BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m
<the view from Changmin>
「じゃあ、行ってくるね」
「はい、気を付けて行ってらっしゃい」
テーブルで母さんと紅茶を飲んでいるハンさんに会釈をすると、優しい表情で行ってらっしゃいと言ってくれた
何だか本当に父親になったみたいで、ちょっと擽ったい
駅まで小走りで向かうと、電車に乗る頃にはすっかり息が上がっていた
隣駅に着くまでの間、何度も深呼吸をして乱れた呼吸を整えると、ホームに降りる頃には何とか普通の状態に戻った
きっとユノは、学校に行く時と同じように改札の前で僕が到着するのを待っている
「おはよう!!!」
案の定、いつものように立っていたユノは、僕を見付けるとすぐに駆け寄って来た
今日はダウンジャケットではなくグレーのダッフルコートを着ていて、スニーカーもきちんと感のあるデザインだ
ラフな服装のユノもカッコいいけれど、こうやってかしこまった服装のユノは滅多に見られないからドキドキしてしまう
「おはよう、ユノ
あ、その前に、明けましておめでとうございます」
「あ、そうだった
明けましておめでとうございます
今年も何卒、宜しくお願い致します」
「ふふ
何を宜しくすればいいの?」
「え?
う~ん...色々、俺の面倒」
「何それ
僕、ユノのお母さんじゃないんだけど?」
「へへ
でも俺は今年もチャンミンにめいっぱい甘えさせていただきます
さ、行こう」
ユノはポケットに両手を突っ込んだまま先に歩き出した
今日は物凄く冷え込んでいて、手袋なしでは手がかじかんでしまいそうだ
どうやらユノは手袋をして来なかったらしい
慌ててユノを追い掛けると、右側に立ってそっと腕を掴んだ
少しくらい恋人っぽく過ごしたかったから思い切ってみたのだけれど、ユノはチラリと僕を見てから優しく微笑んでくれた
今日は年が明けてから初めてユノに会う
そして僕らはこれから、地元のお寺に初詣に行こうとしている
「チャンミンはこれから行くお寺、初めてでしょ?」
「うん、そうだよ
この辺では有名なお寺なんでしょ?
地図で見たけど、もの凄く広い所なんだね
ユノは毎年初詣に行ってるの?」
「うん
いつも家族で行ってるよ
父さんと母さんは明日行くって言ってたな
俺たちがいるのに今日行ったら気まずいでしょって
まだ父さんは俺たちの事、知らないからさ」
「そっか...
気を遣わせちゃってごめんね」
するとユノはポケットから手を出して、ユノの腕を掴んでいる僕の手をトントンと叩いた
「謝らないで
別に悪い事してる訳じゃないんだから」
目的地のお寺は実際に目の当たりにすると圧倒される大きさだった
参道の入口に立っている大鳥居は見上げる程で、参道そのものも有に200メートルはある
お正月とあって、参道の両脇にはズラリと露店が立ち並び、甘ったるい綿あめやソースの香ばしい香り、肉の焼ける強烈な匂いと、次から次へと襲って来る誘惑につい立ち止まってしまいそうになる
「ねぇユノ、帰りに何か食べようよ」
「うん、そうしよう
たこ焼きもいいし、焼きそばもいいし、ステーキ串もいいなぁ」
「そんなに食べたらお腹いっぱいになっちゃいそう
お昼はこれでいいよね?」
「うん
ほら、あそこにテーブルとイスが並んでるから座って食べられるよ」
指を差す方を見ると、テントが何張りか並んでいて、露店で買った物はそこで食べられるようになっていた
参拝してからと頭では分かっているのに、つい足が止まりそうになるのをグッと我慢して先を急いだ
本堂の前に着くと、三が日とあって既に大勢の参拝客で賑わっていた
「凄い人だね
はぐれちゃいそう」
「じゃあ...
そうならないようにしよう」
ユノはそう言うと、僕の手を掴んで無造作にグイッと上着のポケットに突っ込んだ
呆気に取られている僕をチラリと見てから照れ臭そうに笑って、参拝の人混みの中に入って行った
ユノのダッフルコートのポケットの中で、僕らの指が絡まり合う
誰にも見えないのをいい事に、思い切って僕もギュッと握り返した
なぜだか凄くドキドキする
普段こうして手を繋ぐ事はないし、しかもこれだけの大勢の人の中でだなんて...
僕の意識はすっかりポケットの中に集まっていた
汗ばんだユノの手の感触が生々しくて、ドキドキだけでなく体も何だか熱い
ようやく参拝の番が回って来て、名残惜しみつつ繋いでいた手を離すと、お財布から5円玉を取り出して賽銭箱に向かって放り投げた
お線香やお焼香の煙が立ち込め、本堂の奥ではご祈祷のお経が響いている
”ユノと、ずっとずっと一緒にいられますように...”
