BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

今度の土曜日に、チャンミンを家に招いて一緒に食事をする事になった

別荘を使わせてくれた事へのお礼にと母さんが企画したものだけれど、俺はここで二人の事を思い切って打ち明けるつもりで、その計画をまだチャンミンには話していない

 

 

それから、この会食に恐らく父さんは参加しない

と言うのも、土曜日はたいてい出勤だし、母さんの事だからチャンミンが気を遣わないで済むようにと、父さんには外で済ませて来るように話すはずで、俺もそれを望んでいる

そうでないと二人の事を話す決心がつかない

 

まずは母さんに打ち明けて、父さんには暫く内緒でいてもらいたいのが本音だ

同じ男だから分かるけれど、自分の息子が同性を好きになっただなんて知ったらきっとショックを受けるだろうし、できれば俺がもう少し大人に近付いてから知って欲しい

 

勿論、母さんだってショックには違いないと思う

でも一番身近にいる存在だし、チャンミンの事も知っているし、これからの事を考えるとやっぱり打ち明けるべきだという考えは変わらない

 

 

 

 

「...チョン君、チョン君!!」

 

 

どこからか自分を呼んでいる声でふと我に返った

 

 

「え、あ、はいっ!!!」

 

「ちょっと、チョン君っ!!

何をぼんやりしてるの?そこ、積み過ぎよ」

 

「え...?」

 

 

手元を見ると、品出ししていた文庫本が他より明らかに高く積まれていた

ぼんやり考え事をしながら作業をしていたせいだ

慌てて余計に積んだ分を箱に戻して、別の棚の作業に取り掛かった

 

 

土曜日なんてあっと言う間に来てしまう

それまでに自分の伝えたい思いをきちんと言葉に纏める事ができるのだろうか?

誤解のないように母さんに伝えられなければ、チャンミンのようになってしまうかもしれない

 

未だにスマホを返してもらえていないチャンミンとは学校でしか連絡が取れない

寝る前に甘い会話を交わしたり、少し赤面するようなメールのやり取りをしたり、そういう恋人らしい事が一切できないストレスが溜まっていた

 

 

一通りの作業が済んで時計を見たら、いつも通り、あと一時間で閉店だ

あれ以来バイト中にチャンミンが遊びに来る事もないし、バイト終わりにこっそり公園で会う事もない、と言うか、できない

チャンミンと出会うまではそれが当たり前だったのに、今は会えない事がどうしようもなく苦痛に感じられるようになっていた

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした」

 

「お疲れ様

気を付けて帰ってね」

 

 

パートのおばちゃんと別れ、家に向かって歩きながら何気なく手の中のスマホを見たら、メール受信のランプが点いていた

まさかと思って開いてみると、それはチャンミンからで、どうやらスマホが戻ったらしい

 

 

「良かった...」

 

 

だからと言って今までのようにバイト後に会いに来れるという訳ではないけれど、それでも自由に連絡が取れるという事は何よりも嬉しい

すぐに返信を送って、後は帰宅してからゆっくり話そうと思った

 

 

今までは自由に会い過ぎていたのだ

チャンミンのお母さんの帰りが遅いのをいい事にバイト後に来てもらったり、チャンミンが男だからいいものの、もしこれが女の子だったら俺はとんでもなく悪い彼氏だ

 

メールができるだけでも、声が聴けるだけでも幸せだと思わなければ...と改めて思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅して風呂に入り、明日の準備も済ませてようやくチャンミンとの時間だ

 

ベッドの上に寝そべり、今から電話すると予告メールをしてから電話を掛けた

久々の電話のせいなのか、心臓が異常にバクバクしている

 

自分の鼓動を耳元に感じながら呼び出し音をじっと聞いていると、数コール目でそれが止んだ

 

 

「もしもし」

 

「あ、もしもし、俺」

 

「うん」

 

「今、電話大丈夫だった?」

 

「うん

自分の部屋にいるから」

 

「そっか...

もうお風呂は入ったの?」

 

「うん、ユノは?」

 

「俺はもう寝るだけ

チャンミンも?」

 

「うん」

 

 

何となくお互いに緊張しているのが分かる微妙な間

久々に聴く電話越しの声は、いつも通り鼻に掛かって甘ったるい

 

 

「スマホ、返してもらえたんだね

もうお母さんは怒ってないの?」

 

「え?元々怒ってはいないよ

ただ事情が事情だから混乱してたみたい

でも...

何とか前向きに理解しようとしてくれてる」

 

「そっか...

