BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m
<the view from Changmin>
学校の帰りに駅前のカメラ屋さんで旅行の写真を受け取った
旅行から帰った晩にすぐネットプリントを注文しておいたのだ
すぐに開封したい気持ちを堪えて帰宅すると、真っ直ぐ自分の部屋に直行して写真を確認した
「...うん、よく撮れてる」
PC上で全ての画像は確認したけれど、こうしてプリントしてみるとまた違って見える
一枚一枚を眺めながら、ユノと過ごしたとっておきの時間を思い出した
...またこうしてユノと旅行に行けるかな
まだ高校生で学校行事もあるし、来年は受験も控えている身だからそう簡単には旅行などできないのは分かっている
それに自分はバイトをしていないので、旅行をするにしても元手がない
ユノのようにバイトでコツコツと貯金をしておけば良かったと、今更ながら何もしてこなかった事を悔やんだ
ハンさんの別荘もいいけれど、いつもいつもだと気が引けてしまう
早く母さんが再婚してくれたら気兼ねなく利用できるのに...なんて思ってしまった
廊下に足音がしてドアをノックする音がした
慌てて手にした写真を机の上の本の下に隠した
そういえば今日は母さんも早く帰宅していたのだった
「チャンミン?帰ってるの?」
「うん、どうぞ」
ガチャっとドアが開くと、母さんがそっと顔を覗かせた
「...なんだ、帰ってるなら”ただいま”くらい言いなさい
いつの間に自分の部屋に入ったの?」
「ごめんなさい
ちょっと急いでたから声掛けずに来ちゃった
もうハンさん来るの?」
「いいえ、まだよ
夕飯の時間には間に合うように来るって言ってたわ」
「...そう」
今日はハンさんもここで一緒に食事をする事になっている
別荘を貸してくれたお礼がメインだけれど、それ以前にハンさんは時々こうして僕との時間を作ろうとしてくれて、それはきっと将来的に家族になるつもりだからだと思う
「あ、じゃあさ、時間があるならちょっと出掛けて来てもいい?
すぐ戻って来るから」
「えぇ?
どのくらい時間掛かるの?出掛けるってどこに?」
「ん、ユノのバイトしてる本屋さん
渡したいものがあって、できれば今日中に渡したいんだ
用が済んだらすぐに帰って来るからさ」
急いで着替えて支度をすると、ちょうど出ようとしたタイミングでハンさんが到着した
「やぁ、チャンミン、元気そうだね」
「こんばんは、お久し振りです」
「あれ、どこか行くの?」
「すみません...ちょっと友人に渡し物をしに
でもすぐに戻ります」
「そうか、気を付けて」
後ろで母さんがブツブツ言っているのを聞きながら逃げるように家を出た
きっと今頃、僕の悪口を言っているに違いない
無事にユノに写真を渡して帰ると、既に夕飯の支度が済んで玄関にまでハンバーグのいい匂いがしていた
ハンさんと母さんと僕と、家族のような家族未満のような、何とも言えない団欒を過ごした
僕の学校での事、ユノとの事、旅行の事、ハンさんはどれも興味深そうに聞き入ってくれて、それを母さんは嬉しそうに眺めていた
高校二年ともなると必然的に進学の話題が出そうなものだけれど、ハンさんはそういうデリケートな事にはいつも踏み込んでは来ない
そしてそういう気遣いができる人だから僕は好きだ
そもそも、母さんをここまで支えて来てくれた人なのだから、いつだって僕は感謝と尊敬でハンさんを見ている
早く再婚してくれたらいいのにと、つい口から出そうになるのをグッと堪えた
こればかりは僕が口出しをする問題ではないから
「ハンさん、またいつでも別荘使っていいって言ってたわね
使わないと建物が傷むからって
確かにもう高校生のあなたと私じゃ旅行って言っても...ね
ユンホ君と冬休みにでも使ったら?寒いかもしれないけど」
「うん、話してみる
きっと凄く喜ぶと思うよ」
ハンさんが帰宅して片付けも済んで、母さんとソファで一息ついていたら別荘の話題になった
夕食時にハンさんから、別荘を好きに使っていいよと言ってもらえたのだ
ユノにその話をしたらきっと大喜びするに違いなくて、その様子を想像するとなんだか自分も嬉しくなって来る
...明日の学校帰りに話そうかな
ユノの喜ぶ姿を想うと今すぐにでも伝えたいけれど、寝る前に興奮させると良くないし、明日の学校帰りに話してそのままここに呼んだっていい
二人で喜びを分かち合えたら最高だろうな...
「さ、もうこんな時間だし、あなたから先にお風呂入っちゃって
母さんは洗濯物の片付けしてるわ」
「分かった」
部屋に戻ってパジャマと下着を用意すると、ユノからメールが来ている事に気付いた
ついさっき送られて来たようで、写真のお礼と感想が書かれていた
すぐに返事をして、短いやり取りを交わしてから風呂場へと向かった
うっかりハンさんから言われた別荘の事を書いてしまいそうになったけれど、それは明日のサプライズに取って置かないといけない
熱い湯船に浸かりながら、別荘でユノと一緒に湯船に浸かった時の事を思い出して余計に逆上せそうになった
お風呂から出て来ると、珍しくテレビの音もせず部屋はしんと静まり返っていた
そろそろとリビングに出て来ると、母さんはソファに座ってじっとしている
本を読むでも新聞を読むでもなく、ただ何もせずに座っているようだった
「...母さん、どうしたの?」
声を掛けるとビクっとして座り直したから、僕に気付いていなかったのだと分かった
こんな風にしている母さんを見たのは、随分前に仕事で行き詰って落ち込んでいた時くらいで、いつだって気丈に明るく振る舞う母さんだから少し不安になった
「どうかしたの?疲れちゃった?」
もう一度声を掛けると、顔を少しこちらに向けて鼻で溜め息をついた
それから前を向き、静かに僕を呼んだ
「ちょっとここに座って」
「う、うん...」
言われるままに母さんの隣に座ると、ふっと手元に目が行って絶句した
母さんの手には、一枚の写真があった
裏返してあるから何が写っているものかは分からないけれど、それでもピンと来た
「チャンミン...
正直、母さん凄く混乱してる」
そしてゆっくり僕の方を向いて、沈んだ眼差しを向けた
もうそれだけで事の成り行きが全て分かったような気がした
ユノとの旅行の写真を見られてしまったのだ、と
「あなたとユンホ君は...友達、なのよね?」
そう問われて、すぐに言葉が返せなくて俯いてしまった
どんな言葉が適切なのか必死で考えても、ユノの顔が頭の中をグルグル回っているだけで何も浮かんでは来ない
「母さんは、友達なんだと思ってた
転校したばかりのあなたが嬉しそうにユンホ君の事を話してくれて、家にも連れて来てくれて、だから母さん、あぁやっとチャンミンにも親友と呼べる子ができたんだなって
凄く嬉しかったのよ
あんなに生き生きして楽しそうに学校に通う姿を見て、良かったぁ!!って心から思ったの」
「...うん」
「でも、友達じゃなかったの?
ねぇ、友達とこんな事ってする?」
そして裏返していた写真をスッと表に向けた
そこには、別荘を出る間際に撮ったソファでのツーショットがあった
僕とユノが唇を触れ合わせているあの一枚が...
やっぱり...という思いと、サァーっと血の気が引く音がした
※画像お借りしました※