BL表現を含みますので、苦手な方はスルーでお願い致しますm(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

バイト中、一時間だけレジに立つ時間があって、カウンターの中からぼんやりと店内を眺めていた

 

参考書コーナーには大学生風の男の人、趣味のコーナーにはお爺さん、週刊誌コーナーには中年の男女、コミックコーナーには中学生が二人

 

ここへ来る人は大抵、それぞれが目的を持ってやって来る

勿論、中にはふらりと立ち寄っただけという人もいるけれど、はっきりと欲しい本を求めて来る人の方が多い

 

立ち読みで済ませる人もいれば、長々と時間を掛けて吟味する人、パッと入店して迷わず目当ての本を手にしてレジに来る人など

 

 

...色んな人がいるなぁ

 

 

チャンミンとの旅行から戻って以降、ぼんやりする事が多くなった俺は、バイト中もこんな風にお客さんを観察している

ずっと楽しみにしていたイベントが終わってしまった今、何を楽しみに日々過ごせばいいのか分からなくて、いわば抜け殻状態になっていた

 

 

パートのおばちゃんが休憩から戻って来るまでの間なので、ぼんやりしていたところでおばちゃんに見られる事もなく、サボりだと怒られる心配はない

とは言え、一応防犯カメラも回っているので、姿勢だけはきちんとして立っていた

 

 

お店のドアが開いて、反射的に「いらっしゃいませ」と言ってそちらを見たら、入って来たのはチャンミンだった

途端に顔がニヤけてくるのが自分でも分かる

 

チャンミンは真っ直ぐレジにいる俺の所へとやって来た

来るのは分かっていたけれど、いつもならバイトが終わる直前に来てくれるのに今日はやけに早い

 

 

「どうしたの?随分と早くない?

閉店までまだあと2時間あるよ」

 

「うん

今日は写真渡したらすぐ帰るだけから」

 

「え、そうなの?

そっか...そうだよね

いつも俺のバイト終わりに付き合わせてたら疲れちゃうよね」

 

「ユノと会うのに疲れたりしないよ

今日は本当に用事があるんだ

 

ハンさんがうちに来てるんだ」

 

「ハンさんが?

そっか、それじゃあわざわざ抜け出して来てくれたの?

旅行の写真なんて急いでないんだから今日じゃなくても良かったのに」

 

「でもユノに会いたかったし、すぐ渡したかったんだもん

もう来ちゃったんだから手遅れだよ

 

はい、これ」

 

 

そう言って肩に掛けたバッグの中から封筒を一つ差し出した

表にキレイな字で「ユノへ」と書かれてある

 

 

「ありがとう

帰ったらゆっくり見るね」

 

「うん

あ、学校には絶対に持って来ないでよ

データは焼いて学校に持って行くから、そっちはもうちょっと待ってて」

 

「うん、ありがとう

気を付けて帰ってね」

 

「何も買わずにごめんね

また明日ね」

 

 

申し訳なさそうな顔をして店を出て行くチャンミンの後ろ姿を見送ると、他のお客さんの存在をすっかり忘れていた事に気付いて店内をサッと見渡した

幸い、誰も俺たちのやりとりを気にしている様子はない

 

 

本当はもうちょっと話がしたかったけれど、ハンさんが来ているならそっちの方がよっぽど大事だ

そんな時にわざわざ来させてしまった事を申し訳なく思ったと同時に、それでも俺に会いに来てくれたチャンミンの想いが嬉しい

 

 

ハンさんはチャンミンのお母さんが働く会社の偉い人で、母子家庭で働くチャンミンのお母さんをずっと支えて来てくれたらしい

詳しくは知らないけれど、再婚するかもしれないような事をチャンミンが言っていたのを覚えている

 

この間旅行で利用した別荘もハンさんの所有している別荘で、きっとその関係でハンさんが家に来ているのかもしれないと思った

 

 

チャンミンから受け取った封筒をお尻のポケットにしまうと、何事もなかったかのようにレジ周りの整理整頓を始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイトが終わって帰宅すると、すぐに自分の部屋に行き、封筒を開けて写真を確認した

俺の知らない間にチャンミンは色々と写真を撮っていたらしく、別荘周辺の木々や道端の花、別荘内の様子、街を散策した時のものなど何枚もプリントしてくれていた

 

時系列に並べてくれているので、あの時の情景が瞬時に思い出されて懐かしい

そして残り数枚というところで目に入った写真に一気に体が熱くなった

 

 

帰る間際、別荘のソファに並んで撮ったツーショット

 

 

少しぎこちない笑顔の二人は、まだ余所余所しく距離を開けて座っている

でも次の一枚でその距離が縮まり、チャンミンが俺の方に頭を傾げて微笑む

次の一枚では完全に俺の肩に頭を乗せて、心なしかうっとりとした表情を見せ、俺の手が腰に回されているのもよく分かる

 

 

そして最後の一枚...