もう心配しなくてもいいのかな

また暫くしてやっぱり無理って事にはならない?」

 

「ん~...それは分からないけど

でも母さんはそういう人じゃないと思うから、信じていいんじゃないかな

どんな形であれ、子供の幸せを願ってるって言ってくれたし」

 

「....それ、凄い言葉だね

そんな事言われたら感動しちゃうな、俺」

 

「ふふ

実は僕もちょっと感動しちゃったんだよね

だからきっと大丈夫だよ」

 

 

”大丈夫”、その言葉にホッとした

チャンミンのお母さんの件が解決できれば、後はこっちの事だけに集中すればいい

うちの母さんも同じように、俺の幸せを願ってくれてたらいいなと思った

 

 

 

「ねぇユノ」

 

「ん?」

 

「バイトが終わって僕からメールが来てるって分かった時、どう思った?」

 

「え、嬉しかったよ」

 

「....それだけ?」

 

「それだけって...だって本当に凄く嬉しかったんだよ?

伝わらない?」

 

「伝わらない」

 

「はぁ....見せてあげられないのが残念だ」

 

「何を?」

 

「ん?今の俺の顔

すっごくニヤけてるから」

 

 

電話の向こうでチャンミンがグフ、と笑ったのが聞こえた

恐らく俺と同じようにニヤけているのが想像できる

 

 

俺は夜に掛ける電話が好きだ

なぜなら、昼間と違って感性が研ぎ澄まされている気がするから

 

チャンミンの声だけに集中できるから、声からその表情も見えて来るし、衣擦れの音で仕草なんかも手に取るように分かる

 

そうして五感でチャンミンを感じられるからいい

 

 

 

「ねぇ、ユノのニヤけた顔が見たい」

 

「見せてあげたいけど、それは想像して

俺もチャンミンのふやけた顔を想像してるから」

 

「ふやけた顔って、ひどい!!

そんな風にいつも思ってたの?」

 

「あ、今膨れっ面してるでしょ?

見たいなぁ、チャンミンのぷくぷくほっぺ

つんって...したい」

 

「もう、エッチぃ!!」

 

「え、なんでエッチなの?

ほっぺをつんって触りたいだけだよ?

 

ねぇ、何を想像してるの?」

 

「何も想像してないよっ

ヘンタイっ」

 

 

お得意のヘンタイ発言が今日は連発だ

電話の向こうで本気で怒ってるチャンミンが可愛くて、可笑しくて、笑ってしまった

こんな風にまたわちゃわちゃできる事が嬉しくて堪らない

本当は電話なんかじゃなくて、実際に触れられる距離にいられたらもっといいのに

 

 

「会いたいな...」

 

「うん

でもさ、明日学校だから会えるよ?」

 

「そうじゃなくってさ、今すぐ会いたいって意味

今ここにチャンミンがいたらいいなぁって」

 

「....ねぇ」

 

「ん?」

 

「もしそこに僕がいたら、どうしてる?」

 

「どうしてるって、どういう意味?」

 

「襲ってる?」

 

「....襲ってるね、確実に

て言うか、チャンミンだって我慢できないでしょ?」

 

「当たり前じゃん、だって好きな人が傍にいるんだもん」

 

「ハハ、そうだよね

あー、チャンミンに食べられたい」

 

「....もう、ヘンタイ

変な事言うからこっちまで変な気分になっちゃうじゃん」

 

 

チャンミンの声の調子からしてムラムラモードになっているのが分かった

勿論、俺だって負けじととっくの前からムラムラしていたけれど、久々の電話でエッチな事はしたくなかったのでここはグッと我慢した

 

もしチャンミンのお母さんに気付かれてしまったら全てが水の泡で、せっかく返してもらったスマホをまた没収されるどころか、完全にアウトだろう

 

 

「よし、チャンミンが脱ぎ始める前にこの辺でおしまいにしよう」

 

「....何それ

まるで僕がヘンタイみたいじゃん」

 

「ハハ

でも本当に、明日も会えるんだし、変な流れになって来たからおしまい

明日はバイトがないからもっと早くから電話できるよ

電話してもいいよね?」

 

「...ダメって言うと思う?」

 

「良かった

 

おやすみ、チャンミン」

 

「続きは明日ね

おやすみ、ユノ」

 

 

ふふ、と意味深な笑いを残してチャンミンは電話を切った

 

 

「あ~あ...」

 

 

スマホをポンと脇に置くと、大の字に手足を広げて伸びをした

大好きなチャンミンの声を聴いただけで、こんなにも満たされた気持ちになれる

 

会いたくなるし、触れたくもなるけれど、でもそうやって募る想いを次に会った時に惜しみなく注げばいいのだ

 

独りよがりでもいい

俺はチャンミンが好きで、好きで、好きだ

 

愛してるなんて大人びた言葉を使っていいのか分からないけれど、でも、愛している

 

それは別荘旅行で何度も口にした言葉

チャンミンと繋がりながら、うわごとの様に何度も囁いた言葉

 

 

高校生の俺がこんな恋愛をするだなんて思ってもいなかった

でもだからこそ、これ程までにチャンミンを深く想えるのかもしれない

 

 

何としてでも母さんに認めてもらえるようにしよう

チャンミンのはにかんだ笑顔を思い浮かべながら、改めて覚悟を決めた

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

※画像お借りしました※