再び人混みを掻き分けて出てくると、ユノが興味津々顔で何をお願いしたのかと訊いてきたから、それは秘密だとはぐらかした
「でも、多分ユノと同じような事だよ」
「...そっか」
嬉しそうに笑うユノに胸がキュンとなって、慌ててそっぽを向いた
新年早々こんなに幸せでいいのかと思う程に、心が満たされて行く
中学生の頃、同級生の女の子に誘われて地元の神社に初詣に行った事があった
その子は恐らく自分の事を好いてくれていて、だからこそ誘って来てくれたのだろうし、僕もその子を嫌いではなかった
ただ、いずれまたここを去るかもしれないと思うと、必要以上にその子と関わらない方がいいと思って、一定の距離を保ったまま初詣は駆け引きも何もなく終わってしまった
勿論まだ中学生だから、両想いになったからといって何かがあるわけでもない
でも同級生の中にもそれなりにキスやそれ以上に進んでいる子もいたし、そういう子のいわば自慢話のようなものを漏れ聞いたりすると、別の世界の話のように感じていた
好きな人と初詣に行く事の特別感を、今、初めて僕は理解した
お詣りを終えて参道の露店で買ったものを食べていると、同級生何人かと遭遇した
この辺りでは一番大きいお寺だから会うかもしれないとは思っていたけれど、ユノと腕を組んで歩いている所を見られていたらどうしよう...と、今更ながらに焦ってしまった
「ユノとチャンミンも来てたんだ?
ヨンジェはいないの?」
「あ?うん、誘ってないし、あいつは彼女がいるからね」
ユノはそう言って、たこ焼きをぽんと口に放り込んだ
「そっか...
相変わらずお前たちって仲いいな」
嫌味ではなくただ普通にそう言われただけなのにドキッとした
ユノに嫌な思いをさせたくないから、どうしてもこういう言葉に過敏に反応してしまう
「怪しまれなかったかな...」
「ん?何が?
俺たちの事?」
ユノは笑って、半分まで食べたたこ焼きの容器を僕の前に置いて、今度は焼きそばを食べ始めた
「チャンミンが考えてる程、クラスの奴らは俺たちの事を気にしてないと思うよ
ほら、冷めちゃうから早く食べなよ」
「うん...」
「さっきさ...
本堂で手を握った時、俺、すっごいドキドキしたんだ
チャンミンは?」
「うん、僕もドキドキしたよ
何か....いけない事してるような気がして」
「はは
それに俺、どさくさに紛れて後ろから抱き締めたいって思っちゃった」
「....ヘンタイ」
ニコニコ笑顔のユノを睨み付けて、それから焼きそばを頬張った
ユノの言葉にはいつだって愛を感じる
抱き締めたいとか、興奮しちゃうとか、そういう言葉でも愛を感じて嬉しくなる
でもそれは僕自身がユノを好きで好きで堪らないからなんだと思う
帰り際、駅でいつものように別れを惜しんでいると、ユノが首をポリポリ掻きながら新学期が始まる前にまた会いたいと言って来た
「そんなの...いつでも会いたい時に会おうよ」
「でもさ、チャンミンのお母さんの事もあるし、ハンさんもいるし」
「気にしないでってば
僕たちは高校生で、子供じゃないんだよ?
冬休み中はどこに行く予定もないから、ユノが会いたいと思ったらメールして」
「そしたら....
毎日になっちゃうよ?」
「ふふ..
それはダメ
僕だってユノの家族団欒を邪魔したくないもん」
本当は僕だって毎日会えるならそうしたい
でもその気持ちを飲み込んで、電光掲示板を見上げて時間を確認した
あと2分で電車が来る
「じゃあ...もう行くね
またメールするから」
「うん」
名残惜しむユノに小さく手を振って改札内へと入り、少し歩いてから振り返ると、ユノはまだこちらを見ていた
再び手を振り合って、ホームへ向かう階段を上がる前にもう一度振り返ったら、さすがにユノは苦笑いをして、早く行きなと言うような素振りでホームの方を指差した
そのタイミングで電車の到着を告げるアナウンスが入って、いよいよ僕は観念してホームへと向かった
電車の窓から外を眺めたら、雲一つとない真っ青な空に白い鳥が2羽飛んでいた
番だろうか、一回り体の大きい鳥に少し遅れて小振りな鳥が寄り添うように飛んでいる
「あ、そうだ」
お財布に入れていたおみくじを取り出してもう一度広げてみた
大吉
ユノも大吉だった
実はおみくじで大吉が出たのはこの数年では去年に続いて2年連続
僕にしては珍しいくじ運だった
去年はユノに出会えた
そして今年は...何があるのかな
再び窓の外に目をやると、いつの間にかさっきの鳥たちは見えなくなっていた
きっといい事が待っている
丁寧におみくじを畳むと、そっとお財布にしまった
こんばんは
本日もご訪問ありがとうございます
昨日の23時に投稿したのですが、何だかやっぱり物足りなくて、参拝シーンを少しだけ加筆しました
(加筆部分が分かりにくかったらごめんなさい)
※画像お借りしました※