BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m
「ユンホ、忘れ物ないわね!?」
「うん
招待状も持ったし、着替えも持った」
「ご祝儀は私が持ったから...じゃあOKね」
バタバタしている俺と母さんを、ダイニングにいる父さんがコーヒーを啜りながら静かに眺めていた
息子の同級生の親が再婚するだけでどうして結婚式に招待されているのか、いまいちピンと来ていないようだったけれど、そこは母さんが上手いこと説明してくれた
「じゃあ、あなた、行ってきます」
静かに手を振る父さんを残して、俺と母さんは家を出た
挙式会場は電車で30分程のところにあるいわゆる総合結婚式場
到着して控室に案内されると、すぐにチャンミンが俺を見付けて傍に来てくれた
「ユノ、おばさま、今日はお越しいただき本当に有難うございます」
「いいえ、こちらこそ、今日は本当におめでとうございます
幸せな場所にお招きいただけて嬉しいわ」
「おばさまの着物姿、とても素敵ですね」
「まぁ、チャンミンたら...」
少女のように頬を赤らめ嬉しそうにしている母さんに、思わずこちらまで恥ずかしくなる
「あなたも大変ね
こうして招待した人皆にご挨拶してるんでしょ?」
「いえ、人数が少ないので大丈夫です
ハンさんの妹さんも色々手伝ってくださるし」
「それなら心強いわね
でも、私たちに何かできる事があれば遠慮なく言ってちょうだいね」
「はい、ありがとうございます」
チャンミンはそう言ってペコリとお辞儀をすると、新たに到着した招待客に気付いて俺たちの元を離れて行った
「本当にしっかりしてるわ、あの子」
「うん」
チャンミンが招待客に挨拶している様子を眺めながら、普段見ているのとはまた違う雰囲気にドキドキしていた
今日のチャンミンは服装こそ俺と同じ学校の制服だけれど、いつもは睫毛に掛かっている前髪がキレイに横に流してあって、新郎かと思っても違和感がないくらいにキマっていた
そしてその髪型のせいで大きな瞳がハッキリと見えるから、キョロキョロと視線が動く度にそのキラキラした瞳に目が釘付けになってしまう
「...ユンホ、見惚れてるの?」
「えっ...あ、いや...違うよっ」
「ふふ...いいじゃない別に、恋人なんだから
確かに今日のチャンミンは凛々しいわね
花嫁の息子っていう立場がそうさせてるのかしら」
「うん、何か...自立してるって感じがする」
「そうね...
小さい頃からお母さんと二人で頑張って来たでしょうからね
でもこれからはハンさんも加わって、家族の存在をより感じるんじゃないかしら」
「うん
もう引っ越しする事もないと思うって言ってたし」
「高校を卒業しちゃえば、あとはもう自立するのみだからね
万が一親が転勤になっても、チャンミンは自分の生活基盤を中心にすればいいのよ」
「そっか」
相変わらず慌ただしくあっち行ったりこっち行ったりしているチャンミンを見ながら、学校や俺の前にいる時とは違う別の顔を見ているようだった
従弟たちに囲まれて笑顔の姿に、嫉妬しているような、誇らしいような...
それから暫くして控室に式場のスタッフがやって来て俺たちは教会へと案内された
いよいよチャンミンのお母さんの結婚式が始まる
無事に挙式と会食が終わり、私服に着替えた俺は母さんと式場のロビーにいた
もう少し待てば、チャンミンたちも帰り支度を済ませてここに来るのだという
「あぁ~...今日は本当にいいお式だったわね!!!
何だか自分たちの時の事を思い出しちゃったわ」
「父さんとの?」
「そう
あの頃はお金もないのに背伸びして立派な式を挙げようとしたんだけど、結局は無難な式に落ち着いたのよね
でもそれで正解だったと思う」
「へぇ...」
「今日のお式を見ていてつくづく思ったの
やっぱりシンプルが一番だなって
純粋に幸福感が伝わってくるもの」
「そうだね...
凄く温かい感じがした」
今日の結婚式は会場こそ大きな所だけれど、内容は至ってシンプルなものだった
とはいえ俺自身これが人生2回目の参列だったので比較のしようがないけれど、きっと普通はもっと派手に挙げているのではないかと思う
チャンミンのお母さんは再婚という事もあって、招待したのはごく近しい親族と限られた職場の人のみ
その中になぜか親戚でもない友人枠の俺と、その保護者で母さん
席次表を見ても俺以外は親戚か職場関係しかいないみたいだから、他の招待客からどんな風に思われているのか気になるところだった
チャンミンの特別な人....そんな風に思われていたら嬉しい
母さんは俺の顔をじっと眺めて、それから不敵な笑みを浮かべた
「ユンホの時はどうなるのかしらねぇ」
「俺の時?どういう意味?」
「このままチャンミンとお付き合い続けて行ったら、いずれは...でしょ?
今はパートナーシップ制度とかもあるし、10年後にはまた違った制度があるかもしれないし」
「え...あ、そういう事!?
俺とチャンミンの将来の話してるの??」
「だって他に誰がいるのよ?
いつか可愛いお嫁さんを迎えるものだと思ってたけど、可愛い息子がもう一人増えるのもいいかもしれないわね」
母さんの中では俺とチャンミンの交際を認めただけでなく、結婚する所まで既に想定されているのだと知って驚いた
それは有り難いし、嬉しい事だけれど...
「まぁでも、まだお父さんにも話してないし、これから大学受験を控えてる身だものね
あなたたちより先に母さんだけで盛り上がってもしょうがないか」
「そうだよ、まだまだ先の話だし、今は勉強が最優先だから」
「そうね、さすがユンホ、よく言ったわ!!