 

二人が顔を寄せて、唇を触れ合わせている写真

きっかけがどちらだったかは覚えていないけれど、多分お互い同時にそうしたいと思ったからこうなったのだ

 

それを見て、純粋にキレイだと思った

自分たちがキスをしている様子をキレイだなんて変だけれど、どこにもいやらしさはなくて、まるで映画のワンシーンを切り取ったような写真に見えた

 

そのチャンミンの横顔が余りにも儚げで色っぽくて、思わず見入ってしまった

 

 

 

「あ、そうだ、メールしなきゃ」

 

 

写真の感想をメールすると言っていたのを思い出して、慌ててメールを送った

すぐに返事が来て、チャンミン自身は肩に頭を乗せている写真が一番好きだと書いてあった

 

 

『あの時の事を思い出したらチャンミンが恋しくなった

早く会いたい』

 

『明日学校で会えるよ

毎日会ってるのに、ユノはそんなに僕のことが好き?』

 

『大好きだよ

ずーっとずっーと、24時間一緒にいたい』

 

『24時間も僕といたら飽きちゃうよ』

 

『飽きない

旅行中だって全然飽きなかったし、むしろ足りないくらいだよ

毎日チャンミンを補給しないとダメ』

 

 

傍から見たらバカバカしいやり取りかもしれないけれど、そんな内容でも俺にとっては堪らなく幸せで心が満たされた

 

でも困るのは、体も満たされたくなってしまうという事

 

これ以上やり取りを続けていたら堪らず電話を掛けてチャンミンを困らせてしまいそうで、だから昂った感情をグッと我慢して、続きはまた明日学校で会おうと送った

 

 

学校がある日は半日一緒にいて、帰宅した後もメールをするか、電話をするかでかなりの時間チャンミンと繋がっている

あと数時間も経てばまた朝が来ていつものように駅前で会えるのに、その数時間すらももどかしい程に恋しい

 

 

こんなに夢中になるなんて、出会ったあの時は想像すらしていなかったな...

 

 

ベッドに寝転がりながら、チャンミンから貰った写真を再び一枚ずつ見返した

うっかりその辺に置きっぱなしにして母さんに見付かったら大変な事になるので、寝る前にデスクの引き出しにそっとしまった

 

 

 

 

 

 

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朝、いつものように駅前で待っていると、チャンミンが乗っている予定の電車が到着してどっと人が降りて来た
そして一つの塊となって改札から一気に出て来た
 
あくせくするのが嫌いなチャンミンは、いつも最後の方にゆっくりと現れる
だからいつも大体このくらいのタイミングで、ぴょこっと丸い頭が飛び出ているのが見えるのだけれど...
 
 
今日は寝坊でもしたのかな?
 
 
一通り乗降客が過ぎ去り、次の電車を待つ人が改札の中へと入って行くだけで、もう出て来る人はいない
 
 
そして次の電車にも、チャンミンの姿はなかった
 
 
...どうしたんだろう?
 
 
スマホを見ても、遅れるとか先に行っててと言うようなメールは来ていない
何か胸騒ぎのようなものを感じつつ、どうかしたのかとメールを送信した
 
 
三分待っても、五分待っても返事が来ない
そうこうしているうちに再び電車が到着して、必死で降車客の中にチャンミンの姿を探したけれど、やはり見付ける事はできなかった
 
このまま連絡もなく待っていたら自分が遅刻してしまうので、一旦諦めて学校へと向かった
もしかしたらスマホを忘れて出て来てしまって、今頃駅に着いているかもしれない、そんな風に思いながら学校に着いたけれど、HRの時間になってもチャンミンは現れなかった
 
 
 
「おはよう
えーっと...まずは出欠から...今日はシムは休みだ
 
じゃあ、昨日出したプリントの提出がある奴は持って来てくれ」
 
 
...え、休み!?
 
 
サラリと担任が言うから聞き逃しそうになったけれど、チャンミンが休みだと聞いて頭の中で何かがザワザワとさざめいた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

※画像お借りしました※