が分かった
でも男友達がわんさかといるらしいから、もしかしたら恋愛より友情を優先するタイプかもしれない
 
でも、そんな数ある男友達のうちの一人でもいいから僕を加えて欲しいと思った
 
時折こうしてカフェで一緒に過ごしたり、それこそ映画を観に行ったっていい
アクティブな事が苦手な僕なりにチョンさんと楽しく過ごせる方法はきっと幾らでもある
 
 
ふと窓の外を見ると、いつの間にか雨は上がっていた
束の間の思い掛けないデートもそろそろ終わりだ
 
上手く誘導してコーヒーの二杯目まで引き留めたものの、さすがに三杯目は無理がある
それに雨が止んでしまった以上、僕らがここにいる理由はない
 
 
 
 
 
************************************
 
 
 
 
 
「じゃあ...飲み終わったら解散しますか
思いがけず美味しいタルトが食べられていい収穫でした」
 
「それは良かったですね」
 
 
シムさんの表情が心なしか暗い
ようやく解放されてホッとするのかと思っていた
 
 
「ただ雨宿りするだけでもこうして誰かと一緒にお話ができて楽しかったです
何か...俺たち気が合うかなって勝手に思っちゃったりして」
 
 
様子を窺うようにシムさんを見ると、やっぱり暗い
気が合うだなんて図々し過ぎたか
 
するとシムさんは店員を呼んで水を二つ頼んだ
 
 
「僕も何か食べれば良かったかな...」
 
「え?」
 
 
シムさんは少し照れ臭そうに、親指の先で鼻をチョンチョンと擦った
 
 
「チョンさんがタルトを頼んだ時は特にそうでもなかったんですけど、食べているのを見ていたらお腹が空いてしまって...
ピザトーストとかありましたよね、確か」
 
「えぇっと...」
 
 
テーブルの脇に立ててあったメニューを開くと、軽食のページにピザトーストがあった
 
 
「どうします?今から頼みます?」
 
「あぁ、いえ、そういうつもりで言った訳じゃないので...
頼めば良かったなって思っただけです、紛らわしくてすみません」
 
 
運ばれて来た水に口を付けながら、今のシムさんの会話の流れを推理した
 
早く帰りたいと思っているのなら普通あんな事は言わないし、むしろタルトを頼んだ俺に対して軽くイラっとしていてもおかしくない
でもシムさんは、自分も何か食べれば良かったと言っていた
それはつまり、俺と一緒にいる事を嫌だと思っていない証拠だ
 
 
小さなグラスに入った水は、ものの10分と持たず空になってしまった
いつの間にか入口にお客さんの列ができていて、これ以上ここに居座れないと覚悟を決めて席を立った
 
 
 
店の前の通りに立って、晴れ渡った空を二人で見上げた
 
嘘みたいに気持ち良く晴れて、あのにわか雨がなかったら俺とシムさんが出会う事はなかったのだから、何だかちょっとキツネにつままれたような気もする
 
 
「俺はこっちなんですけど、シムさんは?」
 
「僕はこっちです」
 
「じゃあ、ここでお別れですね」
 
「えぇ」
 
 
どちらかが一歩踏み出せばそこでこの出会いは終わり、きっともう会う事はないだろう
 
幸い俺にはシムさんの名刺があるけれど、それを使って連絡を取っていいものなのか
少なくとも俺の名刺を渡せていないのだから、何だか卑怯な気もする
 
 
どちらも一歩も動こうとしない
他力本願ではないけれど、何をどう切り出していいのか分からないでいると
 
 
「あのっ」
 
 
躊躇いがちにシムさんが口を開いた
 
 
「はい」
 
「あの...
 
無理にとは言わないです
もし良かったら...程度で聞いてください」
 
「...はい」
 
「また、こうしてお茶しませんか?
あ、えっと...もしチョンさんが構わなければ、の話なので...」
 
 
シムさんは耳まで真っ赤に染めていた
ぶら提げた紙袋を持つ手がぎゅっと握られて白くなっている
それほど力んでまで俺に言ってくれたのか...
 
 
「お茶しましょう、是非」
 
 
え?と俺を見上げたシムさんを真っ直ぐ見つめ返した
 
 
「また会いましょう、それでまたこうしてお茶しましょう
実は俺もそう言おうと思っていたんです」
 
「本当...ですか?
迷惑じゃないんですか?」
 
「迷惑どころか凄く楽しかったです
俺、もっとシムさんと話してみたいな」
 
「...僕も、もっとチョンさんの事を知りたいです
お茶するだけじゃなくて、飲みに行ったり一緒に買い物したり、あ、途中下車の散策もしてみたいです」
 
 
堰を切ったようにシムさんの言葉が続いた
また会いたいと思っていたのは俺だけじゃなかった
 
 
連絡先を交換して一旦その場は別れ、帰りの電車でメールを書いていると先にシムさんからメールが届いた
その文面を読みながらニヤけている自分に気付いて一人赤面した
 
 
 
俺とシムさんはまだ何も始まっていない
 
でもこれからどんな展開になって行くのか
それを想像して、まるで少年のように胸がときめくのだった
 
 
顔を上げて窓の外を見ると、遠くの空に虹が懸かっていた
 
 
 
 
 
~ 完 ~
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

※画像お借りしました※

 

 

こんにちは

珍しく前後編できっちり収める事ができました(笑)

喫茶店での会話に終始したお話でしたが、恋が始まる瞬間のドキドキを感じていただけたら嬉しいです

最後まで読んでくださりありがとうございました!!

 

 

↓ランキングに参加しています。

よろしければポチお願い致します!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村