あ、来たわよ、主役が」
振り返ると、私服に着替えたチャンミンとお母さん、そしてハンさんが揃って姿を見せた
ロビーに残っていた招待客たちは一斉に新郎新婦の元に集まり、辺りは一気に賑やかになった
俺と母さんは親戚ではないので少し離れた所からその様子を眺めていたら、チャンミンが気付いてこちらにやって来た
「今日は本当にありがとうございました
遠慮なさらないで、近くまでいらしてください」
「いえ、いいのよ、お気遣いありがとう
お母さん、少し疲れちゃったかしらね」
「そうですね...
忙しい仕事の合間に色々と準備していたみたいで、ゆうべも夜遅くまでハンさんと最終確認してましたから」
「今夜はゆっくり休めるといいわね
あなたも今日は色々と気を遣ってお疲れでしょう?
この後は真っ直ぐ帰るの?」
「いえ...」
チャンミンはちょっと言い辛そうに俺と母さんの顔を交互に見た
「実は...ハンさんの妹さんの計らいで、新郎新婦は近くの□△ホテルに一泊することになっているんです」
「□△ホテルって、ランドマークになってるあの大きい建物かしら?」
「はい
母はギリギリまで嫌だって抵抗してたんですけど、妹さんが先手を打って手配しちゃって...
新婚には違いないけど、若くないんだからそういうのはもうやめてって困ってました」
「チャンミンは?
おばさんたちと一緒に泊まるの?」
「ん?僕は帰るよ
まさか新婚夫婦と一緒に泊まったりしないよ」
「...だよね
あ、じゃあ一人なんだ」
「うん」
そこで何となく沈黙になって、恐らく3人とも頭の中で何かを考えていたのだと思う
すぐに母さんが閃いたとばかりに声を上げた
「ユンホ、あなた一緒に泊まってあげたら?」
「えっ...」
「ね、いいわよね?
あ、じゃあちょっと私、チャンミンのお母さんに訊いてみるわ」
「あ、ちょっと待って...!!!」
俺の言葉も聞かずに母さんはチャンミンのお母さんたちのいる輪の中へと入って行き、暫くして満面の笑顔で戻って来るとピースサインを見せた
「いいって、良かったわね
ちょうどユンホに声を掛けようか迷ってたところだったみたいよ
凄いわね、以心伝心」
「....すみません」
「あら、なんでチャンミンが謝るの?
向こうは新婚夫婦で水入らず、あなたたちも若者同士、水入らずでいいんじゃない?
母さんも父さんと水入らずで美味しいものでも食べようかしら」
母さんは本当にこういう事はちゃっかりしている
でもチャンミンは嬉しそうな顔を見せず、どことなく不安そうだった
「本当にいいのかな...
ちょっと僕、母さんのところに戻ります」
チャンミンは失礼しますと一礼すると、そのままハンさんたちのいる輪の中へと戻って行き、すぐにまたこちらにやって来た
「どうしたの?」
「親戚の叔母さんたちを駅まで送りがてらホテルに直行するみたいだから、後は自由にしていいって言われちゃった」
「そっか...
じゃあ、俺たちと一緒に帰る?」
本当は真っ直ぐチャンミンの家に向かいたかったけれど、着替えも何も持っていなかったので一旦自分の家に帰宅してから改めて出直した
旅行という形ではないけれど、チャンミンが俺の家に泊まったり、今回は俺がチャンミンの家に泊まったり...意外にも、思い掛けない形で二人の時間を持つことができている
お互いの母親に交際を打ち明けようと決めた当初は、まさかここまで二人が寛容だとは思っていなかったから、色々とすんなり受け入れてもらえる事に正直戸惑う部分もある
でも、こうして大きな心で俺たちの交際を認めてくれる母さんたちに心から感謝しているし、学校の事も含め、安心してチャンミンとの関係を育んで行ける
「良かったね、ユノ」
「ん?」
「また一晩中一緒にいられるね」
夕飯の買い出しを済ませてチャンミンの家に向かいながら歩いていると、チャンミンが嬉しそうに俺にぴったり体を寄せて来た
今日は結婚式で幸せオーラを沢山浴びたせいか、チャンミンはいつになく大胆で、スーパーで買い物をしている時も時折俺に腕を絡めて来たりとやたらボディタッチが多かった
嬉しいけれど、人目が気になってハラハラもする
「まさかうちの母さんもユノに泊まってもらおうと考えてたなんてね、びっくり」
「そうだよね、俺もびっくりした
でもさ...それってちゃんと認めてもらえてるって事だよね」
「勿論そうだよ
ユノの事、信用してくれてるんだよ
ふふ、嬉しい」
マンションが近付いて来て、大通りから逸れて人通りが少なくなって来たせいか、チャンミンは俺の腕にしっかり両腕を絡めてギュッと密着して来た
いつもだったら、人目が...とか言って抵抗するフリをするのだけれど、今日はこのまま黙ってチャンミンに甘えていてもらいたいと思った
俺の家にチャンミンが泊まった日以降、それなりにデートはできているけれど、時間の制約があったり家族がいたりで、ゆっくりと時間を掛けて触れ合えていなかった
だから今日は久々に誰の目も気にせず思う存分二人きりの時間を過ごせるし、きっとそれはチャンミンも同じで、だからこんなにやたらと俺にベタベタしてくるのだ
「...着いたぁ」
マンションに着くと、チャンミンは俺から腕を解いてオートロックのセンサーへと駆け寄った
肩に掛けていたカバンからキーを取り出す後ろ姿を眺めながら、久々に与えられた絶好のチャンスに胸が高鳴った
※画像お借りしました※